あれから数週間が経った。
かつては艦娘たちの訓練や出撃準備に追われていた鎮守府で、今、とんでもない事態が起きていた。
ガンダムブームである。
発端は言うまでもない。あの赤い軍服と奇妙な仮面を身につけた変人提督が、艦娘たちに『機動戦士ガンダム』を見せ始めたことだった。
最初こそ一部の艦娘が興味本位で鑑賞しているだけだったのだが、いつの間にかその輪は広がり、今では鎮守府の至るところでガンダムの話題が飛び交うようになっていた。
談話室の壁にはガンダムのポスターが貼られ、休憩時間にはモビルスーツの性能について熱心に議論する艦娘たちの姿が見られる。中には、お気に入りの登場人物の台詞を真似しながら会話する者まで現れ始めていた。
そして、駆逐艦たちの間ではガンプラが流行していた。
「電! そっち持ってて!」
「はいなのです!」
「よーし! これで完成よ!」
談話室の一角では、暁が得意げにプラモデルを掲げていた。その隣では雷と電が完成した機体を眺め、響が説明書を片手に何やら首を傾げている。
「暁。それ、腕が左右逆じゃないかな」
「……えっ?」
「あと、足のパーツも一つ余ってるよ」
「ええっ!? そんなはずないわ!」
「もう一回組み直すのです!」
「うぅ……一人前のレディなら、これくらい……!」
そんな光景を、大淀は少し離れた場所から微笑ましく眺めていた。
「……すっかり流行ってしまいましたね」
最初はどうなることかと思ったものだ。
何しろ、布教活動を始めた張本人が、あの提督である。
訓練日にガンダムの鑑賞会を開いたかと思えば、明石と妖精たちを巻き込んで巨大な航空機を建造し、挙げ句の果てには艦娘を空から出撃させるなどという前代未聞の作戦まで実行してしまった。
もっとも、その作戦が予想以上の戦果を上げてしまったのだから、大淀としても複雑なところではある。
「まあ……皆さん、楽しそうですしね」
艦娘たちは日々、深海棲艦との戦いに身を投じている。
そんな彼女たちが一つの娯楽を通じて交流を深め、楽しそうに笑っているのなら、それ自体は決して悪いことではない。
少なくとも、ガンプラを作っているだけなら誰にも迷惑はかからない。
大淀はそう考え、穏やかな気持ちで窓の外へ視線を向けた。
そして、その表情が止まった。
「…………あら?」
港の一角に、見覚えのある二人の姿があった。
赤い軍服に仮面をつけた提督と、白衣姿の明石である。
しかも、どうやら二人だけではないらしい。周囲には伊168、伊58、伊19といった潜水艦娘たちが集まっており、何やら大きな物体を取り囲んでいる。
大淀の眉がぴくりと動いた。
「……何をしているんでしょう?」
あの二人が一緒にいる。
その事実だけで、嫌な予感がした。
しばらく様子を眺めていた大淀だったが、やがて諦めたようにため息をついた。
「……確認だけ、しておきましょうか」
できれば何も起きていてほしくない。
そんな淡い期待を胸に、大淀は港へと向かった。
「諸君! よく集まってくれた!」
港では、提督が潜水艦娘たちを前に堂々と胸を張っていた。
相変わらずの赤い軍服に、見慣れた仮面。すっかりシャア・アズナブルになりきっているその男を、三人の潜水艦娘が見上げていた。
「提督、今日は何の用なのね?」
伊19が元気よく尋ねる。
「うむ。今日は君たちに新しい武装を用意したのだよ」
「新しい武装でち?」
伊58が首を傾げた。
「ああ。これまでの潜水艦運用を根本から変える、画期的な装備だ」
「……また変なものじゃないでしょうね?」
伊168が警戒するように目を細める。
何しろ、先日は軽巡洋艦の球磨が巨大な鉄球を振り回して帰ってきたばかりだ。あの一件以来、提督の言う新装備という言葉には、少なからず不安を覚えるようになっていた。
しかし、提督はそんな三人の反応など気にも留めない。
「明石!」
「はい!」
「見せてやってくれ!」
「了解です!」
明石が合図を送ると、待機していた妖精たちが一斉に動き出した。
大きな布が取り払われ、その奥に隠されていた物体が姿を現す。
それは、巨大な潜水艦だった。
