天剣の渡鴉〜賢者の孫と退魔の侍〜   作:ΣiGMA

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クロードの街

 その後もアールスハイド王国へと向けて旅を続ける俺達はエルスからは馬車での移動を始めた。

 

 あの砂漠を徒歩で越えたのに比べると馬車での移動は非常に有難いものであった。

 

 例え乗り心地が宜しくなく腰に来ようとも、徒歩で移動するよりは何倍も良い。

 

 ちなみにエルスまでは俺と雫はヤマトの着物を着ていたのだが、これからの事を考えて服装を動きやすいものへと変えていた。

 

 雫はズボンに革靴といった感じであったが、こちらの方が動きやすいと以外にも好評だった。

 

 俺も草履から革靴へと履き替えていたが、確かに意外と動きやすい。

 

 そうしてエルスからポールさんの出身地であるイース神聖国を通過し、数日かけてようやくアールスハイド王国へと到着した。

 

 

「ここがアールスハイド王国か……すげぇ賑わっているな」

 

「ここは温泉地として有名なクロードの街です。領主であるクロード子爵は非常に領民に優しいお方でして。こうしてこの街が温泉地として賑わっているのもクロード子爵殿によるものなのです」

 

「温泉か……ヤマトでは至る所に銭湯があったが、まさかこの異国にも温泉があるなんて知らなかったな」

 

「せっかくなら入りたいですね」

 

「そう思って今日はこの街の宿に泊まる予定を立てておりました。今日はここで長旅の疲れを存分に癒して下さい……おや?何やら騒がしいですね?何かあったのでしょうか?」

 

 

 馬車から降りて宿へと向かおうとしていた俺達……しかし少し離れた所で何やら騒ぎがあるらしく、ポールさんが不思議そうに首を傾げた。

 

 

「何やら鎧のようなものを着た奴らが通行人に何かを呼びかけている様子だが」

 

「ちょっと聞いてまいりますね」

 

 

 そうしてポールさんは鎧を着た人達の所へと話を聞きに行った。

 

 そして戻ってきたポールさんは鎧を着た人達はこの街に駐在している騎士達で、何でもこの街の近くで数体の魔物が確認されたのだそうだ。

 

 それで観光客や街の人達に施設の中に入るよう促していた最中であったのだそうだ。

 

 

「魔物……まぁヤマトで言うところの妖魔か。せっかくなら討伐しに行くか」

 

「お疲れでは無いのですか?」

 

「伊達に鍛えてないですよ。それにここらで身体を動かしておかないと鈍ってそうで」

 

「そうですか……では私は先に宿に荷物を運び込んで待っておりますね。雫さんはどうしますか?」

 

「私も叢正さんに同行しようと思ってます」

 

「分かりました。それではお二人共、ご武運を」

 

 

 そうして俺と雫は先程の騎士の元へと話をしに向かった。

 

 

「すみません、ちょっと宜しいですか?」

 

「む?君達は誰かね?この街の観光に来ている者なら直ぐに宿の中に入りなさい。この付近で数体の魔物が確認され危険だからね」

 

「実は俺と彼女は祖国で魔物狩りを生業としている者でして、もし宜しければお手伝いしようかと思い声をかけさせて貰いました」

 

「なんだって?なるほど……魔物ハンターならば話が早い。君達さえ良ければ是非とも助力を願いたい」

 

「勿論です。それで場所は?」

 

「この道を進んだ先……そこに森があるんだが、今は数人の騎士達で抑えている状況だ」

 

「分かりました。それでは早速向かわせて貰います」

 

 

 俺はそう言うと雫に向けて手を差し伸べる。

 

 雫は迷わずその手を取ると、素早く俺に抱えられ、その両腕を俺の首に回した。

 

 

「なにを……?」

 

「この方が早いんで」

 

 

 そうして俺は一気にその場から駆け出した。

 

 行き交う人々の間を縫うように走り続け、そうして騎士から教えて貰った森へと向かう。

 

 そしてようやくその森の目の前に辿り着くとそこには既に数体の魔物が姿を現し始めており、騎士達が懸命にそれを相手にしていた光景が広がっていた。

 

 

「雫!」

 

「はい!急急如律令、〝鳴御雷(ナルミカヅチ)〟」

 

 

 雫の詠唱により空から数本の雷が魔物達に降り注ぐ。

 

