ブーメラン・バタフライ   作:ろくさん

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第17話:大衆のヒステリー

 

ハワイ諸島オアフ島沖で繰り広げられた海パン連合軍と『黒の行進』による大規模な海戦は、人類が持つ最新鋭の火力がいかに圧倒的で、かつ無慈悲なものであるかを世界中に見せつける結果となった。

最前線部隊長であった元プロサーファーのタクヤが、攻撃中止を叫んでドミニク最高司令官の命令に背き、艦橋で憲兵隊に拘束されたという不都合な事実は、軍の情報統制部門によって即座に揉み消された。代わりに世界中のニュースネットワークへと配信されたのは、八十隻を超える連合軍の大艦隊が一斉に砲門を開き、空中で炸裂した高密度フレシェット弾の金属矢の豪雨と散弾魚雷によって、海面を埋め尽くしていた一万五千体の漆黒のブーメランパンツの男たちが次々とエメラルドグリーンの飛沫へと還っていく、一方的な殲滅戦の映像であった。

 

画面の中で、タングステン製の無数の金属矢に分厚い胸板や肩を貫かれ、片腕や片脚を吹き飛ばされながらも、男たちは誰一人として軍艦へ向かって反撃しようとはしなかった。

それどころか、傷ついて泳ぐ速度が落ちた仲間を庇うようにして前列の男たちが肉の盾となり、生き残った者たちもまた、彫りの深い顔に嵌め込まれた黒い瞳から大粒の涙をポロポロと零しながら、ただひたすらに美しいバタフライのフォームを崩さずに前へと泳ぎ続けていたのである。

 

もし人類が少しでも冷静な理性を残していたならば、その映像を見た瞬間に、自分たちが決して撃ってはならない聖なる何かに銃口を向けているのだと気づき、タクヤと同じように銃を下ろしていたはずだった。

しかし、現実に起きた世論の反応は、タクヤが艦橋で命を懸けて訴えた願いとは、完全に正反対の方向へと暴走を開始した。

 

ハワイ沖海戦から二日後の夜。

日本の首都、東京の渋谷スクランブル交差点は、熱帯夜のむせ返るような湿気と、それ以上に異常な群衆の熱気によって巨大な圧力鍋のように沸騰していた。

ハチ公前広場からセンター街の入り口にかけて、数千人もの若者やサラリーマン、さらには休業に追い込まれたマリンレジャー業界の関係者たちが詰めかけ、ビル壁面の大型街頭ビジョンを見上げていた。集まった人々の多くは、街中であるにもかかわらず、色鮮やかなハイビスカス柄のサーフパンツや、胸元に過剰なフリルをあしらったビキニ、あるいはフード付きの長袖ラッシュガードを洋服の上から誇示するように着用している。それは海パン連合軍が提唱する「自分の好きなデザインの水着を着る自由」への連帯を示す、世界的な抗議デモのドレスコードであった。

 

大型ビジョンの画面では、民放キー局の緊急報道特別番組が生放送されていた。

スタジオの派手なセットの中央に座る看板キャスターの男が、深刻そうに眉根を寄せながら、背後のモニターに映し出されたハワイ沖での戦闘映像を指示棒で指し示した。そこには、機関砲の弾幕を浴びて左肩から先を失い、青い海水を噴き出させながらも、涙に濡れた瞳でカメラのレンズをじっと見つめながらバタフライで迫ってくる一人のブーメランパンツの男の姿が、スローモーションで繰り返し再生されていた。

 

「皆様、改めてこの映像をご覧ください。ハワイ沖の防衛線において、我が海パン連合軍の勇敢な兵士たちが撮影した映像です。一見すると、彼らが無抵抗で涙を流しているように見えるため、一部では彼らに対する同情論や、攻撃の行き過ぎを指摘する声も上がっていました。ですが、スタジオにお越しいただいた犯罪心理学および大衆行動学の権威、オガワ教授によれば、これこそが彼らの最も恐ろしい戦術なのだそうです」

