翌週、補給所にはまた石門砦への輸送命令が届いた。今度は急ぎではない。僕はロウとテオ、それに回復中のダニルから聞いた道の状態をもとに、二つの案を作った。一つは晴れた日にだけ通れる短い道。
もう一つは遠回りだが、途中に休める場所の多い道。ミラは書類を見て、眉を上げた。
「最初から二つ書いたんだ」
「天気が変わるかもしれないから」
「いいと思う。でも、どこで切り替えるかも決めておいて」
僕は頷き、分岐点の印をつけた。出発の日、朝は晴れていた。荷車二台、護衛四人。僕は記録係として同行する。ロウは空を見て、手綱を握った。
「昼には曇るな」
「雨、降りますか」
「分からん。だから、道を見ながら決めよう」
僕も同じことを思っていた。午後、分岐点へ着く前に風が変わった。山の方から冷たい空気が流れ、雲が低くなってくる。短い道へ入るには、今決めなければならない。
僕は地図を広げた。
「遠回りの方にしませんか」
ロウは馬を止めた。
「理由は?」
「荷は急ぎじゃありません。雨が降ったら短い道で止まるかもしれない。こっちなら中継所があります」
「遅くなるぞ」
「はい。到着予定は明日の午後になります」
僕は言い切った。
ロウはしばらく空を見てから頷いた。
「よし。分岐点で伝令を出して、到着が遅れると知らせよう」
遠回りの道を進んでしばらくすると、雨が降り始めた。荷車は軒のある中継所へ入り、馬の背を拭いて休ませた。僕は記録をつけながら、窓の外を見た。雨粒が石畳を暗くしている。
短い道を進んでいたらどうなったのかは、分からない。無事に着いたかもしれないし、途中で止まったかもしれない。僕は以前のように、選ばなかった道の正しさを確かめたくなった。
でも、今いる場所で荷が濡れず、馬が休めていることは確かだった。
翌日の午後、僕らは石門砦へ着いた。遅れを知らせる伝令が先に届いていたので、荷下ろしの人たちが門で待っていた。
「予定通りだな」
ラウルが言った。
「最初の予定よりは、半日遅いです」
「知らせてくれた時刻には、ちゃんと来た」
彼はそう言って笑った。
僕はようやく肩の力を抜いた。
◇
石門砦から戻ったあと、オルドは僕に新しい仕事を渡した。補給所から出る荷を、どの部隊が受け取ったか確かめる一覧を作ることだった。
「出荷は分かっている。だが、途中で積み替える便が増えて、最後の受取先が追いにくい」
机には、書式の違う紙が何枚も積まれている。
「これを整理してみろ。ただし、運ぶ連中の仕事を増やしすぎるな」
「分かりました」
僕は紙を受け取り、少し怖くなった。小さな見習いの失敗で済む仕事ではなかった。最初は、一つの大きな帳面に全部の荷を書こうとした。けれどミラが見て、首を振った。
「それだと、出先の人は確認できないよ」
「じゃあ、紙を一枚ずつ持ってもらう?」
「雨に濡れたら?」
僕は考え直した。
荷を運ぶ人へ、実際に使えるものを聞きに行く。ロウは、小さな木札がいいと言った。テオは、袋と箱で印を変えた方がいいと言った。ミラは、数字と名前のどちらも読めるようにしようと言った。
誰かの案だけでは、足りなかった。試しに一便だけ、新しい札を使った。倉庫で印をつけたものを、中継所で確認し、砦で受取人が同じ印を帳面に写す。戻ってきた札には泥がついていたが、線は読めた。
「これなら続けられそうです」
僕が言うと、オルドは一度頷いた。
「続けられるなら、続けてみろ。三便使って不都合がなければ採用する」
すぐに褒められたわけではない。でも、紙は机の端ではなく、次の便の書類の上に置かれた。夕方、食堂でテオが僕の隣に座った。
「最近、帳面ばっかりだな」
「現場にも行ってるよ」
「知ってる。泥だらけで帰ってくるし」
彼は笑った。
「次の休み、町へ行かないか。セラさんが安い靴を売ってるって」
僕は自分の靴を見た。踵は何度も縫い直してある。
「行く」
そう答えると、テオは嬉しそうに頷いた。夜、帳面へ今日の記録を書いた。橋が使えなくなった日から、ずいぶん経った気がする。失った荷は戻らない。ダニルの足も、まだ完全には治っていない。
石門砦で空腹をこらえた兵たちのことも、忘れられなかった。それでも、少しずつ変えられる仕事はある。
僕は最後に書いた。
『次は、荷が届いたところまで確かめる』
荷を送り出すことだけで、仕事が終わるわけではないのだ。