ダンジョン探索中に【シスター】を手に入れた!
ダンジョンの探索中に発見した宝箱。
あなたは
等級はレア。
アイテムテキストには【シスター】とだけ書かれている。
探索者をはじめてからSNSなどで情報収集をしているが、このような装備品は見たことも聞いたことがない。
疑問に思ったが、ダンジョン産のレアアイテムは実用性がなくとも希少というだけで良い値がつく。
たぶん【シスター】も高値で売れてくれるはずだ。
あなたは臨時収入にホクホクしながら出口に向かうことにした。
現在地は浅瀬の階層。
探索者としての
すくなくともこの時までは。
いつもの曲がり角。
その先には階段があり、出入り口のある階層にいける。
通勤路と言えるほど通った通路だ。
そこを曲がる前に異変。
一瞬見間違いかと、あなたはまぶたを瞬かせて。
そして……
『ぶもおおおおおおおおおおおおぉぉっ!!』
咆哮があなたを襲う。
「っ!?」
ヌッと姿を現した牛頭の巨人。
それは
規模の小さなダンジョンならば、ボスとして君臨してもおかしくない戦闘力と凶暴性をもつ魔物。
魔人・ミノタウルス。
『ぶもおおおおおっ!ぶもおおおおおおおっ!!』
あなたを視認すると、牛なのか豚なのかよく分からない雄たけびを再びあげるミノタウルス。
バルクアップされた筋肉マンみてぇなわがままボディ(強硬)が貴方にゆっくりと迫る。
ぽっちゃり体形な(肥満)あなたより、縦幅も横幅も一回り以上は大きく、まるで映画にでてくる殺人戦闘ロボットのようだ。
KICK B〇CKの米津さんみたいな腕に握られているのは乾いた血がこびりついた禍々しい大斧。
特徴的な二本角の牛頭。
その目は真っ赤に血走っていて「草食動物のお顔をしていますがあなた絶対に肉食系ですよね?」と、思わず罵ってしまいそうになるくらい凶悪な形相をしていた。
あと、このミノタウルスさん何故か【おこ】らしい。
あなたのひざが恐怖のあまりご機嫌なエイトビートを刻んでいる。
国内トップ層の有名探索者の動画配信などで何度か目にすることのあった魔物だが、あなたが直に見たのはこれが初めてだ。
一人では絶対に勝てない逃げることも容易ではない相手だとすぐ理解できた。
「っ!!」
心折れそうになりながらも決断は早かった。
人間性能が優れていると決して言えないあなただが土壇場の胆力だけは並外れていた。
以前勤めていた会社の馬鹿上司のやらかしフォローのため、衆人環視の前でジャンピング土下座を決めたことがあるくらいには覚悟がガン決まっているのだ。
【シスター】を装備する。
どのような効果のある装備品かは分からない。
しかし、ミノタウルスに対して有効な
あなたは、わずかな希望にかけることにした。
【シスター】の装着を試みた。
モザイクじみた不可思議な魔力光があなたを包む。
体から、バキボキゴキンゴキュンという『あれ大丈夫かな後遺症が残らないかしら』と、怖気るような音が鳴るが痛みなどは別段感じない。
脳裏に響く
クラスチェンジ(不可逆の変化)
形成されたのはウィンプルと黒衣、盾や槌といった各種基本武装。
ちょっとえっちいラノベやソーシャルゲームで出てきそうなデザインだが紛れもなく神に仕える者の装い。
体を覆う光が収まる(その間0.05秒)
刮目せよ!新たな英雄の誕生を!!
