プロデューサーが死ぬと勘違いして死ぬほど依存度が上がる話 作:マロンex
葛城リーリヤは、ベッドの上で正座をして、スマートフォンを耳に当てていた。
「……じゃ、じゃあ、明日のレッスンは、十六時から、ですね……!」
『はい。よろしくお願いします。夜遅くに、すみませんでした』
その声は、少しだけ、かすれていた。
(……センパイ、最近、ちょっとお疲れみたい)
ここ数週間、センパイは、いつも眠そうだった。
目の下には、薄い隈。
レッスン中に、こっそり欠伸を噛み殺しているのも、何度か見た。
「い、いえ……! お、おやすみなさい、先輩さん……!」
『おやすみなさい』
リーリヤは、ほっと息をついた。
画面を見ると、まだ通話中のままだった。
(あ……切れて、ない……?)
切ろうとして、指が止まった。
電話の向こうから、センパイとは別の、男の人の声が聞こえてきたのだ。
『おーい、電話終わったか? ちょっとこっち来いよ』
『兄さん。うん、今行く』
センパイの声が、遠くなった。
スピーカーのまま、机の上にでも置いたらしい。
(お、お兄さん……?)
切らなきゃ、と思った。
盗み聞きは、いけない。
でも、次に聞こえてきた言葉で、リーリヤの指は凍りついた。
『……さっき、正式に、発表されたぞ。……あと半年、だってさ』
ガタン、と何かを置く音。
声の途中が、ざらざらとしたノイズに削られていた。
『……そっか。ありがと』
『覚悟は、してたけど...。実際に言われると、……きついわ』
お兄さんの声が、少しだけ、震えていた。
ピーッ、と電気ケトルが鳴って、会話の続きを飲み込んだ。
『……当たり前だけど長い付き合いだったもんなぁ』
『うん。……ずっと、一緒だった』
『終わったら、全部……寂しくなるな』
ガガッ、とノイズが走った。
『……もう、長くない、ってのは、わかってたんだけどな』
リーリヤは、両手でスマートフォンを握りしめた。
『なあ。半年あるんだから、最後に、やり残したこと全部やろうぜ』
『うん。そうしよう』
『そうだ! 昔の仲間にも声かけとくか。最後の日は、みんなで集まって見届けようぜ』
『ははっ……なんか、生前葬みたいだね』
『ま、似たようなもんだろ』
二人の、乾いた笑い声が聞こえた。
リーリヤは、震える指で、通話を切った。
部屋が、しんと静まり返った。
(あと、半年……)
(……もう、長くない……)
(最後の日は、みんなで、見届ける……)
聞き取れなかった部分に、リーリヤの頭は、いちばん怖い言葉を、勝手に当てはめていった。
リーリヤは、布団を頭からかぶった。
一晩中、眠れなかった。
◇
翌日のレッスン終わり、リーリヤは、勇気を振り絞って声をかけた。
「せ、センパイ……! き、昨日、お兄さんと、お話、してましたか……?」
「あれ、聞こえてました? すみません、電話、ちゃんと切れてなかったみたいで」
「い、いえ……! あの、ちょっとだけ、です……!」
「兄が、久しぶりに家に来てたんです。ちょっと、大事な話があって」
センパイは、少しだけ遠くを見た。
「ちょっと色々あって...家の片づけでもしようかなと」
《……昔のゲームとか見つけられたら少し気でもまぎれるしな》
(片付け……)
リーリヤは、ぎゅっと唇を噛んだ。
(気づかないふりを、しよう。センパイが、言わないなら)
(その代わり……わたしに、できることを)
◇
その夜、リーリヤは、ノートを一冊、新しく開いた。
『センパイと やりたいことリスト』
□ おいしいパンケーキを食べる
□ ロボットアニメのイベントに行く
□ 一緒にゲームセンターで遊ぶ
□ 夕日を見る
□ 写真を撮る
□ 水族館に行く
□ 手作りのお弁当を食べてもらう
□ スウェーデンのお菓子を一緒に作る
□ 星を見る
□ スウェーデンの家族に、センパイを紹介する(ビデオ通話で)
□ わたしのライブを見てもらう
□ ありがとうを、ちゃんと伝える
□
最後の一行は、空白のままにした。
本当は、書きたいことがあった。
でも、それは、絶対にクリアできないクエストだった。
◇
最初のクエストは、駅前のパンケーキだった。
ふわふわのパンケーキを前にして、センパイは、小さく目を見開いた。
「突然お誘いしていただいてありがとうございます。...これおいしいですね」
