エカテリーナとの会話を終え、ようやく外出する事となったカガリとセラ……そんな二人が仲良さそうに手を繋ぎながら大聖堂の通路を歩いていると、その姿にすれ違う神子や神官達は揃って驚いた様子を見せていた。
ちなみにその場には当時は後に〝聖女〟と呼ばれるシシリー=フォン=クロードを狙って問題を起こした末に失脚する事になるアメン=フラーの姿もあったが、当時はまだエカテリーナを狙っていた事と、セラが幼かったという事もあってこの時は二人の事をただただ訝しげに見ているだけであった。
そんな中、どうしてもセラが部屋から出ているのが気になった神子の一人が彼女に声をかけた。
「お、お嬢様……今日は珍しく部屋から出ておられるのですね?いったいどちらへ行かれるのですか?」
「(カガリと一緒に街にお出かけするの)」
「────っ?!」
まさか返事が返ってくるとは思わず、またセラの声が頭の中に響いてきた事も相まって、話しかけてきた神子は自身の頭を抑えながら目を見開いてセラを見ていた。
「お、お嬢様、お話に?!そもそも頭の中にお嬢様の声が……!」
「(うん♪︎カガリから念話のやり方を教えてもらったの。これからはこうやってお話出来るよ♪︎それにこれだと操っちゃう事も無いから安心してね♪︎)」
「あ……はい……////」
話の最後に可愛らしくウィンクをしたセラに、この時の神子は思わず心の中で〝天使だ……〟と呟いてしまった。
それは未だ念話を切っていなかったセラにしっかりと伝わってしまい、その事にセラはカーッと顔を赤くさせた。
ちなみにセラの会話を聞く為にこの時のカガリもまた念話を使っていた為、その神子の心の声を聞いては同意するようにうんうん頷いていた。
これで二人にまだ恋心が目覚めてはいないというのだから驚きである。
そしてセラがウィンクをしたのはその神子だけでなく、近くにいた者達全てが見ていたので、その者達もまた思わずセラに見蕩れてしまうのであった。
「え、え〜と……その〝カガリ〟というのは、もしかして隣におられるその子の事でしょうか?」
「(うん、私の大切な人だよ♪︎)」
「えっ?!」
「んん???」
神子の質問に対しそう答えたセラ……彼女にしてみれば〝大切な友人〟という意味であったのだが、その言葉のせいで微妙に
しかしセラはその事に気付いておらず、嬉しそうにカガリの腕に抱き着いてニコニコしていた。
その事にカガリは気恥しそうにポリポリと頬をかいており、その様子に目の前にいた神子以外の者達は揃ってその甘ったるい雰囲気に思わず砂糖を吐いてしまいそうな思いに駆られてしまった。
中には壁や柱、床を殴り叩く者まで現れていた。
そうして神子と別れた二人は外へと向けて再び歩き始めた。
その出入り口では二人の護衛を言い渡された騎士達が、先程の様子にその場で酷く悶絶していたのだが、二人が近付いてくるのに気付くと直ぐに何事も無かったかのように姿勢を正した。
「初めましてお嬢様、そしてお嬢様のご友人様。私は本日お二人の護衛を務めさせて頂きます、名をポール=コンスタンティンと申します」
「宜しくお願いしますコンスタンティンさん」
「ポールで構いません。家名の方だと長すぎて呼びにくいでしょう?」
「分かりました。よろしくお願いしますポールさん」
「(ポールさん、今日は護衛を引き受けて下さりありがとうございます)」
二人して揃ってお辞儀をするカガリとセラ……その姿に彼らの背後にいた騎士達は思わず天を仰ぎ見てしまうのであった。
そうして騎士達を連れて街へと繰り出すカガリとセラ……特にセラについては初めて見る外の景色にそのテンションは最高潮にまで達しており、頻りに指を指してはそこにある物について〝あれは何か?〟とカガリに訊ねていた。
その度にカガリは嫌な顔一つせずに丁寧に教えてやり、そしてセラが興味を抱いた場所は全て連れて行ってあげていた。
セラについても可愛らしい服に目を奪われたり、立ち寄った喫茶店では初めて見るケーキに目を輝かせたり、それを食べてはその美味しさに思わず顔を綻ばせたりしていた。