従来の潜水艦とは明らかに異なる、独特な形状をした船体。水中での活動を前提としながらも、大量の物資や人員を収容できそうな、見るからに巨大な艦である。
「おおーっ!」
伊19が目を輝かせた。
「すっごく大きいのね!」
「……これ、潜水艦でち?」
「ああ! ジオン公国軍が誇る潜水母艦、マッドアングラーだ!」
提督は満足げに腕を組んだ。
「どうだ! 素晴らしいだろう!」
「かっこいいのね!」
伊19はすっかり気に入った様子だったが、伊58は何とも言えない顔をしていた。
「……でも提督」
「なんだね、ゴーヤ?」
「これ、新しい武装っていうか……潜水艦そのものでち」
「うむ!」
「うむ、じゃないでち!」
その隣で、伊168が少し不安そうに口を開いた。
「……ねえ、提督」
「どうした、イムヤ?」
「こんなに大きな潜水艦を作っちゃったら……私たち、もう必要なくなるんじゃないの?」
その言葉に、伊19と伊58も顔を上げた。
確かに、これほど巨大な潜水艦があれば、従来の潜水艦娘に任されていた任務の一部を代替できるかもしれない。そう考えてしまうのも無理はなかった。
しかし、提督はすぐに首を横に振った。
「何を言っている。そんなわけがないだろう」
「……そうなの?」
「当然だとも。このマッドアングラーは、君たちがより効率的に任務を遂行するためのものだ」
提督は巨大な船体を指さした。
「これまで君たちは、長距離の移動も自分たちで行わなければならなかった。しかし、この潜水母艦があれば、作戦海域の近くまで艦内で休みながら移動できる。行動範囲は大幅に広がり、長期間の作戦にも対応できるようになるのだよ」
「おお……!」
「なるほどでち!」
そこへ明石が説明を引き継いだ。
「もちろん、艦内の居住設備も充実させました! 個室や休憩室、それに食堂も用意しています。潜水艦の皆さんが長時間の任務でも快適に過ごせるよう、妖精さんたちが頑張ってくれたんですよ!」
「本当なのね!?」
「もちろんです!」
「やったでち! これなら遠くまで行くのも楽になるでち!」
先ほどまで不安そうだった伊168も、嬉しそうに笑った。
「……そっか。それなら、いいかもね」
「うむ。君たちはこれからも我が鎮守府の重要な戦力だ。この艦は、そのためのものなのだよ」
珍しく、提督の言うことは至極まともだった。
三人の潜水艦娘たちも、新しい母艦をすっかり気に入ったようである。
だが、話はそれで終わらなかった。
「さて、諸君!」
提督が突然、声を張り上げた。
「本日より、君たち潜水艦部隊を正式にマッドアングラー隊と命名する!」
「マッドアングラー隊!」
「かっこいいのね!」
「なんだか特別部隊みたいでち!」
「そうだとも! 君たちはこれから、我が鎮守府が誇る精鋭水中部隊となるのだ!」
提督は大きく頷くと、傍らに置いてあった箱を開けた。
「そして、そんな諸君にふさわしい制服を用意しておいた」
「制服?」
「うむ。さあ、これに着替えたまえ!」
取り出されたのは、三着の奇妙なタイツだった。
身体の線をぴったりと覆う、いかにも潜水工作員といった風貌の衣装である。
「…………」
三人の動きが止まった。
「……提督?」
伊168が恐る恐る尋ねる。
「なんだね?」
「これを……着るの?」
「無論だとも!」
「……えぇ」
「ちょっと恥ずかしいでち……」
「これ、着なきゃ駄目なの?」
「無論だとも! 形から入ることも大切なのだよ」
だが、提督は一向に譲らなかった。
「イクは、いつもの水着の方がいいのね……」
「まあまあ。新しい装備も用意してあるぞ!」
その言葉に、伊19が顔を上げた。
「新しい装備!?」
「うむ。明石が素晴らしいものを作ってくれた」
「それなら見てみたいのね!」
三人は顔を見合わせた。
マッドアングラーは欲しい。新しい装備も気になる。
だが、タイツは少々抵抗がある。
結局、三人は渋々衣装を受け取ると、明石に案内されて着替えに向かうのだった。
ちょうどその頃、港へ一人の艦娘がやってくる。
大淀だった。
「……提督」
背後から、冷たい声が響いた。
提督が振り返る。
そこには、実に嫌そうな顔をした大淀が立っていた。
「おお、ドレン。ちょうどいいところに来たな」
「大淀です。……それよりも」
