マジカル・リテラシー【Magical Literacy】   作:自認コメディ

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没作マジエト(マジカル・エトランゼ)で考えてた設定をリツ以外の視点でこうしてちょくちょく投稿します。
マジリテは頭空っぽにして一日一話で書けてたのですが、こっちはちょっと難しいですね。でも楽しいので書きます^^


第10話 新作ケーキ食べる会

 最初は、人々がそう呼んだ。

 

 やがて、追随(ついずい)する者たちが自ら名乗り始めた。

 

 しかし、いつしか畏敬(いけい)の念をもって、自ら口にするものではなくなった。

 

 今では、高位の魔法少女から賜(たまわ)る特別な名となっている。

 

『太陽の魔法少女』──現人神(あらひとがみ)

 

『うさぎ座の魔法少女』──界渡(かいわた)り

 

『真珠の魔法少女』──蒼穹(そうきゅう)の人魚

 

『ヒマワリの魔法少女』──不死鳥

 

『鉄の魔法少女』──万象断(ばんしょうだ)ち

 

 二つ名を持つ魔法少女は、どんな特異空間領域に派遣されても生還できると評価されている。

 

 ──今日、その末席(まっせき)に一人の魔法少女が加わる。

 

 

*

 

 

『対象、消滅。危険度Ⅳの活性領域における領主討伐任務を完了。領域の鎮静を確認しました。東京支部に帰還しますか?』

「いや、残ってる侵蝕型(しんしょくがた)も倒していくよ。会社辞めて時間はあるんだし。それに、ちゃんと低危険度まで落ちてるか確認しなきゃ」

 

 領域内には、一人の魔法少女の姿があった。

 

 しかし、その装いは一般的な魔法少女のイメージとは大きく異なる。ひらひらとした華やかな衣装ではなく、街中でも違和感のない近未来的なストリートウェアだった。

 

 青緑色の髪は顎(あご)のあたりで切り揃えられ、毛先がさらりと揺れるボブショート。身に纏うのは、チャコールブラックのショート丈ジャケットに、月白色(げっぱくしょく)のインナー、黒のショートパンツ。ジャケットの襟元(えりもと)は大きく立ち上がり、袖や裾には青白い光のラインが走っている。

 

 腰には銀色のバックルやベルトが配され、片脚だけを覆う黒いレッグカバーが左右非対称なシルエットを作っていた。足元は厚底のショートブーツ。随所(ずいしょ)に施された銀色の金具が、無機質な印象を強めている。

 

 そして何より目を引くのは、彼女の周囲を静かに浮遊する、白銀の細長い機械群だった。月の欠片を思わせるそれらは、青白い光を灯しながら、まるで意思を持つかのように彼女の周囲を旋回(せんかい)している。

 

 ──『月の魔法少女』

 

『マスターのご退職を心よりお祝い申し上げます。もっと早く魔法少女に専念すべきでしたね』

「ありがとう。そしてお黙り。自分でも薄々気づいてたのよ……」

 

 彼女は深いため息を吐いた。

 

「魔法少女だけでやっていけるか不安で、大学新卒で就職したはいいものの、会社員の方がよっぽど向いてなかったわ……。私が会社に貢献したことなんて、三年以内離職率を高めてやったことくらいよ……。私は一生魔法少女でやっていくのよ……。街を歩けば指をさされ、魔法熟女と呼ばれるのよ……」

 

『お言葉ですが、マスターの労働環境はいわゆる「ブラック企業」と呼ばれるものに該当しておりました。向き不向きにかかわらず、早めに辞めることが最適解だったでしょう。それに、マスターの最適な職業は魔法少女です。職業魔法少女に年齢は関係ありません。寿退社(ことぶきたいしゃ)する日までお付き合いいたします。おや、マスターと一生を共にする確率98%』

 

「うるへぇやい! 三十くらいには結婚して専業主婦になってるかもしれないだろぉ! それまでの付き合いだもん!」

 

「でも家庭持ちの現役魔法少女もいるよ?」

 

 突然、会話にもう一つ声が加わった。

 

「やっほー! 『うさぎ座の魔法少女』こと、界渡りこと、ネザーランドドワーフしめことは私のこと! 気軽に、うさちゃんって呼んでいいよ♡ よろぴこ」

 

 声のした方を振り返る。

 

 金色の髪の上には、ぴんと伸びた白いうさぎ耳。水色のエプロンドレスを思わせる華やかな衣装には、細部にまで装飾が施されている。

 

 そこには『うさぎ座の魔法少女』がいた。

 

「魔法少女のあなた、おめでとうございます! お茶会の招待状が当選しました! 招待状はこちら! 手に取ったからには出席は義務! 返品もクレームも受け付けておりません……」

 

 うさぎ座の魔法少女はそう言って、両手でバッテンを作った。

 

 いつの間にか、月の魔法少女の手には二つ折りのカードが握らされていた。

 

 開いてみると、そこには、

 

『お茶会にご招待!

