あなたは【シスター】を装備した!! 作:エルフスキー三世
貴女が【シスター】を装備してから一か月が過ぎた。
精密検査から始まり、性別や名前が変わったことによるトラブルでの引っ越し、そして国家探索者になるための申請など新生活を始める新社会人並に忙しかった。
そんな貴女でも諸々の後始末は大変であった。
人が一人消え、とつぜん一人現れたようなものだから当然ではある。
【シスター】になった貴女はそう他人事のように思った。
しかし、あとのことを考えれば忙しいがまだ平穏な日々であった。
管理局……佐々木支部長から依頼を受けたSランク探索者たちによる【シスター】性能実地試験という名目のパワーレベリングに比べたら。
Sランク探索者。
貴女が死ぬほど苦労して討伐したミノタウルスを刀の一振りで首切りチェストしてしまう最上級の
新しいダンジョンや新スキルや新アイテムが
家に帰れずダンジョンに篭りっきりで……
【シスター】の性能実地試験は日光ダンジョン40階層から始まった。
所謂、高レベルのベテラン探索者が向かう場所。
もちろん、貴女にとっては初階層である。
即死攻撃をするモンスター。
即死するトラップ。
魔力濃度の高い即死地形。
開けたら即死の宝箱などなど。
即死とは一体何だろううごごごごご……と哲学できそうなほどの死のオンパレードだった。
「お腹すきました。おうどん食べたいです。おうちに帰らせてください。おふとんで横になりたいです」
貴女がうずくまって頭を抱えながら弱音を吐くと『ねえねえデカパイちゃん? 楽しい? 楽しくない? 楽しいよね? おっ、デカケツがぶるぶる震えはじめましたよ奥さん? おwれwらwをwさwそwてwやwがwりwまwすwかwww』と変顔で励ましてくるSランク探索者たち。
この
あらゆる意味でまともでは無い状況の中、とにかく生き残るのに必死で、性別や名前が変わったなどは貴女の中では些細なことになっていた。
最終試験……50階層ボス【ドラゴンゾンビ】
貴女はドラゴンゾンビを一人で倒した。
倒せと言われ、倒してしまった。
新スキル【
ぱちぱちと笑顔で拍手するSランク探索者たちに対して貴女は「りゃああああ!りゃああああああ!」と小動物の威嚇にも似た勝鬨をあげ、Hカップのデカパイをボインボインと弾ませながらレッサーパンダの構えで喜びを表現した。
しかしよく考えてみると、レアクラス【シスター】とはいえ50階層のボスを単独で倒してこいは無茶ぶりではないだろうか?
『
貴女の口から、神罰を願う言葉がでてくるのも致し方ないことである。
久しぶりに食べたおうどんは感涙するほどに美味で、その時の感動を貴女は永遠に語り継ぐことにした。
それに比べたら今の生活のなんと楽なことか!
