【第34話 小さな仕事】
十四歳の秋、北の見張り台へ薪を届ける計画を手伝うことになった。去年から調べていた小屋は、村の人たちと兵士が屋根を直してくれた。僕はそこで荷を積み替える順番を考え、帳面に書いた。最初の朝、予定していた荷車の一台が壊れた。
「どうする?」
運搬を任された兵士が僕へ尋ねた。
僕は慌てて帳面を見た。
予定通り全部を運ぶのは無理だった。
「まず見張り台の薪を優先して、診療所の分は明日にできるかな」
「明日は雨だぞ」
兵士が言った。
僕は地図を広げ、雨でも通れる道を指した。
「こっちなら遠回りだけど、ぬかるみにくい」
「時間がかかる」
「うん。それでも荷車が通れなくなるよりは」
兵士はしばらく地図を見ていた。
「分かった。村の人にも知らせておく」
その日は、予定した量の半分しか運べなかった。
僕は落ち込んだ。
でも夕方、見張り台から使いが戻り、必要な分は届いたと教えてくれた。
「足りない分は明日でいいそうだ」
兵士はそう言い、僕の帳面を指した。
「次からは、荷車が一台使えなくなったときの案も書いておけ」
「……うん」
「今日はよく動いた」
僕はその言葉が嬉しかった。仕事を終えると、父さまが倉庫へ来て、その日の輸送記録を見せるように言った。
「予定通りには運べなかったんだろう」
「うん。でも見張り台の必要な分は届いたよ」
「そうか。なぜ予定を変えたかも書いておけ」
父さまは僕の帳面を長く読み、途中で僕が書き直した箇所に指を止めた。
「失敗した方も消すな」
そう言うと、何枚かをマルタに写させた。僕には、父さまがようやく僕の仕事に興味を持ってくれたように思えた。失敗したところもある。運べなかった荷も残っている。
それでも、明日やることが分かっていた。帰り道、ゴードン爺さんが言った。
「坊ちゃん、ずいぶん大きくなられましたな」
「そうかな」
「ええ。前は水を動かすことばかり考えておられた」
僕は笑った。
「今は荷車を動かすことばっかりだね」
爺さんも笑った。
◇
【第35話 それでも、生きていく】
十四歳の冬が来た。
庭には薄く雪が積もり、昔、兄さんと地図を広げた窓辺にも冷たい光が差していた。僕は朝食を終えると、倉庫へ向かった。今日は北の見張り台への最後の荷を送り出す日だった。荷車の数を確かめ、積み忘れがないか帳面を見る。
ゴードン爺さんは少し離れたところで、農夫たちと話していた。仕事が終わるころ、父さまが倉庫へ来た。
「春になったら、兵の補給係の仕事を見てみないか」
父さまの袖には新しい墨がついていた。手には軍の印が押された封筒がある。僕が見つめると、父さまは外套の内側へしまった。
僕は驚いた。
「僕が?」
「お前は地図と帳面をよく見るようになった。兵にもそういう者は必要だ」
父さまはそこで言葉を切った。
「魔術は……今も戻らないのだな」
「うん」
僕は答えた。
以前なら、その質問をされるたび胸が苦しくなった。今も痛みがなくなったわけではない。でも、今日は顔を上げていられた。
「それでも、僕にできることを探したい」
父さまはしばらく僕を見た。
「そうか」
それだけ言って、倉庫を出ていった。
夕方、書庫へ寄った。
兄さんと見た古い地図は、まだ同じ引き出しに入っていた。紙は少し傷んでいて、角に小さな折り目がある。
僕はそれを机へ広げた。
帝都へ続く道。北の見張り台。雪で閉じる峠。昔の僕は、魔術で何でもできるようになると思っていた。今は、できないことの方がずっと多い。僕一人では橋も直せないし、馬車を動かすこともできない。
それでも、誰かと話せば、少しずつ前へ進めることがある。あの夜のことを思い出そうとしても、思い出せるのは雪の音と曖昧な光だけだった。兄さんのことを考えると、今でも胸の奥がざわついた。
どうして前のように話してくれなくなったのか、僕には分からない。また笑って話せる日が来るのかも分からない。でも、兄さんと過ごした日々まで、なかったことにはしたくなかった。机の端に、小さな帳面を置いた。
ヴォルクにもらった帳面は、もう最後の頁に近づいている。最初の頃は、何もできなかった日ばかり書いていた。今は、どの道が通れたか、何を運べなかったか、誰に助けてもらったかで埋まっている。僕は今日の日付を書き、その下へ短く記した。
『北の見張り台への荷、送り終える。春から新しい仕事を見に行く』
それで、今日は十分だった。窓の外から、兵士たちの声が聞こえた。僕は帳面を閉じ、書庫の灯りを消した。
明日も朝から仕事がある。
だから、今夜はよく眠ろうと思った。