マジカル・リテラシー【Magical Literacy】 作:自認コメディ
マジリテは頭空っぽにして一日一話で書けてたのですが、こっちはちょっと難しいですね。でも楽しいので書きます^^
最初は、人々がそう呼んだ。
やがて、
しかし、いつしか
今では、高位の魔法少女から
『太陽の魔法少女』──
『うさぎ座の魔法少女』──
『真珠の魔法少女』──
『ヒマワリの魔法少女』──不死鳥
『鉄の魔法少女』──
二つ名を持つ魔法少女は、どんな特異空間領域に派遣されても生還できると評価されている。
──今日、その
*
『対象、消滅。危険度Ⅳの活性領域における領主討伐任務を完了。領域の鎮静を確認しました。東京支部に帰還しますか?』
「いや、残ってる
領域内には、一人の魔法少女の姿があった。
しかし、その装いは一般的な魔法少女のイメージとは大きく異なる。ひらひらとした華やかな衣装ではなく、街中でも違和感のない近未来的なストリートウェアだった。
青緑色の髪は
腰には銀色のバックルやベルトが配され、片脚だけを覆う黒いレッグカバーが左右非対称なシルエットを作っていた。足元は厚底のショートブーツ。
そして何より目を引くのは、彼女の周囲を静かに浮遊する、白銀の細長い機械群だった。月の欠片を思わせるそれらは、青白い光を灯しながら、まるで意思を持つかのように彼女の周囲を
──『月の魔法少女』
『マスターのご退職を心よりお祝い申し上げます。もっと早く魔法少女に専念すべきでしたね』
「ありがとう。そしてお黙り。自分でも薄々気づいてたのよ……」
彼女は深いため息を吐いた。
「魔法少女だけでやっていけるか不安で、大学新卒で就職したはいいものの、会社員の方がよっぽど向いてなかったわ……。私が会社に貢献したことなんて、三年以内離職率を高めてやったことくらいよ……。私は一生魔法少女でやっていくのよ……。街を歩けば指をさされ、魔法熟女と呼ばれるのよ……」
『お言葉ですが、マスターの労働環境はいわゆる「ブラック企業」と呼ばれるものに該当しておりました。向き不向きにかかわらず、早めに辞めることが最適解だったでしょう。それに、マスターの最適な職業は魔法少女です。職業魔法少女に年齢は関係ありません。
「うるへぇやい! 三十くらいには結婚して専業主婦になってるかもしれないだろぉ! それまでの付き合いだもん!」
「でも家庭持ちの現役魔法少女もいるよ?」
突然、会話にもう一つ声が加わった。
「やっほー! 『うさぎ座の魔法少女』こと、界渡りこと、ネザーランドドワーフしめことは私のこと! 気軽に、うさちゃんって呼んでいいよ♡ よろぴこ」
声のした方を振り返る。
金色の髪の上には、ぴんと伸びた白いうさぎ耳。水色のエプロンドレスを思わせる華やかな衣装には、細部にまで装飾が施されている。
そこには『うさぎ座の魔法少女』がいた。
「魔法少女のあなた、おめでとうございます! お茶会の招待状が当選しました! 招待状はこちら! 手に取ったからには出席は義務! 返品もクレームも受け付けておりません……」
うさぎ座の魔法少女はそう言って、両手でバッテンを作った。
いつの間にか、月の魔法少女の手には二つ折りのカードが握らされていた。
開いてみると、そこには、
『お茶会にご招待!
日時:これから!
