ガールズ&パンツァー ドイツ極秘戦闘隊と親善試合です!!! 作:ロングキャスター
森林地帯に、砲声が響き渡っていた。
木々の間を縫うように進む戦車の履帯が、湿った土を踏み固めていく。砲塔がゆっくりと旋回し、車長たちは車体の陰から周囲をうかがっていた。
先ほどまでの威力偵察は、すでに本格的な交戦へと変わりつつある。
「各車、前進を急がないで! 敵の位置を確認しながら応戦して! コスモス中隊が側面に回り込むまで、ここを支えるよ!」
ケイの声が無線に響いた。
あさがお中隊には、ケイのM4をはじめ、アリサのM4A1、うさぎチームのM3リー、知波単学園の九七式中戦車や九五式軽戦車などが所属している。ナオミのファイアフライは、コスモス中隊を援護するため、すでに別行動を取っていた。
車両ごとに火力も機動性も異なるが、森の中ではその違いが長所にも短所にもなり得た。
あさがお中隊は、森林内でブラッドハウンドのアルファ中隊と交戦していた。
先頭付近では、アリサのM4A1が集落の建物を遮蔽物として利用し、敵の射線を探っていた。その後方では、あさがお中隊の各車が木々や茂みに車体を隠しながら応戦している。
敵戦車は射撃を終えると、木々の陰へと身を隠す。こちらが照準を合わせ直した頃には、すでに別の位置から砲塔が姿を現しているのだ。
「もう、ちょこまかと……!」
アリサは毒づいた。
正面から押し込もうにも、見通しが悪い。かといって不用意に前進すれば、待ち伏せを受ける危険がある。
「アリサ、深追いしないで。敵の位置がわからないうちは、隊列を崩さないこと」
ケイが念を押す。
「は、はい! でも、このままじゃ!」
「だからこそ、焦らないの。相手が何を狙っているのか、ちゃんと見極めないとね」
ケイは落ち着いた声で答えた。
ブラッドハウンドは実戦経験を持つ部隊だ。射撃の腕だけでなく、敵の反応を見て動きを変えることにも慣れているらしい。
しかし、こちらにも戦車道の経験がある。
相手の思惑に乗せられたまま、前進を続けるわけにはいかなかった。
*
その頃、森林の別の一角。
アルファ中隊の指揮車であるM26パーシングの車内では、テイラー・ワイナーズが地図と無線報告を照らし合わせていた。
「敵は正面からの突破を警戒している。こちらの位置も、ある程度は把握されていると考えた方がいいわね」
彼女は地図上の森林の切れ目に目を落とした。
アルファ中隊は、M26パーシングを中心に、T26E4スーパー・パーシング、M4系列の各車、そして軽戦車を含む十両で編成されている。
車種も性能も一様ではない。だからこそ、全車を同じ場所に集めて正面から押し込むより、それぞれの特性を生かす必要があった。
『テイラー! これからどうする! 引くか、突破するのか!』
ファインツからの無線が飛んできた。
彼は依然として集落で押田のARL-44と交戦中だった。
本来なら、テイラーのアルファ中隊が援護位置に着いた時点で、ファインツは後退するはずだった。だが、集落の建物の陰から現れたARL-44が、アルファ中隊の左側面を射界に収めていた。ファインツが不用意に後退すれば、敵はその動きに合わせてアルファ中隊の側面を狙える。簡単には引けない状況になっていた。
「このまま突破するわ! 少々強引だけど!」
『俺は、ARLがいる以上このまま突破は不可能だ!』
テイラーはファインツの無線を聞いて再び地図に視線を落とす。
「ジャック、聞こえる?」
『感度良好、テイラー。オーバー!』
無線の向こうから、軽戦車…もとい、M18ヘルキャットに乗るジャックの声が返ってきた。
「敵の注意は、こちらの正面に向いている。西側の林を回り込める?」
『道が細い。車体を通せる場所は限られるが……少し北へ回れば、抜けられそうだな』
「無理はしないで。進入できても、戻れなくなったら意味がないわ」
『了解。撃ったらすぐに移動する』
M18ヘルキャットは、アルファ中隊の中でも特に機動力に優れた車両だ。
