万紫千紅+α 作:逸楽人
1
いや〜まいったね。本当に。転生してるなんてさ。
しかも、地球なのかも知れないけれど暦が全く知らない別のものだし、雰囲気的にも中世? くらいだった。なんだよダグザ歴って。新しいポケモンか?
1400年くらい続いている今世の治安はそこそこ悪い。盗賊とか普通にいるし、子供の頃から剣とか槍持たせるのも普通。唯一普通じゃないのは魔法があるくらい。……まぁ使えないんですけどね!!!
使いたかったよ魔法。ファイアーとかサンダー打ちたかったよ、おれも。酷くない? 転生したんだからさぁ……そういう才能の一つくらいくれても良かったじゃんね? そう愚痴りながら剣振ってます。
2
この世界の野菜や魚の名前はどうも覚えにくい。ウサモス、キンバショウ、ココミンジ……もっと分かりやすい名前になんないかな? 今の所スッと名前を聞いて分かるのはテフノミくらいだ。簡単に言うとコーヒー豆だから。
おれの毎日は朝起きてテフを飲み、外で剣を振り、飯を食べてまた剣を振る。の繰り返しだ。
だって暇なんだよ。やる事がない。村の人に聞いたら娯楽は本くらいで、栄えている所に行けば劇場などがあるって言っていた。こんな山の近くにあるような村にはたらい回しされてボロボロの本が数冊、あるくらいだと。世知辛いのじゃ〜。
今世でのおれは、いわゆる孤児だ。両親は既に居らず、村の人たちが面倒を見てくれていた。村の人たちによると、笑顔が絶えない良い夫婦だったと。死因を聞いても濁されるので、ガキには聞かせられないようなモノだったのだろう。
……まぁ、治安が良いとは言えない今世ではそう言うこともよくあるのだろう。
何とも言えない気持ちを誤魔化すように今日も剣を振った。最初はぎこちなかった素振りだが、結構様になって来ている。剣術レベル1くらいはあるだろう。全部独学だけどな。村の人たちは剣よりクワやらカマを持つ人たちだから、そういう事は教われなかった。曰く、この村には定期的に商人の馬車が来て野菜などを買い取ってくれているから警備の人も数人いるからだと。商人の名前はなんだっけ? タリなんとか。くせ毛だったのは覚えている。
今のおれの目的は一人で旅をしていけるくらい強くなって、帝都ダグシオンに行くことだ。
村で一生を終えるより、栄えてる街で何かしらの職を見つけたいという割と普通の願いだけど、村長は応援してくれた。
3
剣を振り続けてはや数年。おれはある結論に至った。それは、剣二本の方が強いしカッコいいと言うことだ!
二刀流、良いよね。ロマンの塊だ。背中に剣二本背負うのもいいが、今のおれは腰の左右に提げている。背中に背負う方がかっこいいと思ったが、やってみて分かった。戦闘に向いてねぇやって。
剣士キャラでよく見る、華麗に抜刀して斬りつける……というのが普通に難しい。成長したとは言え、まだまだ子供の身体。背中から剣を鞘から抜くには身長が足りていない。剣の2倍以上の身長がないと抜刀しきれず、中途半端に止まってしまい、コイツ何やってんだ? と隙を晒してしまうわけだ。
今のおれの剣は普通のとは違い、全体的に短く削られたショートソードのようなモノだ。これも商人のおっさんに頼んだら
「へぇ、なるほど。お前さんもロマンを求めてるんだな。良いぜ? ちょっくら探してきてやらぁ」
と言って数日で持って来てくれた。有能か?
