呪われしヒーローに花束を   作:しらたまあんみつ

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第三話 三人寄れば任務は回る

 

 

 

 

「で、俺らどこ連れてかれんの?」

ジャズが陽気に流れる車内で、燦は後部座席を振り返った。右から家入、夏油、五条がぎゅうぎゅうに座っている。

「呪霊の湧く廃ホテルだよ。経営破綻した後、従業員が屋上から次々飛び降りてね。ま、そこまで遠くないから安心して」

「集団自殺、というと…呪霊の数が多そうですね」

「まあね。でも、この任務の肝はそこじゃない」

 

燦は前に向き直って、二本の指を立てた。

「このホテル、支店があってね。そっちも同じように潰れて、同じように呪霊が湧いている。つまり、目的地が二つあるってこと」

「はぁ?二手に分かれるってことかよ」

「その場合、家入さんをどちらに配置するのかが問題だね」

「そもそも私も行かなきゃいけないんすか」

「わたし聖徳太子じゃないからね?」

こほんと咳払いして、順に燦は説明し始める。

 

「まず、別行動は禁止。不慮の事故はしょうがないけど」

「効率わっる」

家入が口を尖らせた。車内のためタバコは取り上げられている。

「硝ちゃんの言うとおり、これじゃあ効率悪いよね。その上で、できるだけ短時間で任務を終わらせること」

「つまり、結束して任務に当たれ、ということですか?」

 

まあ、と燦は意味ありげに笑った。

「それも一つの答えでもある」

「やらせたいことがあんならはっきり言えよ」

「そしたら意味ないでしょ?…ヒントを出すなら、「自分のできないことを、仲間に埋めてもらう」って考えると良いかもね」

「できないことない人はどうすれば良いんですかー?」

五条がニヤニヤと問いかける。

 

「弱点がない人はいないと思うけどね。悟くんはそれを今まで意識しなくても済んでいただけじゃない?」

「その″悟くん″呼びやめろ」

「いや、「傑くん」と「硝ちゃん」でどっちも名前呼びしてるのに、一人だけ苗字呼びはハブってるみたいだなって」

「その呼び方に対するこだわりはなんなんだよマジで」

 

 

 

 

一悶着、いやふた悶着くらいはあったかもしれないが、一行は無事に目的地へ着いた。

「作戦は決まってる?」

「作戦も何も、ただ祓うだけですよ」

「言っとくけど、もう一つの任務の場所はここから南西に十キロ離れたところね」

「はぁ!?」

五条が目を見開いた。

「制限時間は…そうだね、三十分で!あと、建物の破壊は最小限でよろしく」

「いやいやふざけんな無理だろ」

「無理かどうかは、やってみてから決めたほうが良いんじゃない?」

 

にっこりと笑って、燦は廃ホテルを見た。地元では心霊スポットとして有名なこの場所は、確かに「出そう」な雰囲気を醸し出していた。

窓ガラスは全て割れ、壁には至る所に汚れや蔓が絡みつく。そして中で蠢くのは、呪霊の気配。

 

(思ったより多かったな)

あちゃあ、と燦はおでこを叩く。…まあ、この面子ならいけるだろう。そこまで等級の高いものはいなそうだし。

 

 

「さ、そろそろ始めようか」

「分かりました」

「だる」

夏油が先陣を切り、渋々家入が従う。最後に残った五条は、ケッと燦を見た。

「秒で終わらせてやっから、終わったら覚悟しろよ」

「はは、楽しみにしてる。あ、無事に終わらせたら好きなもの奢ったげるよ!」

「前半棒読みにもほどが、」

「ほら行くよ五条」

「今行こうとしてただろ!」

 

ぎゃあぎゃあと喚く三人(実質一人)を微笑ましく見て、燦はひらりと手を振った。

「帳はわたしが降ろすよ。君たちは先に中へ入ってな」

頑張れー、と呑気な声と共に後輩ズを送り出そうとする。そんな彼女に、夏油が待ったをかけた。

 