大淀は提督を見た後、もう一度巨大な船体へ視線を戻した。
「……なんですか、これ?」
「ふっ。よくぞ聞いてくれた」
提督は得意げに胸を張った。
「紹介しよう! 我が鎮守府の新たな戦力、潜水母艦マッドアングラーだ!」
「…………」
大淀はゆっくりと目を閉じた。
マッドアングラー。
聞き覚えのある名前だった。というより、つい先日、提督が鑑賞していた『機動戦士ガンダム』に登場していたはずである。
嫌な予感がした。
「……提督」
「なんだね?」
「まさかとは思いますが……また明石さんと?」
「もちろんだとも!」
「……明石さん?」
「はい! 妖精さんたちと頑張りました!」
少し離れた場所にいた明石が、満面の笑みで手を挙げた。
大淀は天を仰いだ。
「……ああ、予算が。また予算が……!」
つい数週間前、この鎮守府では巨大な航空機が完成したばかりである。あのガウ攻撃空母の建造に、どれほどの資材と費用が投入されたことか。
ようやく帳簿の整理が終わったと思った矢先に、今度は巨大な潜水艦である。
「提督! いったいいくら使ったんですか!? そもそも、こんなものを作る必要がどこにあるんですか!」
「必要に決まっているだろう」
「どこがですか!?」
提督は大淀の勢いにまったく動じることなく、潜水艦娘たちへ視線を向けた。
「ドレン。君は彼女たちの長距離任務について、どう考えている?」
「はい?」
「潜水艦娘はその性質上、長時間の潜航任務や敵海域への偵察を任されることが多い。移動だけでも相当な負担がかかるだろう?」
「……それは、まあ」
「そこで、このマッドアングラーだ」
提督は巨大な船体を指さした。
「潜水母艦を使用すれば、作戦海域までの移動を母艦に任せられる。彼女たちは十分に休息を取り、万全の状態で任務に臨むことができるのだよ」
「…………」
「さらに、航続距離の制約も緩和される。これまで派遣が難しかった遠方の海域へも進出できるというわけだ」
大淀は口を開きかけた。
しかし、反論が出てこなかった。
理屈は通っている。
「……ぐぬぬ」
「どうした、ドレン?」
少なくとも、ガウ攻撃空母を初めて見せられたときよりは、遥かにまともな説明だった。
そこへ明石が資料を持って近づいてきた。
「それだけじゃありませんよ、大淀さん! 船内には休憩室や食堂、個室まで完備しています! 長期間の任務に対応できるよう、補給物資もたっぷり積み込める設計なんです!」
「こ、個室まで……?」
「はい! 潜水艦のみんなが少しでも快適に過ごせるようにって、提督から頼まれまして!」
大淀は三人の潜水艦娘を見た。
「……分かりました。潜水母艦については認めます」
「ふっ。君なら理解してくれると思っていたよ」
「ただし! 今後は事前に相談してください!」
「もちろんだとも」
大淀は深いため息をついた。
珍しく、今回は提督の計画にもまともな理由があったらしい。
そう思った、そのときだった。
「提督ー! 着替えてきたでち!」
伊58の声が響く。
大淀が振り返ると、そこには奇妙なタイツを着込んだ三人の潜水艦娘が立っていた。
しかも、腕には巨大な金属製の爪が取り付けられている。
「…………」
大淀は目を瞬かせた。
一度。
二度。
そして、ゆっくりと提督へ顔を向けた。
「……提督?」
「おお! 戻ったか!」
提督は満足げに頷き、三人を指し示した。
「紹介しよう! 我が鎮守府が誇る精鋭部隊!」
そして、提督は大きく手を広げ堂々と宣言する。
「マッドアングラー隊だ!」
三人はそれぞれポーズを取った。
「……ど、どうも」
「ゴーヤたちがマッドアングラー隊でち!」
「よろしくなのね!」
一人だけ、明らかに乗り気ではなかった。
大淀はしばらくその光景を眺めていた。
「…………」
提督は得意げだった。
明石も嬉しそうだった。
妖精たちは拍手していた。
そして大淀は、つい先ほどまで自分がこの男の計画に納得しかけていたことを、心の底から後悔した。
「なんですかその格好はぁぁぁ!?」
大淀の怒声が港に響き渡った。
「提督が着替えろって言ったでち……」
「イクもちょっと恥ずかしいのね……」
「私も、これで任務に行くのはちょっと……」