おめでとう。
貴女は無事、
レア職【シスター】
シスターの戦い方は貴女の
戦いを前にしても恐怖は感じない。
いつもとは違う、まるで静かな湖畔のような落ち着きよう。
あるいは体だけではなく精神にも何らかのステータス上昇効果があったのかもしれない。
「願わくばこの者にやすらぎあらんことを」
左手に持つはラウンドシールド。
右手に握るはバトルメイス。
貴女の口から出たのは自らを鼓舞するための口汚い罵倒ではなく、これから【
普段のあなたなら違和感をおぼえただろう。
しかし目の前の試練に意識の全てを奪われている貴女は気がつかない。
『ぶほおおおおおおおおおおおおおおっ!!!』
吠えるミノタウルスが大斧を米津さんアームで振り上げ、貴女目掛けてドスドス地響きあげ突進してくる。
「神よ、我が戦いをご照覧あれ! りゃあああああああ!!」
貴女はラウンドシールドを
ミノタウルスを討伐した。
結果だけ言うと、ミノタウルスに対して有用といえる攻撃スキルを【シスター】となった貴女は持ち得ていなかった。
なので、ミノタウルスの分厚い頭蓋骨をバトルメイスによる執拗な殴打によって破壊した。
素晴らしい。
暴力はすべてを解決するといわんばかりの
それはそうとミノタウルスの素材が落ちていた。
貴女が装備した【シスター】の力(物理)がなければ入手できなかった戦利品だ。
回収して空間収納箱(インベントリ)に収めると、貴女はジャイアントキリングの興奮収まらぬままダンジョンからでることにした。
階段を登ってしばらく歩くとダンジョンの出入り口が見えた。
ここで問題がひとつ。
戦闘の緊張……興奮状態が持続していたので、いままで気がつかなかったのだが、貴女の体は中年男性の熟れたワガママボディ(肥満)ではなく、乙女のワガママボディ(ぴちぴちやで)になっていた。
つまりあなたは貴女になっていたのだ!!
あせった貴女は【シスター】を外そうと試みた。
【その装備を外すなんてとんでもない!!】
どうやら【シスター】はのろ……いや、祝福された取り外し不可能な装備品のようだった。
しばらくショックで放心していた貴女だが、
ダンジョン
出入り口の魔法陣ゲートをくぐって長い廊下を抜けると、いつもの管理局のロビーが広がっていた。
休憩スペースに目をむけると探索帰りらしき疲れた表情の男たち(たまに女もいるが圧倒的に少数)がタバコを吸ったり缶コーヒーを飲んだりチーカマ食べてたりとダラダラしていた。
見慣れたいつもの光景だが、今の貴女には別の風景に思えた。
視線の位置がいつもよりやや低い。
視界が鮮明でクリア。
肩や腰周りが、体が軽い。
そして何より胸が重い。
いや、重さは感じないのだが存在感がすごい。
足元が見えない。
びっくりするくらいのサイズで片パイ5㎏はありそうだ。
日常生活に支障をきたしそうな圧倒的乳肉なのに今まで何の違和感も覚えていなかったことが恐ろしい。
「…………」
貴女はウィンプル(シスターキャップ)を深く被り直した。
周囲の人間がちらちらと自分を見ていることにようやく気がついたのだ。
それはそう、と貴女は思った。
コスプレじみたシスターが突然現れたら誰だって気になる。
それが、不細工な見た目となればなおさら……
貴女はそんな誤解をしていた。
以前の、あなたであった時の顔はブサメン寄りであり、また前職のストレスで過食気味だったため肥満体型でもあった。
要するに容姿で褒められたという経験が人生であまりない。
そのため貴女の自身に対しての認識は【不細工で肥満体型なうえ女装までしているどうしようもない
現在の貴女の容姿は清楚な顔立ちなのにデカパイとデカケツ完備な【
また、美人特有の輪郭の冷たさというものがなく、顔の作り自体が表情を作らなくても
言うならば、今の貴女は一般人とは明らかに立つステージのちがう人類トップクラスの美女になっていた。
そんな普段お目にかかることが滅多にない
貴女は受付カウンターへ行くことにした。
足取りが、自然と淑女然とした美しい歩き方になってしまうのは【シスター】になった影響だろうか。
喋り方も強制的に変わるしなんか怖いなぁと貴女は思った。