 

キャスターに水を向けられた白髪の老教授は、重々しく頷くと、銀縁眼鏡の奥の目を細めてマイクに向かった。

 

「ええ、その通りです。いいですか、皆さん。もし暴漢がナイフを持って怒鳴りながら襲いかかってきたら、人間は恐怖を感じつつも、正当防衛として迷わず戦うことができます。ところが、この黒いブーメランパンツの集団はどうでしょう。彼らは身長百九十センチの圧倒的な筋肉の塊でありながら、一言も言葉を発さず、こちらが銃で撃っても痛がる声すら上げません。それどころか、ボロボロに傷ついた身体で、まるでこちらが世界で一番残酷な悪人であるかのような悲しげな目をして、大粒の涙を流しながらマッハの速度で迫ってくるのです」

 

老教授はテーブルを拳で軽く叩き、カメラの向こうの視聴者へと語りかけた。

 

「これは明確な『精神的テロリズム』です。人間に強烈な罪悪感と気味の悪さを植え付け、引き金を引く指を鈍らせるための、極めて高度で悪質な心理戦に他なりません。実際、前線のタクヤ元部隊長は、この異常な光景による精神汚染に耐えきれず、錯乱して命令違反を犯してしまいました。彼らのあの涙に騙されてはいけません。あれは人間の心を内側から破壊するための、究極の不気味さ、すなわち『暴力的無抵抗』という名の凶器なのです」

 

老教授の言葉が終わるや否や、スタジオのコメンテーター席に座っていたタレントや若手起業家たちが、我が意を得たりとばかりに次々と口を開いた。

 

「本当にそうですよ! 私、あの映像を見てから気持ち悪くて夜も眠れないんです。なんでこっちはただ可愛いビキニを着て海で遊びたいだけなのに、あんな黒いパンツ一丁のマッチョたちに泣きながら追いかけ回されなきゃいけないんですか! 意味が分からなすぎて、普通のホラー映画よりよっぽど怖いですよ!」

 

「だいたい、人がせっかく高い金を出して買ったブランド物のサーフパンツやラッシュガードを勝手に引き裂いておいて、自分たちが被害者みたいな顔をして泣くなんて、これ以上の傲慢はありませんよ。あいつらのせいで今年の夏のイベントは全部中止、海の家もホテルも大赤字です。俺たちの楽しい夏休みとプライドを返せって言いたいですね!」

 

テレビ画面から溢れ出すその言葉は、スクランブル交差点に集まっていた群衆の胸の奥にあった「後ろめたさ」を、一瞬にして「正義の怒り」へと変換させる魔法の免罪符となった。

 

人間という生き物は、自分が加害者であり、自分が間違っているかもしれないという事実を認めることを何よりも恐れる。

あの日、ビーチで水着を引き裂かれ、他人の前で弛んだ腹や貧相な胸、あるいはシリコンのパッドで偽装していた自分の本当の姿を晒されてしまった人々にとって、傷ついたのは肉体ではなく、肥大化した「自尊心」であった。そして、その原因を作った男たちが、あろうことか自分たちよりも遥かに鍛え上げられた美しい肉体を持ち、銃で撃たれてもなお気高く涙を流しているという事実は、大衆の劣等感と羞恥心を極限まで逆撫でしていたのである。

彼らが神聖な存在であっては困るのだ。彼らが正しくて、自分たちが間違っているなどということは、絶対にあってはならないのだ。だからこそ大衆は、あの胸を締め付けるような悲哀の涙を「自分たちを精神的に追い詰めるための気味の悪いテロ行為」として定義し直すことで、自らの良心を完全に麻痺させたのである。

 

交差点の中央で、拡声器を持ったサーフパンツ姿の若い男が、街頭ビジョンを指差して絶叫した。

 

「聞いたかみんな! あいつらの涙は俺たちを騙すための罠だ! 無抵抗なふりをして、俺たちの心と経済を壊しに来てるんだぞ!」

 

