こういう話ばかり書いているから、なかなか本編が進まないんだと分かってはいるのですが……やっぱり、こういうお話が好きなんですよね。
読者の皆様には、本当に申し訳ありません。
京都に到着した私たちは、さっそく観光を始めることにしました。
駅を出て少し歩くと、目の前には昔ながらの建物が立ち並ぶ、風情ある街並みが広がっています。
石畳の道に、木造の町家。少し先には、歴史を感じさせる寺社の姿も見えます。
「おお~~! これが京都かぁ! いいねぇ、いいねぇ! なんだかツクヨミの街並みを思い出しちゃうよ!」
隣を歩くヤチヨは、辺りをきょろきょろと見回しながら、実に楽しそうな声を上げました。
「確かに、ツクヨミの景観づくりにも参考になりそうですね」
「おっ、アリスもそう思う? いや~、これは創作意欲が刺激されますなぁ!」
「ふふっ。ですが、今日はお仕事ではありませんよ?」
「よよよ……。分かってますとも! 今日はヤッチョのためのご褒美イベントだもんね!」
そう言って、ヤチヨは再び街並みへと視線を向けました。
今回の旅行先に京都を選んだのは、ツクヨミの世界観にも通じる和風の景観を楽しめることに加え、歴史ある建物や食べ物など、見てみたいものがたくさんあったからです。
それに、八千年もの間、普通の人間のように外を歩いたり、食べ物を味わったりすることができなかったヤチヨには、こうした何気ない観光そのものを楽しんでもらいたいと思っていました。
「おい、二人とも。いつまで立ち止まっているんだ? せっかく来たんだから、さっさと先へ進むぞ!」
足元から聞こえてきた声に視線を落とすと、白い子犬姿のFUSHIが、こちらを見上げていました。
「ふふっ、そうですね。FUSHIも準備万端のようです!」
「当然だ! 僕だって楽しみにしていたんだからな!」
「それじゃあ、次の目的地へレッツゴー!」
ヤチヨの元気な掛け声とともに、私たちは再び歩き始めました。
しばらく街を散策していると、抹茶を使った甘味を扱うお店が目に入りました。
店先には抹茶ソフトクリームの写真が飾られており、見ているだけでもおいしそうです。
「アリス、あれ食べてみない?」
「抹茶ソフトクリームですね。アリスも興味があります!」
「おおっ、いいねぇ! それじゃあ、さっそく買いに行こう!」
私とヤチヨは、それぞれ抹茶ソフトクリームを購入しました。
「わぁ……! これが本物の抹茶ソフトクリーム……!」
ヤチヨは手元のソフトクリームを眺め、どこか感慨深そうにしています。
「ヤチヨ、どうしましたか?」
「いやぁ、こうして実際に手に持って、匂いを感じて、味わえるっていうのはやっぱりいいものだねぇ。ツクヨミの中でも食べ物は楽しめるけど、見た目だけだからね~。こういう感覚は現実ならではだからさ!」
そう言って、ヤチヨは一口食べました。
「ん~~! おいしい! いやぁ、ヤッチヨは果報者なのです!」
その笑顔を見て、私も自然と嬉しくなりました。
八千年もの間、ヤチヨは普通の人間のように食事を楽しむことができませんでした。こうして同じものを食べ、そのおいしさを一緒に分かち合えることが、私にとっても何より嬉しいことです。
「アリス、そっちもおいしい?」
「はい! とてもおいしいです!」
「ふへへ、よかったな。二人とも満足そうじゃないか」
FUSHIも、私たちの様子を見て満足そうにしています。
「FUSHIも食べますか?」
「僕はいい。それより、二人とも溶ける前に食べちまえよ!」
「ふふっ、そうですね」
私たちはソフトクリームを食べ終えると、再び京都の街を散策しました。
途中で見つけたお店では、焼きたての煎餅や団子も購入しました。
「おお~! こっちもおいしそうだねぇ!」
「はい! どれも魅力的で、目移りしてしまいます」
「それじゃあ、みんなで分けて食べようか!」
「僕は食べなくてもいいぞ。二人で楽しめばいい」
「そっか。じゃあ、無理に勧めるのも野暮だね!」
ヤチヨはそう言って、私と一緒に団子を味わい始めました。
甘いものを食べながら、気になったお店を覗いたり、見慣れない景色に足を止めたり。
特別な目的がなくても、こうして三人でのんびり歩いているだけで楽しいものです。
やがて私たちは、近くにあったお寺を訪れました。
境内は落ち着いた雰囲気に包まれており、周囲には長い年月を経た建物や木々が並んでいます。
「うわぁ……。ここも素敵な場所だねぇ」
ヤチヨは境内を見渡しながら、ゆっくりと歩いていました。