「よ、よかった、です……! 清夏さんとよく行くお気に入りなんですよ」
「兄にも教えてあげようかな。最近、二人で思い出話ばかりしてるんです。昔のことを、全部見返してて」
「今のうちに、やりたいことは、全部やっておかないと。あとで後悔しそうなので」
《……サービス終了したら、寂しいな。次のゲーム探さないとなぁ》
リーリヤは、パンケーキを口に運んだ。
甘かった。
おいしかった。
それなのに、喉の奥が、ちくりと痛んだ。
その夜、リーリヤはノートに、一つ目のチェックをつけた。
☑ おいしいパンケーキを食べる
(……あと、十二個)
チェックを一つつけるたびに、残りが一つ減る。
それが、怖かった。
◇
別の日、ロボットアニメのイベントに半ば無理やりセンパイを連れてきた。
何も言わず承諾してくれたセンパイはなぜか少し嬉しそうだった。
「この前、兄と倉庫を整理してたら、昔のゲームが全部出てきて。懐かしくて、ちょっと泣きそうになりました。もう、使うことはないんですけどね。ははっ...」
ゲームセンターで、リーリヤが勝ち続けたあと、センパイは笑った。
「最近は、兄と昔からやってることを、最後まで終わらせるのに必死で」
河川敷で夕日を見たとき、センパイは言った。
「...怖くないんですか」
「寂しいですけど、怖くはないです。ずっと、楽しかったですし、今も楽しいですしね」
「思い残すことも、だいぶ減りました。……後悔だけは残さないようにしようかと」
《最後のクエストも、あと少しで、全部クリアできそうだ》
何も言えなかった。
リーリヤは泣きそうになったのを必死に我慢するだけで精いっぱいだった。
☑ ロボットアニメのイベントに行く
☑ 一緒にゲームセンターで遊ぶ
☑ 夕日を見る
楽しかった。センパイと過ごすのは、本当に楽しかった。
だから、余計に、チェックをつけるのが怖かった。
(……あと、九個)
◇
三か月が経った頃だった。
レッスン室に、センパイが少し遅れてやってきた。
「すみません、遅れました。いやあ、引き継ぎの手続きって、思ったより時間かかるんですね」
「ひ、引き継ぎ……?」
「はい。二つの引き継ぎがあるので、ちょっと手間取っちゃって。参りました」
リーリヤは、首をかしげた。
「ふ、ふたつ……?」
「はい。(葛城さんとやり取り用の)メイン分と、もう一つ(仕事用)同時にしましたので」
リーリヤの手が、止まった。
(わ、わたしの、分……)
(……もう一つ、って、何だろう)
「次の担当の方とも、もう会ってきました。すごく丁寧な人でした。葛城さんのことも、ちゃんと伝えてあります」
センパイは、手帳を開いた。
「それと、サブのほうは、契約を解除して、メインのほう一本でやろうかと」
「そ、その、サブの方と……契約を、解除して……メインに、一本化、って……」
「はい。メインのほうだけでいいかなって、もう長くないですし」
《もう少しで新作出るし、その機能あれば1台で十分だろう》
まるで、明日の天気の話でもするような口ぶりだった。
リーリヤの目が、大きく見開かれた。
(センパイには……わたし以外にも、担当している子が、いたんだ)
(わ、わたしが心配で……すぐ、不安定になるから……)
(もう一人の子との契約を、わたしのために、解除して……残り半年しかない時間を、わたしだけに……)
リーリヤの目に、みるみる涙が溜まった。
「葛城さん? どうかしました?」
「な、なんでもないです……!」
リーリヤは、ノートを胸に抱えて、レッスン室を飛び出した。
《……え、何だろ、何を間違えたんだ》
◇
その夜、リーリヤは、ノートを開いたまま、ペンを持つ手が止まってしまった。
(受け入れなきゃ)
センパイは、残された時間で、わたしに、次の人まで用意してくれている。
(わ、わたしのせいだ)
センパイには、もう一人、担当している子がいた。
その子は、きっと、センパイをずっと待っていた。
それなのに、わたしが頼りないから。
すぐ泣いて、すぐ不安定になって、手がかかるから。
センパイは、残された時間のすべてを、わたし一人のために使うと、決めてしまった。
人前に出ると、声が震える。
知らない場所では、足がすくむ。
嬉しいときも、悲しいときも、すぐに泣いてしまう。
全部、スウェーデンにいた頃から、直らなかったところだ。