 とはいえ本物の落雷に比べればかなり細いものだが、それでも威力は十分だった。

 

 

「下ろすぞ」

 

「はい、叢正さんもお気をつけて」

 

 

 雫は降りるやいなや自身を包むように結界を張り、それを確認した俺は残る魔物に向かって駆け出した。

 

 

「縮地・雲耀」

 

 

 習得している縮地の一つ〝雲耀〟にて熊の魔物との距離を一瞬で詰めた俺は、すれ違いざまにその首を愛刀である〝宵一文字〟で斬り捨てる。

 

 この刀は俺がかつて鬼を切り伏せた時にその褒美として賜ったもので、ヤマトでは数少ない稀少な〝神業物〟の一つとされる神刀である。

 

 よって熊の魔物の首を難無く刎ね飛ばし、しかしそれを確認することなく俺は次の魔物へと斬りかかった。

 

 

「キリがねぇな……」

 

 

 俺はそう呟くと、その場にしゃがみ込み刀を鞘へと納める。

 

 

「おい何をしてるんだ?!」

 

 

 そう騒ぐ騎士達の声が徐々に小さくなり、それに比例して俺の集中力は鋭く研ぎ澄まされていった。

 

 ゆっくりと刀を抜き、そして低く低く……左手で地面に触れ、なお低く体勢を変える。

 

 

「都牟刈御影流〝獣の型〟……」

 

 

 そしてこちらへと襲いかかって来る数体の魔物達を前に、俺は低い体勢のまま駆け出した。

 

 

「奥義、〝鏖殺千仭獣牙ノ太刀(おうさつせんじんじゅうがのたち)〟」

 

 

 騎士達の目には俺が目にも止まらぬ早さで襲い来る全ての魔物達を両断して行ったように見えただろう。

 

 これは常に縮地をし続けながら刀を振り払う技で、こうして数が多すぎる魔物相手に有効な多対一の技である。

 

 そうして刀を鞘へと納めた時には全ての魔物はその場で両断されていた。

 

 

「ふぅ……やっぱりここまでの長旅のせいで結構鈍ってんな。ここで魔物を相手に出来たのは良かった」

 

 

 しかし一息ついたところで不意に危険な気配を察知し、俺は直ぐにそちらへと顔を向けて構えを取る。

 

 その視線の先から出てきたのは獅子の魔物であった。

 

 

「嘘だろ……災害級だと?」

 

「おい、しかも通常よりもデカ過ぎねえか?」

 

 

 騎士達の言葉通り、俺がよく知る獅子よりも一回りも二回りもその魔物は大きかった。

 

 この大きさの魔物はヤマトでも見た事がない。

 

 

「こいつは……骨が折れそうだ」

 

 

 獅子の魔物は完全に俺を視界に捉えており、いつ襲いかかってやろうかと様子を探っているようだった。

 

 

「ネコ科のくせにデカくなりやがってよ……」

 

 

 俺は刀を抜くと〝一刀殺〟の構えを取る。

 

 そうして互いにタイミングを見計らってその場に数秒間の静寂が流れる。

 

 

 ミシッ────

 

 

「ここだ!」

 

 

 そうして俺は一瞬で獅子の魔物との距離を詰めて刀を振り下ろした。

 

 しかし────

 

 

「────!!?」

 

 

 驚くことに獅子の魔物はその図体からは想像出来ないほどの機敏な動きで俺の攻撃を躱した。

 

 

(しまっ────)

 

 

 一刀殺は文字通り一撃必殺の技……それ故に二の太刀は非ずこうして放った後に僅かなラグが生じてしまう。

 

 その隙を突かれあわや獅子の魔物に噛みつかれそうになるかと思われたその瞬間、こちらに大口を開けて向かってくる獅子の頭の横……その側頭部を何かが撃ち抜いた。

 

 それを受けた獅子の魔物はそのまま俺の前に落下し、そしてそのまま二度と動く事は無かった。

 

 俺は振り払おうとしていた右手をそっと下ろすと、そのまま刀を鞘へと納める。

 

 

「おーいそこの人ー!大丈夫でしたかー?」

 

 

 遠くからそう声を上げながら駆け寄ってくる人物……その容姿からして俺と同じ歳のようだが、まさか今のはこいつがやったのだろうか?

