不肖秋山優花里、現在西住殿の部屋に来ております。
ああ、誤解されぬよう。断じてやましいところはございません。大洗に来てより連戦連勝、我が戦車道部を全国優勝にまで導いて下さった西住殿ですが、その奥ゆかしい性格から、今ひとつ強い指示が出せず、会長や河嶋殿あたりに押し切られてしまうことがままあります。
同じ部の一員、特に同じ戦車を受け持つあんこうチームの一員である私としては、より深く西住殿の意向を理解する責務があります。故に、本日は西住殿の留守にお邪魔して、プライベートな音声を録音する装置を設置する作業に取り掛かる所存であります。
うん? いえいえ、盗聴ではありません。盗聴は恥ずべき窃視癖や邪な性的好奇心から行う行為ですが、私のこれはあくまで西住殿の為、ひいてはチームの為の崇高な行動です。比べるべくもありません。
さて……どこに設置するのが良いでしょうか。人間が素直な気持ちを吐露出来るのは、やはり独りきりになれるトイレでしょうか。それとも、心身ともにリラックスできる浴室?
うぅ~ん! 私なんだか興奮してまいりました! 気持ちを落ち着けるために、まずは押し入れチェックから始めましょう! 逆に興奮度が振り切れてしまうものを発見する恐れもありますが、それはそれで嬉しいハプニングということで!
ガラガラ
「…………」
……なんでしょう……見てはいけないものを発見して一瞬思考が停止してしまいした。
幼い子が怖い目にあった時、膝を抱えきつく目を閉じて、何も見なければやり過ごせる、そんな反応を見せることがありますが、私と同い年くらいのこの黒森峰の制服の人物は……?
まさか前年の大会でのアクシデントに対する強い後悔の念が生み出した、西住殿の生霊……いや、よく見れば髪型が違います。このシャギーの入ったセミロング、どこかで見覚えが……。
「逸見殿! 黒森峰副隊長の逸見殿ではありませんか! いったいどうしてこんな所に」
「あ……あなたこそみほの部屋に何の用なの!?」
んんーっ? 思わぬ逆質問ッ!? しかし、ここで怯む訳にはまいりません!
「なるほど! 来るべき大洗女子との再戦で、今度こそ遅れをとらぬ為の情報収集。分かります。私も大洗女子の諜報担当を自認する身。地道で泥臭い潜入活動の重要さは痛いほど理解しております!」
「そう、それよ! 見付かってしまったからには退散するしかないようね!」
しゅたっと手を上げ、毅然として立ち去ろうとする逸見殿。
「ま、待ってください逸見殿……その右手に握りしめている下着は……?」
「こ、この私が下着泥棒しているとでも言うの!?」
「……」
「……」
この間はなんでしょう……私に答えを提示せよということでしょうか?
「ハッ! 申し訳ございません! 色彩心理。なるほど、不肖秋山、浅学にして思い至りませんでした!」
「そう、それよ! その日身に付けている下着の色、デザインによって作戦傾向が把握できるという訳よ!」
「流石でありますなぁ、逸見殿! 決して邪な気持ちから下着を弄んでいた訳ではないと!」
なかなかやるわね! と言わんばかりに、腕組みをして私をねめつける逸見殿。でもなにか頬を冷や汗めいたものが流れているようですが……
「もっともであります! キューポラから半身を晒しておられる西住殿のスカートの中身、装填手席の私からはチラチラ見えてしまうのでありますが――いや、決して故意に覗いている訳ではありません!――その時見えたもので、顔を合わせずとも深く意思疎通出来るという訳でありますな!」
何故か顔を真っ赤にした逸見殿による、容赦ない鉄拳制裁!
「痛っ! 痛いです逸見殿、ぶたないでくーだーさーいー!」
数十分後。いつのまにやら、西住殿の下着を床に並べての勉強会が開催されています。
「例えば逸見殿、このボコられぐまのプリントパンツなら、どの様な心理状況を読み取れますか?」
「そうねえ。キャラクターになぞらえて、ボコボコにされてもへこたれない、ネバーギブアップ の精神とか?」
「しかし逸見殿、西住殿の軍神っぷりから察するに、ボッコボコにしてやるぞという意思表示の様にも感じられますね!」
「なかなか深いわね……実のところあの子ああ見えて、かなりのSなんじゃないかと踏んでるんだけど……」
「そう、それであります! いつもは穏やかな方なのに、時折心胆寒からしめる視線を感じることがあります!」
「……誰がSなんですか?」
「…………」
「…………」
まさに心胆寒からしめる視線! 議論に夢中で西住殿の帰還に気付けずにいた失態!
「に、西住殿!! いつからそこに!?」
「いつもスカートの中を見ているの辺りから」
「ご、誤解があります! 見えてしまうというお話で、決して覗き込んでいる訳では!」
西住殿の穏やかでいて寒々しい視線は、床じゅうに並んだ下着に注がれております!
「に、西住殿……これは色彩心理に基づいたノンバーバルコミュニケーションの勉強で、逸見殿からレクチャーを受けていたところで……」
私の言葉を待たず、窓から身を翻す逸見殿。
「い、逸見殿、何処へ行かれるので? ここは2階、危ないであります! 逸見殿、置いてっちゃ嫌であります! 逸見殿、逸見どの~~!!」
「優花里さん、説明して貰えるかな?」
残された私に、西住殿のほほ笑みが向けられまs