灰被り姫たちの聖杯大戦   作:クルスク

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続いたな。あ、オリジナル展開のタグつけ忘れてた。原作では死亡した彼女が出てきます。まぁ、今後活躍するかどうかは不明。


第三章 組み替えられた登場人物達

 男はぼんやりと京都の鴨川を眺めていた。

 

 面長の顔に眼鏡、カッターシャツに黒ズボン。小脇には茶封筒。ぱっと見る限り、社会人の標準装備をした一般人といういで立ち。そう、格好だけを見るならば。

 

天気は良く、昼時の鴨川には散歩をする人の姿がちらほらと見える。

 

「はあ」

 

男はため息をつくと、ポケットから財布を取り出した。長財布で、中には免許証が入っている。

 

 関根敬一郎。

 

 それが男の名前だった。年齢は三十歳。ただし、実感はまるでない。なぜなら、関根は気がついたらここにいたのだ。

 

 より正確に言えば、京阪出町柳駅近くのぼろアパートの一室で目が覚めた。

 

 部屋は八畳一間、トイレ・風呂付きの、絵に描いたような貧乏アパートだった。

 

 備え付けの家具は机と椅子、洋服ダンスに本棚。典型的な一人暮らしの部屋である。

 

 特異なのは、部屋には書き物の類がほとんどなく、ポケットに入っていた財布にも、免許証と幾ばくかの現金があるだけで、レシートの類は一切なかったことだ。

 

 携帯電話も持っておらず、親族や友人に連絡を取る手段もない。

 

 アパートの住人は大学生が多く、社会人である関根との接点はゼロ。いっそ夜逃げしてきたと言われた方が、まだ納得できるくらいだった。

 

 あと、目につく点は。

 

 関根は右腕に目をやった。右手の付け根に包帯が巻かれている。

 

 手術でもしたのだろうか。しかし動かしてみても、何の不具合も違和感もない。

 

ただ。

 

(これは、何なのだろうか?)

 

 それを最初に認識したとき、関根は本当に己の頭がどうかしたのではないかと思った。

 

 ちょうど右斜め後ろから妙な視線を感じ、そちらに目を向けると。

 

 男性が立っていたのだ。あたかも某漫画の『スタンド』のごとく。

 

 上半身は裸、下半身には布を巻きつけている。あれか、声がG田Tの筋肉ムキムキマッチョマンの変態だ、というやつなのか?

 

 普通ならそれだけで頭を抱えそうになるところだが、あまりに筋骨隆々とした、さながら仁王のごときその肉体に、関根は驚くより先に感嘆した。

 

 圧倒的な威圧感と同時に、安心感。これほど鍛え上げられた肉体を持っていれば、さぞ心強く、他者を安心させれるだろう。そう思わせるものがある。

 

 視線を上にやると、相手と目が合った。

 

 総髪に鋭い眼光。今風の美男子というやつではなく、風雨に鍛え上げられた、まさに男性美の極致ともいえる顔立ちだった。

 

 有名ハリウッドスター、ドウェイン・ジョンソンやジェイソン・ステイサムにも優に張り合えそうな面構えである。

 

 思わず関根は目をそらし、再び鴨川に目をやった。

 

 苦手だ。正直そう思う。別段、害があるわけではない。他の人間には見えていないようだ。

 

 目の錯覚、あるいは妄想の類だと自分に言い聞かせるのだが、時折視界に入る圧倒的な肉体が、そんな関根の思いを全力でなぎ倒してしまう。

 

「はぁ」

 

関根は再びため息をついた。

 

 本来なら、へたり込んで泣きわめきたいところなのだが、この変な男の姿のせいで、どういうわけかそういう気に なれないのだ。

 

『大丈夫!』

 

『何とかなるって!』

 

 誰かさんの口から出た安っぽい慰めの言葉より、筋肉の塊みたいなその肉体の方が、よほど安心感を与えてくれていた。

 

 関根は知る由もなかったが、その安心感は、かのアルゴー船の船長とそのクルーたちが等しく感じたものであった。

 

 ため息に呼応するかのように、男の目線が関根に向けられる。

 

『どうした? いや、お前はどうしたい?』

 

 そう問いかけられているようで、関根は頭をかきむしり、小声で言った。

 

 あたかも男に語りかけるかのように。

 

