月に寄り添う勇者   作:Katarina T

8 / 8
少し濃い内容が続きましたので、ちょっと、箸休め回


8000年ぶりの「「いただきます!」」

「……そうだ、アリス」

 

「はい? どうしましたか?」

 

ふと思い出したように声をかけてきたかぐやに、私は顔を向けました。

 

「さっきの自己紹介なんだけど……」

 

「自己紹介、ですか?」

 

「うん。私、最後に『かぐやだよ』って名乗ったでしょ?」

 

「あっ、はい! 確かにそう言っていました!」

 

「もちろん、それも私の名前だよ。だけど……」

 

かぐやは少しだけ言葉を選ぶように間を置き、それから柔らかく微笑みました。

 

「これからは、今までどおり『ヤチヨ』って呼んでほしいな」

 

「ヤチヨ、ですか?」

 

「うん。かぐやって名前は私にとってすごく大事なものだけど、今の私は月見ヤチヨだから、そのことを忘れない様にお願い。」

 

「……分かりました!」

 

私は大きく頷きました。

 

「これからもよろしくお願いします、ヤチヨ!」

 

「ふふっ。こちらこそ、よろしくね」

 

かぐや、いえ、ヤチヨは嬉しそうに笑いました。

 

どうやら、これで呼び名についてのクエストも無事に達成です!

 

……さて。

 

「そういえば、ヤチヨ。お腹は空いていませんか?」

 

「え?」

 

「身体を取り戻したばかりですし、何か食べた方がいいと思います!」

 

そう言ってみたものの、ヤチヨは少し不思議そうに首を傾げました。

 

「お腹……。そういえば、今の身体って食事が必要なの?」

 

「はい! ちゃんと人間と同じように食べられるはずです。擬態機能のシステムも確認しましたが、消化器官なども問題なく再現されています!」

 

「そっか……。そっかぁ」

 

ヤチヨは自分のお腹にそっと手を当てました。

 

「……ご飯、食べられるんだね」

 

その声は、どこか感慨深そうでした。

 

考えてみれば、最後に食事をしたのは八千年以上も前のこと。

 

それからずっと、ヤチヨはウミウシの身体で過ごしてきたのです。

 

食べ物を口に運ぶことも、味を楽しむこともできませんでした。

 

そんな彼女が、今はもう一度食事を楽しめる。

 

そう考えると、私まで嬉しくなってきます。

 

「よしっ! それじゃあアリス、これからご飯を作ってきます!」

 

「待って!」

 

ところが、ヤチヨがすぐに声を上げました。

 

「ここは私に任せてよ。アリスには色々とお世話になったし、せっかく身体も戻ったんだから、最初のご飯くらい私が作りたいな」

 

「ヤチヨがですか?」

 

「そう! こう見えても、昔は料理だってしていたんだから!」

 

ヤチヨは胸を張りました。

 

……なるほど。

 

確かに、八千年前には料理をしていたかもしれません。

 

「分かりました! では、ヤチヨにお任せします!」

 

「ふふん。期待しててね!」

 

こうして、私たちはキッチンへ向かうことになりました。

 

□□□

 

「……えっと」

 

「ヤチヨ?」

 

「これは……どうやるんだっけ?」

 

キッチンに立ったヤチヨは、さっそく困っていました。

 

目の前には、調理器具と食材が並んでいます。

 

どうやら、何を作るか考える前に、道具の使い方から思い出す必要があるようです。

 

「確か、野菜を切る時は……こう?」

 

ヤチヨは包丁を手に取り、恐る恐るまな板へ向けました。

 

しかし、どうにも手つきがおぼつきません。

 

「……あれ? こんなに難しかったっけ?」

 

「ヤチヨ、手元に気をつけてくださいね」

 

「う、うん。分かってるよ」

 

そう言いながらも、切った野菜の大きさは見事にばらばらです。

 

さらに、調味料を取り出そうとして棚を開けたところ、今度は何を使えばいいのか分からなくなってしまいました。

 

「ええっと……塩って、これだよね?」

 

「それは砂糖です!」

 

「えっ!? あ、本当だ!」

 

……どうやら、八千年という時間は、料理の腕前にも影響してしまったようです。

 

「うーん……。昔はもっと上手にできた気がするんだけどなぁ」

 

ヤチヨは少し困ったように笑いました。

 

その様子を見て、私は考えます。

 

せっかくヤチヨが作ってくれると言ってくれたのですから、できればその気持ちを大切にしたいです。

 

けれど、このままではいつまで経っても料理が完成しそうにありません。

 

「……ヤチヨ」

 

「な、なに?」

 

「アリスも一緒に作っていいですか?」

 

「え?」

 

「二人で作れば、きっともっとおいしくなります!」

 

私がそう言うと、ヤチヨは少しだけ目を丸くしました。

 

それから、ふっと表情を緩めます。

 

「……そうだね。じゃあ、一緒に作ろっか」

 

「はい!」

 

こうして、二人で料理をすることになりました。

 

□□□

 