 日時:これから!

 場所:扉の先へ!』

 

 と、殴り書きで記されている。

 

 思わず顔を上げると、うさぎ座の魔法少女は「えーん、えーん」と声に出して、わざとらしく泣き真似をしていた。

 

「あの、いったいどういう……?」

「キミは評価されたんだよ。私たちと同じステージに立ったって」

 

 先ほどまでのふざけた様子はどこへやら。

 

 うさぎ座の魔法少女は、真っ直ぐにこちらを見つめていた。

 

「……私が、ですか?」

「うん。危険度Ⅳの領主を単独で討伐して、その後も残敵処理を続けている。なかなかできることじゃないよ」

「でも、それだけで……?」

「もちろん、それだけじゃない。詳しい話は向こうでするけどね」

 

 うさぎ座の魔法少女が、にこりと笑う。

 

「さぁ、こちらへどうぞ。扉の先には、キミの先輩方が待っているよ」

 

 そう言って指し示した先には、いつの間にか一枚の扉が立っていた。

 

 扉が開かれる。

 

 その向こうに景色はない。ただ、白い光だけが広がっている。

 

 月の魔法少女は一瞬ためらったものの、意を決してその空間へと一歩を踏み出した。

 

 全身が白い光に包まれる。

 

 長いトンネルを抜けると、そこは──

 

「……大学の講義が終わるの遅くてさぁ……」

「この前、初めてカラオケでオールした」

「うちは今度、坊やが遠足だ」

「妾は最近、座ってばかりで運動不足じゃ」

 

 思い思いに喋る四人の女性たちの姿があった。

 

 いや、四分の一しか魔法少女に変身してないな!

 

 

*

 

 

 そこは、綺麗に整備された庭園のような場所だった。

 

 青々と茂る芝生の上には、長方形のテーブルが置かれている。ダマスク織りのクロスが掛けられたその上には、銀色のティーセットが並び、優雅な欧風のお茶会を思わせる。

 

 テーブルを囲んでいたのは、和服姿の女性、女子大学生風の女性、パンツスタイルに黒い腰エプロンを着けた、いかにも「家事中でした」といった格好の女性。そして、美しい魔法少女の四人だった。

 

 その魔法少女に、思わず目を奪われる。

 

 真珠のような乳白色の髪は腰まで届くほど長く、緩やかに波打っている。光を受けるたびに淡い桃色や水色、薄紫へと艶(つや)めき、まるで髪そのものが虹色の光を宿しているかのようだった。

 

 身に纏うのは、人魚を思わせる純白のドレス。布地には真珠特有の虹色の光沢があり、見る角度によって幾通りもの色彩を浮かび上がらせている。

 

 ドレスは腰から膝にかけて細く絞られ、膝下からは魚の尾びれのように大きく広がっていた。その裾は驚くほど長く、椅子に腰掛けた彼女の足元で、波打つように幾重にも重なっている。

 

 その姿は、まるで深海から現れた人魚姫。優雅でありながら、どこか人間離れした神秘的な美しさを湛(たた)えていた。

 

 間違いなく、『真珠の魔法少女』の姿であった。

 

「わっ、本物だ……! じゃあ、他の人も……?」

「うん、そうだよ。ほらほら皆! 新人ちゃんが来たんだから自己紹介!」

 

 うさぎ座の魔法少女が手を叩いて呼びかける。

 

 最初に声をかけてくれたのは、和服姿の女性だった。

 

「『太陽の魔法少女』じゃ。最近は学園の理事長をしておる。アマネと呼んでおくれ」

「えぇ!? 太陽の魔法少女って、小学生のころニュースとかで見てました!」

「うむうむ」

 

 すごい昔の魔法少女だ。

 

 何やら「うっ、ジェネギャ……」とうめく声が二方向から聞こえてきた。女子大学生とうさぎ座の魔法少女だ。

 

 続いて、エプロン姿の女性が声をかけてくれた。

 

「私は『鉄の魔法少女』。万象断ちと呼ばれている。よろしく頼む」

「はい! よろしくお願いします!」

「こんな格好ですまないな。夕飯の支度を始めたところで、うさぎ座に呼び出されたものだからな。変身するか?」

「いえ、とんでもない! そんな手間をかけさせるわけには……」

 

 見たい! 生万象断ち見たいけど……!