「記憶はない。金はしばらくしのげるほどはありますけど、長期は厳しい。

普通に考えるなら、病院か警察に駆け込むべきなんでしょうが」

 

 手がかりがないわけではなかった。

 

 といっても、関根から見ると馬鹿馬鹿しい代物なのだが。

 

 一つは、机の引き出しにしまわれていた『Fate/Apocrypha』なるタイトルの、クリップで留められた小説。

 

 内容は荒唐無稽としか評しようがない。

 

 呼び出される英雄、七人の魔術師。

 最終勝者には万能の願望機、聖杯がどんな望みもかなえてくれるという。

 

 設定自体は悪くはない。問題は、小説の大半が黒塗りで何が何だか分からないという点である。

 

 しかも本戦が始まる前に中断している。書きかけの未完成原稿だった。

 

 普通に考えたら、こんなものが何かの手がかりになるはずがない。

 

 そのはずだったのだが。

 

 関根はため息をつきつつ、小脇に抱えていた茶封筒を手に取った。

 

 中には、とある人物の調査票が入っていた。

 

 名を獅子劫界離という。

 

 住所は京都市、東寺付近の某所。職業は英語の非常勤講師。

 

 会いに行ける距離ではある。そして、この名前は例の『Fate/Apocrypha』にも登場していた。

 

 我ながら無茶苦茶な推論だと理解している。

 

 が、ひょっとすると何らかのつながりがあるのか、あるいは既知の人物という線も考えられなくはない。

 

 また視線を感じ、関根はそちらに目をやった。

 

 男は気がつくと関根から離れ、歩き出していた。

 

 何も言おうとはしない。しかし、その背中が問わず語らず、こう言っているように関根には感じられた。

 

『何をしている、行くぞ』

 

「傷つくなぁ」

 

 関根はもう一度ため息をつくと、立ち上がった。

 

 ここに来る前に感じていた重苦しさが消えていることに、関根は意識して気づかないふりをした。

 

 出町柳駅から京阪電車に乗り、七条駅で降りる。

 

 車窓から見える京都の街並みは、いつもと変わらないように思えた。鴨川沿いの景色も、行き交う人々も、何もかもが日常そのものだ。

 

 ただ、関根にとっては、その日常こそが奇妙だった。

 

 自分が何者なのかも分からず、右腕には包帯が巻かれ、正体不明の大男が隣に立っている。そんな状況にもかかわらず、周囲の人々は誰一人として気に留めない。

 

 七条駅を出ると、関根は東寺方面へと歩き始めた。

 

 大通りを進み、京都の街並みを眺めながら、時折、手元の調査票を確認する。

 

 住所は間違っていないはずだ。

 

 しばらく歩くと、遠くに東寺の五重塔が見えてきた。

 

 観光客の姿がちらほらとあり、土産物屋の前では人々が立ち止まっている。夕刻が近づくにつれ、街には少しずつ生活の匂いが戻ってきていた。

 

 どこからか、ほんのりと焼き魚の匂いが漂ってくる。

 

 関根は調査票をもう一度確認し、細い道へと入った。

 

 住宅が並ぶ静かな一角だった。

 

 そして、ようやく目的の家にたどり着く。

 

 獅子劫邸。

 

 そこは、年季の入った平屋建ての日本家屋だった。

 

 低い塀に囲まれた敷地の奥には、落ち着いた色合いの瓦屋根が見える。決して大きな屋敷ではないが、長年そこに建っていたことを感じさせる、どこか重厚な佇まいをしていた。

 

 門柱には、確かに『獅子劫』の表札がある。

 

 関根は唾を飲み込んだ。

 

 怖い、というのが正直な感想だった。

 

 馬鹿な話なのだが、目の前に『獅子劫』の表札を見せられると、あたかも幻が本物になったような、そんな感じを受けた。

 

 七人の魔術師。聖杯大戦。万能の願望機。

 

 そんな言葉が脳内を駆け巡る。

 

「まさかなぁ」

 

 関根は呟いた。

 

 どこか本気にしていなかった。調査票も、何もかも、今にもそこいらの電柱の陰から『ドッキリ大成功』のプラカードを持った誰かが現れるんじゃないかと、そう思っていたのに。

 

「どうするんだよ、これ?」

 

 関根は改めて獅子劫邸を見上げた。

 

 平屋建ての日本家屋。年季の入った佇まいをしている。玄関先には植木鉢が並び、庭木もきちんと手入れされているようだった。

 