「帳を張る前に、一つ良いですか」

「いいよ」

「術式を使うのはアリですよね?」

「はぁ?何言ってんだよ夏油」

「…術式使わずに祓うつもり?」

五条と家入も怪訝そうに夏油を見る。

 

そんな中、ふっと燦は笑った。

「もちろん」

「ありがとうございます。良し、行くよ」

「今のくだり意味なくねーか」

「中に入ったら説明する」

廃ホテルの入り口まで彼らが進んだのを見て、燦は二つの指を揃えた。

 

「闇より出て闇より黒く その穢れを禊ぎ祓え」

 

呪詞を紡げば、とぷりと空に黒い染みが現れる。それは徐々に広がり、建物全体を覆っていく。帳が完成したのを見届けて、燦は腕を組んだ。

「さ、どうなるかねえ」

 

 

 

「あー鬱陶しい!」

ドォン、と轟音が響く。「蒼」で前庭の呪霊を一掃した五条が叫んだ。

「大技はあまり使うなよ。建物が壊れたら困る」

「んなことどうでも良いだろーが」

白髪を掻きむしって、五条は夏油を睨んだ。

 

「オマエ、あいつにいいとこ見せたいだけだろ?どーでも良いわ、勝手にやってろ」

「…なに?」

「俺からしちゃ、何であんなのが決めたことに従わなきゃいけないんだって話だよ。呪霊を祓ってそれで終わり、それで良くない?」

肩を竦めた五条に、夏油が眉間の皺を深めた。

「だから燦さんは私たちに条件を突きつけたんだろ。そんな様子じゃ、いつまで経っても子供のままだ」

「…誰がガキだって?」

ばちりと二人の間に火花が散る。

 

「もうそこで言い争うのやめなよ」

呆れたように家入が言った。

「とっとと終わらせよ。もう五分経ったけど」

「…なんでそんなに乗り気なんだい?」

普段の姿とはかけ離れた言動に、夏油は恐る恐る問いかけた。

「あの人、「好きなもの奢る」って言ってたじゃん。バカ高いもの買わせようかなって」

「いやモノに釣られんなよ」

 

まあ、と夏油は廃ホテルを見た。

「家入さんの言うことにも一理ある。そろそろ中に入らないと」

 

 

 

ホテルの中は、外から見た以上に荒れていた。カーペットは汚れきり、天井からはポタポタと水滴が垂れている。なにより、机やらガラスの破片やらで足の踏み場もない。ガシャン、と五条が遠慮なく廊下を歩いていく。それに夏油が辺りを警戒しながら続き、最後尾は家入だ。

 

「んで?作戦って結局なんなの?」

「二手に別れず、ここの呪霊を祓い、その上で十キロ先の他の廃ホテルまで行って呪霊を祓うのは、短時間では不可能だ。五条がいくら強くとも、物理的に無理。けど、燦さんが「ヒント」と言っていたことがあったろう?」

 

ー自分のできないことを、仲間に埋めてもらうこと

燦は、試すような顔でそう言った。

 

「それで思いついたんだ。私の呪霊操術なら、並行して任務をこなせるんじゃないかってね」

「おお、なるほど」

家入が頷く。

「でも、帳が張ってあるから、呪霊は通れないんじゃない?」

「そこが問題だね。壊してしまえばいいが、もう一度張り直す手間が生じる。…それと、帳はいつも補助監督任せだろう?」

「帳なんて、私らそうそう張らないしね」

うーん、と夏油と家入が頭を悩ませる。

 

「おい」

そこで、今まで黙っていた五条が口を開いた。

「その必要はないんじゃねえの」

その視線の先には、一分の隙なく張られた帳。

 

「どういうことだい?」

「アレがただの帳じゃねーってこと」

そう言って、五条はするりとサングラスを外した。途端、現れたのは、どこまでも蒼く透き通る、青空をそのまま映し取ったような瞳。

 

