孕んだ赤ちゃんは【リボ払い】で強制出産 ~用済みとパーティー追放された俺は、可愛いサポート産婆と一緒に取り立てた胎児を運用して最強を目指す。〜 作:リボ払いンズ・アルマーク
「それよりマスター様ぁ」
メルバの大迷宮、第二層。
俺は産休ゴブリンコロニーの入口で、短小の剣に付いたゴブリンの血と、よく分からないへその緒を拭っていた。
「何。誰もマタンゴ」
「なんで私にだけ、微妙に気持ち悪い敬語が混ざってるんですかぁ?」
「は?」
エムピーは俺の目の前で、そろばんを抱えたままくるくる回る。当然、周りの冒険者には見えていない。俺が何もない空中と会話しているようにしか見えないため、近くを通った冒険者が一人、そっと距離を取った。
「『違うと思うんすけど』、『倫理的には大丈夫なんですか?』、『火球が鳴いたのかよ!?』。語尾がバグってますよ、キモマスター様♡」
「最後は普通に敬語じゃないだろ」
「私、あなたのサポート産婆妖精なんですけど? 上司に敬語を使う新入社員みたいな距離感、やめてもらえます?」
「お前が上司なの?」
「当たり前です♡ キショオスマスター様♡」
「罵倒が湯水の如く出る次男」
「誰だよ次男」
エムピーはにこにこと笑った。
「ほら。言ってみてください。『エムピー、次はどこへ行く?』って」
「……エムピー、次はどこへ行く?」
「もっと心を込めて」
「ぷももえんぐえげぎおんもえちょっちょっちゃっさっ」
「は? 島田課長みたいですねぇ。赤ちゃんを運用する前に淫夢を温習してください」
「ばっ、おまっ、お前……!」
「はい♡」
「てか前回最後に重要そうなキャラと出会ってなかったっけ」
「短小レベルでちっちゃいこと気にしますねぇ」
「せめて前話との整合性はとれよ」
「きっと気の所為ですよキモマスター様♡」
何だ、この会話。俺が悪いの?
俺は、ゴブリンコロニーの奥を見た。
第二層に住み着くゴブリンたちは、どいつもこいつも腹が大きかった。子沢山の巣穴らしい。壁には『赤ちゃんが寝ています 静かに襲撃してください』と書かれた木札がびッッッッッしり貼ってあり、入口にはベビーカーを押した見張りゴブリンがいた。
迷宮にも生活がある。俺はそんな気がしていた。
そして、俺にはそれを尊重する余裕がない。
「行くぞエムピー」(イケボ)
「はい♡ 働けるうちに働け、産めるうちに産め。資産形成は若いうちからです♡」ペタペタ
「その標語を壁に貼るな」
__________
二時間後。
「産火魔法!」
「おぎゃああああああ!!」
「短小剣術!」
「短小が届いちゃったぁ!!」
「うるさい、戦闘中に叫ぶな!」
「え、それマスター様が喋ってたんじゃないんですか」
ゴブリンコロニーは壊滅していた。
俺の足元には、倒れた乳母ゴブリン、産休ゴブリン、育児放棄ゴブリン、育児に参加したい気持ちはあるゴブリンが転がっている。最後の奴は、戦う前から泣いていた。
《産休ゴブリンコロニーを制圧しました》
《討伐報酬:銀貨三枚》
《子育て支援金:対象外》
《胎児残高:0.00人》
《レベルが上がりました》
《キモマスター、調子に乗るな》
「最後の表示、絶対お前だろ」
「迷宮のシステムにも人格があるんですよ♡」
「性格終わってる」
俺はゴブリンの肉壁にもたれ、荒い息を吐いた。
短小剣術は俺のちんちんのように短かった。でも、届いた。
産火魔法は気持ち悪かった。でも、敵を倒せた。
昨日までの俺は、仲間の後ろで忌み子の赤ちゃんを送るだけだった。自分で剣を持つことも、火を放つことも、ましてゴブリンコロニーを一人で制圧することもなかった。ゴブリンコロニーてなに?