 ふと横を見ると、男が関根を見下ろしていた。

 

 目が訴えている。

 

『何をしている、早く呼び鈴を鳴らせ』

 

 関根はダメもとで目で訴えてみた。

 

『帰っちゃだめですか?』

 

 睨み据えられ、関根はすごすごと前を向いた。

 

 もはやこれまで。

 

 致し方なく呼び鈴を鳴らす。

 

 しばらくすると、引き戸が開き、お下げ髪の少女が顔を覗かせた。中学生くらいだろうか。

 

 怪訝そうな顔でこちらを見ている。

 

 関根は軽く会釈すると、

 

「あ、獅子劫さんのお宅でしょうか? 自分は関根敬一郎と申しまして。以前、お世話になった者です。近くに寄ったものでして、ぜひお礼をと思いまして」

 

「まぁ、それはご丁寧にどうも」

 

 女の子はにこりと笑い、次いで残念そうに眉根を寄せた。

 

「申し訳ありません。お父様は今、出ていまして」

 

「あー。そうですか。それは残念。お帰りの時刻は? あ、分かりませんか。失礼しました。では、またお伺いしますね」

 

 関根は再度頭を下げた。女の子も会釈を返す。

 

 そうして関根は踵を返した。

 

 胸の中に、残念なような、ほっとしたような感情が渦巻く。

 

 正直、ほっとした気分の方が大きかった。

 

 会えたら会えたで、どんな話をすればいいのか分からないわけだし。

 

(帰り際に近くの本屋にでも行って、何か買うか)

 

 そんな馬鹿なことを考えている関根の耳に、鉄錆びた重々しい声がした。

 

『あの家屋、もう一人気配があった』

 

「へ?」

 

 関根が後ろを振り返ると、男は厳しい眼差しで背後の獅子劫邸を見つめていた。

 

「貴方、喋れたんですか?」

 

 関根の問いかけに、男は向き直ると何事か言いたげに口を開いた。

 

 だが、そこから言葉が聞こえてくることはなかった。

 

 関根と男はしばし見つめ合ったが、結局、関根が根負けする格好で終わった。

 

 関根はため息をつくと、足を駅に向けた。

 

 どうやら解決の糸口は途絶えたらしい。これからどうするかと考えながら、関根は来た道を戻り始めた。

 

 一方、獅子劫邸では、ある会話が進行していた。

 

 関根と玄関先で話した女の子、獅子劫茜は、関根が遠ざかるのを慎重に見定めてから家に入った。

 

 そのまま家の奥へ進むと、八畳ほどの畳部屋に、一人の男が机に向かって何かを書いていた。

 

 茜は襖を開け、声をかけた。

 書き物をしていた男、獅子劫界離は動かしていたペンを止め、振り返った。別の世界線では筋肉達磨の傭兵だったが、こちらの世界線では細身、細面の、そう某『労働はくそです』と言い放つ呪術師じみた顔だちとなっていた。そんな別世界線の話など知る由もなく、獅子劫界離はいった。

 

 

「お父様、先ほどお客様が来たのですが」

 

 書き物をしていた男、獅子劫界離は動かしていたペンを止め、振り返った。

 

「ん、お客? 名前は?」

 

「関根敬一郎さんって名乗っていましたけど。お知り合い? 昔お世話になったっておっしゃってましたけど」

 

 獅子劫界離は首をひねった。

 

「聞き覚えがないな。だが、ひょっとして家の関係で昔付き合いがあったのかもしれないな。どうして声をかけてくれなかったんだ?」

 

 もっともな疑問だった。

 

 だが、茜は首を傾げて、

 

「ごめんなさい。最初はそうするつもりだったのだけど。その、関根さんの隣に……」

 

 上半身裸の大男が見えた。しかも、どうやら霊体のようだった、と。

 

 獅子劫の顔に険しさが宿る。

 

「大男? まさか!」

 

 獅子劫の脳裏に、最近聞いたとある噂話がよぎった。

 

 極東から奪い去られた万能の願望機。

 

 ルーマニアで魔術協会に反旗を翻したユグドミレニアなる集団。

 

 通常は七騎しか召喚されない英霊が、今回は十四騎召喚されるとか何とか。

 

 しかし、と獅子劫は首をひねる。

 

 なるほど、獅子劫家はここ日本ではそれなりに名の通った家だが、ユグドミレニアとは関わり合いがない。

 