人がまばらに並ぶ複数のカウンターを見て少し迷い、若い男性職員のいる受付に進んだ。
そこが空いていたのもあるが、あなたのときから若い受付嬢のいるカウンターはなるべく避けていた。
理由は
誰も気にしませんよそんなこと。
あなたはそういうノミメンタルだから四十過ぎていまだに童貞……いえ、息子さんとサヨナラバイバイしてしますから今さらの話ですね。
「あの……」
おずおずと声をかけるとカウンター越しの男性職員が「はい」と顔をあげ、貴女を見た途端に「えっ?」という表情をする。
遠慮がちに顔を伏せていた貴女は気がつかなかったが、職員のそれは何気なく入った汚いラーメン屋で、隣に座っていたのが明らかに場違いな
「申し訳ありませんこのような恰好で……実は困ったことになってまして……」
「え、ええ……どうされましたか?」
職員の促しに、貴女は自分の現状を、ダンジョンでおきたことを話すことにした。
つっかえつっかえの、うまくない説明だったが職員は真剣な表情で聞いてくれた。
話の流れで、貴方は角や毛皮といったミノタウルス素材をインベントリからだしてカウンターにドンっとおいた。
ほのかに魔力光が残るそれらは、ドロップしてからそれほど時間が経過してないことを示している。
武器や防具、様々な用途に使えるレア素材……貴女はあとで知らされたが総額300万円は軽く超える希少品であった。
職員の目と口が驚きで大きく開かれる。
「え、ええっと、とりあえず照合をしますので探索者カードをお預かりしてもよろしいですか」
言われた通りにインベントリにしまっておいた身分証にもなる探索者カードを取りだす。
差しだす前に何となく確認して貴女は「ひぃ」と白目をむいた。
なぜならば……
カードの写真と名前が
写真……Wピースしながら上品に微笑む清楚な美女。
職業……【シスター】
名前……メアリー・ダイナマイト鈴木。
いや、ダイナマイト鈴木ってだれやねん!!
「いえ、ダイナマイト鈴木ってどなたですか!!」
貴女は心の中で叫んだ。
声にもだして叫んでいた。
そしてポカンっとしている職員に慌てて探索者カードの
職員は困惑しながらもカードを受け取ると機械に通し、同時にマニュアルらしきものを何冊か取り出すと、貴女に確認するかのようにいくつかの質問をしてきた。
「すいません、ちょっと待っててもらえますか。上の者に相談をしてきますので」
その結果、自分ひとりでは手に負えないと判断した職員は奥の部屋に入っていった。
一人になった貴女はカウンターの端に鏡があったので見ることにした。
立ち姿が映る。
コスプレじみたシスター衣装。
それを纏うのは間違いなく探索者カードに写っていた美女だった。
あなたの面影が何も残っていない貴女であった。
女性職員や探索者たちの視線にさらされながらも待っていると、先ほどの男性職員が汗を拭きながら速足で戻ってきた。
そして貴女は奥の部屋に案内される。
こじんまりとした室内には事務机とソファーとローテーブルが置かれ、そこには眼鏡をかけた初老の男性が立っていた。
「初めまして。管理局の佐々木です。この日光ダンジョンで支部長をさせてもらってます」
「佐々木……支部長さんですか」
「佐々木で結構ですよ。どうやら貴女に起こった出来事は管理局として把握しておかなければならない案件のようですので」
そう言って佐々木支部長は気さくに笑うとソファーに座るように勧めてくれた。
貴女が会釈をしてからソファーに座ると、対面のソファーに佐々木支部長と職員が腰を下ろす。
「まず確認ですが【シスター】という装備品を装備してから外見、性別や氏名も変化した……ということで間違いありませんか?」
「はい、どうやらそのようです」
「ミノタウルスを単独で討伐したとのことですが……」
佐々木支部長がそう言いながら職員に顔を向ける。
「ええ、ミノタウルスのドロップ品は自分が確認してます」
職員は佐々木支部長にうなずき返した。
「まれに見る特殊なケースかもしれません」
そう前置きして話を始めた。
「あなたの装備した【シスター】……まだ断言はできませんが、おそらくこれは『クラス限定アイテム』だと思われます」
「クラス限定アイテム?」