その一方で、装甲は薄い。敵の正面に飛び込んで撃ち合うような使い方は避けなければならない。
ジャックの役目は、敵の意識が正面に向いている隙を突き、側面から一撃を加えることだった。
「ほかの各車は、ジャックの迂回攻撃が始まるまで正面への圧力を維持。敵の態勢が崩れたら、一気に突破するわよ! 敵の動きを見逃さないで。ファインツ! こちらで敵を揺さぶって、突破口を開くわ!」
テイラーはそう指示すると、再び地図に視線を落とした。
敵を一気に撃破する必要はない。
敵の隊列を崩し、判断を遅らせる。それだけでも、戦場の主導権は動く。
*
「敵戦車、正面!」
サンダースのシャーマンの車内で声が上がった。
木々の向こうに、敵のシャーマンの車体が一瞬だけ見えた。アリサが砲塔を向ける。
「見つけたわ! 照準、急いで!」
しかし、射撃の準備が整うよりも早く、敵戦車は木立の向こうへと姿を消した。
「もう! あの木ごと吹き飛ばしなさい!」
「そんな無茶な……」
アリサの言葉に砲手が困り声を出した、そのときだった。
左手の林から、突然、別の砲声が轟いた。
「えっ!?」
砲弾が近くの地面をえぐり、土と枯れ葉が車体の側面へと叩きつけられる。
「左側! 敵がいる!」
車内が一気に騒がしくなった。
正面の敵に意識を向けていたところへ、別方向から射撃を受けたのだ。サンダースの各車が慌てて砲塔を旋回させる。
その視界の端を、低い車体が素早く横切った。
M18ヘルキャットだった。
ジャックは、あらかじめ見つけておいた林の切れ目を通り、サンダース隊の側面へ回り込んでいたのである。
正面から敵を押さえつけ、その注意が向いたところで側面を突く。テイラーとジャックの連携による奇襲だった。
「くっ……! どこから出てきたのよ!」
アリサはすぐさま砲塔を向けようとした。
だが、ヘルキャットはすでに射撃位置を離れようとしていた。薄い装甲を頼みに撃ち合うつもりはないらしい。
「アリサ、追わないで! まずは隊列を立て直して!」
ケイの声が飛ぶ。
「でも、あの車両を放っておいたら――」
「追いかけた先に、別の敵がいるかもしれないでしょう?」
ケイの言葉に、アリサは悔しそうに口を閉じた。
敵の狙いは、こちらの戦車を一両ずつ撃破することだけではない。
前方へ進むこと、側面を警戒すること、味方を援護すること。その判断を同時に迫り、こちらの連携を崩そうとしているのだ。
ケイは無線を握り直した。
「各車、互いの位置を確認! 孤立しないように! 敵の奇襲に対応しながら、少しずつ後方の車両と連絡を取り直して!」
あさがお中隊は冷静に応戦を続けた。
奇襲そのものは成功した。しかし、ケイもまた、敵の狙いを理解し始めていた。
*
一方、アルファ中隊の別の位置では、テイラーのM26パーシングが木々の間から敵影をうかがっていた。
「さすがね…ずぶの素人じゃないってわけね」
テイラーは、無線報告を聞きながらつぶやいた。
「正面から圧力をかけるだけでは、突破は難しい。ファインツは単身偵察のためツヴァイ中隊を離れ、集落で孤立している。今すぐ合流させるのも難しい……なら――。」
彼女は一拍置き、指示を出した。
「中隊各車、煙幕弾用意! 敵の視界を遮りながら、隊形を組み直すわ」
命令を受けた車両が、煙幕弾を発射した。
砲声に続き、白い煙が森林の一角に広がっていく。
それは戦車道用に調整された煙幕弾であり、乗員に危害を与えるためのものではない。目的は、あくまで視界を遮り、敵味方双方の位置関係を変えることだった。
しかし、煙幕が広がる効果は大きかった。
木々の隙間から見えていた敵戦車の輪郭が、白い幕の向こうへと消えていく。狙いを定めていた砲手は照準を維持できなくなり、車長たちは目視に頼った指示を出しにくくなった。
「煙幕!? みんな、敵の位置を見失わないで!」
ケイが呼びかける。
だが、見えない敵を追って不用意に前進すれば、今度は待ち伏せの危険がある。