 どちらかと言えば魔術協会側に近いとさえいえる。

 

 今回の件には魔術協会も激怒しており、見せしめ目的で圧倒的な戦力を集め、広く情報も公開している。

 

 獅子劫が聖杯大戦の情報を知っているのも、別段情報通だからではなく、魔術協会が積極的に宣伝を行っているからに他ならない。

 

 今更、魔術協会もユグドミレニアも獅子劫家に接触する理由がないのだ。

 

 ならば何故、関根敬一郎なる人物は、獅子劫界離と接触しようと欲したのか。

 

「お父様?」

 

 心配そうな茜の言葉に、界離は我に返った。

 

 今は相手が何を考えているかではなく。

 

「ああ、分かった。相手は素直に帰ったんだな」

 

「はい。それは確認しました」

 

「そうか、分かった。それについてはこっちで何とかする。茜はいつも通りにしていなさい」

 

 ほっとする茜の顔を見つつ、界離はとある想定が頭をよぎり、困惑した。

 

 自身の魔術刻印をこの子が副作用なく移植できたから良かったものの、もしあの時失敗していたら?

 

 その時、自分はどうしていただろうか、と。

 

 ひょっとして、この聖杯大戦に参加していたのかもしれない。

 

 そんな埒もない想像を、界離は頭を振って追い払った。

 

 袖にされた関根は、それに気づくこともなく、帰りにマックによってハンバーガーをぱくつき、古本屋によって優雅な一日を満喫した。

 

(んー、なんか悪くないよね、こういう生活)

 

 大男がものすごくきつい目線で睨みつけてくるが、関根はどこ吹く風と言わんばかりに、お腹を撫でる。

 

 出町柳のぼろアパートに帰ると、押し入れから布団を出して床に敷いた。

 

『明日こそ、何かしらの手がかりを見つけろ』

 

 と視線で訴えられるのだが、

 

「はいはい、分かりましたよ。何とかします」

 

 んなこと言ったって、どうしようもないじゃない。

 

 半ばふてくされつつ、関根は目を閉じた。

 

 一日が終わり、そして翌日もこのまま薄ぼんやりと、ただ時間が過ぎる……はずだった。

 

 それは、明け方、突如として起こった。

 

 いきなり何かの気配を感じ、関根は目を開けた。

 

 しかし、部屋には何の変化もない。

 

 気のせいかともう一度寝ようとしたが、どうにも尿意を感じる。

 

 仕方なしに起き上がり、トイレに行って、さあもう一眠りしますかね、と思った瞬間。

 

 虚空からピンク色のドアが姿を現した。

 

 そう、それは間違いなく、例の猫型ロボットの秘密道具。

 

「へ? 嘘? ど、どこでも……」

 

 その秘密道具の名を最後まで言う前に、すっと扉が開き、ぽんっと何かが部屋の中に放り込まれた。

 

金髪の髪の美少女。

 

そして。

 

「あ、良かった。起きてたか。おはよう、関根さん」

 

 ひょいと顔を覗かせた眼鏡の男に、関根は叫んだ。

 

 顔を見た瞬間、奔流のように記憶の一部が頭から飛び出したのだ。

 

『やぁ、こんなところで寝ているとは。ここの住人かな? 僕はそうだな、便宜上、「虫」とでも名乗ろうか?』

 

『どうです? 貴方の夢を叶えてみませんか? 命がけかもしれませんが、何もしないで朽ちていくよりはましでは?』

 

 関根は、その時なんと答えたかも思い出した。

 

『おいおい、舞踏会へのお誘いかな。で、君は魔法使いなわけか』

 

『まさしく』

 

 

「その顔から察するにどうやら記憶が多少戻ったみたいだね、詳しい事情は彼女から聞いてね。後は、彼女に電話番号を書いた紙握らせておいたから、連絡宜しく。そうそう、僕は今『バーサーカー」』のクラスを得ているから、以後そう呼んでね。んじゃ」

 

 それだけ言うと扉は締まり、原作通りすっと消えた。

 

 関根は唖然としたまま視線を少女に向けつつ、呻いた。

 

「どうしろってんだ、これ?」

 

 ここで時間を少し戻す。

 

 

 

 




ようやく物語が動いた、んだよな。あと文章整えるのにAIを使用しています。まぁ、こんなのタフにかいておけばいいか。
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