補給所へ戻ると、石門砦からの伝令が一人、泥だらけで到着した。持ってきた手紙は、昨日の日付だった。
「なぜ、こんなに遅れた?」
オルドが尋ねる。
「橋が閉鎖され、戻る道も塞がれていました。遠回りしてきました」
僕の胸が冷たくなった。
昨日出した荷車は、橋の閉鎖を知らずに進んでいるはずだ。ミラは出荷の記録を確かめた。
「朝のうちに出ています」
「伝令を回せ」
オルドはすぐに命じた。
「二つの道からな。片方が通れなくても届くように」
僕らは連絡の内容を書き、伝令を送り出した。そのあいだも、荷車はどこかで動いている。止まっているかもしれない。確かめるまでは分からなかった。
夜、僕は帳面へ連絡の流れを書いた。補給所から砦。砦から前線。前線から戻る報告。途中の橋が閉まると、どこで知らせが止まるのか。線を引くと、連絡が一つの道しか通らない場所がいくつもあった。
僕は翌朝、オルドへその紙を見せた。
「重要な知らせだけでも、別の道から送れませんか」
「毎回二人も伝令を出す余裕はない」
「じゃあ、橋が使えなくなったときとか、敵が動いたときだけ」
オルドは考え込んだ。
「何を重要とするか決めなければな」
「副官にも聞いて、一覧にします」
「そうしろ」
オルドは紙を返してくれた。その日の午後、止まっていた荷車が戻った。御者は疲れていたが、怪我はない。
荷も失わずに済んだ。
僕は安心して、それから帳面を閉じた。知らせが遅れただけで、何人もの兵が動き、何台もの荷車の行き先が変わる。情報も、荷物と同じように運ばなければならない。そのことを、ようやく実感していた。
◇
白樺監視所からの手紙が届いたとき、補給所の食堂は夕食の最中だった。伝令の肩に薄い血が滲んでいる。オルドは椅子を立ち、すぐに医師を呼んだ。
「傷は浅いです。それより、これを」
伝令は封筒を差し出した。
監視所の周囲で小競り合いが続き、南へ戻る道が危なくなっている。負傷者を連れて退く準備をしているが、運べる荷車が足りない。
白樺監視所の配置兵は四十八人。そのうち三人がすでに戦死し、六人が負傷している。生き残った四十五人を撤収させるのが、今回の任務だった。小さな監視所の名簿を見ただけでも、戦争は誰かを数の外へ押し出しているのだと分かった。
僕は手紙を読んで、背筋が冷たくなった。石門砦のさらに北にある、小さな監視所だ。そこから南へ戻る道は二本しかない。
「今すぐ荷車を出せますか」
僕が聞くと、オルドは首を振った。
「行かせるかどうか、まず砦の指揮官と確認する。敵がいる場所へ車だけ送っても意味がない」
僕は頷いた。
怖いからすぐ動きたい。
その気持ちだけで、人を危ない道へ送り出してはいけない。夜遅く、副官から許可が届いた。石門砦から迎えの兵を出し、西谷は中継地まで荷車と医療用品を届ける。僕はミラと一緒に、負傷者を乗せられるよう荷台を整えた。
麦袋をすべて降ろし、板の上へ毛布を厚く敷く。揺れを減らすため、車輪の留め具も確かめた。
「これで足りるかな」
僕が言うと、テオは荷台へ座ってみせた。
「乗ってみろ」
僕も乗った。
板の継ぎ目が背中へ当たり、思ったより痛い。
「ここ、もう一枚布を入れよう」
テオは頷いた。
簡単な準備なのに、実際に乗ってみなければ分からなかった。
出発は夜明けだった。
ロウが馬を引き、護衛の兵が先に歩く。僕は荷台の端に座り、昨日の伝令を思い出した。
血の滲んだ肩。
言葉を急ぐ声。
監視所には、今も誰かが残っている。僕らがどこまで助けられるのか、まだ分からなかった。