 

 見られないのは惜しいが、涙を呑んで見送る。

 

「……そうか。では、今度会うときは変身しておこう」

「はい!」

 

 次に話しかけてきたのは、ようやく立ち直った女子大学生だった。

 

「……私は『ヒマワリの魔法少女』。不死鳥って呼ばれてるよ。よろしく……」

「あぁ! 不死鳥様だったんですね! よろしくお願いします! 大学生だったんですか!? まさかこんな若かったとは……」

「……うん……」

 

 ヒマワリの魔法少女は、なにやら口をもごもごさせている。

 

 すると、別の声がかかってきた。

 

「僕が挨拶をしよう」

 

 こ、この声は……!

 

「『真珠の魔法少女』。蒼穹の人魚、と人は僕をそう呼ぶ。握手をしてあげよう」

 

 そう言って、こちらへ手を差し出してくれた。

 

 うおおおおお! 生人魚様! 生声! 生握手!

 

 月の魔法少女は、実のところ二つ名オタクである。

 

 その中でも最推しは、蒼穹の人魚。空を泳ぐビジュアルも最高だが、何より戦闘中はクールで、とっても強い。

 二番目の推しは不死鳥。どちらも空を飛ぶ姿を撮影されることがあり、供給が多くて助かるのだ。

 

「あの、わたし! 人魚様と不死鳥様が推しで! 今この瞬間がとても光栄です!」

 

 そう言って、差し出された手を両手で優しく包み込むように握る。

 

 おお……。お、おお……!

 

「これからは肩を並べて戦うのだから、畏(かしこ)まらなくてもいい」

 

 な、なんて格好いいんだ……!

 

「さて、自己紹介も済んだことだし、本題に入ろっか!」

 

 うさぎ座の魔法少女が、ぱんぱんと手を叩いた。

 

「本題、ですか?」

「そう! 今日は新作ケーキを食べる会だからね!」

「…………」

 

 違う。いや、違わないのかもしれないけど!

 

「あの、私が呼ばれた理由は……?」

「それは食べながら話そうよ。せっかくのお茶会なんだし!」

 

 そう言って、うさぎ座の魔法少女はどこからともなく白い箱を取り出した。

 

「ケーキ買ってきたよ~。レモンのフロマージュスフレに、レモンモンブラン、レモンとはちみつのクレープケーキにぃ……」

 

 界渡りが白い箱から次々とケーキを取り出す。

 

「今日はやけにレモン推しだな」

「……レモンの旬って五月なの?……」

 

 万象断ちと不死鳥が尋ねる。

 

「さっぱり系ならアマネさんも食べやすいかな~って。どれ食べたい?」

「じゃあ、スフレを貰おうかの」

 

 界渡りはアマネの皿にケーキを取り分けた。

 

『日本産レモンの旬は、おおむね十月から五月ごろです。輸入品を含めれば、一年を通して流通しています』

「らしいですよ」

 

 武装から発せられた機械音声に、月の魔法少女が言葉を重ねる。

 

「……ありがとう。便利だね、それ……」

「ほう、それが君の能力の一つかい」

 

 不死鳥は機械音声に礼を言い、人魚は興味深そうに浮遊する機械群を眺めた。

 

「そうです。いつの間にか生えていました」

「それが! キミを呼んだ理由の一つだよっ!」

 

 いつの間にかアマネにケーキを食べさせていた界渡りが、手にしたフォークをぴしりとこちらへ向けた。

 

「魔法少女はね、長く領域で活動していると、モチーフそのものが変化することがあるんだ。領域内で動植物や無機物が変異するのと同じようにね」

「モチーフが……変化?」

「そう。魔法はモチーフとイメージを結び付けて使うものだから、モチーフが変われば魔法も変わる。キミも『月の魔法少女』とは思えない能力をいくつか持っているでしょ?」

「ええ、まあ……いろいろと」

「でも、変化しただけじゃ二つ名は貰えない。その魔法がどれだけ強力なのかが重要なのさ」

 

 界渡りは、にやりと笑った。

 

「キミの能力は、そうだね……『適応』とでも呼ぶべきものだ。相手や状況に合わせて、自分の魔法を最適化する。なかなか反則じみた能力じゃないか」

「それほどでも……」

「大いに誇っていいよ!」

 

 そして、界渡りは胸を張って宣言した。

 

「二つ名を持つ魔法少女は、どんな特異空間領域に派遣されても生還できると評価されている──つまり! 私が転移で適当な領域に放り込んだら、解決してくれる子だって認められたのだよ!」

「あ、ありがとうございます」

 

 なんだろう。ものすごく光栄なはずなのに、素直に喜べない。

 

 ふと横を見ると、不死鳥がいつの間にかアマネへの「あ~ん」を引き継いでいた。

 

「……はい、アマネさん。あ~ん」

「自分で食べられるんじゃが……」

 

 そう言いながらも、アマネは差し出されたケーキを素直に頬張っている。

 

 ……この人たち、本当に世界最高峰の魔法少女なんだよね?

