ガールズ&パンツァー ドイツ極秘戦闘隊と親善試合です!!! 作:ロングキャスター
砲声が、南国の密林を揺るがした。
ティーガーIの主砲、8.8センチ砲が火を噴く。
轟音とともに放たれた徹甲弾は、前方の陣地に据えられた敵の装甲車両を直撃した。装甲板が弾け、黒煙が立ち上る。車両の動きが止まったのを確認すると、俺は周囲を見渡した。
「目標、沈黙。次の目標、11時方向!」
『了解!』
車内に響く返答。砲塔が旋回し、次の目標を探す。
周囲では歩兵同士の銃撃戦が続いていた。敵は密林を利用して陣地を築き、こちらの進路を塞いでいる。正面から押し切るだけでは、無駄な損害が増えるばかりだ。
「左前方の茂みだ。通信手機銃で掃射しろ。歩兵が潜んでいる可能性がある」
車体前方の機関銃が短く火を噴いた。葉が散り、土が跳ねる。
俺たちが戦っている相手は、かつて同じ国旗の下にいた連中だった。
ナチス・ドイツの敗北が決まったあとも、戦争を終わらせるつもりのない者たち。ヒトラーが遺した計画を実行するため、密かに太平洋へ送り込まれた親衛隊の部隊だ。
ドイツが降伏すれば、戦争は終わる。
俺たちはそう信じていた。
だが、独裁者が死の間際に残したものは、平和への道筋ではなかった。新たな戦争の火種と、世界を巻き込む危険な計画だった。
そして、その計画を止めるために、俺たちは再び戦場へ戻ることになった。
「隊長、前方の敵陣地に動きがあります!」
「慌てるな。周囲を確認しろ。突出するなよ」
俺の名は、ウィットナー・シュトラーデン。
ブラッドハウンド連合部隊の隊長だ。
俺たちは、ヒトラーの独裁に反対するドイツ軍人たちを中心に結成された、秘密部隊である。かつては連合国側とも手を結び、ドイツ軍の作戦を内部から妨害することで、戦争を終わらせるために動いていた。
構成員の国籍はドイツだけではない。アメリカ、イギリス、ソ連、日本――本来ならば、互いに銃を向けていてもおかしくない者たちが、今は同じ目的のために戦っている。
考え方も、生まれた国も違う。
それでも、俺たちには共通の願いがあった。
これ以上、戦争を続けさせないこと。
それが、ブラッドハウンドの存在理由だった。
そしてドイツが降伏したとき、俺たちはようやくその願いが叶ったのだと思った。
だが、平和はまだ遠かった。
ヒトラーが遺した計画を追い、親衛隊の部隊が太平洋で何を企んでいるのかを突き止める。その任務を受け、俺たちは戦後の太平洋へと向かった。
戦争が終わったあとに、もう一度戦場へ向かうことになるとはな。
まったく、あの伍長閣下は最後の最後にとんでもなく厄介な置き土産を残してくれたものだ。
「隊長、敵の抵抗が弱まっています!」
「よし。だが、追撃は慎重に行え。敵の罠かもしれん。微速前進」
俺はそう命じ、再び前方へ目を向けた。
そのときだった。
視界が、突然白く染まった。
「――何だ!?」
砲撃の閃光とは違う。爆発の衝撃もない。音もなく、ただ世界そのものが白い光に包まれていく。
操縦手が何かを叫んでいた。無線から仲間たちの声が飛び交う。だが、それらも遠ざかり、やがて何も聞こえなくなった。
俺の意識は、そこで途切れた
* * *
目を覚ましたとき、そこには戦場がなかった。
「……ここは、どこだ?」
見渡す限り、見覚えのない景色が広がっていた。先ほどまでいたはずの密林も、敵陣地も、砲弾がえぐった地面もない。
それどころか、周囲にいたはずの敵兵の姿さえ見当たらなかった。
だが、俺たちの戦車はそこにあった。
ティーガーIも、仲間たちも、装備も――どういうわけか、まとめてこの場所へ移されたらしい。
「隊長! 全員、無事です!」
「そうか。負傷者は?」
「今のところ、確認されていません!」
「よし。まずは周囲の安全を確認しろ。状況が分かるまでは、勝手な行動を取るな」
命令を出しながら、俺は胸の内に広がる違和感を押し殺した。
ここがどこなのか、なぜ俺たちが移されたのか。それを説明できる者は誰もいない。
俺たちは、戦場から切り離されたのか。
それとも、戦争そのものが終わったのか。
答えは、すぐには見つからなかった。
やがて俺たちは、この世界が自分たちの知る世界とは根本から異なることを知ることになる。
携帯電話。インターネット。俺たちの時代には存在しなかった技術。そして、戦車を使った競技――戦車道。
戦車道では、学生たちが戦車を操り、試合を行うのだという。
しかも、特殊なカーボンによって乗員の安全が守られるため、実戦とは違い、試合中の危険が大幅に抑えられているらしい。
最初にその話を聞いたとき、俺は耳を疑った。
戦車を使って競技をする?
