緑谷出久は未来を予習しているだけなのに、周囲が勝手に深読みしてくる件 作:まだら模様
作者はにわかなので設定等に間違いがありましたら申し訳ございません。
「私が! 普通にドアから来た!!」
教室のドアが勢いよく開かれ、眩しい笑顔と規格外の体躯を誇る平和の象徴――オールマイトが姿を現した。
生徒たちから一斉に歓声が上がる。
「オールマイトだ……! すげえ、本当に教壇に立ってる!」
「コスチューム、画期的な画風だぜ……!」
「私が担当するのは基礎ヒーロー修練! ヒーローとしての素地を作るため、様々な訓練を行う科だ! 単位も一番多いぞ!」
オールマイトは腰に手を当て、隆々とした筋肉を強調するようにポーズを決めた。
「そして……本日はこれ! 戦闘訓練だ!!」
ババン、とオールマイトが提示したボードには『BATTLE』の文字。
その瞬間、教室内の空気が一気に跳ね上がった。爆豪がニヤリと凶悪な笑みを浮かべる。
「そして戦闘と言えば……これだ!」
オールマイトが壁の操作パネルを操作すると、壁面から巨大なラックがせり出してきた。そこには一番から二十番までの番号が刻まれたアタッシュケースが格納されている。
「入学前に出してもらった個性届と希望に沿って用意された……コスチューム!!」
「「「うおおおおッ!!」」」
「着替えたら順次『グラウンド・ベータ』に集合だ!」
「「「はーい!!」」」
◇
各自アタッシュケースを受け取り、男子更衣室へ移動する。
出久はケースを開け、仕上がってきたばかりの自身のヒーローコスチュームに身を包んだ。
ベースとなるデザインは緑色のつなぎ風スーツだが、その構造は出久の泥臭い工夫で溢れ返っている。
まず目を引くのは、手首から拳にかけて装着された特注の補強グローブだ。
常時三パーセントのワン・フォー・オール運用に伴う関節や皮膚へのミクロな負荷を逃がしつつ、拳のインパクト時に衝撃を一点に集中させるギミックが施されている。
そして、腰回りにずらりと並べられた多目的ユーティリティポーチ。
(大雑把な未来知識で『大きなビルでヒーローとヴィランに分かれて戦う』ことくらいしか分からない……!)
(ビルの構造も、かっちゃんがどこから来るかも正確には分からないんだ……!)
(だから、ホームセンターで買い揃えた道具をポーチに詰めて、現場で即興で対応するしかない……!)
ポーチには無線通信装置や確保用テープといった常時装備に加え、出久が独自にチョイスした制汗パウダーや工業用オイル、スプレー類が隙間なく収納されていた。
準備を終えた出久が更衣室を出て、集合場所であるグラウンド・ベータの広場へ向かう。
暗いトンネルを抜けると、そこには思い思いの派手なコスチュームに身を包んだクラスメイトたちが既に集まっていた。
「格好から入るってのも実に大切なことだぞ少年少女!」
オールマイトが広場で生徒たちを出迎え、その衣装姿を絶賛する。
「あ、緑谷くん!」
声をかけてきたのは、麗日お茶子だった。
「わ、麗日さん……!?」
振り返った出久は、思わず言葉を詰まらせた。
(知ってた……! 大雑把な未来知識で、麗日さんのコスチュームが申請ミスでパツパツになっちゃうってことは知ってたけど……!)
(いざ目の前で見ると直視できない……っ!!)
身体のラインが露わになったピチッとしたスーツ姿に、純情な出久は顔を真っ赤にして必死に視線を泳がせた。
「うち、申請のときちゃんと書いてへんかったから、めちゃパツパツになっちゃって……なんか恥ずかしいわぁ」
「い、いや! すごく似合ってると思うよ……! かっこいいよ!」
出久が必死にフォローしようとアップアップしていると、オールマイトがポンと手を叩いた。
「さあ有精卵ども! ヒーロー科の最初の授業、屋内対人戦闘訓練を始めるぞ!」
オールマイトは屋内戦のリスクと、ヴィランがアジトに核兵器を隠しているという設定のルールを解説し始めた。
「先生! これは入試の時のようにロボットをぶっ壊せばいいんですか!?」
「爆破してもいいんですか!?」
「敗者は除籍になるのですか!?」
生徒たちから矢継ぎ早に質問が飛ぶ。
「一度にたくさん言うな! 私の脳味噌は聖徳太子じゃないんだ!」
オールマイトは焦りながらも丁寧な説明を繰り広げ、くじ引きによるチーム分けを行った。
結果は、ヒーロー組(出久&麗日)対ヴィラン組(爆豪&飯田)。
運命の対戦カードが決まり、出久はごくりと唾を飲み込んだ。
◇
「マップも与えられない状況での屋内潜入……緊張するね」
ビル内に侵入した出久は、腰のポーチから金属製の「伸縮式作業用ミラー」を取り出した。
柄を伸ばし、曲がり角の向こう側を慎重に覗き込む。
「緑谷くん、それは……?」
「ホームセンターで買った伸びる鏡だよ。角待ちの奇襲を警戒するのに便利なんだ。かっちゃんは僕を直接狙ってくる可能性が高いから、僕が引きつけている間に麗日さんは飯田くんのいる核兵器部屋を目指して!」
出久は真剣な面持ちで作戦を伝えた。
麗日は力強く頷きつつも、内心で胸を痛めていた。
(緑谷くん……ひとりで爆豪くんを引き受けるつもりなんや……。無茶せんといてな……!)