場所:扉の先へ!』
と、殴り書きで記されている。
思わず顔を上げると、うさぎ座の魔法少女は「えーん、えーん」と声に出して、わざとらしく泣き真似をしていた。
「あの、いったいどういう……?」
「キミは評価されたんだよ。私たちと同じステージに立ったって」
先ほどまでのふざけた様子はどこへやら。
うさぎ座の魔法少女は、真っ直ぐにこちらを見つめていた。
「……私が、ですか?」
「うん。危険度Ⅳの領主を単独で討伐して、その後も残敵処理を続けている。なかなかできることじゃないよ」
「でも、それだけで……?」
「もちろん、それだけじゃない。詳しい話は向こうでするけどね」
うさぎ座の魔法少女が、にこりと笑う。
「さぁ、こちらへどうぞ。扉の先には、キミの先輩方が待っているよ」
そう言って指し示した先には、いつの間にか一枚の扉が立っていた。
扉が開かれる。
その向こうに景色はない。ただ、白い光だけが広がっている。
月の魔法少女は一瞬ためらったものの、意を決してその空間へと一歩を踏み出した。
全身が白い光に包まれる。
長いトンネルを抜けると、そこは──
「……大学の講義が終わるの遅くてさぁ……」
「この前、初めてカラオケでオールした」
「うちは今度、坊やが遠足だ」
「妾は最近、座ってばかりで運動不足じゃ」
思い思いに喋る四人の女性たちの姿があった。
いや、四分の一しか魔法少女に変身してないな!
*
そこは、綺麗に整備された庭園のような場所だった。
青々と茂る芝生の上には、長方形のテーブルが置かれている。ダマスク織りのクロスが掛けられたその上には、銀色のティーセットが並び、優雅な欧風のお茶会を思わせる。
テーブルを囲んでいたのは、和服姿の女性、女子大学生風の女性、パンツスタイルに黒い腰エプロンを着けた、いかにも「家事中でした」といった格好の女性。そして、美しい魔法少女の四人だった。
その魔法少女に、思わず目を奪われる。
真珠のような乳白色の髪は腰まで届くほど長く、緩やかに波打っている。光を受けるたびに淡い桃色や水色、薄紫へと
身に纏うのは、人魚を思わせる純白のドレス。布地には真珠特有の虹色の光沢があり、見る角度によって幾通りもの色彩を浮かび上がらせている。
ドレスは腰から膝にかけて細く絞られ、膝下からは魚の尾びれのように大きく広がっていた。その裾は驚くほど長く、椅子に腰掛けた彼女の足元で、波打つように幾重にも重なっている。
その姿は、まるで深海から現れた人魚姫。優雅でありながら、どこか人間離れした神秘的な美しさを
間違いなく、『真珠の魔法少女』の姿であった。
「わっ、本物だ……! じゃあ、他の人も……?」
「うん、そうだよ。ほらほら皆! 新人ちゃんが来たんだから自己紹介!」
うさぎ座の魔法少女が手を叩いて呼びかける。
最初に声をかけてくれたのは、和服姿の女性だった。
「『太陽の魔法少女』じゃ。最近は学園の理事長をしておる。アマネと呼んでおくれ」
「えぇ!? 太陽の魔法少女って、小学生のころニュースとかで見てました!」
「うむうむ」
すごい昔の魔法少女だ。
何やら「うっ、ジェネギャ……」とうめく声が二方向から聞こえてきた。女子大学生とうさぎ座の魔法少女だ。
続いて、エプロン姿の女性が声をかけてくれた。
「私は『鉄の魔法少女』。万象断ちと呼ばれている。よろしく頼む」
「はい! よろしくお願いします!」
「こんな格好ですまないな。夕飯の支度を始めたところで、うさぎ座に呼び出されたものだからな。変身するか?」
「いえ、とんでもない! そんな手間をかけさせるわけには……」
見たい! 生万象断ち見たいけど……!
見られないのは惜しいが、涙を呑んで見送る。
「……そうか。では、今度会うときは変身しておこう」
「はい!」
次に話しかけてきたのは、ようやく立ち直った女子大学生だった。
「……私は『ヒマワリの魔法少女』。不死鳥って呼ばれてるよ。よろしく……」
「あぁ! 不死鳥様だったんですね! よろしくお願いします! 大学生だったんですか!? まさかこんな若かったとは……」
「……うん……」
ヒマワリの魔法少女は、なにやら口をもごもごさせている。
すると、別の声がかかってきた。
「僕が挨拶をしよう」
こ、この声は……!
