彼らがどんな道を歩み、どのような関係を築いたのか。果たしてその結末は――。
というような感じの話の冒頭部分です。冒頭だけです。
後書きには本作のネタバレ的な内容を幾つか語っています。
もし興味がありましたらどうぞ最後までお付き合い頂ければ。
初星学園――国内最大のアイドル養成校として名高いここにはアイドルを目指して数多の生徒が集まってくる。
各々が夢に向かって理想のアイドルを目指し研鑽する日々。中には夢半ばで諦めてしまい別の道を行く者もいるが、その日々で培ったものはきっと何にも変え難いもので、長い人生の中で役に立つ事だろう。
それでも一人でも多くの夢を諦めさせたくない。そのための手助けがしたいと思い、俺はこの初星学園のプロデューサー科に入学した。
夢はアイドル達の水先案内人として支え続け、ひいてはトップアイドルへと導くこと。
この夢を目指した理由は色々あるが、決意したのはきっかけはたったひとつの出来事だった。
ユニット名『Syng Up!』のリーダー賀陽燐羽。
ユニット仲間である月村手毬、秦谷美鈴もまた彼女に触発されるように着実に実力を伸ばしていき、いつしか彼女たちは初星学園中等部ナンバーワンユニットと評されるまでになっていた。
俺はそんな『Syng Up!』のファンの一人でもあった。行われるライブには欠かさずに行っていたし、イベントにもほとんど参加していたほどに。
だからこそ『Syng Up!』の解散は当時強い衝撃を受けた。
推しているユニットだったからというのも勿論ある。それ故に彼女たちの持つ不安定さにも薄々気がついていた。
だがショック以上につい思ってしまったのだ。
ネット上に流れてしまった口論の様子を映した動画を見て、もしも誰かが、彼女たちを導き支えられるような誰かが一緒にいたのなら或いは結末は違ったのではないか――と。
元々プロデューサーになることに興味を持っていた俺は、これを皮切りにより強い決意と志を持って険しき道を歩き始めたのだ。
今からここに綴るのは、そんな俺がプロデュースした最初にして最後のアイドル賀陽燐羽を――
◇
麗らかな春の日。俺は心地良い日差しと風を浴びながらベンチに腰掛けている。
周囲に他の人影はない。今は多くの生徒が授業を受けている時間帯だ。
手元の端末に視線を落とし、軽くため息を吐く。端末にはこれまで集めてきた賀陽燐羽に関する情報が保存されていた。
略歴だけでなく、彼女の行動パターンや生活のリズム。加えて今彼女が何を求め何を望んでいるのかまで、彼女に関わる情報をこれでもかと事細かく書いている。
「我ながら気持ち悪いものを作ったな」
画面を長々とスクロールしながら自嘲気味に笑う。
こんなもの側から見ればストーカー以外のなにものでもない。誰かに見られでもすれば場合によっては訴えられそうだ。
だがこれだけの熱量でなければ、きっと今の彼女を説得することは困難を極める。
チャンスは一回。これを逃せば今後プロデュースすることも叶わなくなるだろう。
事前準備はしてきた。あとはもう、彼女が納得し頷くだけの道筋を提示するだけだ。
端末をスリープ状態にし、意を決して立ち上がる。と同時に目の端でその対象を捉えた。
私服姿で凛とした表情のまま堂々とこちらに歩いてきている。
本来この時間は教室にいるはず、などとは思わない。別に待ち合わせをしていたわけでもない。ただ今日彼女はここを通るだろうとずっと待ち構えていたのだ。
「賀陽燐羽さんですね?」
躊躇うことなくこちらから声をかける。
すると彼女は一瞬体を強張らせ、肩が軽く跳ねた。息を呑んだようにも見える。
どうやら少々気が急いて驚かせてしまったらしい。
「失礼しました。驚かせるつもりはなかったのですが」
「誰? あなた…………?」
警戒心を露わにこちらを睨んでくる。見ず知らずの人間に、それも男に声をかけられたとなれば当然の反応だとも言える。
まあ彼女が覚えているかどうかはともかく、一応初対面ではないのだが。
「申し遅れました。俺はプロデューサー科の
すぐさま懐から名刺を取り出して彼女の前に差し出す。
賀陽さんは特に拒否する素振りもなく受け取ると、紙面を見回して軽く鼻を鳴らした。鋭い眼光がこちらに向けられている。
三回ほど名刺とこちらの顔を行き来していたがそんなに珍しかったのだろうか。
「プロデューサー科の一年生……? 一体なんの用かしら? 見ての通り私いま忙しいのだけど? それともまさか、この私をスカウトしようってつもりじゃないでしょうね?」
