※自分用に作った小説です。キャラ崩壊しますので苦手な人は気を付けてください。
深海棲艦。
それがいつ、どこから現れたのかを正確に知る者はいない。確かなのは、海上の覇権を失った人類が、艦娘という新たな戦力によって辛うじて抵抗を続けているという事実だけだった。
幾度となく繰り返される海戦。失われた船舶、寸断された航路。そして、その戦いの最前線には、数多くの鎮守府が存在していた。
その一つに、ひときわ異彩を放つ鎮守府があった。
優秀な艦娘を数多く擁し、輝かしい戦果を重ねるその基地には、一つの奇妙な噂が存在する。
曰く、その鎮守府には、赤い仮面の男がいるという。
その男の名は――。
「提督!!」
執務室の扉が勢いよく開かれた。
書類を抱えた大淀が、険しい表情で室内へと踏み込む。机には未処理の書類が積み上がり、その向こうには一人の男が腰掛けていた。
赤い軍服。金色の装飾。そして、素顔を覆い隠す奇妙な仮面。
男は静かに顔を上げた。
「……どうした、ドレン」
「大淀です!!」
開口一番、大淀の怒声が響き渡った。
しかし、男は動じない。ゆっくりと椅子から立ち上がり、背後の窓へと歩み寄る。その仕草には、無駄に洗練された気品さえ感じられた。
「そう怒るものではない。人は誰しも過ちを犯す生き物なのだよ」
「提督、確認したいことがあるのですが」
「なんだね?」
「本日は海上戦闘訓練の日だったと記憶していますが、間違いありませんよね?」
「うむ、その通りだ」
「では、どうして艦娘の皆さんが講堂に集まっているのでしょうか?」
「私が集めた」
「……何のために?」
提督は不思議そうに首を傾げた。
「訓練のためだが?」
「訓練、ですか?」
「ああ」
大淀は一瞬だけ安心しかけた。どうやら予定を忘れていたわけではないらしい。しかし、それならなぜ海上ではなく講堂に集まっているのだろう。
「それで、一体どのような訓練を?」
提督は胸を張って答えた。
「ガンダムだ」
「…………はい?」
「だから、ガンダムだよ。ドレン」
「大淀です! いや、そうではなくて!」
「艦娘たちに戦術というものを学んでもらおうと思ってな。今は一年戦争におけるモビルスーツの運用について研究してもらっている」
「アニメの鑑賞会じゃないですか!!」
大淀の怒声が執務室に響き渡る。
しかし、提督は動じない。むしろ、やれやれといった様子で肩をすくめた。
「ドレン、考えてもみたまえ。彼女たちは艤装を装備し、深海棲艦と戦う。これはモビルスーツの運用と非常に近いものがあるとは思わないかね?」
「まったく同じではありません! そもそも今日の訓練は対空戦闘と艦隊運動の予定だったでしょう!?」
「もちろん覚えているとも」
「でしたら!」
「だからこそ、今日はガンダムなのだよ」
「話が一周しただけでしょう!?」
大淀は額を押さえた。この男と議論していると、なぜかこちらの方が疲弊していく。
「……分かりました。では、訓練内容を変更した理由を正式に報告書へ記載してください」
「ふむ……」
「何ですか?」
提督は顎に手を当て、しばらく考え込んだ。
そして、窓の外へと向き直る。
「認めたくないものだな。自分自身の、若さゆえの過ちというものを……」
「それ言いたいだけでしょう!?」
「…………」
「しかも反省する気ありませんよね!?」
「ふっ、ドレン。君は少々私に厳しすぎるのではないかね?」
「大淀です!!」
そんな二人のやり取りの最中、廊下から賑やかな声が聞こえてきた。
「提督さーん! 夕立、ガンダム見終わったっぽい!」
扉を開けたのは夕立だった。その後ろには時雨と球磨もいる。
「おお、夕立。どうだった?」
「すっごく面白かったっぽい! シャアさん、かっこいいっぽい!」
「そうだろう、そうだろう!」
「でも、球磨はもういいクマ。三回も同じところを見せられたクマ」
「何を言う球磨。名作とは何度見ても素晴らしいものだ」
「それは否定しないけど、今日は訓練の日じゃなかったのかい?」
時雨のもっともな疑問に、提督は大きく頷いた。
「もちろんだ。そこで諸君に朗報がある」
「朗報っぽい?」
「うむ。明石と妖精さんたちに、ある新型装備の開発を依頼しておいた」
大淀の表情が凍りつく。
「……提督?」
