帝都の選別について調べたくて、僕は書庫で古い本を探した。始祖のことが書かれた本は、思っていたより少なかった。帝国ができる前の時代の話は、どれも難しい言葉ばかりだった。
歴史の先生が教えてくれたのは、昔、強い魔術師が人々の暮らしを支えたということ。でも、その魔術師がどんな人だったのか、本によって少しずつ違っていた。ある本には、始祖が大地のマナを鎮めたと書いてあった。
別の本には、世界中の術者を一つに結んだとある。
その頁の挿絵には、街道の分かれ道に石柱がいくつも描かれていた。小さな字で、離れた村へ危険を知らせるためのものだと説明されている。魔術師の伝記なのに、道の話が出てくるのが不思議だった。
「同じ人の話なのに、違うね」
僕が言うと、兄さんは本を受け取り、頁をめくった。
「書いた人が違うからだろう」
「本当のことは誰が知ってるの?」
「古すぎると、誰にも分からないことがある」
兄さんはその本を元の棚へ戻そうとして、急に手を止めた。僕が見ていると、背表紙の破れを確かめ、静かに置いた。
「どうしたの?」
「傷んでた。落としたら破れそうだから」
そう言われると、確かに紙は古かった。
僕はまた別の本を開いた。
儀式について説明している頁の端に、小さな円が描かれていた。円から細い線がたくさん伸び、線の先には小さな点が一つずつ置かれている。
「これ、何だろう」
兄さんが近づいてきた。
兄さんは図を少し眺めて、それから本を僕の方へ戻した。
「昔の魔術陣じゃないか」
「知ってるの?」
「見たことはある」
「どこで?」
兄さんは曖昧に笑った。
「もう遅い。今日はそこまでにしろ」
僕は不満だった。でも古い本の頁が傷みそうだったので、今日はそこで閉じることにした。書庫を出るとき、僕は円の図をもう一度見た。
特別な模様には見えない。
兄さんはどこであの図を見たことがあるのだろう、と僕はしばらく考えた。
◇
昼過ぎに中庭を覗くと、兄さんが年上の兵士と木剣を合わせていた。相手の動きを先回りしているのに、最後は身体の大きさで押し切られてしまう。
「今日も負けたの?」
「見てたのか。次は勝つよ」
兄さんは笑い、赤くなった手のひらを隠した。僕は火の調律なら兄さんより上手にできる。でも木剣では一度も勝てない。僕らは同じ家で育ったのに、得意なものが違った。
夕方、ゴードン爺さんが古い橋の補修図を見せてくれた。荷車が増え、冬の前に直しておきたいという。
「石を魔術で動かせば簡単かな」
「置く場所を間違えたら、余計に危なくなりますぞ」
兄さんは図面をのぞき込んだ。
「兵舎の荷馬車が通る道だな。俺も覚えておく」
僕が水路の向きを尋ねると、兄さんは荷車の積み方を爺さんに聞いた。同じ図を見ても、気にするところが違う。夜、帝都へ行く話になると、兄さんは道中の宿場を地図で教えてくれた。
「向こうの大きな橋、帰ったらどんなだったか教えてくれ」
「お土産は橋の絵でいい?」
「できれば上手に描いてくれ」
兄さんは笑った。僕も、帝都へ行くのが少し楽しみになった。