ガールズ&パンツァー ドイツ極秘戦闘隊と親善試合です!!!   作:ロングキャスター

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第二話 接敵します!

 

 ー森林地帯ー

 

 枝葉の隙間から差し込む陽光が、木々の間を縫うように地面を照らしていた。ところどころに伸びた下草が履帯に踏みしだかれ、湿った土の匂いが漂っている。

 

 その静かな森の中の細い道を、一両のティーガーIがゆっくりと進んでいた。

 

 車内にいるのは、ファインツをはじめとする乗員たちだ。

 

 ファインツは地図と周囲の地形を見比べながら、操縦手に速度を落とすよう指示した。

 

「ここから先は道幅が狭くなる。木々の間隔も狭い……無理に道を外れれば、車体を引っかけるか、履帯を痛めることになる。微速前進」

 

『了解』

 

 操縦手の返答を聞き、ファインツは再び地図に目を落とした。

 

 森林地帯を抜ける道は限られている。敵がこの地域を進むのであれば、同じ道を利用する可能性は高い。もちろん、戦車道の試合である以上、敵が必ずしも最短経路を選ぶとは限らないが、警戒する価値はあった。

 

 ファインツは無線機に手を伸ばした。

 

「こちらツヴァイ隊長車。アルファ、聞こえるか?」

 

『こちらアルファ。テイラーよ。どうしたの?』

 

「この先にある小さな集落まで前進する。」

 

『オッケー…ならこっちは援護出来る経路を探して前進するわ。だから、接敵しても無理はしないでね』

 

「ああ、もちろんだ。あくまで威力偵察だからな。敵の配置と反応を確認したら、必要に応じて後退する」

 

『その言葉、忘れないでよ。敵を見つけたからって、全部相手にしようとしないこと』

 

「分かっている」

 

 ファインツは口元をわずかに緩めた。

 

「それに、俺のティーガーなら多少の無茶には耐えられる」

 

『その自信がどこから来るのか、いつかじっくり聞かせてもらいたいわね』

 

「その機会があればな」

 

 軽口を交わしたあと、無線を切ってファインツは小さく呟いた。

 

「とはいえ…多少の無理はテイラーも承知はしているだろうが…」

 

 単独行動が危険なのは承知している。だが、森林地帯では多数の戦車をまとめて動かすよりも、一両で先行した方が地形を把握しやすい場合もある。

 

 それに、今回は威力偵察であるため、交戦して相手側の出方を見なければならない。そして、彼のティーガーIは、この森林方面に展開するブラッドハウンドの車両の中でも、敵の重戦車と正面から撃ち合える数少ない戦力だった。

 

加えて、木々の密度が高いこういう森林地帯では、車体の大きな重戦車は機動を制限されやすい。ティーガーIも例外ではなく、機動力の高い戦車に側面や後方に回り込まれて撃破されるリスクはある。

 

 それでも、敵の重戦車と正面から撃ち合える車両を先行させる意味はある。

 

 ティーガーIの厚い装甲と火力を活かし、敵の注意を引きつける。その間に、機動力に優れたテイラーの部隊が側面へ回り込める経路を探す。それがファインツを先行させる狙いだった。

 

 もちろん、敵がこちらの意図を見抜き、側面を警戒してくる可能性もある。大洗連合には戦車道の経験を積んだ指揮官がいる。彼女たちを侮るつもりはなかった。

 

 それでも、敵の反応を確かめるには、まずこちらから仕掛ける必要がある。

 

 うまくいけば、敵の配置を確認すると同時に、後続部隊が動くための足掛かりも得られる。

 

 もちろん、敵の数や配置によっては、ファインツ自身が危険にさらされる。だからこそ、無理に戦果を求めず、状況に応じて後退する。それが今回の威力偵察だった。

 

 

「じゃあ頼んだぞテイラー」

 

『グッドラック、ファインツ』

 

 通信を終えたファインツは、車長用ハッチから周囲を確認した。

 

「前進。周囲の警戒を怠るな」

 

 ティーガーIが再び動き出す。

 

 重い履帯が土を踏み、車体がゆっくりと木々の間を進んでいった。

 

 かつての世界では、周囲の景色を楽しむ余裕などなかった。敵の砲撃、迫り来る歩兵、燃料や弾薬の不足。目の前の脅威に対処するだけで精いっぱいだった。

 

 それに比べれば、今はずいぶんと穏やかだ。

 