割引もしてくれたし、タリさんには感謝しかない。貸し一つな。と不敵な笑みを浮かべていた。
4
今日は獣を狩った。初めての実戦だ。
村の人に言うと止められるので黙って門をよじ登って脱走した。傷薬も持っていったし、大丈夫だろうという感じで。
目標はヤクというヤギのような動物だった。が、追いかけている最中に狼のような動物の群れに見つかり、ヤクには逃げられ、狼の群との戦いになってしまった。幸い、三匹程度だったから良かったものの、傷薬が無ければ死んでたかも知れない。
狼たちを村へ持って帰ると、返り血とボロボロの服を見た村の人からはゲンコツと説教を食らった。次同じことをしたら剣売っぱらうぞとも言われた。
狼の群れを1人で倒せる(少しギリ)強さを持った事を証明したおれは、怪我をせず、必ず帰ってくる事を条件に狩りに出る事を許された。まぁこの世界的には子供も弓とかで狩りをしているらしいから、少し遅いくらいだ。
村長は過保護なんだろう。お前に何かあれば、あやつらに顔向けできん。と苦虫を噛み潰したような顔でそう言っていた。
……顔も知らない両親、か。写真とかがあれば良かったんだけど、唯一の遺品として残っているのは赤い宝石で出来たピアスみたいなアクセサリーだ。肌身離さず持ち歩いているが、成長してきた今では左耳に付けている。
左耳にピアスを付ける意味は確か、男は「守る人」「勇気」「誇り」「男性らしさ」を表しているらしい。おれもいつか、誰かを守れる程の強さ、誇り、勇気を持つ男になれたらいいなと思う。
5
村の人がある噂話をしていたのを盗み聞きした。
なんでも、帝都ダグシオンで大剣闘祭なるものが開催されるらしく、優勝すればソレル様って言う神様がなんでも一つ、願いを叶えてくれるらしい。
は〜……凄いな、この世界。神様が本当に居るんだ。女神なんとか様〜って村の人が言ってたのは聞いたことがあるけれど、てっきり宗教上の存在かと思っていた。
願いかぁ……神様なら、死んだ両親に会いたいって言っても叶えてくれるのかな?
おれの胸の中には寂しさというか、虚しさが少し沸いてきた。今の生活に不便は無いけどさ……やっぱり、会ってみたい気持ちはあるよね。両親に。
6
と、言うことでぇ〜……大剣闘祭に出るためにダグシオンに行くことにした。
もちろん反対された。1人で行ってどうするんだと。なんでも大陸中から人が集まる大会で、1人ではなくチームで戦うらしい。チームか、まじか。村に若いガキなんておれくらいなのに。警備の人や畑仕事をしている人を連れて行くわけには行かないし……詰んだか?
いや、大陸中から人が集まるのならば、おれのようにソロでやって来てる人も居るはずだ。よし、そういう人たちを誘うか、どこかのチームに入れてもらおう。それが良い。
笑顔で現地で探す! と意気込むと頭にゲンコツが降って来た。バカモンが! と言う言葉と共に。
でもおれ辞めないよ。大会に出るって決めたから。それに、いつかダグシオンで働くなら今行っても数年後に行っても変わらないでしょ?
そういうと村長は呆れていた。そう言うところは親に似ていると。
⭐︎
「よし、準備完了!」
古い小さな民家の中で1人の少年の声が聞こえた。窓から差し込まれた光が反射し、キラリと光る銀色の髪に、蒼い瞳。左耳には赤い宝石で出来たピアスが付けられていた。容姿は整っており、年齢的なものも相まって、美少年とも、美少女とも取れるだろう。
「食料よし、水よし、地図よし、剣と防具よし、お金よし!」
念のための指差し確認も忘れずにし終えた少年はカバンを背負い、扉へと向かう。
「……」
ドアノブを握った少年は少し動きを止める。
「……行って来ます、父さん、母さん」
誰も居ない部屋。両親と過ごした訳でもない借りた家。思い出など無いはずなのに、なんとなく、言っておこうと思った。
挨拶を終え、扉を開けると少年は笑顔で門へと駆け出した。
「お、
門の横に立つ男性が声をかけた。少年──ルシスは笑顔のまま頷く。
「おう! 思い立ったが吉日って言うからな!」
「またよく分からない事を言うなぁ、おまえは。まぁいいか。村長には俺から伝えておくよ。ちゃんと無事に帰ってこいよ?」
「へへっ! 大丈夫! おれ強いから!」
ルシスは胸を張り、門番はそれをみて呆れる。
門番はフッと笑みを浮かべ、ルシスの肩を強く叩いた。
「いてっ! 何すんのさ!」
「俺からの気合いを込めてやった! これで優勝間違いなしだ! 行ってこい!」
「……おう!」
そんなやり取りを最後に、ルシスは振り返る事なく走り出す。時のよすがに導かれるように、ルシスは銀の髪を揺らしながら帝都ダグシオンを目指すのだった。