「俺、結構やれてるな」
思わず口から出た。
エムピーは少しだけ黙った。いつもなら即座に「勘違いキモキモマスター様♡死ねばいいのに♡」くらい言ってくるのに。
「……まあ」(脳死)
小さな声で、エムピーが言う。
「死なずに帰ってきたことだけは、褒めてあげます。迷えば、敗れる」
「珍しいな褒めるの」
「勘違いしないでください。死なれたら上司兼債権者として困るだけです」
「俺、結構やれてるな」
「なんで二回言ったんです?」
エムピーはそろばんを抱え直した。
「一人で前に立てたのは、ちょっとだけ偉いです」
「ちょっとだけ?」
「赤ちゃんよりちょっとだけ♡」
俺は笑った。けけっ。
楽しいんだよなぁ、女友達と喋っているような気がして。
__________
メルバ冒険者ギルド。
「妊貸レントさん。ゴブリンコロニー単独制圧、確認しました」
受付嬢は討伐証明のゴブリン耳と、なぜか提出必須だった母子手帳を見比べていた。
「……ランクをEからDへ昇格します」
「ありがとうございます。君可愛いね。食べちゃいたい」
「ただ、一点だけ確認させてください」
「何ですか?」
「報告書にある『火球が産声を上げた』とは」
「火球が産声を上げたんだけど……」
「そうですかもういいです……」
受付嬢はそれ以上、何も聞かなかった。
大人だった。立派だった。この話まだする?
「次は第三層へ行きますか?」
「ぷも」
「は? 第三層は《亡者の洞窟》です。死霊系魔物が中心なので、妊娠薬、回復薬、避妊薬、納税証明書を用意してください」
「最後の一ついる?」
「最近、死霊にも市民権を要求する者が増えまして」
「多様性の時代だな」
「便利な言葉ですね♡多様性の時代♡」
「お前は黙ってろ」
「ハフーン」
受付嬢は、俺が急に虚空へ怒鳴ったので、少しだけ椅子を遠ざけた。
楽しいんだよなぁ、亡者と喋っているような気がして。
__________
その頃。
断乳の剣が借りている宿では、障ガイが新しい腕輪を見つめていた。
《魔力回復の腕輪》
つけた者の魔力を回復させる魔具。一日に千もの魔力量を回復する。なお、装着者の腹部については一切保証しない。
「どうだ」
障ガイは腕輪を見せつけた。
「これで俺は、さらに強くなる。腹の中に何人いようが関係ねえ」
「障ガイ……」
ミサイルポッドが、やけに熱のこもった目で彼を見た。
「すごい。千も回復するなんて……前よりずっと頼りになるわ。だって千も回復するのよ千も……」
「ガイさん……」
エル・プサイ・コングルゥは、障ガイのもう片方の腕へ自分の腕を絡めた。
「私、強い人が好きです。強くて、魔力回復しそうな腕輪を着けてて、リボとかしない返済能力がありそうな人……」
「最後の一つ、俺にはないと思うぞ」
「そこがミステリアスで素敵です」
「は?」
二人の女に挟まれ、障ガイは満更でもなさそうに鼻を鳴らした。
「俺は断乳の剣のリーダーだ。お前ら二人くらい、まとめて守ってやる。それに、赤ちゃんもだ」
「障ガイ……!」
「ガイさん……!」
二人が一歩近づいた。
ボトッ。
「……」
「……」
「……」
床に、何かが落ちた。
ミサイルポッドは静かに視線を落とす。
「今、何が落ちたの?」
「愛の重みだ」
「もっと別の言い方ないの?」
「九匹目だ」
エル・プサイ・コングルゥが、障ガイの腹へそっと耳を当てた。
「……中が、増えていますね。声が聞こえるですぅ」
「増えてる?」
「はい。昨日より一人分くらい」
「一人分“くらい”って何だよ」
障ガイの腹が、ぐるるるる、と鳴った。
「レントだ」
障ガイは、笑顔の消えた二人を見ながら低く言った。
「あいつを見つける。俺の腹の中で、何を担保に何人増やしているのか、全部吐かせる」
「前回と全く同じこと言ってるですぅ」