彼女の口から間髪入れずに出た返答に俺は思わず吹き出してしまう。
すると賀陽さんは一層不機嫌そうに睨んできた。
「私なにか可笑しなことでも言ったかしら?」
「ああいえ、失礼しました。あまりに想定通りの受け答えだったものでつい思わず」
事前に組み立てていたシミュレーション通りの流れについつい笑ってしまった。勿論俺が笑うことも込みで、だ。
馬鹿にされているように感じれば、
「あなた私を馬鹿にしているのかしら?」
「まさかそんな。俺はただ貴方と話をしたいと思いここで待っていたんです」
「そ。なら後にして頂戴。さっきも言ったけど私は今忙しいのよ」
「極月学園への編入手続きのために……でしょうか?」
俺の指摘に賀陽さんは眉間にしわを寄せる。
「あなたどこでそれを?」
「事前に色々調べましてその時に。と言っても、たまたま貴方が極月学園の黒井理事長とお話しているのを見かけただけですが」
答えに納得がいかないのか、怪訝な表情を向けてくる。どちらかといえば困惑に近いのだろう。
「盗み聞きしてたってこと? きもちわる」
「まったくおっしゃる通りで」
「別に褒めていないのだけど。なんでちょっと嬉しそうにしてるのよ」
まあ、一応大ファンの一人だった自分からすると貴方の罵倒はご褒美みたいなものなので。とは口が裂けても言えない。
「ふん、なら話が早いわ。私は初星を去るの。だからあなたのプロデュースを受けることはできないわ」
「まだあなたをプロデュースするとは言っていないのですが」
「ここまでやっておいてプロデュースする気が無いなんて、そんなのただのストーカーじゃない。それとも盗み聞きしていたほどだし、本当にただの私のストーカーなのかしら?」
賀陽さんはあからさまにスマホをちらつかせてどことなく悪戯な笑みを浮かべる。
今ここで本当に通報されれば大惨事だが行動に移す様子はない。一刻も早くこの場を脱するためのブラフでしかないようだ。
もし通報すれば逆に余計な時間を食い、騒ぎにもなってしまう。周囲にバレないよう行動していた彼女としてもそれは避けたいのだろう。
同時に少しばかりは話を聞こうとする気も現れ始めていると見て取れた。
「賀陽燐羽さん。俺にあなたをプロデュースさせてください」
「あなたもしかしてスカウトが下手なのかしら? さっきも言ったようにあなたのプロデュースを受けるつもりはないの。それにこんな状況で言われても頷くわけないでしょ?」
「いえ、これはあくまで足掛かり程度の言葉でしかありません。況してやアイドルを辞めようとしている貴方に今どんな言葉を取り繕ったところで答えはノー以外に返ってこないでしょう?」
賀陽さんの眉間がぴくりと動く。
それを気にすることなく俺は言葉を続けた。
「あなたはアイドルを引退したい。それもただ引退するのではなく、自分のファンを誰かに託すような形で。そのための一歩として選んだのが極月学園への転校だ。違いますか?」
しばし沈黙が流れる。周囲に他に人がいないからよりそう感じるのだろう。
特に返事する様子もないため俺はさらに言葉を続けた。
「あんな形でユニットが解散してしまったのは貴方にとっても不本意だったんだ。予定していた解散ライブは行えず、メンバーとも亀裂が残ったまま、ファンとのお別れもできていない。本当ならそれら全てを無視してでもやめてしまいたかったことでしょう。けど貴方はそれが出来なかった」
「…………黙りなさい」
「アイドル賀陽燐羽という僅かに残った矜持がそうさせなかったんだ」
「黙りなさいと言っているのが聞こえないのかしら?」
賀陽さんは凄まじい剣呑でネクタイを掴むと、無理やり自分の方へと引き寄せてきた。
目の前に整った可憐な顔がある。身長差から少し背伸びをしているのが可愛らしい。
「さっきから黙って聞いていれば知ったような口で。もし次その不愉快な口を開いてみなさい。殺すから」
その答えを待っていた。
彼女の口から出た強い言葉は、それ以上の強い言葉でもって制すればいい。そうして次第にこちら側へと引き込んでいけばいいと事前に分析している。
「そうですか。ではその言葉通り殺してもらいましょうか。これから先、俺の
「は? あなた何を言って――」
思いもよらぬ答えだったのだろう。先程まで気丈に振舞っていた賀陽さんの声音に震えが入り混じっている。
「俺にあなたの引退の手伝いをさせてくださいと言っているんですよ。極月学園へ行ったところであなたが満足する結果には決してならないでしょう。ですが俺なら必ず、その道を満足の行くものにできる。より良い結果へと導くことができる」
