生き抜け!デーモンコアくん! 作:某1話の博士
時は進み、翌日の夜10時半。マスターやサーヴァント達の活動時間がやってきた。
マスター同士の戦いや、サーヴァント同士の戦いというのは昼夜問わず四六時中できるものではなく、一般人に危害を出さない。そして魔術やサーヴァントといった神秘を秘匿、隠蔽する為に深夜帯でしか戦闘行為を許されないという原則が存在する。
故に、マスターやサーヴァントは朝や昼は基本的に作戦会議や、それなりの魔術師であれば工房や隠れ家といった自身のテリトリーを作成する。アサシンのマスターの場合は、アサシンのクラススキルである”隠密行動”を利用し、索敵を行うこともある。
「にしても、デーモンコアくんって戦えるのか?」
康太は手の甲に刻まれたマスターの資格であり、サーヴァントと契約した事の照明である3画の赤い痣”令呪”を見つめながら、独り言のように呟いた。
デーモンコアくんの見た目はそれこそ某星の勇者を彷彿とさせるような簡素なもの。手足は長くない、体躯は小さい。体重も数キロ程度。それに英雄どころか反英雄にすら区分されなくてもおかしくないような存在。
「まず、デーモンコアってあれだろ?なんか、核うんたらかんたらみたいな。サーヴァントには通用しないだろ?」
「た゛い゛し゛ょ゛う゛ふ゛た゛よ゛!゛」
何が大丈夫なのかさっぱりわからない。放射能がサーヴァントに通用しなかったら、それはただの対人用の殺戮兵器だ。たとえ通用したとしても、一瞬で超広範囲に致死量の放射能を撒き散らす存在から「大丈夫」なんて言われても全く信用できなかった。
「で、その滑舌どうにかならないのか?すごい聞き取りづらいんだけど」
康太は地雷、いや原爆を踏んでしまった。
それの言葉に反応したデーモンコアくんはニコリと安心感が微塵も感じられないような満面の笑みを浮かべ、半球を開いた。
「わ゛か゛っ゛た゛!゛は゛い゛!゛」
デーモンコアくんはそう言うと、口に挟んでいたマイナスドライバーに手をかけ、抜こうとした。
走馬灯を見る時、周りの時間が遅く感じられるのと同じ原理なのか、康太の視点からはその光景がとてもゆっくりに見えた。それと同時に思い出した。デーモンコアってマイナスドライバー抜いたらヤバいんだと。
「まって!マイナスドライバーを抜くのをやめろ!」
その時、康太の令呪の1画が淡く光を放ち、溶けるように消えていった。そして、その瞬間デーモンコアくんのマイナスドライバーを引き抜こうとする手が止まり、マイナスドライバーを口の中に戻した。
「こ゛れ゛し゛ゃ゛、し゛ゃ゛へ゛り゛つ゛ら゛い゛よ゛!゛」
「うるさい!それ外されたら俺が死ぬんだよ!」
康太は知らないが、本来デーモンコアというのは
生前でも、犬や兎、象までもを一瞬で跡形もなく消し飛ばすことができたデーモンコアくんは、今や底の知れぬ怪物と成り果てていた。
「はぁ……これじゃまともに戦えもしないな……」
命綱は令呪とマイナスドライバー。なんなら令呪は3画しかないのにマイナスドライバーのためにもう1画使ってしまった。残り2画。これだけで自分の命とマイナスドライバーを守り切れるほどの自信が康太には無かった。
「そうだ、霊体化だ!デーモンコアくん、霊体化できないのか!?」
霊体化。それはサーヴァントが自身の肉体を魔力に分解し、最低限の魔力で現界している状態のことを指す。基本的にこの状態であれば、非実体である上、戦闘能力が無くなる。つまり、核分裂が連鎖的に起こる事態を避けられるかもしれないと考えたのだ。
「れ゛い゛た゛い゛か゛?゛う゛ー゛ん゛、で゛き゛な゛い゛な゛ぁ゛」
出来ない、という単語にここまで絶望したのは人生で初めてだった。本格的に防ぎようが無くなり始め、康太は考えることすらも放棄した。
「とりあえず、そのマイナスドライバーだけは絶対に抜くなよ!?いいな!抜いたら令呪で自害させるからな!?」
「え゛ー゛ー゛、わ゛か゛っ゛た゛よ゛ぉ゛」
デーモンコアくんは渋々と言った感じにそれを承諾した。相変わらず、喋れば喋るほどベリリウムとマイナスドライバーがぶつかる音でうるさいが、放射能を浴びるよりも1兆倍程度マシだ。そう自分に言い聞かせながら、これからの自分たちの立ち回りを考えた。
「とりあえず、デーモンコアくんに吶喊させれば、大丈夫か…。いや、サーヴァントに効くのか?」
この聖杯戦争においての1番の懸念点はセイバー、ランサー、ライダー辺だろう。知名度や生前の強さでサーヴァントの強さが決まるが、この3つは強いやつである事が多い。過去の事例を見ても、この3つのうちには必ず大英雄クラスのサーヴァントがいた。そんな相手に放射能が通用するかどうかが、これからの立ち回りに大きく関わっていくこととなった。
「とりあえず、外に出るぞ。何があっても、マイナスドライバーは口に入れとけよ?」
康太は繰り返すようにマイナスドライバーを抜くなと釘を刺し、家の外に出た。
周りは静まり返り、木の葉が擦れる音くらいしか聞こえなかった。康太の家は町外れの山の中にあり、そこで暮らしていた。
「それじゃあ、行く───まて、何だこの音?」
突如として音が響く。連続した何かの音。地面を蹴り、地を揺らす音。音の数とテンポの速さから人のものではないとみた。
馬、あるいは牛の類い。つまり、相手はライダークラスだろうと憶測を立てた。
「気をつけろ、バーサーカー。ライダーが来るぞ」
真名の秘匿のために一応デーモンコアくんではなく、バーサーカーと呼ぶが、それが果たして隠蔽になっているのかわからない。見た目がデーモンコアそのままだから、隠すも何もないだろうが、それでも一応のためそう読んだ。
「───来るぞッ!」
カンッ───!
何かが地面を強く蹴る音と共に、巨大な影が空を舞った。この世のものとは思えないほどの、大きな影が。
轟音と共に2人の背後に着地したのは馬と、その上に乗る人影が見えた。
しかし、その大きさが異常だ。アフリカゾウをゆうに上回る巨躯の馬。そしてその上に跨る槍を持った白髪の巨人。
その威圧感と殺気を放つ姿に康太は後退りをし、怖気付く。
そして実感する。とうとう本格的に聖杯戦争の火蓋が切られたのだと。