その様子にカガリは〝連れて来て良かったな〟と沁み沁みとそう思い、騎士達は必ずこの様子を後で詳細にエカテリーナへと伝えようと心にそう誓ったのであった。
そして楽しい時間はあっという間に過ぎ、そろそろ帰らなければならない時間が差し迫っていた。
せっかく初めて外出をしたのだから、セラに何か記念となるものを買ってやろうと思ったカガリ────彼はたまたま見かけたアクセサリーの露店の前で、どれが良いのか騎士達と相談をしていると、それを後ろで待っていたセラはふとある方向が気になりそちらへと顔を向けた。
そこは建物の間にある裏路地で、セラはどうにもそちらの方に何があるのか気になってしまった。
そして申し訳ないと思いつつもカガリと騎士達を置いてフラフラとそちらへと向かってしまう。
カガリがその事に気付いたのはセラがそちらへと向かってから数分後の事であった。
「あれ……セラは?」
ようやくセラの姿が消えている事に気が付いたカガリはキョロキョロと周囲を見渡し始める。
それにより騎士達もその事に気が付き、慌てた様子でセラを呼びかけ始めた。
「お嬢様!セラお嬢様!」
「セラお嬢様、いったい何方におられますか?!」
「セラー?どこに行ったんだセラ?」
今しがたセラの為に買ったアクセサリーを鞄にしまいながら、カガリは騎士達と手分けしてセラの捜索を始めた。
カガリが騎士の一人を連れながら探し回っていると、ひとつの裏路地に目が止まる。
(まさか……な……)
〝まさか〟とは思ったもののどうしても裏路地の方が気になる……カガリは先へと進もうとしていた騎士を呼び止めると、その騎士と共に二人で裏路地へと入って行った。
そして暫く進んでいると、前方からセラのこんな悲鳴が聞こえてきた。
「やめて!触らないで!離してーーーーー!!!!」
「セラ?!」
「あっ、ちょっと君?!」
声がした方向へと急いで駆け出すカガリ……その後を一歩出遅れながら共に来ていた騎士も駆け出す。
そして暫く走り続けた末に、カガリは数人の男達に囲まれ震えているセラの姿を見つけた。
そしてその光景を見たカガリは無意識のうちに杖の状態に戻した篝火を手にして男達に飛びかかっていた。
「セラから離れやがれぇぇぇ!!!!」
カガリの怒りに呼応してか、篝火はまたその姿を変え、そこには独立して浮遊する球体状の篝籠と棒の状態となった篝火の姿があった。
そしてそれを手にしていたカガリは無我夢中でその球体を男達に向けて振り抜いた。
「「「ぐわぁぁぁぁぁ!?」」」
カガリが手にしていた棒を振り払った事で、独立して浮遊していた球体状の篝籠がそれに追従する形で男達へと襲いかかる。
そしてそれを受けた男が隣にいた男の身体にぶつかり、その勢いに二人揃ってまた次の男へとぶつかる……そうして重なるようにして三人の身体は飛んでいき、諸共その先にあった壁に激突すると、その勢いにより壁に穴が空きガラガラとレンガは崩れ落ちた。
そして篝籠を飛ばしたカガリはそのままセラの前へと着地すると、他の男達がいるのにも関わらずセラへと声をかけた。
「大丈夫かセラ?!」
「か、カガリぃ……」
カガリが助けに来てくれた事で安心したセラはそのまま彼へと抱きつくと、その場でわんわん泣き出してしまった。
「チッ……このガキ!いきなり邪魔してきてよくも俺達の仲間を……!」
「おい、こいつも連れてこうぜ?妙な魔道具を持ってるし、魔道具だけでも高値で売れそうだ」
「ガキとセットなら更に高値で売れるだろうよ」
ニヤニヤとしながら二人へと近づいて行く男達……しかしそんな彼らの前にカガリに追い付いた騎士が立ちはだかる。
「教皇様のお膝元であるこの街でこのような狼藉……この私ポール=コンスタンティンが成敗してくれよう」
カガリと共に来ていた騎士……ポール=コンスタンティンはそう言うと綺麗な動きで剣を抜き放った。
「チッ……まさか騎士様がいるとはな。今日はとことんついてねぇぜ」
「でもこっちは三人……三人がかりで襲えば負けやしねぇって」
「たった一人で来たことを後悔しながら死ぬんだな!」