「ところで、何を作るんですか?」

 

「うーん……。せっかくだし、何か特別なものがいいよね」

 

ヤチヨは冷蔵庫の中を覗き込みながら考えています。

 

私も隣から中を確認しました。

 

卵、玉ねぎ、鶏肉、ご飯、ケチャップ。

 

これなら作れるものは決まっています。

 

「オムライスはどうでしょう!」

 

「ああ、オムライスかぁ……懐かしいな。そう言えば、彩葉と初めて一緒にご飯を食べたときも、確かオムライスだったっけ。」

 

ヤチヨは少し目を細めながら頷きました。

 

「よし!じゃあ、それにしよう!」

 

「決定です!」

 

まずは玉ねぎを切り、鶏肉も食べやすい大きさにします。

 

ヤチヨはまだ包丁に慣れていないようなので、私が横について一緒に作業しました。

 

「アリス、玉ねぎってこんなに目に染みたっけ……」

 

「換気扇を回しましょう!」

 

「そういう問題なのかなぁ……」

 

そんなやり取りをしながら、フライパンに油を引き、具材を炒めていきます。

 

じゅう、と音を立てながら、玉ねぎと鶏肉の香ばしい匂いが広がりました。

 

「わあ……いい匂い」

 

ヤチヨが思わず声を漏らします。

 

「そうですね! アリスもお腹が空いてきました!」

 

「ふふっ。私も」

 

具材に火が通ったところで、ご飯を加えます。

 

ケチャップを混ぜ、全体に味が馴染むまで炒めれば、チキンライスの完成です。

 

続いて卵を割り、ボウルに入れて混ぜます。

 

「ヤチヨ、卵はこうやって混ぜるんですよ」

 

「うん。これは覚えてるよ」

 

「おお! さすがです!」

 

「さすがって……これくらいはできるよ!」

 

ヤチヨは少し得意げに笑いました。

 

フライパンにバターを溶かし、卵を流し込みます。

 

半熟になったところで火を止め、先ほどのチキンライスにそっと被せました。

 

少し形は崩れてしまいましたが、ちゃんとオムライスになっています。

 

「完成です!」

 

「おおー!」

 

二人で作ったオムライス。

 

見た目は少し不格好ですが、ちゃんとおいしそうです。

 

最後にケチャップを取り出し、私はヤチヨのお皿に文字を書きました。

 

『ヤチヨ』

 

「……あっ」

 

ヤチヨがそれを見て、嬉しそうに笑います。

 

「じゃあ、私もアリスのお皿に書いてあげるね」

 

そう言って、ヤチヨはケチャップを手に取りました。

 

少し考えた後、私のお皿に文字を書いてくれます。

 

『アリス』

 

「えへへ。ありがとうございます!」

 

「どういたしまして」

 

こうして、二人分のオムライスが完成しました。

 

 

【挿絵表示】

 

 

          *

 

私たちはテーブルを挟んで向かい合いました。

 

目の前には、出来立てのオムライス。

 

そして、ヤチヨの手元にはスプーンが握られています。

 

「……なんだか、不思議な感じ」

 

ヤチヨがぽつりと呟きました。

 

「不思議、ですか?」

 

「うん。こうして誰かと向かい合って、ご飯を食べるなんて……本当に久しぶりだから」

 

ヤチヨはオムライスを見つめます。

 

その表情は、嬉しそうで、少しだけ緊張しているようにも見えました。

 

「それじゃあ、食べましょう!」

 

「うん!」

 

私たちはスプーンを手に取ります。

 

そして、二人で声を揃えました。

 

「「いただきます!」」

 

まずは一口。

 

私はオムライスを口へ運びました。

 

「んっ! おいしいです!」

 

自分たちで作った料理ということもあって、いつもよりおいしく感じます。

 

一方、ヤチヨはというと。

 

スプーンですくったオムライスを、ゆっくりと口へ運んでいました。

 

そして――。

 

「……っ」

 

ぴたり、と動きが止まります。

 

「ヤチヨ?」

 

彼女は口の中のものをゆっくりと飲み込むと、もう一度、小さくスプーンを動かしました。

 

今度は、少し大きめの一口。

 

卵の柔らかさ。

 

ケチャップの甘酸っぱさ。

 

鶏肉の旨味。

 

それらを確かめるように、ゆっくりと味わっています。

 

「……おいしい」

 

その声は、とても小さなものでした。

 

「ヤチヨ?」

 

「おいしいよ、アリス」

 

ヤチヨは自分の頬に手を当てました。

 

「味がする……。ちゃんと、味が分かるよ」

 

その瞳が、少し潤みます。

 

「甘いとか、しょっぱいとか……温かいとか。口の中に広がる感じも、全部分かる」

 

ヤチヨはもう一度、オムライスを口に運びました。

 

今度は、先ほどよりも少しだけ勢いよく。

 

「……ああ、そっか。私、またご飯が食べられるんだ」

 

その言葉を聞いて、私は胸の奥が温かくなるのを感じました。

 

八千年。

 