「黙れ」
「とにかくヤツがダンジョンに向かったという情報はギルドで抑えた」
「ヤツをボコボコにして赤ちゃん全部認知させてやるよ」
「そんな目的だったっけ」
__________
メルバの大迷宮、第三層――亡者の洞窟。
冷たい空気が、通路を這っていた。
壁から突き出た無数の手が、何かを求めるように揺れている。壁面には古い落書きがあった。
『ここで産まれた者は、死後もローンと借りたゲーム返せ』
「最悪の遺言だな」
「死んでも返済が続く、素敵な世界観ですねぇ♡」
「お前は本当に何が素敵なんだよ」
俺は短剣に手をかけながら、奥へ進んだ。
その時だった。
「……産まれる!!助けて!」
通路の先から、女の声が聞こえた。
続けて、剣が何か硬いものを打つ金属音。
そして。
「リンカ! あと十分だけ耐えろ!」
「強敵を引き付けておけ! 俺たちは上の階で安全な位置を確保する! そして逃げる!」
「妊娠検査キットは置いていくなよ! あと回復薬も!」
「0.01ミリのごくうすコンドームもだ!」
何を置いていくんだ。何を言ってるんだこいつら。
俺は急いで走った。五十メートル十五秒の俺のタイムを見ろ。
広間へ飛び込むと、そこには一人の剣士がいた。
長い髪を振り乱し、肩から血を流しながら、巨大な骨の騎士と向かい合っている。彼女の足元には回復薬の空瓶、妊娠薬、避妊具、仲間から渡されたらしい荷物の山。ベルセルク十二巻。
そして、骨騎士の胸元には赤い文字が浮かんでいた。
《イレギュラー個体》
《亡者の洞窟に本来いない強敵》
《未納死霊騎士》
《妊娠残高:999.99人》
《返済期限:死亡後も継続》
「何だよ、あれ……」
「強敵です♡」
エムピーが、珍しく少しだけ真面目な声で言った。
「マスター。あれは今の雑魚マスターじゃ倒せないかもしれません」
「エムピーが弱気なの、初めて見た」
「違います。死なれたら利息が回収不能になるので、債権者として止めています」
「やっぱりその理由か」
剣士――リンカが、骨騎士の大剣を受け止めた。
鈍い音が響く。
彼女の足が、石床を削りながら後ろへ滑った。
「っ……!」
「おい!お前!」
俺は叫んだ。リンカがこちらを見る。
血と汗で濡れた顔。驚き。そして、俺が何もない空中へ話しかけながら近づいてくるのを見た時の、分かりやすい困惑。
「……何、あんた。お前!!??お前って言った!!??」
「今、助ける!」
「話聞けよ」
「大丈夫俺は一人じゃない」
「聞いてねえよ」
俺は隣を見た。
もちろん、リンカには何も見えない。
「サポート産婆妖精がいる」
「何もいないけど」
「ぷも?」
「殺したいコイツ」
未納死霊騎士が、俺へ顔を向けた。
兜の奥に灯る赤い光。
奴は大剣を持ち上げ、低い声で言った。
「返済……猶予……なし……お前……顔……キショすぎ……」
「奇遇だな」
俺は短小の剣を抜いた。
「俺も取り立て屋だ。後、お前のが顔キショい」
《短小剣術》
《産火魔法》
《残高:0.00人》
《所持金:銀貨三枚》
《勝率:知らん》
「いくぞ、エムピー」
「はい、キモキモマスター様」
エムピーは笑った。
「死ぬなら、元本だけ置いて死んでくださいね♡」
第4話のまとめ
・レントはエムピーに敬語を混ぜるなと怒られ、語彙力を失った。失語症になった。
・レントは産休ゴブリンコロニーを単独制圧し、冒険者ランクがDになった。よわ。
・障ガイは腕輪を手に入れ、ミサイルポッドとエル・プサイ・コングルゥから少し好かれた。腹から何か落ちた。
・断乳の剣はレントを探し始めた。原作通り。
・リンカは仲間に囮にされた。原作通り。
・第三層には、妊娠残高999.99人の未納死霊騎士がいる。原作、か。
・レントの勝率は知らん。