「『真珠の魔法少女』。蒼穹の人魚、と人は僕をそう呼ぶ。握手をしてあげよう」
そう言って、こちらへ手を差し出してくれた。
うおおおおお! 生人魚様! 生声! 生握手!
月の魔法少女は、実のところ二つ名オタクである。
その中でも最推しは、蒼穹の人魚。空を泳ぐビジュアルも最高だが、何より戦闘中はクールで、とっても強い。
二番目の推しは不死鳥。どちらも空を飛ぶ姿を撮影されることがあり、供給が多くて助かるのだ。
「あの、わたし! 人魚様と不死鳥様が推しで! 今この瞬間がとても光栄です!」
そう言って、差し出された手を両手で優しく包み込むように握る。
おお……。お、おお……!
「これからは肩を並べて戦うのだから、
な、なんて格好いいんだ……!
「さて、自己紹介も済んだことだし、本題に入ろっか!」
うさぎ座の魔法少女が、ぱんぱんと手を叩いた。
「本題、ですか?」
「そう! 今日は新作ケーキを食べる会だからね!」
「…………」
違う。いや、違わないのかもしれないけど!
「あの、私が呼ばれた理由は……?」
「それは食べながら話そうよ。せっかくのお茶会なんだし!」
そう言って、うさぎ座の魔法少女はどこからともなく白い箱を取り出した。
「ケーキ買ってきたよ~。レモンのフロマージュスフレに、レモンモンブラン、レモンとはちみつのクレープケーキにぃ……」
界渡りが白い箱から次々とケーキを取り出す。
「今日はやけにレモン推しだな」
「……レモンの旬って五月なの?……」
万象断ちと不死鳥が尋ねる。
「さっぱり系ならアマネさんも食べやすいかな~って。どれ食べたい?」
「じゃあ、スフレを貰おうかの」
界渡りはアマネの皿にケーキを取り分けた。
『日本産レモンの旬は、おおむね十月から五月ごろです。輸入品を含めれば、一年を通して流通しています』
「らしいですよ」
武装から発せられた機械音声に、月の魔法少女が言葉を重ねる。
「……ありがとう。便利だね、それ……」
「ほう、それが君の能力の一つかい」
不死鳥は機械音声に礼を言い、人魚は興味深そうに浮遊する機械群を眺めた。
「そうです。いつの間にか生えていました」
「それが! キミを呼んだ理由の一つだよっ!」
いつの間にかアマネにケーキを食べさせていた界渡りが、手にしたフォークをぴしりとこちらへ向けた。
「魔法少女はね、長く領域で活動していると、モチーフそのものが変化することがあるんだ。領域内で動植物や無機物が変異するのと同じようにね」
「モチーフが……変化?」
「そう。魔法はモチーフとイメージを結び付けて使うものだから、モチーフが変われば魔法も変わる。キミも『月の魔法少女』とは思えない能力をいくつか持っているでしょ?」
「ええ、まあ……いろいろと」
「でも、変化しただけじゃ二つ名は貰えない。その魔法がどれだけ強力なのかが重要なのさ」
界渡りは、にやりと笑った。
「キミの能力は、そうだね……『適応』とでも呼ぶべきものだ。相手や状況に合わせて、自分の魔法を最適化する。なかなか反則じみた能力じゃないか」
「それほどでも……」
「大いに誇っていいよ!」
そして、界渡りは胸を張って宣言した。
「二つ名を持つ魔法少女は、どんな特異空間領域に派遣されても生還できると評価されている──つまり! 私が転移で適当な領域に放り込んだら、解決してくれる子だって認められたのだよ!」
「あ、ありがとうございます」
なんだろう。ものすごく光栄なはずなのに、素直に喜べない。
ふと横を見ると、不死鳥がいつの間にかアマネへの「あ~ん」を引き継いでいた。
「……はい、アマネさん。あ~ん」
「自分で食べられるんじゃが……」
そう言いながらも、アマネは差し出されたケーキを素直に頬張っている。
……この人たち、本当に世界最高峰の魔法少女なんだよね?