その間、ヤチヨはどれほど食べたいと思っていたのでしょう。

 

誰かと同じ食卓を囲み、同じ料理を味わい、何気ない会話をしながら食事をする。

 

そんな当たり前のことが、ヤチヨにはずっとできなかったのです。

 

「えへへ。よかったですね、ヤチヨ!」

 

「うん……本当に、よかった」

 

ヤチヨは笑いました。

 

今度は涙を流すこともなく、ただ嬉しそうに。

 

「ねえ、アリス」

 

「はい!」

 

「次は何を食べようか?」

 

「おお! もう次のクエストですか!」

 

「ふふっ。だって、食べたいものがいっぱいあるんだもん」

 

ヤチヨはオムライスをもう一口食べました。

 

「カレーも食べたいし、ラーメンも食べたい。それから……パンケーキも。……ああ、どうしよう。考えただけでお腹が空いてきちゃった」

 

「それなら、これから一つずつ攻略していきましょう!」

 

「うん!」

 

二人で笑いながら、オムライスを食べ進めます。

 

特別な料理ではありません。

 

高級な食材を使ったわけでも、難しい調理法を使ったわけでもありません。

 

ただ、二人で作った、普通のオムライス。

 

けれど、ヤチヨにとっては八千年ぶりの食事であり、私にとっても忘れられない一皿になりました。

 

「……ごちそうさまでした」

 

食べ終えたヤチヨが、満足そうに手を合わせます。

 

「ごちそうさまでした!」

 

私もそれに続きました。

 

そして、ヤチヨは空になったお皿を見つめながら、ぽつりと呟きます。

 

「ねえ、アリス」

 

「はい?」

 

「これからは、こういう時間がたくさんあるんだよね」

 

「もちろんです!」

 

私は迷わず答えました。

 

「これから先も、ずっと一緒です! まだまだ行きたい場所も、食べたいものも、たくさんありますから!」

 

「……そっか」

 

ヤチヨは目を細め、柔らかく笑いました。

 

「じゃあ、これからもよろしくね。アリス」

 

「はい! よろしくお願いします!」

 

八千年ぶりに取り戻した味覚。

 

そして、八千年ぶりに誰かと囲む食卓。

 

私たちの新しい冒険の始まりは、とてもおいしいものになりました。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
点
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

超かぐや姫!の超担当になった偽物(作者:赤いイヤフォン)(原作:超かぐや姫!)

旧題名: 偽:かぐや姫▼彩葉に憑依して、罪悪感に蝕まれる主人公。▼贖罪として彩葉を演じる日々の中で主人公はかぐやと出会い、ハッピーエンドへ駆け上っていく。そういうお話です。▼原作キャラへの憑依など、そういうのが許せる人のみお読みください。


総合評価:1292/評価:9/連載:9話/更新日時:2026年11月02日(月) 12:00 小説情報

月夜に謡うトラツグミ【本編完結】(作者:宵煌夜)(原作:超かぐや姫!)

超かぐや姫!に変な子を混ぜただけ。▼それは突然現れる。▼ちょっと不気味で、シュールな言動で、彩葉を翻弄する後輩の女の子の話。▼2026/10/24 原作視聴推奨等のタグを追加しました。


総合評価:711/評価:8.94/完結:10話/更新日時:2026年10月23日(金) 21:04 小説情報

酒寄彩葉に泣かされる優柔不断で悪いモブの話~逆行編~(作者:ゴリラ皇子)(原作:超かぐや姫!)

今は昔ー仮想空間『ツクヨミ』へ1人の電子生命体が流れ着きました▼その電子生命体はこことは違う世界で、この世界の物語をおとぎ話として楽しんでいた記憶を持っていました▼名前を『モブちゃん』と自称し始めたその者が、好奇心から幼い頃の酒寄彩葉と仲良くなってしまったことから始まる…笑ったり泣いたり爆発したりしながら、少しだけ幸せな未来を目指していくような▼そんな物語……


総合評価:714/評価:8.76/連載:13話/更新日時:2026年10月29日(木) 18:00 小説情報

お姉は私が嫌い 再(作者:超かぐや姫に脳を焼かれた男)(原作:超かぐや姫!)

酒寄家に末の妹を生やしました曇らせの達人です。▼一度削除した作品です。一人で完成させてからニヤニヤして自分で読んでたんですが、搜索板で探してくれている方がいたので再投稿していきます。明日から1日1話21時に投稿します▼本文はAIを使っています。気になる人は見ないでください。文才がなくてごめんねごめんね


総合評価:867/評価:8.89/連載:8話/更新日時:2026年11月02日(月) 21:00 小説情報

カスのかぐや姫(作者:上条@そぉい!)(原作:超かぐや姫!)

頭空っぽにして読める超かぐや姫の二次創作が読みたい、しかし見つからない。ならば書くしかねぇ!と思い立ちました。一発ネタです.▼本編完結!外伝的な小話に移行!


総合評価:2803/評価:8.86/完結:16話/更新日時:2026年11月03日(火) 12:08 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>