「そうだ! 気味の悪いブーメランパンツどもを擁護する奴は、人間の敵だ!」

 

「海を返せ! ビキニを返せ! 一匹残らず駆除しろ!」

 

群衆の間から、地鳴りのようなシュプレヒコールが巻き起こった。

人々は手にしたスマートフォンを一斉に掲げ、画面をタップし始めた。SNSのトレンドランキングのトップには、数時間前から世界共通のハッシュタグである『#KillAllBoomerangs(ブーメランを皆殺しにしろ)』という過激な言葉が君臨しており、毎秒数十万件という天文学的なスピードで憎悪の書き込みが積み上がっていく。

 

そこにはもはや、かつてネット上にあった「水着が裂かれてラッキー」といった呑気なジョークや、男たちの正体を冷静に考察しようとする知性の欠片も残されてはいなかった。

ある者は、過去の歴史写真からブーメランパンツを穿いた競泳選手の画像を掘り起こしては「悪魔の崇拝者」と罵倒し、またある者は、街のスポーツ用品店の水着売り場に押し入って、棚に残っていた数少ない男性用の競泳用ブーメランパンツを路上へ引きずり出し、ガソリンをかけて燃やす動画を誇らしげにアップロードした。その動画には数百万もの「いいね」が付き、コメント欄は「よくやった」「この世からあの三角形の黒い布を絶滅させろ」という狂信的な称賛で埋め尽くされた。

 

ヒステリーの炎は、東京だけでなく、ニューヨーク、ロンドン、パリ、シドニーといった世界中の大都市へと瞬く間に燃え広がっていた。

ロンドンのトラファルガー広場では、数万人の市民が自分の古いブーメランパンツやブリーフ型の下着を持ち寄って巨大なキャンプファイヤーのように燃やし、その周りでカラフルなトランクスやフリル付きのワンピース水着を着て踊り狂うという異様な集会が開かれていた。マイアミの海岸通りでは、銃を持った自警団の男たちがピックアップトラックの荷台に乗り込み、「もしビーチでブーメランパンツを穿いている人間を見つけたら、怪物の仲間と見なして私刑にする」と叫びながらパトロールを行っていた。人間の羞恥心と、娯楽を奪われたフラストレーションが、集団心理の中で発酵し、世界全体を覆う巨大な狂気の渦へと変貌していたのである。

 

そして、この大衆のヒステリーを誰よりも敏感に嗅ぎ取り、自らの権力維持のために利用しようと飛びついたのが、各国の政治家たちであった。

 

アメリカ合衆国、ワシントンD.C.の連邦議会議事堂前。

来月に中間選挙を控えた与党の有力上院議員であるミラーは、星条旗をバックにした特設演台の上に立ち、集まった数万人の支持者と無数の報道陣のカメラに向かって、顔を真っ赤にしながら拳を振り上げていた。見栄えを気にする彼は、高級なオーダースーツのジャケットの上から、わざわざ星条旗の柄がプリントされた派手なサーフパンツを穿くという滑稽なパフォーマンスを行っていた。

 

「親愛なるアメリカ国民の諸君! 我々は今、人類の歴史上、最も卑劣で最も気味の悪い侵略者に直面している!」

 

ミラー議員がマイクに向かって吠えると、広場を埋め尽くした群衆から割れんばかりの歓声が上がった。議員は満足そうに胸を張り、さらに声を張り上げた。

 

「連中は、我々が神から与えられた美しいビーチを奪い、偉大なるアパレル産業と観光業から数百万人の雇用を奪い去った! それだけではない、連中はあの不気味な黒いブーメランパンツと、わざとらしい涙によって、我々の子供たちの健全な精神を汚染しようとしているのだ! 昨日の世論調査を見たまえ。国民の八十八パーセントが、あの不快な肉の塊どもの『完全なる物理的殲滅』を強く望んでいる!」

 