(清夏ちゃんがいてくれたから、ここまで来られた。でも、これからは、誰にも頼れない)
(直さなきゃ。わたしの、弱いところ)
(……もう一人の子に、謝らなきゃ)
(でも、どうやって……)
(わ、わたしが、ちゃんと、一人でやっていけるようにならなきゃ)
(わたしが一人でやっていけるように...先輩の選択を後悔させないように)
リーリヤは、何度も、そう自分に言い聞かせた。
でも、ノートの空白の一行を見るたびに、涙がにじんだ。
◇
そこで、リーリヤは、もう一冊、ノートを作った。
表紙には、小さな字で、こう書いた。
『センパイに 心配されないためのリスト』
(わ、わたしが、一人でも大丈夫だって、わかってもらえれば)
(センパイは、わたしのことを、心配しなくてよくなる)
一ページ目には、『わたしの 弱いところ』と書いて、思いつくかぎりを、並べた。
泣き虫。
人見知り。
朝が弱い。
知らない場所が、怖い。
書き終えて、リーリヤは、ペンを置いた。
(……こんなに、あったんだ)
見たくなかった。
でも、見ないふりをしたままでは、センパイに、心配をかけ続けてしまう。
リーリヤは、ページをめくって、弱いところを一つずつ、チェックの項目に変えていった。
二ページ目には、こう並んでいた。
□ 一人で朝起きる
□ 一人で電車に乗る
□ 今日は、泣かない
◇
翌朝五時。
センパイがレッスン室の鍵を開けると、リーリヤが、もう扉の前に立っていた。
「お、おはようございます、センパイ……! き、今日は、自分で、起きました……!」
「おや、早いですね。目覚ましかけたんですか」
「い、いえ……! 目覚ましは、三個かけましたけど、自分で、起きました……!」
「それは、随分と気合が...」
「じ、自分で、起きたんです……!」
「え、ええ。わかってますよ。えらいですね?」
《……なんか今日あったっけ》
リーリヤは、胸を張って、ノートにチェックをつけた。
☑ 一人で朝起きる
◇
その週末。
リーリヤは、センパイに、一枚の切符を見せた。
「み、見てください……! ひ、一人で、隣の駅まで、行ってきました……!」
「隣の駅、ですか」
《……切符久々に見たな》
「は、はい……! 乗り換えも、迷わずに……!」
「あの路線、乗り換えないですけど」
「あ、ありました……! 心の中に……!」
「お、往復、できました……!」
「すごいですね。お疲れさまでした」
「え、えへへ……!」
リーリヤは、嬉しそうに、でも、少しだけ寂しそうに笑って、ノートにチェックをつけた。
☑ 一人で電車に乗る
(これで、わたしが、一人でも、迷子にならないって、わかってもらえた)
◇
ふと、センパイは、リーリヤの鞄から、ノートの端が覗いているのに気づいた。
『わたしの 弱いところ』
見出しだけが、見えた。
《……自己分析のメモ、かな。最近やけに自分を見直すことに熱心だな》
センパイは、見なかったふりをして、そっと目を逸らした。
◇
それから、リーリヤは、毎日、同じ報告をするようになった。
「センパイ! 今日は、泣いてません!」
「そうですか」
「き、昨日も、泣いてません! その前の日も、泣いてません!」
「……すごい連続記録ですね」
「で、ですから……ご、ご心配には、およびません……!」
リーリヤは、真っ赤な目で、にこりと笑った。
《……昨日も夜遅くまで、ゲームしてたのかな。あとで、早く寝るように言っておこう》
☑ 今日は、泣かない
◇
ー事務所 昼下がり
センパイは、リーリヤが自分の前で何度も言葉を探しているのに気づいていた。
(最近、ずっと眠れていないみたいだ)
目の下の薄いクマ。朝の電車で、ドアの前にしがみつくように立つ姿。
リーリヤは、勇気を振り絞るように、ぎゅっと両手を握った。
「せ、センパイ……。あの、わ、わたし……もう、心配、ないですか……?」
「心配、ですか」
センパイは少しだけ考えてから、正直に答えた。
「うーん。ちょっと心配ですねかね」
リーリヤの顔から、すっと血の気が引いた。
「そ、そんな……」
「はい。夜中にちゃんと眠れているか気になって。昨日も夜更けにメッセージが来ていたのが気になっていたんですよね」
(……昨日、起きて待っていてくれたのかな。もし寝ずに待っていたなら、やっぱり無理をさせちゃってる...)