五条家の宝である六眼が、スッと細められる。

「あー、やっぱりな。普通の帳は、呪霊が出てこないようにする効果も兼ねてるだろ?でもあの帳は、非術師に対する「隠す」機能しかついてない」

「へぇ、そんなことできるんだ」

便利だねー、と家入も帳を見た。

「結界術が得意なんじゃね?」

どうでも良さそうに言って、五条は夏油を見る。その目に、ハアと夏油はため息を吐いた。

「分かってるよ」

 

ずるり、と。彼の影から、数体の呪霊が顕現する。割れた窓の隙間から飛び去っていった呪霊を見送り、夏油は廃ホテルを振り返った。

 

「じゃあ、とっとと終わらせようか」

 

 

 

「帳くらい、僕が降ろしましたよ」

「すいません、今回はそういうわけにはいかなかったので」

帳の外。車にもたれかかる燦に、補助監督が声を掛けた。

「はあ…」

「特殊な効果をつけてるんですよ」

「特殊な効果、ですか?」

「はい。ま、見てれば分かりますよ」

別れ際の夏油の言葉が蘇る。あれはおそらく、この任務の意図を見抜いた故の言葉だ。

 

ふふっと燦が微笑むのと同時に、帳からエイのような呪霊が飛び出した。そのまま、南西方向へ一心に向かう。

「なぜ…!」

補助監督が慌てたように携帯を手にする。それを制し、燦は車から体を起こした。

 

「良いんですよ、多分傑くんの呪霊だ」

「…なるほど、特殊な効果とはそういうことですか」

「ええ。呪霊だけを通す結界、というものは思っていたより難しかったですけどね」

成功して良かった、と燦は頬を緩めた。

 

補助監督が首を傾げる。

「ですが、燦さんはそこまで結界術が得意でしたか?」

「ああ、わたしの知り合いに結界術がすごく上手い人がいましてね。ちょっと教えてもらったんです。知っての通り、わたしは簡易領域くらいしか使えないので」

それも縛り込みですからね、とこともなげに言う。

 

「全部考えて、あの子たちを連れてきたんですね」

「まあ、それくらいはやりますよ。「先輩」ですので」

思い浮かべるのは、未来ある後輩たち。

 

「頑張れよー、若人たち」

「…僕から見たら、あなたも十分若人ですよ」

 

 

 

 

「ほんっと数だけは一丁前だな…!」

片っ端からちぎっているのに、なかなかどうして終わらない。夏油も呪霊を放ってはいるが、いかんせん別働隊を動かしている最中だ。そちらにリソースを割かれているため、あまり頼りにはならない。

 

その上家入は非戦闘員。反転術式のアウトプットを使えば呪霊など一発だが、この数を相手にするには彼女の呪力が足りなくなる。

 

必然的に、戦闘はほとんど五条がやる羽目になっていた。別に相手はまっったくもって強くないので苦ではない。苦ではない、が。

「なんっでこんなに数いるんだよちくしょう!」

 

再び、呪霊が吹き飛ぶ。

 

「この階層はもう居ないみたいだね」

「あと行ってないの最上階だけ?」

「働いてないくせに指示出ししてんじゃねぇよ!」

「おや、こんな雑魚どもに手間取っているなんてまだまだだね」

「うるせえ手間取ってるわけねーだろ!」

 

三人は、今にも朽ちそうな階段を登っていく。もうすぐ終わるという事実からか、その足取りは軽い。

 

だが。

 

「これって、何級任務だっけ」

「俺に聞くなよ」

「…一級はくだらないんじゃないかな」

屋上から漂う呪いの気配に、三人の空気がピリつく。

 

「俺がやる。下がってろよ」

「祓うなよ、後で取り込む」

「分かってら」

短くやりとりして、五条が前へ出る。屋上のドアノブを、ゆっくりと捻った瞬間。

 

ドオン、と派手な音と共に、金属製のドアが飛ぶ。咄嗟に夏油が家入を庇った。土煙から出てきたのは、人型を模した呪霊。ぎょろり、と幾つもある目が五条を睨む。

「土足…ゲンキン…」

「オマエがここのボスってわけ?部下からして弱そうだったけど、やっぱ上司もこの程度か」

 

—術式順転

 

五条が、術式を発動しようとした時。

 

「待て五条!」

家入が叫んだ。

「あ!?なんだよ、」

人型の呪霊の、その奥。抱き合って震える高校生の男女。

(…怪我してんのか!)

