二度目にエレノアが来たとき、僕は庭の白百合を案内した。花はようやく咲き始め、風に揺れていた。
「咲いたんですね」
エレノアは花に顔を近づけ、嬉しそうに笑った。
「約束、覚えてた?」
「ええ。楽しみにしていました」
僕らはしばらく百合を見ていた。
「お父様たちが、何か話しているみたい」
僕が切り出すと、彼女は小さく頷いた。
「聞きました」
「嫌じゃない?」
エレノアはすぐに答えなかった。庭の端で蜂が花から花へ移るのを見つめている。
「アルヴィス様がお嫌ということではないんです」
「じゃあ、何が?」
「皆が、私たちのことを決めたみたいに話すのが、少し」
彼女は言葉を探した。
「私だって、どうしたいか考えているのに」
僕は胸が少し痛くなった。僕も、父さまの話を聞いてから自分の気持ちを考え始めたばかりだったからだ。エレノアは腰に提げた小さな帳面を開いた。中には花の絵と、名前、どこに咲いていたかが細かく書いてある。
「これ、自分で描いたの?」
「はい。薬草も少し覚えています。領地の人が病気になったとき、何かできたらと思って」
「僕は魔術で治せるようになりたい」
「そうなったら、素敵ですね。でも、魔術が届かない場所もあるでしょう?」
僕は頷いた。
「そのときは、薬が役に立つかもしれません」
彼女は帳面を大切そうに閉じた。昼食の前、母さまが僕らを迎えに来た。エレノアは一度だけ僕を見て、小声で言った。
「だから、もう少しお話ししたいです。私のことも知ってほしい」
「うん。僕もそう思う」
僕はすぐに答えた。
結婚という言葉はまだよく分からない。でも、彼女と一緒に庭を歩くのは楽しかった。それなら、次に会う約束くらいは自分たちで決めてもいいはずだった。
◇
町の市が立つ日、母さまは僕と兄さん、それに滞在中のエレノアを連れて出かけた。護衛の兵もいたが、僕らは大人の少し前を歩いた。広場には布、塩漬けの魚、木の器が並び、焼いた麦の匂いがした。
「こんなに店があるんだね」
僕が言うと、兄さんは笑った。
「普段はもっと少ないよ。今日は市の日だから」
エレノアは売り物の薬草を見つけるたび立ち止まり、店の人に使い道を聞いた。兄さんはその間、馬車の通る場所や荷を積む順番を見ていた。広場の端では、小さな男の子が泣いていた。
母親とはぐれたらしい。
僕は駆け寄ろうとしたが、兄さんが袖を掴んだ。
「待て。あの子を連れて動くと、母親が探しにくくなる」
「じゃあ、どうする?」
「ここで一緒に待つ。兵の人にも知らせよう」
兄さんは護衛を呼び、近くの店主に尋ねた。エレノアは子どもの隣へしゃがみ、名前を聞いている。僕は泣いている子の手を握った。しばらくすると、息を切らした母親が走ってきた。男の子を抱きしめる姿を見て、僕はようやく手の力を抜いた。
「兄さん、すぐ分かったんだね」
市の帰り道で僕が言うと、兄さんは首を振った。
「迷子なら、探す側のことも考えた方がいいって、兵の人に聞いたんだ」
何でも知っているように見える兄さんは、いつも誰かから教わったと言う。それが本当なのかは分からないけれど、僕はいつか兄さんみたいに落ち着いて動きたいと思った。エレノアは持ってきた紙袋を僕らへ見せた。中には小さな種が入っている。
「市の人が分けてくれました。育て方も聞いたんです」
「花?」
「薬草です。うまく育ったら、次にお会いしたときお見せします」
僕は頷き、兄さんを見た。
「三人で見ようよ」
「いいな」
兄さんは少し笑った。
エレノアも笑った。市場の喧騒が遠のく中、僕は今日の出来事をいつまでも話していたかった。