(ま、まだ、足りない……)
リーリヤは、唇をかすかに噛んだ。
「す、すみません。単に少し心配で。リーリヤさんは十分頑張ってますよ。それに、少しずつ、よくなってると思います。自分の直したいと思うことを客観的に見られてるのは素晴らしいです」
「あ、ありがとうございます……! が、頑張ります……!」
リーリヤはぎこちなく笑顔を作った。
センパイも、安心させるように微笑んで、大きく頷いた。
二人は、同じ顔で頷き合った。
話は、一ミリも噛み合っていなかった。
ー同日 事務所の廊下
「……あ、あの、センパイ」
リーリヤは、小さく息を吸った。
「毎回、わたしのペースでいいって言ってくださいますよね。それは、すごく嬉しいんです。でも……あの、わたしのことは、気にしなくていいんですよ?」
センパイは、少しだけ目を瞬かせた。
「気にしなくていい、ですか?」
「はい。わたし、センパイにご迷惑をおかけしているのは、わかっていますから……」
(だから、もう、無理に気遣ってくれなくても……)
「いえ、迷惑だなんて思っていませんよ」
センパイは穏やかに首を振った。
「それに、今のリーリヤさんも十分素敵だと思いますよ。ちゃんと頑張っている姿が伝わってきますから」
「……え」
リーリヤの胸が、きゅっと縮んだ。
(素敵、って……。今のわたし、こんなに情けないのに)
震える指先を、ぎゅっと握りしめる。
(そうか……センパイは、わたしがもう長くないと思っているから、そうやって優しく諦めてくれているんだ)
(残りの時間を、穏やかに見送ろうとしている……)
視界が、じわりと滲んだ。
「……そう、ですか。ありがとう、ございます」
リーリヤは精一杯の笑顔を作った。
でも、その笑顔は少しだけ歪んでいた。
(わたし、ちゃんと頑張らなきゃ。最後まで、センパイに心配かけないように……)
センパイは、その笑顔を見てほっとしたように微笑んだ。
《よかった、伝わったみたいだ。リーリヤは、自分のペースでちゃんと前に進めている》
二人の視線が、また、すれ違った。
ー夜 寮
リーリヤは部屋で、ひとり膝を抱えていた。
(……優しくされるたびに、苦しくなる)
センパイは、いつもわたしのことを一番に考えてくれる。
眠れない夜も、震える朝も、ぜんぶわたしのために。
(それなのに、わたしは……)
(何もお返しできないまま、ただ迷惑をかけ続けている)
あの穏やかな声が胸の奥に染み込んでくるたびに、息が詰まりそうになる。
(そんなに優しくされたら、わたし、もっと……)
喉の奥が、ひりりと痛んだ。
涙が、ぽつりと膝に落ちた。
(ごめんなさい、センパイ……)
(こんなに大切にしてくれるのに、わたし、ありがとうすら、ちゃんと言えない)
携帯の画面が、ぼんやりと光る。
センパイからの、『おやすみなさい、今日も頑張りましたね』のメッセージ。
リーリヤは画面を見つめたまま、長いあいだ動けなかった。
(……返事、しなきゃ。でも、なんて書けばいいんだろう)
指が震えて、止まる。
優しさがしみるたびに、静かに胸が痛くなった。
◇
その夜。
リーリヤは、二冊のノートを、並べて見つめていた。
心配されないためのリストは、全部、チェックが埋まった。
(……まだ、心配だって、言ってた)
(……でも)
チェックがつくたびに、センパイがいなくなる日が、近づいている気がした。
リーリヤは、ノートを抱きしめて、少しだけ、泣いた。
(……今日は、泣かない、って、書いたのに)
◇
それでも、リーリヤはクエストを続けた。
水族館で、二人で大きな水槽の前に立った。
リーリヤが撮った写真の中で、センパイは、少しだけ不器用に笑っていた。
《葛城さん、さっきから魚より、僕の顔を見てる気がする。……顔に、何かついてるのかな》
早起きして作ったお弁当を、センパイは、全部きれいに食べてくれた。
《おいしい。……ただ、食べ終わるまで、じっと見つめられるのは、ちょっと緊張する》
「カレンダーに、『お弁当』って書いておきますね。毎日、残りの日数を数えながら、一つずつ、思い出を書き込んでるんです」
(残りの……日数……)
寮のキッチンで、二人でシナモンロールを焼いた。
屋上で、星を見た。
「星って、いいですね。消えても、光だけは、ずっと届くので」
《……今の、ちょっと詩的すぎたかな》
リーリヤは、もう何も言えなかった。
☑ 写真を撮る
☑ 水族館に行く
☑ 手作りのお弁当を食べてもらう
☑ スウェーデンのお菓子を一緒に作る
☑ 星を見る
(……あと、四個)
◇
その週の放課後。センパイは、ノートに、たくさんの名前を書いていた。
一人ずつ、丁寧に。何度も、書き直しながら。
「そ、それは、何ですか……?」
「お世話になった人たちの、リストです。最後の日に、ちゃんとお礼を言っておきたくて」
(お礼……最後の日に……)
名前の横には、見慣れない呼び名が、並んでいた。
『クロ』『ミズキ』『レン』。
《ハンドルネームのままで、書いていいのかな。……いや、みんな、そう呼び合ってるし》
リーリヤは、そっと目を逸らした。
(外国の、お友達かな。……ううん、きっと、センパイにとって、大事な人たち)
(その人たちにも、最後の日に、お別れを……)
◇
ビデオ通話の画面の向こうで、スウェーデンの家族が、そろって背筋を伸ばしていた。
お父さんも、お母さんも、おばあちゃんも、画面いっぱいに、真剣な顔をしている。
「ス、スウェーデンの、家族です……! せ、センパイに、ど、どうしても、会ってほしくて……!」