 

——このまま術式を発動すれば、絶対に巻き込む。かといって威力を抑えれば、一発で祓えるかどうかわからない。

 

「そのままやれ!」

五条の一瞬の躊躇いを見抜いたように、夏油が呪霊を呼び出した。二匹の猿もどきが、素早く男女を回収する。

 

「おきゃ、オキャクサマァ…!」

人型呪霊が飛び出した。その目が捉えるのは、夏油に確保された男女。ホテル内の家具が、一斉にガタガタと揺れた。

 

「ポルターガイスト?」

「ハッ、ホテルに相応しい能力ってわけだ」

 

しかし。飛来したソファも、ベッドも、椅子も。不可侵の前では、何の意味もなさない。五条の目前まで迫った家具は、全て見えない壁に阻まれたようにピタリと止まる。

人型呪霊が目を見開くいた。

 

「今度こそ、だな」

一瞬にして呪霊の懐へ。

 

−1の虚構が生み出す収束。それを乗せた打撃が、呪霊へと打ち込まれた。

 

 

 

「はー、終わった終わった」

あっけなく祓われた人型呪霊を尻目に、五条は同級生のもとへと戻る。

「…なにしてんの、終わりだろ?そいつら運んでとっとと帰ろーぜ」

んでなんか奢ってもらおーぜ、と言った五条に、夏油が険しい視線を返した。

「容体が思ったより悪くて、動かしたらまずいかもしれない」

 

見れば、男女とも身体中の切り傷から、血がだらだらと流れている。

「私の出番ってわけか」

家入が手を翳すと、白い光が二人を覆った。ぼう、と光が包んでいくのと同時に、傷がみるみるうちに消えていく。

 

「これが、反転術式?」

夏油が首を傾げて問う。

「あそっか、見せたことなかったか」

そーだよー、と家入が手をひらひらと振る。

「いや、どこかで見たことがあるなと思って…」

「んなわけねーだろ、反転術式のアウトプットができるやつなんて何人もいるかよ」

五条が鼻を鳴らした。

「行くぞ、三十分過ぎてるかもしんねー」

 

 

三人(と夏油の呪霊に抱えられた高校生男女二人)は、廃ホテルを後にした。帳を解くだけになった段階で、五条が振り返る。

 

「…助かった。……傑、硝子」

「…は?」

「え、頭でも打った?」

「なんだよその反応!」

吠えた五条に、夏油と家入が顔を見合わせる。

「いや、だってねえ」

「変わり身早いよな」

「人がせっかく歩み寄ってるんだぞ!?」

 

冗談だよ、と夏油がくつりと笑った。

「悟と硝子と一緒で良かった」

「おお、変な前髪のくせに言うことはまともだな」

「表へ出な悟」

「上等だよ」

 

ガンを飛ばし合う二人の横で、家入がタバコに火をつけた。ふう、と一息吸って煙を吐き出す。

「いつまでやってんだ、五条、夏油」

「ノリわりーな、そこは名前で呼べよ!」

「あんなに嫌そうにしてたくせに、ウケる」

「ウケねーよ!」

 

 

 

「おかえり、三人とも」

パチパチと手を打って、燦は三人を出迎えた。三十分前にはなかった雰囲気が漂っているのを感じ、嬉しそうに笑みを深める。

 

「さて、どこ行きたい?先輩がどこでも奢ってあげよう!」

「っしゃあ!焼肉行こーぜ」

「どうせなら高級焼肉が良いですね」

「せんぱーい、高いブランドもの買ってくださいよ」

「ごめんわたしそこまでお金ないかも」

 

 

 

 




次話は翌日投稿します!
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