「こういう場所ってさ、ただ古いだけじゃないんだよね。ここで暮らしていた人たちや、訪れた人たちの思い出が、ずっと積み重なっているんだと思うと……なんだか不思議な気持ちになるよ」
「そうですね。長い時間をかけて、たくさんの人たちがこの場所を大切にしてきたのでしょうね」
「うんうん。そう考えると、今こうして私たちがここにいることも、いつか誰かの思い出になるのかもしれないね」
その言葉を聞いて、私はこれまでの旅路を思い返しました。
八千年という長い時間の中で、私たちは数え切れないほどの場所を訪れ、たくさんの人たちと出会ってきました。
そして、そのたびに別れも経験してきました。
けれど、こうして今もヤチヨとFUSHIが隣にいてくれます。
それだけで、私はとても幸せです。
「……アリス?」
「はい?」
「えへへ。今日は本当にありがとうね。ヤッチョ、とっても楽しいよ!」
ヤチヨはいつもの明るい笑顔を浮かべていました。
「どういたしまして。アリスも、二人と一緒に旅行ができて嬉しいです」
「僕も、まあ……悪くない旅だと思うぞ」
「おっ、FUSHIも楽しんでくれているんだね!」
「べ、別にそういう意味で言ったわけじゃないぞ!」
「ふふっ。ありがとうございます、FUSHI」
そんなやり取りを交わしながら、私たちはしばらく境内の景色を楽しみました。
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お寺を後にした私たちは、さらに京都の街を歩き続けました。
日中の暖かな日差しが石畳を照らし、観光客で賑わう通りには、あちらこちらから楽しげな声が聞こえてきます。
そんな中、ふと視線の先に、少し気になる姿を見つけました。
「……あれは?」
そこにいたのは、華やかな着物を身にまとった一人の女性でした。
綺麗に結い上げられた髪に、鮮やかな色合いの着物。顔には白粉が施され、帯や髪飾りまで丁寧に整えられています。
ゆっくりとした所作で歩くその姿は、まるで時代劇の中から出てきたかのようでした。
「舞妓さん、かな?」
ヤチヨも気づいたようで、私と同じ方向を見ています。
「舞妓さん……?」
「うん! 京都の伝統的な芸妓文化を担う人たちだね。あの華やかな着物も、独特の髪型も、とっても素敵だよねぇ」
「なるほど……」
私は思わず、その姿を目で追っていました。
着物の鮮やかな色彩や、歩くときのしなやかな動き。どれも普段の生活ではなかなか目にすることのないもので、非常に興味深いです。
特に、立ち振る舞いの美しさには目を奪われてしまいました。
「……綺麗ですね」
思わず、そんな言葉が口からこぼれました。
「…………」
「アリス?」
「はい?」
「いやぁ、ずいぶん熱心に見ているなぁと思ってね?」
ヤチヨの声に振り向くと、いつもの笑顔を浮かべている……ように見えました。
ただ、どことなく頬が膨らんでいるような気もします。
「はい。とても綺麗な方ですね。あの着物も素敵ですし、所作にも品があります。アリスもあんな風に着物を着てみたいです」
「へぇ~~~……。ふぅ~~~ん……」
「ヤチヨ?」
「なんだいなんだい? そんなにじーっと見ちゃってさぁ。ヤッチョが隣にいるのに、ずいぶん夢中じゃないですか~」
「え?」
ヤチヨは笑顔のまま、私の顔を覗き込んできました。
しかし、その声にはほんの少しだけ不満が混じっているように聞こえます。
「もしかして、ヤッチョはお邪魔だったかな~?」
「そんなことはありません!」
「本当かなぁ? さっきから舞妓さんのことばっかり見てたような気がするけど?」
「それは、珍しいものを見たからです。決してヤチヨを忘れていたわけではありません」
「よよよ……。ヤッチョ、まさか舞妓さんに負けてしまうとは……」
そう言って、ヤチヨはわざとらしく肩を落としました。
「ヤチヨ、どうして悲しそうなのですか?」
「いやぁ、だってさぁ。せっかくアリスと一緒に旅行に来たのに、アリスの視線を独り占めしている人がいるんだもん」
「……?」
私は少し考えました。
どうやらヤチヨは、私が舞妓さんに見とれていたことが気になっているようです。
「ヤチヨ」
「ん~?」
「アリスが一番一緒にいたいと思っているのは、ヤチヨですよ?」
「…………」
ヤチヨの動きがぴたりと止まりました。
「……え?」
「アリスはヤチヨと一緒に京都を観光するために来ました。舞妓さんは素敵でしたが、アリスにとって一番大切なのはヤチヨです」
