泥まみれの英雄たち   作:初時雨

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第13話 神童と呼ばれる日

村で水が出た話は、思ったより早く広まった。以前はゴードン爺さんの後ろにいる子どもだった。今は、道端で仕事をしていた人まで手を止めて頭を下げる。

 

「神童様」

 

 そう呼ばれるたび、僕は落ち着かなくなった。水路を見に行った日、村長が僕を案内してくれた。細い流れはまだ続いている。水門には新しい木の板が入り、畑の方へ少しずつ水が流れていた。

 

「みんなで直したんだね」

「ええ。坊ちゃんのおかげです」

「でも僕、石はほとんど運んでないよ」

 村長は笑った。

「水の場所を教えてくださったでしょう」

 僕は返事に困った。

 水の場所は見つけた。けれど、それだけでは畑には届かなかった。

 それでも、村長が嬉しそうだったので、僕も笑った。数日後、父さまに呼ばれた。執務室の机には封筒が並んでいる。見慣れない紋章が押されたものもあった。

 

「お前に会いたいという家が増えている」

「村の人?」

「貴族たちだ」

 父さまは一通を開き、僕にも紋章を見せた。

「水路を戻した子どもがいると、噂が広まったらしい。以前から手紙をくれていた騎士家の親子も、来月訪ねてくることになった」

「ゴードン爺さんにも会ってくれる?」

「彼らが会いたがっているのは、お前だ」

「でも、爺さんがいなかったら直せなかったよ」

 父さまは一瞬眉を寄せたが、怒らなかった。

「そのことは分かっている。だが、人は珍しい力に目を向けるものだ」

 午後、仕立屋がやってきた。来月の客人を迎えるために、僕の外套を新しくするのだという。布は今までのものより柔らかく、色も深かった。

「兄さんのは?」

 マルタに尋ねると、彼女は返事に困ったようだった。

「レオンハルト様の分は、今回は聞いておりません」

 僕はその場で兄さんを探した。中庭で木剣を振っていた兄さんに話すと、兄さんは笑った。

「よかったな。新しい服」

「兄さんのも頼んでみる」

「いいって。俺のはまだ着られる」

 兄さんの袖には、何度も縫い直した跡があった。

 僕はそれを見た。

「でも」

「アルヴィス」

 兄さんが名前を呼ぶ。

「お前が困ることじゃない」

 声は優しかった。だから、何も言えなくなった。夕食のあと、ヴォルクへ尋ねた。

「神童って、何をしたらそう呼ばれるの?」

「周りが勝手に言うんだろうな」

「僕よりできることが多い人、いっぱいいるのに」

 先生は教本を閉じた。

「いるだろうな。だから、名前に見合うことをしようと焦る必要はない」

「でも父さまは喜んでる」

「それは父親として、嬉しいんだろう」

 先生は少し考えてから付け足した。

「それと、領主としての考えもある。お前にはまだ難しい話だ」

 僕は頷いた。

 

 その夜、寝台の上で新しい外套のことを考えた。嬉しいはずなのに、兄さんの縫い目が何度も目に浮かんだ。

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