 もっとも、これから敵と接触する可能性がある以上、気を緩めるわけにはいかない。

 

『ファインツ、こちらテイラー。アルファの現在位置から、集落方向へ抜ける細い道を確認したわ。地図には載っていないけれど、戦車一両なら通れそう。ただし、道幅には余裕はないわ』

 

「了解した。敵がその道を使う可能性もあるな」

 

『ええ…。アルファ各車、援護可能距離まで前進。ツヴァイ各車は小道に警戒しつつ、側面攻撃ができるように散開』

 

テイラーはアルファ中隊に前進を命じる一方、ファインツのツヴァイ中隊とも連絡を取り、互いに支援できる位置を探っていく。

 

 

『そちらからも敵の動きが見えたら、すぐに知らせて』

 

「もちろんだ」

 

 ファインツは通信を切ると、再び前方へ目を向けた。

 

 しばらく進むと、木々の向こうに建物の屋根が見え始めた。

 

 小さな集落だった。

 

 日本の地方にある農村を思わせる、こぢんまりとした集落。道沿いに民家が点在し、家屋の間には畑らしき土地も見える。戦車道の試合用に整備された市街地とは異なり、生活の気配を残した風景だった。

 

 ファインツはすぐに速度を落とした。

 

「前方の建物を確認。右側の曲がり角に注意しろ。死角が多い」

 

『了解』

 

 車体がゆっくりと停止する。

 

 ファインツは耳を澄ませた。

 

 エンジン音は聞こえない。履帯が地面を踏む音もない。風に揺れる木の葉の音が、かすかに響いているだけだった。

 

 だが、敵がいないと決まったわけではない。

 

 彼は砲塔を慎重に旋回させ、集落の入口と道路の先を確認した。

 

「……静かすぎるな」

 

 

      *   *   *

 

 

 

 その頃、集落の反対側からは、あさがお中隊の先遣隊として、うさぎチームを含めたサンダース大学付属高校の戦車隊が接近していた。

 

 先頭を進むのは、アリサのM4A1シャーマン。長砲身の76ミリ砲を搭載した車両だった。その後ろには、うさぎチームをはじめとする車両が続いている。

 

「みんな、周囲をよく見て! 森の中だからって、ぼんやりしていたら駄目よ!」

 

 アリサは車長用ハッチから身を乗り出し、周囲を警戒していた。

 

 普段なら、もう少し余裕を持って指揮できる。だが、今回は違った。

 

 相手は、実戦経験を持つという謎の部隊。しかも、どのような戦い方をしてくるのか、まだ十分に分かっていない。

 

 試合前の説明だけでは、相手の実力を判断できなかった。

 

「車長、前方に集落があります」

 

「分かってるわ。集落の中に敵が潜んでいる可能性もあるから、慎重に進んで」

 

「了解です!」

 

 アリサは無線機を手に取った。

 

「こちら、あさがお。ケイ隊長、応答願います」

 

 しかし、返答はすぐにはなかった。

 

 森林地帯では地形や樹木の影響で、無線の通信状態が安定しないこともある。アリサは一度だけ周波数と接続を確認し、もう一度呼びかけようとした。

 

 その時だった。

 

 集落の入口に差し掛かったところで、何かが動いた。

 

「……え?」

 

 アリサが目を凝らした瞬間、建物の陰から巨大な戦車の砲塔が姿を現した。

 

 角張った砲塔。厚い装甲を備えた車体。そして、こちらを向きつつある長大な砲身。

 

 ティーガーIだった。

 

「敵戦車! 前方、タイガーよ!」

 

 アリサが叫ぶ。

 

 次の瞬間、ティーガーIの主砲が火を噴いた。

 

 轟音が集落に響き、砲弾がアリサの車両のすぐ近くを通過する。着弾の衝撃で土砂が跳ね上がり、M4A1の車体が揺れた。

 

「きゃっ!」

 

乗員が悲鳴を上げる。

 

「反撃よ、反撃!」

 

 アリサは気を取り直し、砲手に照準を指示した。

 

「敵の正面を狙って! 撃って!」

 

 M4A1の76ミリ砲が火を噴く。

 

 砲弾はティーガーIの車体前面に命中した。金属音が響き、衝撃でわずかな火花が散る。

 

 しかし、白旗は上がらなかった。

 

「くっ……!」

 

 アリサは歯を噛み締めた。

 