「なんと愚かな……普段から誠実に鍛錬を積んでいるこの私が、貴様ら如き下郎共に負けると思うてか!」
ポールはそう言うと一斉に襲いかかってくる男達を一閃のもとに斬り伏せてみせた。
その剣速は速く……そばで見ていたカガリの目には全く見えなかった。
それは対峙していた三人の男達も同様で、気が付いた時には斬られていた事に三人は驚愕の目をポールへと向けていた。
「安心しろ、急所は避けておるし、致命傷にすらなってはおらん。今から応援の者達を呼ぶのでな、神妙にお縄につくと良かろう」
そうしてポールは剣を鞘へと納めると、未だに涙を流すセラと、その背を撫でながら宥めるカガリの前へとしゃがみ込んだ。
「セラお嬢様……今回、貴方は我々から離れ一人で行動をなさった。その結果このような悪漢共に襲われた。貴方の身に何かあれば、悲しむのは教皇猊下なのですよ?今回のセラお嬢様の行動は迂闊であったと言わざるを得ません……その事、よく理解されましたか?」
その言葉にセラは無言ながらコクリと頷いた。
その事にポールは満足そうに頷いたあと、また厳しい表情へと変え、今度はその顔をカガリへと向けた。
「君も、セラお嬢様が心配で、そして悲鳴を聞いて駆けつけようとする気持ちは分かるが、この私がいるのだから私を先頭に置くべきだった」
「今回は何とか出来たから良かったものの……もしこの者達に怪我を負わされたらどうする?下手をすれば死んでいたかもしれぬのだぞ?」
「そうなればセラお嬢様の心に深い傷が残り、セラお嬢様はそのせいで二度と笑顔を浮かべることは出来なくなっていただろう」
「あの時、裏路地へと入る為に先へと進もうとしていた私を呼び止めたのは褒められるべき点ではあるが、これについてはセラお嬢様同様迂闊であったと言わざるを得ない」
「君もその事をよく理解出来るな?」
「すみません……」
ポールの言葉にカガリは心から申し訳なさそうな表情で謝罪の言葉を述べた。
ポールはそんなカガリとセラの頭をそれぞれの手で撫でると、厳しい表情を優しい笑みへと変える。
「とはいえ、お二人共無事で本当に良かった」
その言葉にセラは再び泣き出し、カガリもまたそんなセラを大切そうに抱き締めるのであった。
今回、セラが危うく悪漢達に攫われそうになった事は直ぐにエカテリーナの耳に入る事になった。
エカテリーナはそれを聞いて怒りを露にしたが、騎士ポールによって無事にお縄についたと聞いてホッと胸を撫で下ろした。
そしてその功績によりポールはその後エカテリーナの勅命によりセラの専属の護衛へと就任する事になる。
そんなポール達に連れられて無事にイース大聖堂へと送り届けられたカガリとセラ……二人の帰りを伝えられたエカテリーナは足早に二人へと駆け寄り抱き締める。
それによりセラは再び泣き出し、その隣ではカガリは悔いるように歯噛みしていた。
そしてカガリはエカテリーナから離れると、その場で深々と頭を下げた。
「今回、俺の不注意でセラを危険な目に遭わせてしまい、誠に申し訳ありませんでした」
カガリがそう謝罪を述べると、エカテリーナの腕の中にいたセラが首を振ってそれを否定する。
「(違うの……私が一人で勝手に行っちゃったから……だからカガリのせいじゃない……)」
けれどカガリはセラを危険な目に遭わせてしまった事が自分でも相当許せないのか、その頭を上げることは無かった。
その事にセラは涙を流しながらカガリに言う。
「(顔を上げてカガリ……顔上げてよぅ……)」
「……」
「(どうして何も言ってくれないの?もしかして……私の事、嫌いになった?)」
「違う!」
カガリに嫌われてしまったのかと不安になるセラに、カガリはようやく顔を上げてそれを否定した。
そしてカガリは握った自身の拳を見ながらこう続ける。
「俺が守らなきゃならなかった……俺が守ってやらなきゃ……そうしたら、今頃は〝楽しかった〟で終われたはずなんだ……」
そうして血が出そうなほど下唇を噛むカガリに、エカテリーナは微笑みながらこう言った。