*
その後は、本当にケーキをもぐもぐと食べ進めながら、それぞれが世間話に花を咲かせていた。
「小学校の持ち物すべてに名前を付けなきゃならないんだが、名前が印刷されたシールが便利でな」
「ほう、ペンで一つ一つ書かなくてよいのは便利じゃのう」
万象断ちの子育てトークにアマネが付き合っている。
そのアマネの後ろには不死鳥が立っており、せっせと肩を揉んでいた。人魚は既に三つ目のケーキに手を出している。
「私が異世界から連れてきた留学生ちゃんって『サファイアの魔法少女』なんだけど、氷だけじゃなくって炎とか回復とか土の魔法も使えるんだって。すごいね! あと最近はリコリコが近接格闘を仕込んでるって」
「異世界? リコリコ?」
月の魔法少女は、界渡りの話についていけず首を傾げていた。
そこへ人魚が説明を加える。
「異世界というのは、
「本当の異世界なんですか!?」
「繋げちゃいました、てへ」
「散々怒られてたな。理事長も珍しく怒ってた」
「そのことはもういいのー!」
界渡りは頬を膨らませ、ぷりぷりと怒ったふりをする。
「それより新人ちゃんの二つ名を決めなきゃ! このままじゃ『新人』が二つ名になっちゃうよ! いいの!?」
「それは嫌ですけど……」
界渡りはあまり掘り返されたくないのか、わかりやすく話をそらした。
「二つ名は自分で考えたり、人に呼ばれてたのを使ったり、アマネさんにつけてもらったりね。最近の主流はアマネさん命名で、人に呼ばれてたのを使ってるのは人魚と不死鳥。ちなみに私は自分で考えたよ!」
「『界渡り』ってご自身で考えたんですね。かっこいい」
「いや、自分で考えたのは『ネザーランドドワーフしめこ』の方」
「その売れないピン芸人みたいなの、二つ名にする気だったんですか?」
月の魔法少女は、思わず本音をこぼしてしまった。
「なにをー! 本当は『ホーランドロップしめこ』にしたかったけど、タレ耳じゃないから一応自重したんだぞー!」
界渡りがぷりぷりと怒る。
横文字も謎だけど、その「しめこ」って一体何なのぉ……?
その横では、人魚が顔を背けて肩を震わせていた。
推しが笑ってる……!
「……せっかくなので、アマネさんにつけてもらってもいいですか? 二つ名」
月の魔法少女はしばらく悩んだ末、アマネに向き直った。
「おっけーじゃ」
アマネが両手で大きな丸を作る。
その様子を、不死鳥がすかさず写真に収めていた。
「では、二つ名は妾が考えておこう。さて、その前にイレギュラー指定のことを共有せねばな」
「はいはーい!」
アマネの言葉を引き継ぐように、界渡りが元気よく手を挙げる。
「最近、領域の挙動に異常が見られてね。まぁ、領域なんてもともと異常なんだけど! これまでと違う異常が確認された領域は、『イレギュラー』として指定されることになったんだ」
界渡りは指を一本立て、説明を続ける。
「イレギュラー指定された領域は危険度が上がりやすい。だから今後、危険度Ⅳ以上のイレギュラーには、私たち高位魔法少女を派遣する方針なの。もちろん、この指定については全国にも周知していくつもりだよ」
「イレギュラーなんてあったんですね……」
会社を辞めている間に、ずいぶん物騒な話が進んでいるらしい。
界渡りは満面の笑みを浮かべると、続けて告げた。
「だから、キミには九州に行ってもらうの!」
「……うぇ!?」
二つ名就任早々左遷!?
左右盲ってあるじゃないですか……
読めるんですけど、一瞬迷います……ルビ振っても変わらないですし