麗日は、出久が「自分を犠牲にして無理をしている」のだと深く心配していた。
だが、出久自身はただ単に「爆豪と鉢合わせした際に麗日を巻き込まないための時間稼ぎ」と考えているだけだった。
伸縮ミラーを使い、泥臭く角をクリアリングしながら進む出久。
そのとき、上の階から激しい足音が響き渡った。
「見つけたぞ、デクゥゥゥッ!!」
爆豪勝己が、鬼の形相で通路の角から飛び出してきた。
凄まじい殺気を放ちながら、右腕を振りかぶる爆豪。
(来た……! 動きの精度は上がってるけど、大体のタイミングは予習通りだ……!)
出久は恐怖を押し殺し、咄嗟にポーチから「制汗・吸湿パウダー」の容器を取り出した。
爆豪が間合いに入る直前、その粉末を爆豪の両手掌に向けて一気にブチ撒ける。
「なっ……!?」
爆豪の掌の手汗が大量の粉末に吸われ、ニトロ状の汗が一時的に不発化する。
パンッ、と湿気たような小さな音が鳴るだけで、爆炎は起きなかった。
(今だ……!)
その零点五秒の隙を出久は見逃さなかった。
足裏から膝へ三パーセントのワン・フォー・オールを素早く連動させる。
地面を最小限の動作で踏み込み、最適解の軸移動で爆豪の懐へ滑り込んだ。
特注の補強グローブで腕の骨への反動を殺しつつ、爆豪の振り下ろした腕の支点を綺麗に受け流す。
同時に、もう片方の手でポーチから取り出した「高粘度工業用オイル」の瓶を床へ叩き割った。
体勢を崩した爆豪は、オイルの塗れ場に足を滑らせて盛大に転倒する。
「ぐはっ……!?」
「ごめんかっちゃん! 先に行くよ!」
出久は後ろも振り返らず、三パーセントの脚力でその場を離脱した。
(よし、これで少しは時間を稼げた……! 次は麗日さんと合流して飯田くんの対策をしなきゃ……!)
出久自身は「時間を稼げた」程度にしか捉えておらず、爆豪を完全に無力化したとは思っていなかった。
◇
「……あ?」
床に倒れた爆豪は、己の手掌を見つめながら全身をガタガタと震わせていた。
一瞬で湿気て不発に終わった爆破。
足元を完璧にすくったオイル。
そして、あの補強グローブを装着した無駄のない、完璧な受け流しの身体操作。
(な……んだよこれ……!? 俺の個性の発汗作用を殺す粉に、足場を奪うオイル……!)
(おまけにあのグローブでの無駄のない体術……!!)
(最初から俺の動きも個性の弱点も全部知っててハメてやがったのか……!?)
(個性を二つ隠し持ってるだけじゃねえのかよ……ッ!!)
爆豪の中で、「無個性のデク」という存在は完全に消滅していた。
そこにいるのは、自分の動きも個性の原理もすべて解析し尽くし、冷酷にハメ殺してくる底知れぬ化物だった。
◇
その頃、モニター室の空気も完全に凍りついていた。
画面に映し出された一連の攻防に、生徒たちは息を呑んでいた。
「す、凄すぎる……! 一瞬で爆豪の攻撃をさばいたぞ!?」
「あの腰のポーチから出した道具はなんだ!?」
感嘆の声が上がる中、八百万百が深く頷きながら、真顔で解説を始めた。
「素晴らしい……いえ、恐ろしいほどの戦術眼ですわ……! 爆豪さんの汗に含まれる硝化グリセリン成分の揮発を一時的に阻害するパウダーで発火点をズラし、特注グローブと最小限の身体操作で威力を殺さず受け流す……。閉鎖空間の地形、敵の個性の化学的弱点、そして自身の装備の特性まで完璧に噛み合わせている……。まさか、進入前の段階でここまで計算し尽くされていたとでも言うのですか……!?」
モニタールームにいる誰もが、八百万の完璧な推測に戦慄していた。
オールマイトすらも、冷や汗を流しながら画面を見つめていた。
(緑谷少年……君はここまで冷静にワン・フォー・オールをコントロールし、装備を活かしきっているのか……!)