「それなら今よりもっともーっと強くならなくちゃいけないわね。でも、これ以上自分を責めちゃ駄目よ?貴方はまだ子供……出来ないことなんて沢山あって当然なの。大切なのは今日出来なかった事を出来るようにする為にはどうすれば良いのか考える事よ」
そうしてエカテリーナは優しくカガリの頭に手を置いた。
「貴方ならきっとセラの事を守れるようになれるわ。だから〝これからは会わない方が良い〟だなんて思っちゃ駄目よ?」
「────っ?!」
まるで自身の心の中を見透かしているかのようにそう話すエカテリーナに、カガリは勢いよくその顔を上げて彼女の顔を見る。
それに対しエカテリーナはまたニコッと笑うと、腕に抱いていたセラを自身の前に出してこう言った。
「私としてはこれからもセラと一緒に遊んでくれると嬉しいわ♪︎セラもそう思うでしょう?」
「(うん……)」
そう返事をして懇願するような目をカガリへと向けるセラ……それに対しカガリは暫く呆気にとられた後、バツが悪そうな顔で自身の頬をポリポリとかいた。
そして自身の鞄からひとつの袋を取り出すと、それをセラへと差し出す。
「はい、これ」
「(……?)」
「今日の初めての外出の記念に、セラへのプレゼント」
「(────っ!!)」
「あらあら〜」
自身へのプレゼントをカガリから差し出され驚くセラと、それを見て微笑ましそうにするエカテリーナ。
そして袋を受け取ったセラが中を確認してみると、そこには白色の綺麗な石が付いたペンダントが入っていた。
それを取り出し光にかざしたセラはその美しさに思わず見蕩れてしまう。
そんな彼女の前でカガリは恥ずかしがりながらもそのペンダントについて話す。
「最後に立ち寄った露天商で……
最後にそう付け加え、背後にいたポールから小声で〝それは言わなくても良い事だぞ〟と苦言を呈されるカガリ。
しかし対するセラはすっかり白蝶貝のペンダントに目を奪われており、カガリの最後の余計な一言は耳に入っていなかった。
そして自分の髪色に似ていると言われたセラは、そのペンダントの石と自身のホワイトブロンドの髪を見比べ、嬉しそうに笑みを浮かべる。
その表情にカガリは思わず見蕩れてしまい、自身の中に不思議な感情が湧くのを感じたが、その感情が何なのかこの時のカガリには分からなかった。
そしてそんなカガリに対し、セラは手にしていたペンダントを彼へと差し出す。
「ん?」
「(ん!)」
何故そんな事をするのか分からなかったカガリ……しかしセラは更にペンダントを突き出して何かを懇願する素振りを見せる。
困ったカガリがセラの背後にいたエカテリーナへ顔を向けると、エカテリーナは無言で自身の首にペンダントを付けるかのようなジェスチャーをする。
(………………あぁ)
ようやくセラの行動が何なのか理解したカガリはそれを受け取ると、自身に背を向けたセラに背後からそのペンダントを回し付けてあげた。
カガリにペンダントを付けて貰ったセラは自身の胸元にある白蝶貝の石を手に取り再び嬉しそうな表情をした後、不意にカガリへと向き直ってからその唇を彼の頬へと近づけ────
チュッ♡
────と、口付けをしたのであった。
その事にカガリはその場で身体が固まる。
カガリの頬に口付けをしたセラは気恥ずかしくなったのか、頬を赤らめながら踵を返すと、一旦カガリへと顔を向けて手を振ってからパタパタと中へと入って行ってしまった。
それを見ていたエカテリーナ。
「あらあら〜♡」
セラの行動に思わず恋する娘のおませな行動を見た時の母親のような反応をしながらカガリへと顔を向ける。
「これはもしかして、二人に春が来たのかしら?ねぇカガリ君♪︎…………カガリ君?」
呼びかけても反応が無い。
エカテリーナは肩を指で叩いたり、目の前で手を振ってみたりしたのだが、一向に反応を示さないカガリに首輪を傾げる。
そしてよくカガリを見て、彼の状態に思わずこう口にした。
「あらやだ……立ったまま気絶してるわ、この子……」
その言葉に周囲でその様子を見ていた者達から同時に〝はぁ?!〟という声が上がり、ポールは必死にカガリを起こそうと声をかけるのであった。