雨が弱まった朝、見張り台への配給が再開された。僕はミラと一緒に、出荷する荷の一覧を確かめた。
干し肉、塩、麦、薬。
番号のついた木札を袋へ結び、荷車へ載せる。
「間違えないように、行き先も声に出して読んで」
ミラが言う。
僕は一つずつ確認した。
昼前、荷車が出ていった。
僕は大きく息を吐いた。
今日は昨日までより落ち着いて仕事ができたと思った。ところが夕方、見張り台から伝令が戻った。
「薬箱が一つ、足りません」
オルドが僕とミラを呼んだ。
「荷札を確かめろ」
僕はすぐ帳面を開いた。
薬箱は確かに二つ載せたことになっている。でも、印をつけたのは僕だった。
「二つ、確認しました」
「実際に箱を見たか」
オルドが尋ねた。
僕は言葉に詰まった。
「木札を見ました」
「中身は?」
「……確認していません」
ミラが倉庫を調べると、棚の奥に一つ残っていた。前日に空箱へ付け替えた木札が、そのまま別の箱にも使われていたらしい。僕は木札の数字を信用して、重さを確かめなかった。
「今から追いかければ」
僕が言うと、オルドは首を振った。
「今夜の道は危ない。まず見張り台へ知らせる。薬が急ぎなら、近い砦から回せるか確認する」
彼は伝令へ短い指示を書いた。僕はその横で立ち尽くしていた。数字は合っていた。なのに、荷は届いていない。
ミラが隣に来て言った。
「間違えたところを一緒に見よう」
「僕が木札を見ただけだった」
「じゃあ、次は箱そのものも確かめる。あと、札を付け替えた人の記録も残さないと」
彼女は紙へ二つの欄を書き足した。
『札の確認』『現物の確認』
僕はそれを見つめた。
「僕、迷惑をかけたよね」
「かけたよ」
ミラははっきり言った。
「でも、ここで止まってても明日の荷は正しくならない」
僕は頷き、棚の薬箱を取り出した。今度は蓋を開け、中の包みを一つずつ確かめた。夜、オルドから伝令の返事を聞いた。足りなかった薬は、近い砦に予備があり、明朝までには届くらしい。
僕は胸を撫で下ろした。
でも、それで失敗が消えたわけではなかった。明日の朝、荷札のつけ方から見直さなければならない。
◇
翌朝、僕はいつもより早く倉庫へ行った。ミラが来る前に、昨日の荷札を机へ並べる。番号は同じでも、結び方が違うものがある。中身を移したあと、札だけ付け替えたものだ。僕は帳面を開き、誰がいつ付け替えたのか聞いて回った。
全員が覚えているわけではない。忙しいときに移した箱もあった。でも、理由を聞けば、ただの不注意だけではないと分かってきた。
午前中、ミラが来た。
「もう始めてたんだ」
「昨日のことを、忘れないうちに」
僕は紙を渡した。
木札を使い回すときは、古い印を消すか、新しい札に取り替える。出荷するときは札と箱の両方を見る。
確認した人の名前を残す。
書きながら、手順が増えすぎていないか気になった。
「これ、面倒かな」
「全部を毎回やると、時間がかかるね」
ミラは考え込んだ。
「薬だけは必ず現物を確かめる。麦袋は秤と木札。荷物の種類でやり方を変えた方がいい」
僕は頷き、紙を書き直した。最初の案より、短くなった。昼、オルドへ報告書を出した。彼は最初から最後まで読み、赤い線を一本引いた。
「『確認した者』だけじゃ駄目だ。出荷を許可した者も書け」
「どうしてですか」
「確認しただけで荷が出ていいわけじゃない。責任を持つ者を決めておく」
僕は赤い線の下へ書き足した。報告書を返してもらえると思ったが、オルドは机へ置いた。
「これで試してみる。次の便からな」
それだけだった。
夕方、テオが声を掛けてきた。
「明日の荷、俺が積む。お前は札を読むんだろ」
「うん。間違えないようにしたい」
「俺もだ」
テオは肩をすくめた。
「昨日の薬箱、倉庫の奥へ押し込んだのは俺かもしれない」
「え?」
「忙しくて覚えてない。だから、俺の方も数え方を変える」
僕は少し驚いた。
自分だけが失敗したと思っていたからだ。でも、そうじゃないからといって、自分の失敗が軽くなるわけではない。
「じゃあ、二人で確認しよう」
「そうしよう」
テオは笑った。
夜、寝台で帳面を開いた。
軍へ来てからの十日ほどの記録が並んでいる。麦袋の数を忘れたこと。橋が通れなかったこと。馬の休憩を考え忘れたこと。薬箱を積み間違えたこと。
失敗ばかりだ。
でも、そのたび誰かの名前が横に書いてある。テオ、ミラ、ロウ、オルド。
僕は最後の行へ書いた。
『次の荷は、昨日より正しく送る』
それから帳面を閉じた。明日の仕事は、まだ決まっていない。けれど朝になれば、きっと誰かが困っている。そのとき、僕もここにいて、できることを探したかった。