ミラー議員は演台をバンと叩き、テレビカメラのレンズを真っ直ぐに指差した。

 

「私は約束する! もし諸君が私に再び議席を与えてくれるなら、私は国防総省と海パン連合軍のドミニク最高司令官に対し、現在保有するすべての通常兵器、いや、必要とあらば『それ以上の究極の兵器』の使用許可を含めた、無制限の軍事予算を即座に承認させることを誓う! 地球の海から、あの一本の黒い布切れを穿いた怪物を一匹残らず蒸発させ、我々の誇り高きサーフパンツとビキニの夏を取り戻すのだ!」

 

「USA! USA! キル・オール・ブーメランズ!」

 

議事堂前の広場が、熱狂的なコールで揺れ動いた。

同じような光景は、世界中の議会や首相官邸でも繰り広げられていた。当初は「人を殺さない相手を軍隊で虐殺するのは人道的に問題があるのではないか」と慎重な姿勢を見せていたリベラル派の政治家たちも、支持率が急落し、大衆から「ブーメラン擁護派の売国奴」とレッテルを貼られることを極度に恐れ、一夜にして手のひらを返したように強硬な殲滅論者へと転向していった。民主主義というシステムが、大衆の恐怖とプライドの暴走によって、自ら破滅のアクセルを床まで踏み抜いた瞬間であった。

 

その世界中の狂騒を、ニューヨークの国連本部地下にある海パン連合軍・最高司令部の薄暗い執務室から、冷ややかな微笑みを浮かべて眺めている女がいた。

ドミニク・ハワード最高司令官である。

壁一面に並んだ数十台のモニターには、渋谷のデモ行進、ロンドンの水着焼き討ち集会、そしてワシントンでのミラー議員の演説が同時に映し出され、画面の隅では『#KillAllBoomerangs』のツイート数が毎秒更新され続けている。

 

ドミニクは、首元から足首までを一ミリも隙間なく覆う漆黒のウェットスーツ素材の軍服に身を包み、黒い革手袋をはめた手で温かい紅茶のカップをゆっくりと傾けていた。ボトックスで張り詰めた彼女の能面のような顔には、自分の描いたシナリオ通りに世界が踊っていることへの、深い愉悦の色が浮かんでいる。

 

「素晴らしいわ。本当に、人間という生き物は単純で扱いやすいわね」

 

ドミニクはモニターの中で拳を振り上げている群衆を見下ろし、氷のように冷たい声で独り言ちた。

 

「自分の醜い体型や見栄を隠すための布切れを奪われただけで、ここまでヒステリックに狂い咲くなんて。あの馬鹿なサーファーのタクヤは、兵士たちが動揺しているなどと言っていたけれど、大衆の憎悪という名の追い風の前では、現場の兵士のちっぽけな良心など木の葉のように吹き飛んでしまうわ」

 

そこへ、執務室の扉がノックされ、諜報部門の統括責任者である黒スーツの男が、一枚の赤いファイルを手にして静かに入ってきた。

 

「ドミニク司令官。ハワイ沖での戦闘以降、生き残った個体の動向について最新の衛星解析結果が出ました。現在、地球上の海に残存している総数は、およそ三万二千体。連中はこれまでの分散行動をやめ、傷ついた個体を庇い合うようにして、ある一つの海域へ向かって世界中から集結を始めています」

 

「一つの海域ですって? どこよ」

 

ドミニクが灰色の瞳を鋭く光らせて尋ねると、黒スーツの男はデスクのホログラムマップを操作し、南太平洋の中央部、どの大陸からも最も離れた絶海の孤立点に赤いマーカーを表示させた。

 

「中部太平洋の深海域、通称『ポイント・ネモ』付近です。周囲数千キロにわたって島一つ存在しない、地球上で最も人間から遠い海域に、全残存個体が向かっています。おそらく、これ以上の犠牲を避けるため、一度深海へ潜って態勢を立て直すつもりではないかと」