「実はな、以前から考えていたのだよ。艦娘を空中から戦場に投入できれば、戦術の幅が大きく広がるのではないかと」
「……空中?」
「そうだ。専用の大型輸送機を開発した。艦娘たちはそこから出撃し、敵艦隊の意表を突くのだ!」
夕立の目が輝いた。
「面白そうっぽい!」
「待つクマ! 球磨は嫌な予感しかしないクマ!」
「さて、諸君。百聞は一見にしかず、という言葉がある」
提督は満足げに頷くと、執務室の扉へと歩き始めた。
「これから滑走路へ向かう。明石が準備を整えてくれているはずだ」
「……滑走路?」
大淀が聞き返す。
「ああ、滑走路だ」
「ちょっと待ってください。うちの鎮守府に滑走路なんてありましたっけ?」
「今はある」
「今は!?」
実に簡潔な回答だった。だが、大淀が聞きたいのはそういうことではない。
そもそもここは鎮守府である。艦娘たちが海上で活動するための基地であって、航空機を運用する飛行場ではない。航空基地が併設されているわけでもなく、滑走路の建設計画など聞いた覚えもなかった。
「提督、滑走路はいつ建設されたんですか?」
「昨日だったかな」
「昨日!?」
「妖精さんたちが頑張ってくれたのだよ」
「頑張ってくれた、じゃありません! 建設許可は!? 予算は!? そもそもどこにそんな土地があったんですか!?」
「落ち着きたまえ、ドレン。現物を見れば君にも分かる」
「大淀です! それに、見れば分かるという問題では……!」
しかし、提督は既に廊下へと出ていた。
その背中を追いながら、大淀は深いため息をつく。傍らでは夕立が楽しそうに尻尾を振り、球磨は露骨に嫌そうな顔をしていた。
「なんだか面白そうっぽい!」
「球磨は帰りたいクマ……」
「ふふっ。まあ、見に行くだけならいいんじゃないかな」
時雨はそう言って笑ったが、大淀には到底そう思えなかった。
この提督が自信満々に何かを見せようとするとき、大抵ろくなことにならないのである。
そして数分後。
大淀は、自分の予感が正しかったことを思い知った。
「……………………は?」
鎮守府の敷地の外れ。昨日までは確かに倉庫と空き地が広がっていたはずの場所に、真新しい滑走路が延びていた。
それだけでも十分に異常だった。
だが、問題はそこではない。
滑走路の中央に、巨大な航空機が鎮座していたのである。
ずんぐりとした特徴的な機体。翼に備えられた巨大なエンジン。およそ普通の航空機とは思えない異様な威圧感を放つその姿は、昨夜見せられたアニメに登場する兵器と瓜二つだった。
「ガウ攻撃空母だ」
提督が誇らしげに告げた。
大淀の口がぽかんと開いた。
「…………」
「どうだ、ドレン。素晴らしいだろう?」
「…………」
「ドレン?」
「あ……ああ……」
大淀は震える指で巨大な機体を指さした。
「よ、予算が……」
「ん?」
「予算が……予算がぁ……!」
頭の中で、これまでの鎮守府の収支が高速で計算されていた。
あの巨大な機体を建造するための資材費。滑走路の建設費。エンジンの開発費。燃料費。整備費。そして、何よりも恐ろしいのが、そのすべてについて自分が何も聞かされていなかったという事実である。
「落ち着くのだ、ドレン」
「落ち着けるわけないでしょう!!」
大淀の悲鳴にも似た叫びが滑走路に響き渡った。
「なんですかこれは!? どうしてガウがあるんですか!? いったいいくら使ったんですか!?」
「ふっ、いい質問だ」
「答えてください!!」
「それについては、開発責任者から説明してもらおう」
提督が視線を向けると、機体の下から見慣れた白衣姿の艦娘が現れた。
「お待ちしてました、提督!」
明石だった。
その後ろでは、数十人もの妖精たちが工具を片手に走り回っている。機体の上で何やら作業をしている者もいれば、翼の先端から旗を振っている者までいた。
「明石さん!!」
大淀が詰め寄る。
「はい?」
「これはいったいどういうことですか!?」
「見てのとおり、新型艦娘輸送機です!」
明石は満面の笑みを浮かべた。
「提督からお話をいただきまして、妖精さんたちと頑張ってみました!」
「頑張りすぎです!!」
「いやあ、最初は難しいと思ったんですけどね。妖精さんたちが面白がっちゃって、気づいたらこんなに大きくなってました!」