 

 

*

 

 

 その後は、本当にケーキをもぐもぐと食べ進めながら、それぞれが世間話に花を咲かせていた。

 

「小学校の持ち物すべてに名前を付けなきゃならないんだが、名前が印刷されたシールが便利でな」

「ほう、ペンで一つ一つ書かなくてよいのは便利じゃのう」

 

 万象断ちの子育てトークにアマネが付き合っている。

 

 そのアマネの後ろには不死鳥が立っており、せっせと肩を揉んでいた。人魚は既に三つ目のケーキに手を出している。

 

「私が異世界から連れてきた留学生ちゃんって『サファイアの魔法少女』なんだけど、氷だけじゃなくって炎とか回復とか土の魔法も使えるんだって。すごいね! あと最近はリコリコが近接格闘を仕込んでるって」

「異世界? リコリコ?」

 

 月の魔法少女は、界渡りの話についていけず首を傾げていた。

 

 そこへ人魚が説明を加える。

 

「異世界というのは、4(・)年(・)前(・)に界渡りが無断で繋げた別世界のことだ。魔術が存在し、魔力を動力とした機械が普及している。今年はそこから留学生がやって来たんだが、来日直前に魔法少女の適性が判明してね。今は本部所属の魔法少女として活動している。リコリコというのは工藤リコのことだ。留学生の魔法少女活動を担当している大人だよ」

 

「本当の異世界なんですか!?」

「繋げちゃいました、てへ」

「散々怒られてたな。理事長も珍しく怒ってた」

「そのことはもういいのー!」

 

 界渡りは頬を膨らませ、ぷりぷりと怒ったふりをする。

 

「それより新人ちゃんの二つ名を決めなきゃ! このままじゃ『新人』が二つ名になっちゃうよ! いいの!?」

「それは嫌ですけど……」

 

 界渡りはあまり掘り返されたくないのか、わかりやすく話をそらした。

 

「二つ名は自分で考えたり、人に呼ばれてたのを使ったり、アマネさんにつけてもらったりね。最近の主流はアマネさん命名で、人に呼ばれてたのを使ってるのは人魚と不死鳥。ちなみに私は自分で考えたよ!」

「『界渡り』ってご自身で考えたんですね。かっこいい」

「いや、自分で考えたのは『ネザーランドドワーフしめこ』の方」

「その売れないピン芸人みたいなの、二つ名にする気だったんですか?」

 

 月の魔法少女は、思わず本音をこぼしてしまった。

 

「なにをー! 本当は『ホーランドロップしめこ』にしたかったけど、タレ耳じゃないから一応自重したんだぞー!」

 

 界渡りがぷりぷりと怒る。

 

 横文字も謎だけど、その「しめこ」って一体何なのぉ……?

 

 その横では、人魚が顔を背けて肩を震わせていた。

 

 推しが笑ってる……!

 

「……せっかくなので、アマネさんにつけてもらってもいいですか? 二つ名」

 

 月の魔法少女はしばらく悩んだ末、アマネに向き直った。

 

「おっけーじゃ」

 

 アマネが両手で大きな丸を作る。

 

 その様子を、不死鳥がすかさず写真に収めていた。

 

「では、二つ名は妾が考えておこう。さて、その前にイレギュラー指定のことを共有せねばな」

「はいはーい!」

 

 アマネの言葉を引き継ぐように、界渡りが元気よく手を挙げる。

 

「最近、領域の挙動に異常が見られてね。まぁ、領域なんてもともと異常なんだけど! これまでと違う異常が確認された領域は、『イレギュラー』として指定されることになったんだ」

 

 界渡りは指を一本立て、説明を続ける。

 

「イレギュラー指定された領域は危険度が上がりやすい。だから今後、危険度Ⅳ以上のイレギュラーには、私たち高位魔法少女を派遣する方針なの。もちろん、この指定については全国にも周知していくつもりだよ」

「イレギュラーなんてあったんですね……」

 

 会社を辞めている間に、ずいぶん物騒な話が進んでいるらしい。

 

 界渡りは満面の笑みを浮かべると、続けて告げた。

 

「だから、キミには九州に行ってもらうの!」

「……うぇ!?」

 

 二つ名就任早々左遷!?




左右盲ってあるじゃないですか……袖裾(そですそ)盲ってあるんですかね?
読めるんですけど、一瞬迷います……ルビ振っても変わらないですし
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