「無線で位置を報告して! 煙の向こうへ、単独で入らないこと!」
ケイは、各車の連携を保つことを優先した。
敵の姿が見えなくなったからといって、敵がいなくなったわけではない。
それは、煙幕を使う側も同じだった。
テイラーもまた、視界が遮られた状態で味方の位置を見失わないよう、無線による報告を徹底させていた。煙幕は万能ではない。味方の連携まで断ち切ってしまえば、かえって自分たちの動きを制限することになる。
「ジャック、現在位置を報告して」
『北側の林に入ったところ。敵の一部がこっちを警戒してる。これ以上は無理に突っ込まない』
「その判断でいいわ。敵の側面を押さえたまま、味方との連絡を維持して」
テイラーは短く答えた。
ジャックは一度射撃位置を離れ、北側の林を利用して再び移動を始めていた。敵の視線が正面のアルファ中隊に集中している今なら、知波単の戦車群の後方へ回り込める可能性がある。
煙幕の向こうで、砲声が再び響いた。
森林戦は、まだ終わっていなかった。
*
その頃、森林のさらに奥では、アルファ中隊の側面へ回り込もうとしていたアズミ率いるコスモス中隊がツヴァイ中隊と接敵し交戦中だった。
ツヴァイ中隊は、九七式中戦車改をはじめとする日本戦車群に、一式中戦車、三式中戦車、三式砲戦車、四式中戦車、五式中戦車を加え、さらにIII号戦車N型とファインツのティーガーIを擁する十両編成だった。
車両ごとの性能には差がある。
だが、その差を埋めるように、各車は森林の地形を利用していた。射撃できる場所を選び、敵の進路を限定し、必要以上に前へ出ない。
しかし、ファインツのティーガーIは単身偵察のために集落にて孤立中だった。
今のツヴァイ中隊は、火力ではコスモス中隊に引けを取らない。だが、ファインツのティーガーIを欠いているため、装甲面では不利な状況にあった。
「こっちの敵には重戦車はいない。だったら…… B1bisとARL-44を前衛に微速前進。ナオミは遠距離から火力支援を」
アズミが指示を飛ばす。
眼前のツヴァイ中隊は四式中戦車や五式中戦車の75mm砲は十分な脅威であるが、それ以外は大したことはない。
攻守のアドバンテージはコスモス中隊にあった。
「ナオミは四式と五式を優先して狙って。射線が通る場所を確保して、頭を出させないようにして」
続けてアズミは指示を出す。
「クソ! やっこさん、重戦車を盾にしてきたな」
松平車の乗員が言う。
「まずいな……。機動性重視の編成が仇となったか」
松平は呟いた。
本来はファインツのティーガーⅠを含めた編成で走攻守のバランスを取る編成で、ファインツが一時的に抜けるということで、機動戦に注力し、アルファ中隊と共にあさがおを挟撃する予定だったのだが、アズミ率いるコスモス中隊との接敵により不利な状況になっていた。
*
「敵の日本戦車、思ったより粘るわね……!」
エクレールがぼやいた。
彼女は、日本戦車の性能をそれほど高く評価していなかった。装甲や火力だけを比べれば、そう考える理由もあったのだろう。
だが、目の前の戦闘は、単純な性能比較では説明できなかった。
敵は地形を利用し、こちらの射線を外し、複数の車両で互いを援護してくる。三式砲戦車が射撃位置を変えれば、別の戦車がその間を埋める。四式や五式の姿が見えれば、無視して進むわけにもいかない。
「さすがは実戦慣れした部隊……この程度では動じないようね」
エクレールは、先ほどまでの考えを改めた。
今回の親善試合は、彼女にとって単なる交流戦ではなかった。
マジノ女学院は防衛戦を得意としている。しかし、その戦術だけでは十分な結果を残せていない。エクレールは今の戦車道を変えたいと考え、前隊長と意見を違えてでも改革を進めようとしていた。
そのために、全国大会前にはサンダースや大洗との練習試合にも臨んでいる。
強豪校と共に戦い、その戦い方を学ぶ。今回の親善試合も、彼女にとってはそのための貴重な機会だった。
(知波単が変われたのだから、私たちだって……!)