三人の反応は、どうにも芳しくない。
大淀はゆっくりと提督を振り返った。
「……提督?」
「なんだね、ドレン」
「本当にあなたって人は……!!」
大淀は額を押さえた。
せっかく新しい潜水母艦を作ったというのに、どうして余計なことをするのだろう。
しかし、そんな大淀の横で、伊19が嬉しそうに腕を持ち上げた。
「でもね! 新しい武装は気に入ったのね!」
「……新しい武装?」
大淀は改めて三人の姿を見た。
確かに、彼女たちの腕にはそれぞれ巨大な金属製の爪が装着されている。
「……明石さん。まさか、その巨大な爪のことですか?」
「そうです!! 新型の近接戦闘用武装です!」
明石は待っていましたとばかりに説明を始めた。
「ジオンの水陸両用モビルスーツを参考にしたアイアン・ネイルです! 水中での格闘戦はもちろん、敵に接近した際の攻撃力向上を狙っています!」
「…………」
大淀は一度、目を閉じた。
そして、ゆっくりと明石を見る。
「……明石さん」
「はい?」
「潜水艦に近接武装が必要ですか!?」
「必要だろう!」
なぜか提督が即答した。
「なんであなたが答えるんですか!?」
「水中格闘戦において、近接兵装は重要な意味を持つのだよ、ドレン」
「大淀です! そもそも潜水艦は格闘戦をするものではありません!!」
だが、明石の説明はまだ終わらなかった。
「そして、こちらをご覧ください!」
明石が指さしたのは、伊168の腕に取り付けられた巨大なオレンジ色の装備だった。
「これは何でしょう……?」
「ハンド・ミサイル・ユニットです!」
「ミサイル?」
「はい! 大型艦や重装甲の敵に対して、一撃で大きな損害を与えることを目的とした強力なミサイル兵装です!」
明石は嬉しそうに説明を続ける。
「通常の魚雷よりも大型の弾頭を搭載していて、接近戦での決定打として使えるんですよ。しかも、最大の特徴は発射後に装備を切り離せることです!」
「切り離せる?」
「はい! 発射後は空になったユニットをパージすることで、余計な重量を減らせます。そうすれば機動力を取り戻せますし、元の腕部武装も使用できるんです!」
「なるほど……」
大淀は伊168の装備を改めて眺め、少しだけ考え込んだ。
潜水艦にミサイル兵装。
先ほどの巨大な爪よりは、まだ理解できる。魚雷とは異なる攻撃手段を持つこと自体は、戦術的な意味もあるかもしれない。
大型の兵装を装備したままでは水中での機動力に影響が出るだろう。しかし、攻撃後に不要な部分を切り離せるのであれば、その問題も軽減できる
「ふむ……」
大淀は感心したように頷いた。
「それなら、運用方法次第では有効かもしれませんね」
「えへへ! ありがとうございます!」
伊168も嬉しそうに腕を持ち上げる。
「私も気に入ってるの。これなら大きな敵とも戦いやすくなりそうだしね!」
「そうですね。こういう装備なら、私も理解できます」
大淀は小さく頷いた。
しかし、そこで視線が伊19と伊58へと移った。
二人は、何やら妙なものを持っていた。
「……あの」
「はい!」
「そちらの装備は?」
「ザク・マシンガンと火炎放射器です!」
明石が元気よく答えた。
「……火炎放射器?」
「上陸後の戦闘で火力を発揮できるように設計しました!」
「…………」
大淀の笑顔が消えた。
「いやあ、妖精さんたちが随分張り切っちゃいまして!」
「…………」
「大淀さん?」
次の瞬間。
「明石さぁぁぁん!!」
大淀が明石の両肩を掴んだ。
「わわっ!? な、なんですか!?」
「潜水艦に地上での火力が必要ですか!? そもそも上陸ってなんですか!? しませんよ! 彼女たちは潜水艦です!!」
大淀は明石を前後にぶんぶんと揺さぶった。
「ちょっ、大淀さん! 目が! 目が回りますぅぅ!」
「なんで毎回毎回、変な方向に開発が進むんですかぁぁ!!」
「落ち着きたまえ、ドレン」
提督が静かに口を挟んだ。
「落ち着けるわけないでしょう!!」
「上陸することもあるだろう?」
「……は?」
提督は実に当然のことのように答えた。
「彼女たちは水陸両用なのだからな」
「違います!!」
大淀の声が港中に響き渡った。