「…………」
「ヤチヨ?」
「……うへぇ。そういうことをさらっと言っちゃうんだから、アリスはもう……」
ヤチヨは顔を少し背けました。
その耳がほんのり赤くなっているように見えます。
「よよよ……。これはヤッチョの負けですなぁ」
「勝ち負けがあったのですか?」
「ありましたとも! そして、今のでヤッチョの完敗です!」
そう言って、ヤチヨは私の手をぎゅっと握りました。
「それじゃあ、今日はもっといっぱい私のことを見てもらわなくちゃね!」
「はい。もちろんです!」
「ふへへ。よろしい!」
少し離れたところで、FUSHIが呆れたようにこちらを見ていました。
「……お前ら、何をやってるんだ?」
「なんでもないよ~! ね、アリス!」
「はい! なんでもありません!」
「そうかよ……。まったく、騒がしい小娘たちだな」
FUSHIはそう言いながらも、それ以上何かを言うことはありませんでした。
私たちはもう一度、舞妓さんの姿を遠くから眺めてから、次の目的地へと向かいました。
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その後も、私たちは京都の街をたっぷりと満喫しました。
お土産屋さんに立ち寄って、綺麗な和雑貨を眺めたり、伝統工芸品の展示を見たり。
ヤチヨは特に、細かな装飾が施された小物に興味津々でした。
「おお~! これ、すごく綺麗だねぇ! ねえねえ、アリス。これなんかツクヨミのアバター用アクセサリーにしたら面白そうじゃない?」
「確かに、装飾の形状や色使いは参考になりますね」
「でしょでしょ! いやぁ、京都は創作の宝庫ですなぁ!」
「ヤチヨ、またお仕事のことを考えていますよ?」
「あっ……。いけないいけない! 今日はお仕事禁止だった!」
「ふふっ」
ヤチヨは少し照れたように笑い、手に取っていた小物を元の場所へ戻しました。
その後は、気になったお店をいくつか回りながら、京都ならではのお菓子やお土産を選んでいきました。
「これは持って帰りたいねぇ。あっ、こっちもいいなぁ!」
「ヤチヨ、あまり買いすぎると荷物が大変になりますよ?」
「むむっ……。それは悩ましい問題ですなぁ」
「だったら、本当に気に入ったものだけにしておけ。後で持ちきれなくなっても、おいらは知らないぞ」
「うへぇ、FUSHIは厳しいなぁ」
「当たり前だ! 旅先で欲しいものを全部買っていたら、きりがないだろ!」
「ふふっ。FUSHIの言う通りですね」
「むむむ……。では、厳選して選ぶとしますか!」
そんな賑やかなやり取りをしながら、私たちは少しずつ帰りの時間が近づいていることに気づき始めました。
空を見上げると、太陽はだいぶ傾き、街並みを柔らかな夕日の色に染めています。
「そろそろ、今日の観光はおしまいにしましょうか」
「おお、もうそんな時間かぁ。いや~、楽しい時間はあっという間だねぇ!」
「はい。まだ見ていない場所もありますが、今日は十分に楽しめたと思います」
「そうだな。あまり欲張っても仕方ないだろ。続きはまた今度にすればいい」
FUSHIの言葉に、ヤチヨも大きく頷きました。
「そうだね! 京都は逃げないし、また来ればいいんだもんね!」
「はい! 次に来たときは、今日見られなかった場所も巡りましょう!」
「おっ、それはいいねぇ! 次の楽しみができちゃった!」
ヤチヨは嬉しそうに笑い、私の手を握り直しました。
その手の温かさを感じながら、私は今日一日を振り返ります。
初めて見る京都の街並み。
おいしい食べ物。
歴史ある建物や、伝統を受け継ぐ人たちの姿。
そして何より、ヤチヨとFUSHIが楽しそうにしている姿。
どれも、私にとって大切な思い出になりました。
「ヤチヨ」
「ん? なんだいなんだい?」
「今日は楽しんでいただけましたか?」
「もちろん! もう大満足だよ! こんなに素敵な一日を用意してくれて、本当にありがとうね、アリス」
「どういたしまして。アリスも、とても楽しかったです」
「ふふっ。ヤッチョは本当に果報者なのです!」
「僕も、まあ……悪くなかったぞ」
「おやおや? FUSHIも楽しんでくれたんだね?」
「だから、そう言ってるだろ!」
「ふふっ。よかったです」
夕暮れの京都を、私たちは並んで歩いていきます。
今日という一日が、ヤチヨとFUSHIにとって素敵な思い出になったのなら、これ以上の報酬はありません。
勇者アリスのご褒美イベントは、こうして大満足のうちに一日目を終えるのでした。