しかも、学生が?
俺たちが生きてきた戦場では、戦車の一発が人の命を奪った。砲弾が飛び交う中で、判断を誤れば仲間が死ぬ。勝利のために払う代償は、決して小さくない。
それなのに、この世界では戦車が競技として扱われている。
馬鹿げている――そう思いかけて、俺は考え直した。
戦車を使って戦うことそのものが、必ずしも殺し合いである必要はないのかもしれない。
そういう世界があるのなら、少しばかり興味が湧く。
俺たちがこの世界へ来た理由は分からない。元の世界へ帰れるのかどうかも分からない。
帰る方法を探すことは、もちろん諦めていない。元の世界には、まだ片づけなければならないこともある。仲間たちだって、故郷や家族を思っているはずだ。
だが、手掛かりひとつ見つからないまま、いつまでも帰還の可能性だけにすがっているわけにもいかない。
――どうせ、すぐには帰れそうにないんだ。
だったら、今いる場所でできることを楽しんでやろうじゃないか。
俺たちは、戦争を終わらせるために戦ってきた。ようやく戦争が終わったと思ったら、今度は訳も分からない世界に放り出された。まったく、人生というのは思いどおりにならないものだ。
だが、少なくともこの世界では、戦車に乗ることが殺し合いを意味するわけではないらしい。
ならば、今までとは違う戦車の楽しみ方があってもいい。
元の世界に帰る道を探しながら、この世界での暮らしも楽しむ。どちらか一方しか選べないと決まったわけでもないのだからな。
そう考えると、少しだけ気が楽になった。
そうして日々を過ごしていたある日、俺たちのもとへ一通の申し入れが届いた。
戦車道連盟と文部科学省からの、親善試合の提案だった。
相手は、大洗女子学園。
戦車道の大会で実績を重ね、優勝を勝ち取った学園だという。
「大洗女子学園…か……」
俺は資料に目を落とした。
指揮官は西住みほ。若い学生でありながら、幾度もの戦いをくぐり抜け、仲間たちを率いて勝利をつかんできたらしい。
戦場での経験と、競技としての戦車道。その違いは大きいだろう。
だが、戦車を動かし、仲間と連携し、限られた状況の中で勝利を目指す。その根本にあるものはそう遠くないはずだ。
「隊長、どうされますか?」
部下の一人が尋ねた。
俺は資料を閉じ、口元に笑みを浮かべる。
「受けようじゃないか。せっかくの申し入れだこちらから断る理由もない」
「しかし、相手は学生ですよ?」
「分かっている。だからこそ、興味があるんだ」
俺は窓の外へ目を向けた。
この世界の戦車道が、俺たちの知る戦争とどれほど違うのか。学生たちは戦車を通じて何を学び、何を守ろうとしているのか。
そして、西住みほという指揮官は、いったいどんな戦い方をするのか。
確かめてみたい。
もちろん、実戦のように敵を倒す必要はない。命を懸ける必要もない。
それでも、勝負である以上、手を抜くつもりはなかった。
「ブラッドハウンドの連中にも伝えておけ。親善試合を受けるとな」
部下が敬礼し、部屋を出ていく。
俺はもう一度、大洗女子学園の資料を手に取った。
戦争が終わったあとに、こんな形で戦車に乗ることになるとは思わなかった。
だが、悪くない。
今度の戦いでは、誰も死なせる必要はない。
それならば――思う存分、戦車を楽しむとしよう。
俺たちブラッドハウンドにとって、新たな戦場が幕を開けようとしていた。