4月17日。時刻は朝六時。リィンはちょうど朝の鍛錬を終えて、帰るところでばったりとウィルと学生寮の前で鉢合わせた。
「ウィル、走ってきたのか?」
「おう。ちょっとばかしな。」
ちょっとと言ってもなぁ。きっとちょっとじゃないだろう。ウィルの身体能力はけた違いなのだ。
ウィルは首にかけていたタオルで汗を拭く。
「リィンも体、動かしてたのか」
ああと自らの刀を見やり、
「この一週間勉強で忙しかくて体が鈍ってきてるんだ。少しでも動かしとかないと」
「そうか、勉強か…」
「ウィルは授業寝てるけど大丈夫なのか?」
「…叩きこまれたんだよ。親に」
一瞬、目がうつろになったのでこれ以上、突っ込まないことにする。
ウィルバード・ルグィン。
ラマール州領邦軍総司令を務める黄金の羅刹、オーレリア・ルグィンの養子だと本人は隠しもせず言っていた。
言った後、マキアスが感情的になったが、ラウラのように軽く受け流していた。
自分が情けない。
「ラウラ、おはようさん。」
顔を上げれば、ラウラが近づいてくる。
「おはよう、ラウラ。」
「あ、ああ、二人ともおはよう」
とだけ言ってさっさと中に入ってしまう。
「…お前もか」
「てことは、リィンも?」
うなずく。
俺はアリサと、ウィルはラウラと。
「…朝食食べようか。」
「…そうだな。」
不仲というわけではないが、気まずい関係である。
「はあ、やっぱり学業は俺に似合わん。」
授業が終わった後、中庭を歩きながら、そうぼやく。
ただ座っていることが嫌いだ。
空を、風に吹かれるライノの花を見て
―そういえば、あいつもあの花が好きだったな―
「あら、ウィル君じゃない。」
ピンク色の髪を伸ばしている女の子がこちらに手を振る。
「よう、ヴィヴィ。何しているんだ?」
ヴィヴィと知り合ったのはほんの数日前なのだがその時の出会いはあまり語りたくはない。主に恥ずかしさで。
「ちょっと考え事よ。これからの学院生活どう過ごしていこうかな、って」
せっかくの二年間、楽しまなければ損じゃない?と笑って言う。
「ウィル君はどうするの?」
何が、と返すと
「だからこれからのことよ?何か部活でも入るの?」
これからねぇ。
「部活はやらないかな。やらなきゃいけないことがあるからな。」
「ふーん」
俺と彼女の間に沈黙が流れる。
「そのさ、やらなくちゃいけないことって楽しいの?」
楽しい?楽しくなんかない。
「それをやったら何か得られるの?」
何かを得られるなんて保障はない。
「じゃあ、なんでやるの?」
だって想像してみろよ。
「想像?」
もし、それをやりきって手に入れられるものすべて手に入れられたら、カッコいいだろ?楽しそうだろ?
「…それもそうだね!ありがとう、ウィル君!いろいろと話聞いてもらって」
「大した話じゃないけど」
「そんな謙遜しなくたっていいのよ。じゃあ、もうすぐ暗くなりそうだし、帰るね。」
スカートを手ではらい、立ち上がってじゃあね、と手を振る彼女を見送る。
「何がすべて手に入れられるだよ。そのすべてのために大事なもの捨てようとしてるんじゃないか。」
ヴィヴィちゃん登場。