そういえばジンも銀髪だったなって 作:イブキには幸せになってほしいんだ
闇に溶けるような素早さで敵のアジトから脱出し、ジンが辿り着いたのは、組織の人間すら一握りしか知らないセーフハウスだった。
静まり返った部屋のベッドに、背負ってきた小さな体を静かに横たえる。
イブキは金髪
その幼い頬には、あの男につけられた痛々しい赤紫色の打撲痕が残っている。
「……」
ジンは無言のまま黒いコートを脱ぎ捨て、救急箱を引き寄せた。数日間に及ぶ拷問でジン自身の体も傷だらけだったが、自分の手当てなど後回しだ。
冷えたタオルを固く絞り、イブキの腫れた頬をそっと冷やす。
(人を傷つけたくない、か……)
黒の組織という血と硝煙の世界で生きてきたジンにとって、目の前の少女が示した「無償の優しさ」はあまりにも異質で、そして酷く不器用なものだった。
自分を助けるために殴られ、極限の恐怖の中でなお「こんなところにいちゃダメだよ」と笑ってみせたのだ。
ジンは消毒液を浸したガーゼで、イブキの小さな傷口を丁寧に拭っていく。
大雑把で粗暴な普段の言動からは想像もつかないほど、その指先の手つきは繊細で、どこか優しい。
手当てを終えると、ジンは部屋から携帯を取り出し、手慣れた手つきで番号を打った。
数回のコール音の後、焦りを含んだ野太い声がスピーカー越しに響く。
『兄貴! 兄貴ですか!? 無事だったんすね……! 連絡が取れなくなってからずっと探して——』
「騒ぐな、ウォッカ」
ジンの低い声が一瞬でウォッカの動揺を静めさせた。
『す、すみません…⋯、今すぐ迎えに行きます!』
「いや、俺はすでにセーフハウスだ。」
そう告げながら、ジンはベッド
で眠るイブキの毛布を首元まで掛け直してやった。
「ウォッカ、仕事だ。俺を拐ったネズミ共の拠点をすべて割り出せ。……それと、あいつらが関わっている取引ルート、資金源、関連する人間を今夜中に洗いだせ」
『は、はい! すぐに手配します! ……しかし兄貴、奴らをどうするおつもりで?』
ジンはゆっくりと煙草に火を点け、紫煙を天井へとくゆらせた。
その緑の瞳に、氷のように冷たく、かつ猛火のように荒々しい殺意が宿る。
いつもなら淡々と処理するジンの声に、絶対的な死を告げる圧力が混ざり合っていた。
「決まっている。——俺の縄張りに泥足を踏み入れ、愚かな爪を立てた豚どもだ。……舐めた真似をしてくれた奴らには、死すら生ぬるい最上の報いをくれてやらなくちゃなァ」
受話器の向こうでウォッカが息をのむ気配がした。
「一匹残らず刈り取れ。……跡形もなく消すぞ」
「わかりやした、兄貴! 今すぐ実行します!」
通話を切り、携帯をポケットに放り込む。
ジンは煙草の煙を吐き出しながら、ゆっくりとベッド脇の椅子に腰掛けた。
ふと見下ろすと、煙草の臭いに反応したのか、イブキの長いまつ毛がピクリと動いた。
「……う、ん……」
小さなうめき声とともに、イブキがゆっくりと瞳を開ける。まだ意識がはっきりしないのか、パチパチと大きな目を瞬かせながら見慣れない天井を見つめ、それから隣に座るジンの姿を捉えた。
「……あ……おじさん……?」
「おじさんではない。ジンだ」
短く訂正しながらも、ジンは吸いかけの煙草を灰皿に押し当てて消した。
子供の前で煙を吸うのを、ごく自然に避けたのだ。
イブキは自分の頬に貼られた湿布と絆創膏に触れ、それからジンが無事に生きていることを確認すると、ふわっと顔をほころばせた。
「よかったぁ……無事だったんだね。イブキ、おじさん……ジンさんが助かって、すごく嬉しい……」
拷問の恐怖も、自分が受けた痛みもすべて忘れたかのように、ただジンの無事を喜ぶ少女。
ジンは一瞬だけ苦笑するような気配を見せると、大きな手でイブキの頭をぽんぽんと乱暴かつ優しく撫でまわした。
「馬鹿が。自分の心配をしろ」
「えへへ……痛いけど、へいきだよ」
そう言って笑うイブキを前に、ジンは静かに心の中で誓うのだった。この幼い少女に傷をつけた愚か者たちに、今夜、組織の恐怖のすべてを叩き込んでやると。
続きほしい?(書くと入ってない)