エクレールは心の中で決意を新たにした。
戦車の性能は、戦場での強さを決める要素の一つにすぎない。
乗員がどのように地形を使い、仲間と連携し、敵の動きを読んでいるか。そしてそれに合わせた臨機応変な戦術によって、戦況は大きく変わるのだ。
*
だが、森林戦全体の状況は、次第にツヴァイ中隊にとって厳しいものになっていた。
コスモス中隊は防御力の高い重戦車を先頭に立て、慎重に前進していた。ツヴァイ中隊は火力で対抗できているものの、正面からその進撃を食い止めるのは難しくなっていた。
『テイラーさん。こちらツヴァイ副隊長車…… 敵の別動隊と接敵し交戦中。敵は重戦車を盾にして微速前進で進行中です』
「持ち堪えれそう?」
テイラーは松平に尋ねた。
『ジリ貧です。後方にはファイアフライがこちらを狙っています』
「オッケー。 ここでモジモジしてても埒が明かないわね……。全車!ここを突破してツヴァイ中隊と合流! そのまま森林エリアを抜けるわ!」
テイラーが一区切り付けて再び無線に叫んだ。
「松平。私達がここを突破してそっちと合流するからそれまで耐えて! ジャック!私達が榴弾で敵の動きを封じるからその隙に敵の後方に回り込んで態勢を崩して」
『了解』
『イエッサー』
テイラーは無線機を片手に周囲を見渡す。
「榴弾一斉射、行くわよ!」
アルファ中隊の各車が一斉に射撃態勢を整える。
「Fire!!」
テイラーの号令により、アルファ中隊の全車が一斉に榴弾をあさがお中隊に浴びせた。
狙いは敵戦車の撃破ではない。各車の周囲や進路上に榴弾を着弾させ、爆発による土煙や衝撃で動きを制限することだった。
「まだまだ!木も地面も吹っ飛ばす勢いで撃ち続けて!」
次々と着弾する榴弾によって、あさがお中隊の周囲に土煙が立ち込める。各車は反撃の機会をうかがうものの、視界が遮られ、容易には前進できなくなっていた。
* * *
「ぐっ!! 一斉射!」
激しく揺れる車内でケイはペリスコープ越しに車外を見た。
敵の榴弾が周囲に次々と着弾し、土煙が視界を覆っていく。前進すれば着弾地点に飛び込む危険があり、反撃しようにも敵の位置を確認できない。ケイは各車に警戒を促しながら、隊列を維持するよう指示した。
その時だった。
「ぐっ……! 申し訳ありません!後方からやられました!」
「回り込まれた!? あのヘルキャットね!」
「クソっ逃げられた!」
回り込んだM18により、知波単の旧砲塔チハが1両撃破された。その前方にいた同じ知波単の玉田車が敵を取り逃がしたようだった。
ジャックのM18は、撃破判定を受けたチハの脇をすり抜けるように走り抜けた。玉田車が砲塔を向けるより早く、再び木々の陰へと姿を消す。
「私の位置では難しい..…. 西、そっちで対処お願い!」
「かしこまりました!...全車、撃ち方始め!……うおっ!!」
知波単の戦車群が走るジャックの車両に砲撃を始めようとした時、再び榴弾の雨が降り注いだ。反撃の余地なくM18が走り去っていった。
「アルファ各車! 手薄なジャップタンクのところから突破するよ!……GO AHead!!」
テイラーの号令の下、火力が不足している知波単目掛けてアルファ中隊が突破を開始した。
第三話・登場中隊戦力一覧
大洗連合軍
- あさがお中隊(指揮官:ケイ)
M4シャーマン、M4A1(76mm)、M3リー、九七式中戦車、九五式軽戦車など。
- コスモス中隊(指揮官:アズミ)
M26、FT-17 、ARL-44 ×2(押田車離脱中)、ソミュアS35×3、B1bis、T-44、Ⅱ号戦車。
など10両
ブラッドハウンド連合部隊
- アルファ中隊(指揮官:テイラー・ワイナーズ)
M26パーシング、T26E4スーパー・パーシング、M4系列、M18ヘルキャットなど。計10両。
- ツヴァイ中隊(副隊長:松平風間)
九七式中戦車改、一式中戦車、三式中戦車、三式砲戦車、四式中戦車、五式中戦車、III号戦車N型、ティーガーIなど。計10両。
※ファインツのティーガーIは単独偵察のため、現在ツヴァイ中隊を離れている。