「気づいたらで航空機が巨大化してたまりますか!!」
「まあまあ、落ち着いてください。ちゃんと実用性も考えてありますから!」
明石は手にしていた資料を広げ、説明を始めた。
「この機体の最大の特徴は、艦娘を大量に搭載したまま、敵艦隊の上空まで移動できることです。海上を進軍する必要がないため、従来の艦隊運用では不可能だった方向から攻撃を仕掛けられます!」
「……それは、まあ、分かりますけど」
「さらに、十分な高度を維持すれば、敵水上艦からの通常の砲撃が届かない位置を飛行できるんです!」
「ほう!」
提督が感心したように頷いた。
「つまり、敵艦隊の攻撃を受けることなく、戦場まで艦娘を送り届けられるというわけか」
「そのとおりです!」
「しかし、敵の航空戦力はどうするんです?」
大淀が尋ねた。
今度こそまともな疑問だった。
いかに高高度を飛行できたところで、深海棲艦には航空戦力が存在する。ましてや、あれほど巨大な機体では敵機から格好の標的にされかねない。
だが、明石は待っていましたとばかりに胸を張った。
「そこも考えてあります!」
「……と言いますと?」
「対空防御は、搭乗している艦娘の皆さんに担当していただきます!」
「…………はい?」
「機体の各所に射撃用のハッチを設けています。そこから艤装を使用して、接近してきた敵航空機を迎撃するんです!」
「……つまり?」
「艦娘が対空砲になります!」
「飛行機の対空砲を艦娘にやらせるんですか!?」
「艦娘なんですから、対空戦闘は得意ですよね?」
「そういう問題じゃありません!!」
しかし、提督は大いに感動していた。
「素晴らしい……実に素晴らしいぞ、明石!」
「えへへ、ありがとうございます!」
「君は賢い子だ」
提督は穏やかに微笑み、まるで幼い少女を褒めるかのように明石の頭へ手を置いた。
その仕草に、明石は一瞬きょとんとしたが、すぐに何かを察したらしい。
そして、嬉しそうに目を細めた。
「……大佐」
「明石……」
「私、大佐のお役に立てましたか?」
「ああ、もちろんだとも」
「提督です!!」
大淀の怒声が二人の間に割って入った。
「何を始めているんですか!? 今はガンダムごっこをしている場合じゃないでしょう!?」
「ドレン、君は少々情緒というものに欠けるな」
「大淀です! そもそも明石さんも乗らないでください!」
「いやあ、つい楽しくなっちゃいまして」
「ついで済ませないでください!!」
大淀は額を押さえた。
駄目だ。この二人を一緒にしてはいけない。提督の思いつきを明石が実現し、明石の発明を提督が褒める。そこへ妖精たちまで加わるものだから、誰一人として歯止めをかける人間がいないのである。
それでも、まだ確認しなければならないことがあった。
「……分かりました。とりあえず、開発については後ほど詳しく聞きます」
「うむ」
「ですが提督、一つ重要な問題があります」
「なんだね?」
「こんな巨大な航空機、いったい誰が操縦するんですか?」
提督は不思議そうに首を傾げた。
「そんなこと、決まっているだろう」
「……まさか」
「空母だ」
「…………」
「空母なのだから、空母に任せればよい」
「空母の意味が違うでしょうが!!」
その瞬間、ガウの搭乗口から威勢のいい声が響いた。
「おーい、提督! そろそろ動かしてええかー?」
全員が顔を上げる。
そこには、飛行帽とゴーグルを身につけた龍驤が立っていた。
「……龍驤さん?」
大淀の声が震えた。
「おっ、大淀やん。どないしたん、そんな顔して」
「何をしているんですか……?」
「何って、操縦やけど?」
龍驤は当然のように答えた。
「ウチ、空母やしな!」
「だから空母は航空機を運用する艦種であって、航空機を操縦する人のことじゃないんです!!」
「細かいこと気にするなぁ」
「細かくありません!!」
龍驤はけらけらと笑いながら、ゴーグルを額へ押し上げた。
「いやあ、明石に誘われてな。面白そうやから、ちょっとやってみようかなーって」
「……操縦経験は?」
「あるで!」
「本当ですか!?」
「シミュレーションでいっぱい練習したしな!」
「シミュレーション!?」
「せや! 昨日は寝る間も惜しんで練習したんや。もう離陸も着陸も完璧やで!」