「はじめまして。いつも、娘さんには、お世話になっています」
センパイは、日本語で、深々と頭を下げた。
リーリヤが、慌てて通訳をすると、画面の向こうで、お母さんが、口元を押さえて、涙ぐんだ。
『……最期の時間まで、この子を選んでくれて、この子と過ごしてくれてありがとう。...どうか、最後まで、よろしくお願いします』
「え、えっと……『最後まで、よろしくお願いします』って、言ってます……!」
リーリヤは、真っ赤になって、俯いた。
(……センパイが、元気なうちに、会ってもらえてよかった)
☑ スウェーデンの家族に、センパイを紹介する
(……あと、三個)
◇
半年が近づいた頃。
小さなステージで、リーリヤは、今までで一番の声で歌った。
人前で歌うのが怖かったはずなのに、一度も、声は震えなかった。
客席の一番前で、センパイが見ていてくれたから。
歌い終えると、センパイは、静かに拍手をした。
「すごく、よかったです。葛城さん、本当に成長しましたね」
「……ありがとうございます」
☑ わたしのライブを見てもらう
(……あと、二個)
「そうだ、葛城さん」
センパイが、ふと思い出したように言った。
「来週の夜、空いてますか。最後の日なので、兄と昔の仲間で集まるんです。葛城さんにも、一緒に見届けてほしくて」
「……さ、最後の日……?」
リーリヤの呼吸が、止まった。
「確かゲーム好きでしたよね! 私実は昔からはまっているゲームがあって...ぜひ葛城さんにも魅力を」
その後の言葉はよく覚えていない。
キラキラとした目で話すセンパイ、空元気なんだろうその姿に
思わず胸が締め付けられた。
「...私でよければ」
「はい。葛城さんがいてくれたら、一番いい最後になると思うので」
リーリヤは、ノートを胸に抱きしめたまま、しばらく動けなかった。
最後の日。
見届けてほしい。
一番いい最後。
(……センパイは、もう、全部、受け入れてるんだ)
それなのに、自分だけが、怖がって、泣いて、立ち止まっている。
(このままじゃ、だめ)
リーリヤは、顔を上げた。
それから、いきなり、センパイの両手を、ぎゅっと握りしめた。
「センパイ……!」
「は、はい」
握った手を、自分の額に押し当てる。
祈るように。
センパイの手は、温かかった。
この温かさを、忘れたくなかった。
「か、葛城さん……?」
センパイの声が、明らかに上ずっていた。
両手を握られたまま、どうしていいかわからずに固まっている。
リーリヤは、額に手を押し当てたまま、震える声で言った。
「わ、わたし……これからは、一人で、やっていけます」
「……え?」
「朝も、一人で起きられます。電車も、一人で乗れます。人前で歌うのも、もう怖くないです。スウェーデンの家族にも、先輩のこと、ちゃんと紹介できました。次の担当の方とも……その、仲良くします。もちろんセンパイが一番ですが...!」
ぽろぽろと、涙がこぼれた。
握った手の甲に、落ちていった。
「アイドルとして、もっともっと、活躍します。大会にも出て、優勝します。だから……だから、もう一人の子のところに、戻ってあげてください。わたしは、遠くから、見ていて……」
そこまで言って、言葉が、喉の奥で詰まった。
リーリヤは、唇を噛んだ。もう一度、言おうとした。
「……み、見ていて、くだ……」
声が、出なかった。
「……う、うそです」
リーリヤは、センパイの手を握ったまま、その場に崩れ落ちた。
「一人でなんて、やだ……やだです……!」
「葛城さん」
「わ、わたし、泣き虫で、人見知りで、朝も弱くて……! 一人じゃ、何にもできないのに、一人で大丈夫なふりを、ずっと……!」
「つ、次の担当の人なんか、いらないです……! どんなに丁寧な人でも、いらないです……!」
リーリヤは、顔を上げた。
涙でぐしゃぐしゃの顔だった。
「も、もう一人の子との契約を切ってまで、わたしだけを見てくれなくていいです……! で、でも、最後まで、センパイが、いいです……!」
「…………」
「センパイが死んじゃったら……わ、わたし、誰と、ゲームすればいいんですか……! 誰に、ライブ、見てもらえばいいんですか……!」
リーリヤは、声を上げて泣いた。
日本に来てから、一度も、こんな風に泣いたことはなかった。
センパイは、しばらく、固まっていた。
それから、ゆっくりと、リーリヤの前にしゃがみ込んだ。
「……葛城さん」
「……は、はい……」
センパイは、目をぱちぱちと瞬かせた。
「……僕、死ぬんですか?」
リーリヤの泣き声が、ぴたりと止まった。
「……え?」
「僕、健康ですけど。この前の健康診断、全部A判定でした」
「……え、え……?」
「どうして、僕が死ぬと思ったんですか」
「だ、だって……で、電話……! 切れてなかったときに、お兄さんと話してるの、聞こえて……! あと半年だって……! 十年以上の付き合いだって……! 終わったら、全部跡形もなく消えるって……! もう長くないって……! 最後の日は、みんなで見届けるって……! お、お葬式みたいって……!」
センパイは、しばらく考え込んだ。
それから、ああ、という顔をして、片手をそっとほどき、スマートフォンを取り出した。
『【重要】サービス終了のお知らせ 長きにわたりご愛顧いただき、誠にありがとうございました』
「……それ、ゲームの話です」
リーリヤの涙が、完全に止まった。
「……げ、ゲーム……?」
「はい。小学生の頃から、兄とずっと一緒にやってるオンラインゲームが、半年後にサービス終了することになったんです」