 

 

「魔物が出たって聞いて急いで駆けつけてみたら、こいつに食われそうになっているところを目撃して急いで魔法を撃ったんですよね。いやぁ間に合ってよかった」

 

 

 俺の目の前まで来てそう話す少年……彼は自身の魔法とやらが間に合ったことにほっと安堵している様子だった。

 

 

「流石は賢者様のお孫さんであるシン殿!見事な腕前でした!」

 

 

 後から駆け付けた騎士がそう話す。

 

 あまりの展開に呆気に取れていた俺だったが、とりあえず助けて貰った事には変わりないのでお礼を述べる。

 

 

「ありがとう、助かった。一か八かで刀を振ろうとしたが、下手すりゃ腕を失っても可笑しくなかった状況だった」

 

「それは何よりです。あ、俺はシン=ウォルフォードって言います。他の魔物達をあっという間に片付けたって騎士の人達から話を聞きました」

 

「俺は御影叢正、叢正って呼んでくれ。あと別に敬語なんて使わなくて構わねぇぜ?」

 

「そ、そうか?まぁとにかく無事で良かったよ。それよりもムラマサって……もしかして他所の国から来た人?」

 

「あぁ、ここから遠く東に離れたヤマトって島国から武者修行の為に来たんだ」

 

「ヤマト……聞いたことないな」

 

「それはそうだろうよ。アールスハイド王国とは何ら関わりが無かったし」

 

「なら知らなくて当たり前か。それよりも向こうにいる人ってお連れさん?ずっと心配そうにこっち見てるけど」

 

「ん?あぁ俺の許嫁だ」

 

「許嫁ぇ?!」

 

 

 雫の事を訊ねてきたシンにそう教えてやると、シンは面白いくらいにそんな反応を示した。

 

 そういえばその雫の隣に見慣れぬ青髪の少女がいるが……彼女はシンの連れなのだろうか?

 

 ともかく現れた魔物は全て討伐することが出来たということで宿に向かうとしようかな。

 

 

(それよりも……〝ウォルフォード〟か……)

 

 

 俺はシンの名前にふと思うところがあった。

 

 なので俺と同じく街へ戻ろうとするシンを呼び止める。

 

 

「シン」

 

「なんだ?」

 

「お前、もしかして〝賢者〟マーリン=ウォルフォードって人と知り合いか?」

 

「俺の爺ちゃんだけど?」

 

「そうか……そうだったか」

 

「……?」

 

 

 妙に納得した俺にシンは訝しげに首を傾げる。

 

 シンの名前には聞き覚えがあった……それはここまでの旅すがらポールさんから聞かせて貰った賢者と、そしてその孫についての話に出ていたその孫の名前が〝シン=ウォルフォード〟だったからだ。

 

 こんな所でその人物との縁が結べたってのはある意味で幸運だったと言えよう。

 

 

「シンはここに住んでるのか?」

 

「いや、いつもは王都だよ。ここには合宿で来てるんだ」

 

「合宿?」

 

「まぁ訳ありでね。今よりも強くならないといけないからさ」

 

「なる程……それは何時までなんだ?」

 

「明日には王都に帰るよ」

 

「それは偶然だな。俺達も明日王都に向かう予定なんだよ」

 

 

 まだこの街にいる予定ならば彼らが王都に戻ってきた時にでもポールさんにお願いして会わせてもらうつもりだった。

 

 しかし同じ日に王都へ行くというのならば願ってもない事である。

 

 

「是非良ければ王都に着き次第話をしたい」

 

「話?」

 

「あぁ、俺達は武者修行の為にここに来たと言ったな?そのきっかけがお前さんの爺さんの話なんだよ。だからそのお孫さんであるお前さんとも話がしてみたいと思ってさ」

 

「ふ〜ん……なら、明日にでも会ってみる?」

 

「は?良いのか?」

 

「ムラマサが良ければ。話は通しておくからさ。だから明日、シシリー……いや、クロード子爵邸に来なよ」

 

「有難い。ならご厚意に甘えようと思う」

 

 

 そうして俺は明日シン達と会う約束を取り付けその日は彼らと別れたのであった。

 

 その後その旨をポールさんに伝えると、ポールさんは〝それは良かったですね〟と喜んでくれていた。

 

 雫もまた術師としてマーリン殿やメリダ殿から話を聞きたいと思っていたらしく、何を聞こうか紙に纏め始めるのであった。

 

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