 距離や命中箇所、使用弾種にも左右されるとはいえ、正面からの一撃で撃破できると期待していたわけではない。それでも、ここまで明確に効果が見えないとは……さすがはティーガーである。

 

 ティーガーIは、こちらの射撃を受けても前進を止めなかった。

 

 砲塔を向けたまま、ゆっくりと車体を進めてくる。

 

「撃ち続けなさい! 敵の動きを止めるのよ!」

 

 アリサの指示で、後続のシャーマンやM3リーも射撃を開始した。

 

 砲声が重なり、集落の周囲に土煙が舞う。

 

 だが、正面からの射撃だけでは、ティーガーIの進撃を止められない。

 

アリサたちの砲弾は、ティーガーIの装甲に次々と弾き返された。

 ティーガーの8.8cm砲の砲声はシャーマンやM3とは比べ物にならない轟音と衝撃波で集落の家々を震わせ、窓を粉砕した。

 

 ゆっくりと前進するティーガーIを見つめながら、アリサは息を呑んだ。

 

 戦車道の試合で、ティーガーと対峙した経験はある。だが、目の前の車両から感じる圧迫感は、それとはまるで違っていた。

 

 砲塔の動きにも、車体の進み方にも、迷いがない。こちらの砲撃を受けてもひるまず、ただ確実に距離を詰めてくる。

 

 まるで、目の前の敵を倒すことだけを考えているかのようだった。

 

 ――これが、実戦を経験した戦車兵なの……?

 

 アリサの背筋を、冷たいものが走った。

 

「ケイ隊長! 敵のタイガーと接敵です!」

 

アリサは無線に叫んだ。

 

『落ち着いて、アリサ。押田、アリサの支援に向かって』

 

ケイはアリサを落ち着かせながら、押田に支援を指示した。

 

      *   *   *

 

 ファインツは車内で報告を聞きながら、敵の配置を観察していた。

 

「長砲身のシャーマンが一両。ほかにM3リーと、短砲身のシャーマンがいるな」

 

 彼は照準器越しに敵の車両を数え、無線を入れた。

 

「こちらファインツ。敵と接触した。サンダースの戦車隊だ。長砲身のシャーマンを確認。ほかにM3リー、短砲身のシャーマンが複数いる」

 

『こちらアルファ、了解。敵の数は?』

 

「まだ全体は把握できていない。少なくとも、この集落付近に複数両。正面から射撃を受けているが、現時点で大きな損傷はない」

 

『了解。今射撃可能位置に移動中よ。無理はしないで!』

 

「分かっている」

 

 ファインツはそう答えながら、敵の射撃位置と反応を確認した。

 

 敵は正面からの攻撃を続けている。まだ側面に回り込む動きはない。

 

 このままなら、もう少し観察できる。

 

 そう考えた時だった。

 

 集落の脇道から現れたのは、見慣れない重戦車だった。

 

 角張った車体に、独特の砲塔。そして、ティーガーIに向けられた長砲身の主砲。

 

「……ARL-44か!」

 

 ファインツの表情が変わった。

 

 フランス製の重戦車。搭載する90ミリ砲は、距離や弾種、命中箇所によってはティーガーIにとっても無視できない脅威となる。

 

 ファインツ自身、幾多の戦車と接敵してきた経験はあるが、ARL-44は未知の存在だった。

 

 先ほどまでのシャーマンとは、事情が違う。

 

「車体を動かせ! 停止するな!」

 

 ファインツが命じるのと、ARL-44が発砲するのはほぼ同時だった。

 

 砲弾がティーガーIの手前に着弾し、土砂が視界を覆う。

 

 ファインツは舌打ちした。

 

「間一髪……随分と早いお出ましだな…… 警戒しろ!  次も外してくれるとは限らん」

 

 彼は砲塔を旋回させ、ARL-44に照準を合わせるよう指示する。

 

「フォイア!」

 

 ティーガーIの88ミリ砲が火を噴いた。

 

 砲弾はARL-44の車体に命中したものの、白旗は上がらなかった。ファインツはすぐに次弾を準備させながら、敵の位置と周囲の地形を確認する。

 

 敵は一両ではない。サンダースの戦車隊が前方を塞ぎ、ARL-44が側面から圧力をかけている。

 

 威力偵察としては、十分な情報が得られた。

 

 敵の先行部隊にはサンダースの戦車が含まれ、さらにARL-44まで加わっている。正面から戦い続ければ、こちらも損傷を受ける危険が高まる。

 

 ――本来なら、ここで後退するべきだ。

 