潜水艦娘は水陸両用モビルスーツではない。
当たり前のことである。
しかし、どうやらこの鎮守府では、その当たり前を一から説明しなければならないらしい。
「……まったく、もう……!」
大淀は明石から手を離すと、疲れ切った表情で肩を落とした。
その横では、伊19が嬉しそうにアイアン・ネイルを動かしている。
「見て見て! かっこいいのね!」
「確かに装備は悪くないでち!」
「このミサイルも結構強そうね」
三人はすっかり新しい武装が気に入ったらしい。
タイツについては相変わらず不満そうだったが、装備を試すことには乗り気のようだった。
そして何より、巨大な潜水母艦の存在が嬉しいのだろう。
その姿を見て、大淀は再びため息をついた。
「……はぁ」
これ以上何を言っても、どうせ無駄だ。
しかも、潜水母艦そのものは潜水艦娘たちの負担軽減に役立つ。新型武装にしても、実際の性能を確認してからでなければ一概に否定はできない。
何より、当の本人たちがこんなにも喜んでいるのだ。
「……もう、好きにしてください」
大淀は力なく呟いた。
「私はもう驚きませんから……」
「ふっ。ようやく理解してくれたか、ドレン」
「大淀です……」
もはや怒鳴る気力すら残っていなかった。
それからしばらくして、マッドアングラーの出撃準備が始まった。
妖精たちが慌ただしく船内へ物資を運び込み、明石が各種装置の最終確認を行っている。
伊168たちも艤装の点検を終え、出撃を待つばかりとなっていた。
「さて、諸君」
提督が三人に向き直った。
「今回の任務は、新型潜水母艦の運用試験だ。まずは近海を巡航し、問題がないか確認してもらいたい」
「了解でち!」
「任せてなのね!」
「分かったわ!」
「それと、もう一つ」
提督は思い出したように付け加えた。
「可能であれば、周辺海域の偵察も頼みたい」
「偵察?」
「ああ。敵の活動が活発になっている海域がある。どこかに深海棲艦の基地が存在している可能性もあるのでね」
「敵の基地……?」
伊19が首を傾げた。
そして、何かを思いついたように手を叩く。
「あっ! ジャブローみたいな基地なのね!?」
提督の動きが止まった。
その直後、彼は嬉しそうに頷いた。
「そうだ! ジャブローだ!」
「おおーっ!」
「敵の秘密基地が見つかれば、大きな戦果になる。発見した場合はすぐに連絡をくれたまえ!」
「了解なのね!」
「任せるでち!」
「分かったわ、提督!」
潜水艦娘たちは元気よく返事をすると、マッドアングラーへと乗り込んでいった。
巨大な船体がゆっくりと海面へ滑り出す。
やがて、周囲に大きな波紋を広げながら潜航を開始した。
「マッドアングラー隊、発進!」
提督の号令とともに、巨大な潜水母艦が海中へと姿を消す。
その光景を、明石と妖精たちが満足そうに見送っていた。
大淀も黙って海面を眺めていたが、やがて小さく口を開いた。
「……提督」
「なんだね、ドレン?」
「大淀です。それで……本当に敵の基地なんて見つかると思っているんですか?」
「可能性はあるだろう」
「それはそうですが……アニメのように都合よく敵の秘密基地が見つかるわけ……」
そこまで言いかけたときだった。
通信機から電子音が響いた。
『……こちらマッドアングラー隊。提督、聞こえるでち?』
「おお、ゴーヤか。どうした?」
『あのね、提督』
「うむ」
『見つけたでち』
大淀の動きが止まった。
提督はにやりと笑う。
「……ほう?」
『無人島に大きな施設があるでち! 深海棲艦が出入りしてるみたいでち!』
提督はゆっくりと腕を組んだ。
「フフフフ……」
「……提督?」
「ついにジャブローの入口を突き止めたというわけさ」
「えっ!?」
「素晴らしいぞ、ゴーヤ! お手柄だ!」
『もっと褒めてくれてもいいでち!』
「ちょ、ちょっと待ってください! 本当に敵基地が見つかったんですか!?」
「ああ」
「敵の基地が?」
「そうだとも」
大淀は大きく息を吸い込んだ。
「見つかったんですかぁぁぁぁ!?」
その悲鳴は、遠く離れた港の端にまで響き渡ったという。
――こうして、マッドアングラー隊の初任務は、誰も予想していなかった成果を上げることとなった。