管理局から
【シスター】である貴女が思う存分【聖戦】してよい場所。
3日に1回、簡単な作業するだけで、毎日ダンジョンに通っていたころよりも多い稼ぎが手に入る。
「神よ、自分ほど幸運な者が他にいるでしょうか?」
貴女は「ハレルヤ!」と足踏みしながら軽快なメロディで讃美歌を歌いたい気分になった。
もちろんミュージカル歌手でもない貴女は、唐突に歌いだすなんてそんな淑女にあるまじきはしたないことはしない。
ハレルヤ!(♪)
さて、5階層である。
この階層はゴーストなどの幽体モンスター……いわゆるアンデッド系がメインとした場所だ。
幽体に物理攻撃は通りにくく、魔法の攻撃手段に乏しい初心者探索者の最初の壁となる難所である。
だけど【シスター】である今の貴女は違う。
5階層……それはまさにボーナスステージだ。
「あらあらあら」
貴女は【あらあらお姉さん】のように暢気な風情であたりを見渡す。
階層に降りたとたんに感じるひんやりとした空気。
そして視界いっぱいに飛び交う青白い光の塊たち。
【ゴースト】
しかも複数。
あちらにも、こちらにも。
天井近くまでぷかぷかと、水槽の中で限界一杯まで押し込められたクラゲのように漂っている。
「この前よりだいぶ増えていますね」
ゴーストは倒しにくい割にはドロップは渋めである。
そのため5階層をクリアした探究者は別の階層を狩場とするのがセオリーで、放置されたゴーストが溜まってしまうのだ。
『キャアアァァ……』
一体のゴーストが貴女の接近に気づいて悲鳴のような声を上げる。
他のゴーストたちも一斉に反応し、集団で襲いかかってきた。
霧状の白い魔力が鋭い刃のように変形して貴女の身体を切り裂こうとする。
苦しい思い、痛い思いはしてほしくはないけど。
「
貴女はバトルメイスを持った右手を掲げて小さく祈りを捧げた。
体からあふれる浄化の光が貴女を中心として球体状に広がる。
それに触れたゴーストたちは『キャアアッ!?』と悲鳴をあげて霧散していく。
まるで太陽の光を浴びた氷がとけて水になるようにあっさりと、儚く。
しかもそれだけではない。
貴女の体から数秒間隔で、光の波が継続的に放出されているのだ。
【シスター】のアクティブ範囲スキル……幽体はもとより肉体をもつアンデッドも弱化させる【
「楽ですね……」
これが地獄の特訓……あのSランク探索者たちとの修羅場をくぐった成果の一つ。
以前のあなたならゴースト一体でもヒイヒイ言っていたのに、今では幽体モンスターが束になってかかってきても瞬殺である。
むしろ数が多いほど効率がいい。
なにしろ邪悪なる存在がいる限り、貴女の体からはさしたる労力もなく、半永久的に破邪の光が放たれ続けるのだから。
『オアアァ……』
おっと、また新たなお客さんのようだ。
今度はアンデッド……朽ち果てた骨の人体【スケルトン】だ
「あら、今日は
貴女はバトルメイスを持ち上げて先端で十字を切るような動作をする。
バンッ!
「【
貴女はバトルメイスをスケルトンたちに次々と叩きつける。
木々が弾けるような音とともに、スケルトンたちの全身に茨じみた聖痕紋様が浮かびあがり、バラバラと崩れ落ちていく。
スケルトンに囲まれている状況なので貴女も被弾するが、それをラウンドシールドで防御することもせず『ぼいんぼいん』と純粋なフィジカルだけで跳ね返していく。
「りゃあああああああ! りやぁ!!」
残った最後の一匹をラウンドシールドで叩くと、それだけで砕け散った。
「終わりましたね」
戦闘終了。
所要時間はわずか三分足らず。
【
「本当に申し訳なくなるほど楽な仕事ですねぇ」
あなたのときだったなら泣きながら逃げ出していただろう。
もし奇跡的に勝てたとしてもしばらくはダンジョンに入れないほどのダメージを負っていたはずだ。
それが今ではただの日課となっていた。
「依頼とはいえ、初心者支援の一環でアンデッドの浄化……これほどの大役を任される幸運は他にはないですね」
貴女はくるりと踵を返し、次のポイントへ向かうために歩き出した。
「それにしても……」
貴女は自分の身体を見下ろす。
歩くたびに揺れる巨大な胸。
かつての、あなたが持っていた贅肉はだらしなさの象徴だったが、今のこれは……なんというか、圧倒的質量と謎の安定感があった。
貴女の歩行の際の重心移動にも全く影響を及ぼさないどころか、むしろ動きに合わせて自然にバランスを取ってくれるような不思議な感覚がある。
「まあ、いいです」
貴女は頬を軽くぺちぺちと叩いて気持ちを切り替える。
そう、今は大事な
以前の毎日ダンジョンに通い、ただ死なないから生きているという無気力な日々とは比べ物にならないほどの充実感があった。
「ええ、皆が歩みを止めないように、死者が安らかに眠れるように」
【シスター】はそう微笑みながら、5階層の薄暗い通路を歩いていくのだった。
でも後張りって、この業界であまり聞かないよねぇ
アナ〇ビーズ?