「……な、長い付き合いって……」
「僕のキャラクターのことです。小学生の頃から、ずっと同じキャラで遊んでるので」
「じゃあ...も、もう長くないっていうのは……」
「サービスが、です。もう長くないねって、兄とずっと話してたので」
「か、カレンダーの、残りの日数は……」
「サービス終了までの、カウントダウンです」
「お、お礼を言いたい人の、リストは……」
「昔のゲーム仲間たちです。最後の日に、挨拶しようと思って」
「つ、次の担当の方って……!」
「携帯ショップの店員さんです」
「も、もう一人の担当の子と、契約を解除して、わたし一人にするって……!」
「ゲーム用の二台目を解約して、普段使ってる携帯一本にするって意味です。最後の日は、パソコンで遊ぶので、もう携帯はいらなくて」
「メインのほうが心配で、すぐ不安定になるって……!」
「メインの携帯が、最近すぐフリーズするんです。心配で、ちゃんと向き合いたくて。新しい会社に乗り換えて、一本にまとめるんです」
「わ、わたしのことじゃ、なくて……?」
「葛城さんは、不安定じゃないですよ。すごく成長してます」
「じ、じゃあ……朝起きたとか、電車に乗れたとか、泣いてませんとか、全部報告してたの……」
「成長記録かと思って、毎回楽しみにしてました」
「わ、わたしは……センパイに、安心してもらうために……!」
「ええ。ずっと安心はしてますよ、心配な部分はありますが、それは両立するものですから。私はリーリヤさんを信頼しています」
リーリヤの顔が、みるみる真っ赤になっていった。
首の付け根から、耳の先まで、真っ赤になった。
それから、自分がさっき言った言葉を、一つずつ思い出していった。
一人でやっていけます。
遠くから見ていて。
もう一人の子との契約を切ってまで、わたしだけを見てくれなくていいです。
ーもちろんセンパイが一番ですが
ー最後まで、センパイがいいです。
しかも、センパイの両手を、自分の額に押し当てながら。
「~~~~~~っ!!」
リーリヤは、握っていたセンパイの手を、ばっと放した。
ノートで、顔を隠した。
「わ、忘れてください……! さ、さっきの、全部、忘れてください……!」
「一人でやっていけます、のところですか」
「全部です……!」
「ゲーム用の携帯のこと、サブって言ったの、もう一人の担当みたいに聞こえますよね。すみません」
「言い方……! 主語……!」
リーリヤは、ノートの陰で、その場にうずくまった。
「わ、わたし……ゲーマーなのに……! サービス終了、まったく、気づかなかったです……!」
「ゲームの話だって、言ってなかったですもんね」
「い、言ってくださいよ……! 半年、ずっと、泣くの我慢してたんですよ……! チェックつけるたびに、あと何個って……!」
「すみません」
リーリヤは、ノートの陰で、しばらく唸っていた。
それから、少しだけノートを下げて、目だけを出した。
「……ほ、本当に、どこにも、いかないですか……?」
「行きません」
センパイは、少しだけ照れくさそうに、でも、まっすぐにリーリヤを見た。
「さっきの、最後まで僕がいいっていうの、嬉しかったです。……最期まで、僕でよければ。葛城さんのライブも、ゲームも、全部、隣で見ています」
リーリヤは、ノートを両手で握りしめた。
それから、震える手で、ペンを取り出した。
空白だった最後の一行に、小さな字で、書き込んだ。
『□ ずっと、一緒にゲームする』
「はい。それなら、クリアできそうです」
「……ク、クリアしたら、だめです」
「え?」
「これは、ずっとチェックをつけないクエストなんです。終わらないクエストです」
リーリヤは、また泣いた。
今度は、嬉しくて泣いた。
◇
サービス終了の発表から、しばらく経った頃。
プロデューサーは、休憩時間になるとスマートフォンで新しいゲームを探すようになっていた。
長年、兄や昔の仲間と遊んできたゲームが終わる。
寂しさは、きっとまだ残っている。
だからリーリヤは、彼が次の楽しみを見つけられるように、できることを探していた。
……もっとも。
「せ、センパイ! これ、どうでしょうか!」
「おや、また見つけてくれたんですか?」
「は、はい! これは協力型のRPGで、最大四人まで遊べます。ストーリーも評判がよくて、キャラクターの育成要素も豊富で……あと、ソロでも十分楽しめるみたいです!」
「なるほど。リーリヤさんは詳しいですね」
「そ、そんなことないです……! ちょっと調べただけで……」
机の上には、リーリヤが印刷してきたゲームの比較表があった。
基本プレイ無料か。
長く遊べるか。
サービス終了の予定はないか。
二人で遊べるか。
最後の項目だけ、文字が少し大きい。
プロデューサーは、それを見て小さく笑った。
「……二人で遊べるか、という項目が一番詳しいですね」
「っ! そ、それは……!」
リーリヤは比較表を奪い取ろうとしたが、プロデューサーがひょいと持ち上げたため届かなかった。
「か、返してください……!」
「すみません。ここ、特に気になりまして」
「い、意地悪です……!」
「ふふ。では、このゲーム、一緒に試してみませんか?」
「……え?」
「リーリヤさんが、そこまで調べてくれたんですから。まずは二人で遊んでみたいです」
リーリヤは、ぴたりと動きを止めた。
「……ふ、二人で……?」
「はい。せっかくですから」
「……っ、は、はいっ!」
声が裏返った。
(や、やりました……!)