出久にとっては、ただの「手汗対策」と「足元確認」だった。
しかし、モニタールームでは、完璧な超高度戦術として語られていた。
(八百万さんみたいに専門的な知識まで身につけているわけじゃない。短期間でそこまで叩き込めるはずもないし、僕にできるのは、広く浅く覚えた知識を、その場で使える形に組み合わせることくらいだ……)
◇
爆豪を置き去りにした出久は、最上階の核兵器部屋へと辿り着いた。
部屋の中では、飯田天哉が置物のように核兵器を守っている。
「来たな緑谷くん! だが私は君の策には乗らんぞ!」
飯田が「エンジン」を吹かし、直線的な突攻を仕掛けてきた。
出久は慌ててポーチから「滑り止めスプレー」を取り出し、足元の床へ勢いよく噴射した。
突進してきた飯田の足元が急激な摩擦抵抗を起こし、急停止と方向転換を強制的に阻まれる。
「ぬあああ!? この距離では、エンジンの加速が活かせない……! さすがは緑谷くん、ここまで計算されていたとは……!」
(いや、ただ滑り止めを撒いたら止まってくれるかなって思っただけなんだけど……!)
出久は心の中で叫びつつ、シューズのスパイクソールを効かせて踏み込んだ。
三パーセントの跳躍で空間を制し、物陰から飛び出してきた麗日と視線を合わせる。
「麗日さん、今だ!」
出久が飯田の視界を上空から奪う一瞬の隙をつき、麗日は浮遊の個性を使って核兵器へと飛び込んだ。
「回収……!!」
麗日の手が核兵器に触れた。
「ヘ、ヒーローチームの……勝ち―――!!」
オールマイトの宣言がビル内に響き渡った。
出久は膝に手を置き、荒い息を吐きながら胸を撫で下ろした。
(よし……! なんとか、失敗しないで済んだ……!)
出久はただ「失敗しなかった」ことに安堵していたが、周囲の評価は真逆だった。
◇
モニター室に戻った生徒たちの前に、出久と麗日、そして顔を伏せたままの爆豪と飯田が合流した。
「今回の講評を行う! 今回のMVPは誰かわかるかな!?」
オールマイトの問いかけに、八百万が真っ先に手を挙げた。
「はい! 今回のMVPは緑谷さんですわ!」
八百万は誇らしげに出久を指差し、滔々と語り始めた。
「自身のコスチューム(ポーチや補強グローブ)の特性を百パーセント把握し、相手の個性を無力化する適切なツールの持ち込み、そして最小限の動きで相手を無力化する完璧な立ち回り……すべてにおいてヒーローとしての見本と言えますわ!」
「え、えええ……!?」
出久は目を丸くして狼狽えた。
(僕はただ、失敗するのが怖くてホームセンターで買った道具を使っただけなのに……!?)
◇
講評会が終わり、生徒たちが着替えへ向かう中。
爆豪は一人、茫然自失のままグラウンドを立ち去ろうとしていた。
その背中に向かって、出久は駆け寄った。
大雑把な未来知識のおかげで、出久は知っていた。
ここで迂闊に「ワン・フォー・オールの秘密」を話そうとすれば、力を奪われる恐れがある。
それに、下手な言い訳をすれば爆豪のプライドを無駄に傷つけて事態が悪化することも知っていた。
だからこそ、出久は何も明かさないことを選んだ。
「かっちゃん…!」
振り返った爆豪の瞳は、絶望と怒りで濁っていた。
出久は真っ直ぐに爆豪を見つめ、真摯な声で言葉を掛けた。
「僕はズルをして勝ったわけじゃない。次も、お互い全力を出し切って頑張ろう」
それは、出久の純粋なヒーローとしての言葉だった。
だが、爆豪の脳内では違っていた。
言い訳すら口にせず、圧倒的な余裕を見せて自分を「励ます」出久の姿。
(あいつ……言い訳すら必要ないってことかよ……!?)
(俺を完全に見下して、余裕ぶっこいて『励まして』やがる……!!)
爆豪は歯が折れそうなほど噛み締め、溢れ出る戦慄に全身を震わせながら、去っていく出久の背中を睨み続けることしかできなかった。
選択肢が無限に増えすぎてどう書こうか結論が出ません(白目)
本当にどうしようか…
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その幻想を、ぶち壊す! 〜レベル0と無個性 二人の英雄(ヒーローも)試験的に連載中です。是非ご拝読ください。