 

ポイント・ネモ。その言葉を聞いた瞬間、ドミニクの唇の端が、耳元まで裂けるかのような獰猛な角度で吊り上がった。

一匹ずつ世界中のビーチでモグラ叩きのように撃ち殺していく手間が省けるばかりか、周囲に民間人も都市も存在しない絶海のど真ん中に、すべての敵が自ら集まってくれるというのだ。もしそこで、文字通り海ごと彼らを蒸発させるような「究極の火力」を叩き込めば、この戦争は一撃で終わる。そして、その究極の兵器を使用するための最大のハードルであった「国際世論の反発」は、今まさにモニターの向こうで狂乱している大衆自身の『皆殺しにしろ』という大合唱によって、完全にクリアされようとしていた。

 

「最高の舞台が整ったわね。神様も、私の美しい市場と秩序の味方をしているようだわ」

 

ドミニクが革手袋の指先を組んで満足そうに頷いた時、諜報部長の男が少し言いにくそうに口を開いた。

 

「ですが司令官、その世論に冷や水を浴びせかねない厄介な動きが一つ、極東の日本で検知されました。本日午後、東京で開催される国際海洋学会の緊急シンポジウムにおいて、東都海洋大学のシバタという准教授が、あの個体群の残留物分析データと歴史的考察を発表しようとしています」

 

男がタブレット端末を操作すると、画面に大学の地下研究室を盗撮した監視映像と、ハッキングによって傍受されたシバタの発表原稿の概要が映し出された。

そこには、十五年モノのヨレヨレのブーメランパンツ一丁で引き締まった筋肉を晒すシバタの写真とともに、『男たちは純粋な太古の海水で構成された地球の意志(免疫反応)である』『攻撃を即時中止し、全人類が虚飾の水着を捨ててブーメランパンツに戻れば彼らは鎮まる』という、あまりにも直球で、かつ科学的な裏付けに満ちた結論が記されていた。

 

それを読んだ瞬間、ドミニクの手の中にあったティーカップが、パキィッ! と音を立てて握り潰された。

熱い紅茶と陶器の破片が黒い革手袋の上から滴り落ちるのも構わず、ドミニクは能面のような顔を激しい怒りで真っ赤に染め上げ、モニターのシバタの写真を睨みつけた。

 

「地球の意志ですって……!? 全人類がブーメランパンツに戻れば鎮まるですって……!? ふざけるんじゃないわよ、この薄汚い変態学者が!!」

 

ドミニクの金切り声が執務室に響き渡った。

もしこんな科学的データが世間に公表され、「高いお金を出して水着を買わなくても、全員が安いブーメランパンツ一丁になれば平和が戻る」などと大衆が気づいてしまったらどうなるか。自分を支援している数兆ドル規模のアパレル帝国は瞬時に崩壊し、軍需産業からの莫大なキックバックも消え失せ、何よりドミニク自身が最も忌み嫌う「肌を露出する野蛮な世界」が現実のものとなってしまうのだ。

 

「絶対に、絶対にこの男にマイクを握らせるんじゃないわよ! 今すぐ日本の極東基地から特殊部隊を向かわせなさい! 罪状は『エコテロリストとの内通および国家反逆罪』よ! シンポジウムの会場ごと封鎖してこのシバタという男を逮捕し、研究室のパソコンから紙切れ一枚に至るまで、すべてのデータを物理的に抹殺しなさい!!」

 

「は、はいっ! ただちに極東支部の憲兵隊を出動させます!」

 

諜報部長が慌てて敬礼し、部屋を飛び出していく。

一人残されたドミニクは、荒い息を吐きながら、自分の首元を覆うハイネックのラッシュガードを両手で強く抱きしめた。

大衆のヒステリーという巨大な暴走機関車は、もはや真実という名のブレーキすらも力づくで破壊しながら、太平洋の真ん中で待つ最悪の決断へと向かって、真っ直ぐに突き進んでいた。

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