(センパイと、一緒に遊べます……!)
新しいゲームを探す手伝いをしているだけのはずだった。
それなのに、いつの間にか、彼と遊ぶ時間を想像することのほうが楽しみになっていた。
◇
その日の放課後。
二人は事務所の空き部屋で、さっそくゲームを始めた。
「まずはキャラクターを作るんですね」
「はい! えっと、センパイはどんなタイプが好きですか? 攻撃役ですか? それとも回復役……?」
「うーん。リーリヤさんと一緒に遊ぶなら、回復役にしてみましょうか」
「……わ、わたしと?」
「ええ。リーリヤさんが安心して戦えるように」
「~~っ!」
リーリヤは、ゲーム画面を見つめたまま固まった。
(そ、それって、つまり……わたしを守ってくれるってことですか……!?)
「リーリヤさん?」
「は、はいっ! わ、わたしは攻撃役にします!」
「おや。それは頼もしいですね」
「ま、任せてください!」
勢いよく宣言したものの、最初の敵に遭遇した途端、リーリヤは操作を誤った。
「あっ! ま、待ってください! そっちは危ないです!」
「わっ、体力が減ってきましたね」
「センパイ、こっちに! わたしの後ろに隠れてください!」
「はい、お願いします」
リーリヤは必死に敵を引きつけ、プロデューサーのキャラクターを守った。
なんとか勝利すると、彼女はほっと息をついた。
「……か、勝てました……!」
「ありがとうございます。リーリヤさんのおかげですね」
「い、いえ! センパイが回復してくれたからです!」
「では、お互いのおかげですね」
そう言って、プロデューサーが笑う。
リーリヤは、隣に座る彼をちらりと見た。
肩が触れそうな距離。
少し身体を傾ければ、すぐに寄りかかれる距離。
(……もう少し、近くても……)
そう思った瞬間、プロデューサーが画面を覗き込むために身を寄せた。
「次は、どこへ行けばいいんでしょう?」
「……っ! こ、ここです! このマップの奥に、次のクエストが……!」
声が震えた。
「なるほど。では、案内をお願いします」
「は、はい……!」
リーリヤは、画面を操作しながら、そっと彼の袖をつまんだ。
ほんの少しだけ。
プロデューサーは気づいたようだったが、何も言わなかった。
ただ、袖をつままれたまま、楽しそうにゲームを続けてくれた。
それが、たまらなく嬉しかった。
◇
一時間後。
「……あ」
リーリヤは、画面の隅に表示された時刻を見て、肩を落とした。
「もう、こんな時間……」
「本当ですね。そろそろ帰りましょうか」
「……はい」
返事をしたものの、指はコントローラーから離れなかった。
せっかく、二人で遊べるゲームが見つかったのに。
もっと一緒に遊びたい。
次のクエストも、その次も。
彼が笑うところを、もっと見ていたい。
「……センパイ」
「はい?」
「……あの、明日も、続きをしていいですか?」
「もちろんです。まだ始めたばかりですからね」
「……明後日も?」
「ええ」
「その次も……?」
プロデューサーは少しだけ目を丸くした。
それから、くすりと笑った。
「リーリヤさん。もしかして、このゲームを僕より楽しみにしていませんか?」
「ち、違いますっ!」
即答した。
「……いえ、その……ゲームも、楽しみですけど……」
リーリヤは、膝の上で指を組んだ。
「センパイと、一緒に遊べるのが……楽しみなんです」
言ってしまった。
恥ずかしくて、顔が上げられない。
すると、隣から優しい声が返ってきた。
「僕もですよ」
「……え?」
「一人で新しいゲームを探すのもいいですが、こうして一緒に遊べる相手がいるのは、やっぱり嬉しいです」
プロデューサーは、少し照れくさそうに続けた。
「リーリヤさんが教えてくれなかったら、きっと、なかなか次を始められなかったと思います。ありがとうございます」
胸が、ぎゅっと締めつけられた。
自分は、彼の寂しさを少しでも埋めたかった。
けれど、いつの間にか、自分のほうが彼に満たされていた。
「……じゃあ」
リーリヤは、そっと顔を上げた。
「……次のゲームも、その次のゲームも……わたしが、一緒に探してもいいですか?」
「ぜひお願いします」
「……ずっと?」
「えっと、それはどういう意味で...」
「……っ。あ、あの、サービス終了まで、という意味じゃなくて……! その……」
言い訳を探して、言葉が迷子になる。