「はい。装備した者を特定のクラスに固定してしまうレアアイテムです。通常の武器防具とは異なり装備者の能力値だけでなく肉体、そして名前や個人情報まで書き換えてしまう極めて危険なものです」
最悪な内容に貴女は「ええぇ……」と声をだす。
「……【シスター】を解除する方法はありますか?」
「残念ながらクラス限定アイテムを使用した者が解除されたという報告は現状ではありませんね。ああ、都市伝説に近いものであれば、ダンジョンにはあらゆる病を治し呪いを解除することのできる
「……」
「仮に存在したとしても……まあ、分かるでしょう?」
「はい、それほどの
貴女の言葉に佐々木支部長は頷いた。
「それと【シスター】を装備したことに関して注意点がいくつかあります」
「え?」
「【シスター】というクラスですが過去に例がないんですよ。少なくとも日本国内では」
「それは……」
「どういう性質を持ったクラスなのか。どれほどのポテンシャルがあるのかまったくの不明ということ。そして最も重要なのが……貴女が今後も探索者として活動する場合です」
「……?」
「貴女のお話を信じるならミノタウルスを単独で倒せるレベルということですよね。これは個人のもつ戦闘力としては破格で十分に
貴女は背筋に冷たいものが流れるのを感じた。
「国家公認の探索者としての資格を取得してもらう必要があるかもしれません」
「こっ、国家公認ですか?」
「そうですね。簡単に言えば日本政府の庇護のもとにある特別枠の探索者です。色々な権利や優遇措置がありますが同時に強い義務も発生します」
「具体的にはどのような?」
「例えばダンジョン災害などの緊急時での救助義務。あとは危険なモンスター討伐などの無条件参加とか」
つまり強制的に最前線送りにされることもあるということだ。
「まあ、これはあくまで国からのお願いという形になりますし、いくつかの条件付きでこれらを断ることも可能です」
その条件とは……と、貴女は聞く気にもなれなかった。
「とにかく【シスター】に対しての最終的な判断はもう少し時間を置いてからになります」
「ええ、はい……」
「それとよろしければ今夜からこちらで宿泊施設をご用意できますが」
「ええっと?」
「あまりにも特殊な状況ですので、貴女の体に何かあったときのために直ぐ駆け付けられる管理局の者が近くにいたほうがよいかと……」
「……」
「もちろん強制はしません。宿泊費は
貴女は深くため息をつくしかなかった。
その日の夜。
用意してもらった管理局の宿舎で貴女は備え付けのテレビをぼんやりと眺めていた。
ビジネスホテルのような狭い部屋だが居心地は悪くない。
少なくとも
流れるニュースは世界情勢から国内の事件や事故、有名人の結婚浮気あれこれや天気予報と昔から代り映えのしない内容……そしてこの最近で日常と化して来たダンジョンのこと。
「ふぅ」
この世界にダンジョンが出現してから二十年ほど。
モンスター。
罠に宝箱。
ドロップ品。
ダンジョンを探索することによって得られるスキル。
まるでビデオゲームがそのままリアルになってしまったような有様で、当時は世界が終わるかのような大騒ぎであったのを貴女は覚えている。
そんな騒動も沈静化し、今では探索者という職業も一般化されつつあったが……まさか、あなた自身がこんなトンチキな目に遭うとは思ってもみなかった。
「これから一体どうなるんでしょうか……」
ぽつりと呟いた貴女の声はママ味を感じさせる聖職者らしい(?)優しい声色である。
「明日は身体検査でしたね」
貴女がベッドに寝転ぶと金色の長い髪が滝のように広がり、用意された浴衣の裾がぱらりとめくれた。
白くて細いが成人女性らしい肉感的な脚。
貴女は右のつま先を天井向けて伸ばした。
かつての自分の太いだけの小汚い太ももとは比べものにならない美しい形と艶やかさだ。
「なれませんねぇ……」
布団を被ると今日一日の疲れがどっと押し寄せてきた。
長い一日だった。
本当に長い一日だった。
明日はもっと長い一日になるのだろうなと予感しながら貴女は眠りについた。
翌朝、貴女は息苦しさと共に自分の
なら後書きはピロートークと言っても過言ではないのでは?