プロローグ
セラの15歳の生誕祭が行われた翌日……二人はエカテリーナに呼び出され、その公務室へと足を運んでいた。
「失礼します」
「どうぞ」
カガリがそのドアを開けると、そこにはエカテリーナの他にセラの護衛騎士であるポールと、そしてカガリの祖父であるカイゼルの姿があった。
この三人の姿にカガリとセラは顔を見合せ、恐る恐る室内へと足を踏み入れた。
「よく来たわね。どうぞ座って頂戴」
そう促されカガリとセラが並んでエカテリーナとカイゼルの向かい側へと腰を下ろすと、それを合図にエカテリーナが先に口を開いた。
「今日二人を呼んだのはね、二人にある提案をしようと思っての事なのよ」
「提案……ですか?」
「ええそうよ。それではカイゼル様、宜しくお願いします」
「かしこまりました」
カイゼルへとバトンタッチするエカテリーナに、カイゼルは恭しくそう言ってからカガリ達へと顔を向けた。
「二人共、今日まで二人は互いに自身の力や体質を……そして魔法についてずっと鍛錬を続けてきた。今の二人の実力を鑑みるに、もはやこの国で二人を教えられる者はおらぬと言っても過言では無いだろう」
そう話すカイゼルにカガリとセラは揃って照れてしまう。
だが次のカイゼルの一言で二人はその居住まいを正す事になる。
「しかしそれはあくまでもこの国においての話だ」
そう話すカイゼルの目は鋭く、厳しいものであった。
その事にカガリとセラはその場で気を引き締め居住まいを正す。
「このイース神聖国は大国じゃ……しかし世界には他にも大国と呼ばれる国がいくつか点在しておる。その中には魔法に関して他の追随を許さぬ国もある。そのうちの一つが〝アールスハイド王国〟じゃ」
「アールスハイド……」
「王国……」
「そうじゃ。実はそのアールスハイドにてとある噂話があってのぅ……何でもその国にてかつて〝英雄〟と称された二人の人物がおり、その孫がアールスハイド高等魔法学院へと入学したというものじゃ」
「それだけでは無い……アールスハイドにおいて過去に現れた〝魔人〟という脅威。それを打ち倒した〝賢者〟と〝導師〟。この二人についてはお前達もよく知っておろう」
「〝賢者〟マーリン=ウォルフォード様、そして〝導師〟メリダ=ボーウェン様……だよな?」
「そして教皇様のお師匠様で、かつて教皇様と共に旅をした方々だと……」
「その通り。そんなお二人のお孫さんが通うアールスハイド高等魔法学院にて、新たな魔人が現れたそうじゃ」
「何だって?」
祖父の話にカガリは眉を顰めながらそう返した。
「数年ぶりの魔人の出現ということでその場は混乱に陥ったそうじゃが、偶然そこに居合わせた賢者様のお孫さんによってその魔人は打ち倒されたらしい」
「「……」」
「それを聞いて儂と猊下はな、お前達をアールスハイドに留学させようと思ったのじゃよ。留学の件については猊下から向こうの国王陛下に連絡を入れればそれで良いのじゃろうが、兎にも角にも先ずはお前達の意志を聞いてみる事にしようという事で、今回二人を呼んだと言うことじゃ。どうじゃ……アールスハイドへと行ってみぬか?」
その誘い出にカガリとセラは再び顔を見合わせる。
そんな二人に今度はエカテリーナが声をかけた。
「無理にとは言わないわ。でも、先生達のお孫さんが通う学校に貴方達も通えば、その見聞を更に広める事に繋がると思うの。それに、カガリ君の体質やセラちゃんの力について、更に分かることがあるかもしれない」
「「────!!」」
「だから私としてはせっかくなら行ってみた方が良いと思うのだけれど……どうかしら?」
三度顔を見合わせるカガリとセラ……しかしその表情は困惑したものではなく、互いに互いの意志を確認し合うかのような表情であった。
そして二人は頷き合った後、揃ってその顔をエカテリーナ達へと向け、そしてハキハキとした声でこう言った。
「「行きます、アールスハイドへ!」」
「そう……分かったわ」
二人の返事にエカテリーナは満足そうに笑みを浮かべると、立ち上がって手紙を書き始めた。
その間、カイゼルから二人にもう一つ話をされる。
「向こうでの生活の為に家を一件購入した。気にするな、儂からの選別じゃ」
「随分と準備が良いな?もし断ってたらどうするつもりだったんだよ?」
「別に留学以外でも一度は他国を見に行かせようと思っておったのでな、何も問題は無い。まぁディオストーチ家のような大きな屋敷では無いが、二人やポール殿、また二人の世話役として神子やうちの使用人が住むには十分な大きさじゃ。今も二人は我が家で同棲しておるし、問題はなかろう?」
「まぁそうだけど……なんか至れり尽くせりで申し訳ねぇな」
「カガリの言う通りです。何から何まで本当に……」
「構わぬ。お前達が勉学に励めるように整えただけじゃよ。ポール殿も、二人のこと、よろしく頼むぞぃ?」
「はっ!この身に代えましても!」
そうして二人のアールスハイドへの留学が決まった。
その後エカテリーナの手紙により二人が学院へ留学する旨を伝えられたアールスハイド国王であるディセウム=フォン=アールスハイドは、快くそれを迎え入れると手紙にて返した。
そしてそれから数日後……二人は遂にアールスハイドの地へと降り立ったのだった。