プロデューサーは、彼女が落ち着くまで待ってから、穏やかに答えた。
「サービスが終わっても、また新しいゲームを探せばいいですからね」
リーリヤは、目を見開いた。
「……!」
「そのときも、リーリヤさんに相談していいですか?」
「……はいっ!」
思わず、彼の袖を両手で握った。
「ぜ、絶対です! わたしが探します! センパイが好きそうなゲームも、二人で遊べるゲームも、いっぱい……いっぱい探しますから!」
「頼もしいですね」
「……えへへ」
リーリヤは、袖を握った手を離せなかった。
サービス終了は、もう怖いだけの言葉ではない。
終わりが来たら、次を探せばいい。
そのとき、隣に自分がいられるのなら。
◇
翌日の昼休み。
「リーリヤ!」
紫雲清夏が、食堂でリーリヤを見つけて駆け寄ってきた。
「昨日、リーリヤのプロデューサーとゲームしたんでしょ?」
「ど、どうして知ってるんですか!?」
「どうしてって...あきれるくらい嬉しそうに話してたよ。『葛城さんが新しいゲームを探してくれて』って!」
「……っ!」
リーリヤは、弁当箱を持ったまま固まった。
「へえー。そんなに嬉しかったんだ、リーリヤ」
「ち、違います! わたしは、ただ……センパイが次に遊ぶゲームを探していて……!」
「うんうん。で、二人で遊んだんだ?」
「……はい」
「よかったじゃん!」
清夏はにっこり笑って、リーリヤの隣に座った。
「ね、あたしも混ぜてよ! 三人で遊べるゲームも探そう!」
「い、いいんですか?」
「もちろん! リーリヤ詳しいんでしょ? あたし、そういうの詳しくないから、教えてほしいな」
「……っ、はい! 任せてください!」
リーリヤは、さっそくスマートフォンを取り出した。
「三人なら、協力型のアクションゲームもいいですし、パーティーゲームも……あっ、でも、センパイはじっくり遊ぶタイプのほうが好きかもしれないので……」
「うわ、もう候補出てきた!」
清夏は笑った。
「ほんと、好きなことになると止まらないねえ」
「……そ、そんなこと……」
「でもさ」
清夏は、少しだけ声を柔らかくした。
「昔からずっと頑張ってたんでしょ?」
リーリヤの指が止まった。
「……うん」
「じゃあ、これからはさ。プロデューサーが楽しめることだけじゃなくて、リーリヤ自身が楽しめることも、いっぱい増やしていこうよ」
「……わたし自身が……?」
「そ。プロデューサーと一緒に楽しむのも、リーリヤが楽しいからでしょ?」
リーリヤは、少し考えた。
そして、頬を赤くしながら、小さく頷いた。
「……はい」
清夏は満足そうに笑った。
「よーし! じゃ、ゲーム大会決定! あたし、絶対負けないからね!」
「ま、まだゲームも決まっていませんよ!」
「そこはリーリヤにお任せ!」
「も、もう……!」
リーリヤは困ったように笑った。
それから、スマートフォンのメモに、新しい項目を追加した。
『センパイと一緒に、新しいゲームを探す』
『清夏ちゃんも一緒に、三人で遊ぶ』
少し迷ってから、もう一つ。
『センパイと、これからもずっと遊ぶ』
最後の項目には、チェックをつけなかった。
これは、一度クリアして終わりにするクエストではない。
新しいゲームを見つけるたびに、また一緒に遊ぶ。
サービスが終わったら、次を探す。
寂しくなったら、隣に座る。
そして、できることなら―。
(……いつか、センパイに、わたしのことも……ゲームみたいに、攻略してほしいな……)
そこまで考えて、リーリヤはスマートフォンを伏せた。
「……っ、な、何を考えているんですか、わたし……!」
「ん? どしたの?」
「な、何でもないですっ!」
清夏が不思議そうに首を傾げる。
リーリヤは真っ赤な顔のまま、弁当を口に運んだ。
けれど、口元はずっと緩んでいた。
次のゲームは、もう決まっている。
センパイと一緒に探すこと。
センパイと一緒に遊ぶこと。
そして、クリアしても、また次へ。
終わらないクエストのように、二人の時間を増やしていくこと。
それが今のリーリヤにとって、何より楽しみなことだった。
※清夏さんが自分の担当じゃないプロデューサー呼ぶときって「Pっち」じゃない気がしたので、「プロデューサー」としました。
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