そっと掴まれた手を解き、襟を正して真っ正面に向き合う。彼女の動揺する瞳を覗き込むように。
きっとこれは誰から見ても歪んだ感情だ。エゴ以外のなにものでもない。
俺以外の人間に彼女の引退という名の荷解きをさせたくないという独占欲にも似たなにか。
他の誰でもない俺にしか出来ないことだという傲慢さ。
それら全てを今本人にぶつけている。そんなことは百も承知だ。
「貴方を引退させてしまうと、貴方を目にかけていた十王社長からは目の敵にされてしまうでしょう。そうなればこの先のプロデューサー人生に大きな傷がつくことになる。けど俺はそんなことどうでもいいんですよ。貴方が円満に引退したいと考えているのならそれを叶えてあげたい。そのための手助けをしたいんです。だから――」
俺は言葉を紡ぐ。これが最善なものかは分からない。それでもきっとこの手を取ってくれるだろうと確信して、困惑する彼女の前に手を差し伸べる。
「俺と一緒に
これが俺の最初のプロデュースにして、最も険しくも楽しい道のりの始まりだった。
まずはここまでご覧いただきありがとうございました。
続きが気になる方はごめんなさい。本作はこの冒頭部分だけでそれ以降を書く予定は今の所ありません。
ここから先はこの作品の誕生経緯やら、実はこんな展開を考えていたんだよとかを長々と語っていく場と化します。
それでも大丈夫。むしろ気になるからウェルカムな人はどうぞ最後までお付き合い頂ければと。
ではまず誕生の経緯から。
これはまあ皆まで言う必要もないでしょう。私が燐羽推しだからです。その愛は美プラを改造して製作し、常に旅先に連れて行くほどで、結果抑えられない何かが爆発してよし書こうと思った次第です。
ですが悲しいことにネタは思いつけども、じゃあ最後まで書けるか?最後まで面白いものが書けるか?と言われると厳しいなとなりました。もはや何番煎じだよって展開になりかねないですし、音楽やアイドル業界に詳しいわけでもないので。
それでもせめて冒頭部分だけでも書いて供養したいなと思い投稿したのが本作になります。
この後の展開についても色々と考えてはいました。
メンバーの仲直りの順番は最初が美鈴、次に手毬という感じだったり。
実は燐羽の初恋相手が本作のプロデューサーで、最初に声をかけられた時に驚いていたのは実は初恋の人の声が聞こえた気がしたからというものだったり。めちゃくちゃまじまじと見ているのも、どこかで会ったことがあるという既視感がずっと拭えないからということが後に明かされたり。
そんな初恋相手に燐羽が気がつけなかったのはプロデューサーが初星学園入学に際し超イメチェンしていたからで、でも目の敵にしていた美鈴はすぐに気がつくという展開だったり。
プロデューサーの自伝小説のような始まりだったのに、時折燐羽の視点が挟まってたりして「おや?」と思わせる展開だったり。
プロデューサーは賀陽継と面識があり、燐羽には内緒で会いに行った際に燐羽を引退させるつもりが一切ない事がわかったり。
とまあ他にも色々ありますがこれ以上はキリがないので、ここはとりあえず明かしておきたい内容に止めておいて。
前述したように色々と展開は考えたのですが描写不足になるのは目に見えていたというのもあって断念したわけになります。
まあ正直書きたいんですよ。ええ、めちゃくちゃ書きたい。なんなら私が推しているメンバーともめちゃくちゃ絡ませたい。
あ、ついでに言ってしまうと私が推しているのは一年一組の子達全員です。気に入ったグッズは基本的に5人揃えてます。
それはさておき、咲季や手毬はともかく他三人とはどう絡むんでしょうね。
ことねはなんとなく手毬に振り回されてる繋がりプラスことねの姉属性で多少なりとも絡むでしょうけど、リー清の二人とはどう絡むのかなと。あれかな。リーリヤの声真似×2による手毬弄りとか?
うーん、公式から出してくれれば手っ取り早いのに。
そんなこんなで長々と語りましたが、本作お楽しみ頂けましたでしょうか。冒頭だけで何を言ってんだって感じですが、それでも少しでもお楽しみ頂けていたのであれば幸いです。
今後もしかしたらまた書きたい欲の抑えが効かなくなって続きを書いてしまう可能性もありますが、その時はこの後書きにて明かした内容を踏まえた上でやり取りや伏線、文章表現等をお楽しみ頂ければなと思います。
ここまで長々とお付き合い頂きありがとうございました。