 だが、テイラーの部隊が側面へ回り込むには、まだ時間が必要だった。

 

 ファインツは敵の射撃位置を確認しながら、判断を下す。

 

 無理に敵を撃破する必要はない。テイラーの部隊が動けるようになるまで、敵の注意を引きつける。それ以上の危険が生じれば、迷わず後退する。

 

 彼は再び砲塔を敵へ向けた。

 

 その時、再びARL-44が射撃態勢を整えた。

 

 轟音とともに放たれた90ミリ砲弾が、ティーガーIの砲塔側面に命中した。

 

 金属を叩き潰すような衝撃音が響き、砲塔が揺れる。装甲は貫通されなかったものの、その衝撃は車内にも伝わり、乗員たちは一瞬、言葉を失った。

 

 ファインツも反射的に身をこわばらせた。だが、すぐに気を取り直すと無線機を手に取った。

 

「ぐぅ……フレンチの野郎、随分と良い戦車を作ったな……!」

 

 彼は前方のARL-44を睨みつけると、無線を開いた。

 

「テイラー! こちらファインツ。敵側にARL-44が合流した。火力が増している。そちらの位置は?」

 

『もうすぐ射程に入るわ。ファインツの右側、集落の東側から敵の側面を攻撃する。私たちが到着するまで持ちこたえて!』

 

「了解した。頼んだぞ!」

 

「ぐぅぅ… フレンチの野郎、随分と良い戦車を作ったな…! テイラー! こちらファインツ。敵がARL-44と合流した。敵の火力が増している。そちらの位置は?」

 

『もうすぐ射程に入るわ。集落の東側から敵の側面を攻撃する! 私たちが到着するまで、持ちこたえて』

 

「もちろんだ!」

 

 通信を終えたファインツは、再び正面を向いた。

 

 森の静けさは、もうどこにもなかった。

 

 その頃、ケイのもとにも、アリサ隊から敵との接触が報告されていた。

 

「アリサ! 押田のARLと一緒にタイガーを食い止めて。無理に正面から突破しようとしないで。敵の位置を押さえつつ、こちらの増援を待って」

 

『りょ、了解!』

 

 通信が切れる。

 

 ケイはすぐに次の指示を出した。

 

「集落のタイガーはアリサとラビッツ、押田で抑えてるわ。ナオミはアズミのコスモス中隊の方へ。敵が森林地帯に戦力を集めているなら、ほかの部隊も動き始めるはずよ」

 

 ケイの判断は早かった。

 

 一方を救援するために戦力を集中させれば、別の場所が手薄になる。森林地帯全体の状況を把握しながら、必要な場所へ戦力を振り分けなければならない。

 

 そして、敵が単独の偵察車両だけではないことはすぐに明らかになった。

 

 ほどなくして、テイラー率いるアルファ中隊の車両が森の中から姿を現した。

 

 先頭を進むのは、M26パーシング。

 

 テイラーは戦況を確認すると、落ち着いた声で指示を出した。

 

「各車、敵の配置を確認。正面の戦車隊を押さえつつ、ファインツのティーガーを孤立させないように。まだ敵の全容は分かっていないわ。深追いは禁止よ」

 

 彼女は前方に広がる集落を見据えた。

 

 その向こうには、サンダースの戦車隊。そして、こちらの動きをうかがうコスモス中隊がいる。

 

 相手もまた、こちらの実力を測ろうとしているはずだ。

 

「さて……どこまで見せるべきかしらね」

 

 テイラーは小さくつぶやくと、無線機を手に取った。

 

「アルファ各車、交戦開始! 目標、十時方向の敵戦車部隊! 全車、Open fire!」

 

  M26パーシングの砲塔が旋回し、主砲が火を噴いた。

 

 続いて、アルファ中隊の各車が射撃を開始する。森林に反響した砲声が、先ほどまで静かだった集落を包み込んだ。

 

 テイラー率いるアルファ中隊が、先行して集落に居たアリサ隊に合流しようとしていた、あさがお中隊の側面へ攻撃を開始した。

 

 対するあさがお中隊は一瞬身じろいだものの、すぐに応戦を開始。そしてアズミのコスモス中隊は敵中隊との戦闘に備えて射撃位置へ移動中だ。

 

 互いにまだ、相手の全容をつかめてはいない。

 

 だからこそ、最初の一手が重要だった。

 

 森林地帯の戦いは、ここから新たな局面へと移ろうとしていた。

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