「……それで、実際に飛ばした経験は?」
「ないで?」
「…………」
「まあ、いけるんちゃう?」
龍驤は親指を立てた。
「知らんけど」
「知らんけどで飛ばすなぁぁぁ!!」
とうとう大淀が絶叫した。
しかし、龍驤はまるで気にしていない。むしろ、巨大な機体を見上げながら嬉しそうに笑っていた。
「いや、でもな? 空母が空を飛ぶって、なんか夢あるやん?」
「だからそれは空母じゃなくて航空機です!」
「しかもこの機体、めっちゃでかいんやで? 操縦席も広いし、妖精さんたちがいろいろ教えてくれるしな!」
「妖精さん任せなんですか!?」
「大丈夫やって。ウチ、勘はええ方やし!」
大淀は助けを求めるように提督を見た。
「提督! さすがに初飛行で艦娘を乗せるなんて危険です! まずは無人で試験飛行を……!」
大淀の訴えに、提督は不思議そうに首を傾げた。
「何を言っているのだね、ドレン。試験飛行なら既に済ませたぞ」
「……はい?」
「昨日、私が行った。実に素晴らしい機体だったよ」
「…………」
大淀は一度、明石の方を見た。明石はにこにこと笑っている。続いて龍驤を見ると、こちらも何がおかしいのか笑っていた。
嫌な予感がした。
「……提督。今、私が行った、とおっしゃいました?」
「ああ」
「まさかとは思いますが……ご自分で操縦されたんですか?」
「無論だとも」
「何してるんですかぁ!?」
大淀の悲鳴が滑走路に響き渡った。
「何を考えているんですか!? 艦娘どころか提督が試験飛行してどうするんですか! しかもこんな得体の知れない航空機を!」
「落ち着きたまえ。結果は良好だったぞ。離陸も旋回も思いのままだ。着陸以外はな」
「……着陸以外?」
「うむ。着陸以外は実に上手くいった」
大淀はゆっくりと明石に顔を向けた。
「明石さん?」
「はい!」
「……昨日、何があったんですか?」
「いやあ、ちょっと滑走路からはみ出しちゃいまして。でも大丈夫ですよ! 妖精さんたちと徹夜で修理しましたから!」
「墜落してるじゃないですか!!」
「墜落ではないぞ、ドレン。少々着陸に失敗しただけだ」
「大淀です! それを墜落って言うんです!!」
提督は聞く耳を持たなかった。むしろ、誇らしげに巨大なガウを見上げている。
「だが、これで問題ないことは証明された。次はいよいよ実戦だ」
「……はい?」
「ちょうど先ほど、近海を哨戒していた艦娘から連絡があってな。深海棲艦の小隊を捕捉したそうだ」
「…………」
「今回の作戦目標はその敵小隊の撃破だ。初の空挺強襲作戦にはちょうどいい相手だろう」
大淀は耳を疑った。
「最初から実戦ですか!? ちゃんとした運用試験も終わっていないんですよ!?」
提督は大淀へと振り返った。
仮面の下で、その口元が不敵に笑う。
「ドレン」
「大淀です!」
「ガンダムと言えば、いきなり実戦だろう?」
「アニメと現実を一緒にしないでください!!」
「ふっ。君もまだまだだな」
「私がおかしいんですか!?」
そこへ、ガウの搭乗口から龍驤が顔を出した。
「おーい、提督! そろそろ出発するでー! はよ乗りやー!」
「うむ。準備は整ったようだな」
「ちょっと待ってください! まだ話は終わっていません!」
大淀が提督に詰め寄ろうとした、そのときだった。
「夕立も乗ってみたいっぽい!」
今まで大人しく話を聞いていた夕立が、勢いよく手を挙げた。
「おお、夕立! いい心がけだ!」
「えへへ! 夕立、空から出撃してみたいっぽい!」
「素晴らしい! では、今回の空挺部隊は夕立と球磨に任せよう!」
「……クマ?」
突然名前を呼ばれた球磨が、間の抜けた声を上げた。
「ちょ、ちょっと待つクマ! 球磨は行くなんて一言も……!」
「球磨ちゃん! 一緒に行くっぽい!」
「嫌クマ! 球磨は嫌クマ! そもそも艦娘が空から出撃するなんて聞いたことないクマ!」
「大丈夫っぽい! 明石さんが安全装置も作ってくれたっぽい!」
「その明石の作った飛行機が昨日墜落したばかりクマ!!」
至極もっともな指摘だった。
だが、既に夕立は球磨の腕を掴んでいた。
「ほらほら! 早く行かないと置いていかれるっぽい!」
「置いていってくれて構わないクマー!!」
「行ってきまーす!」
「夕立ぃぃ! 人の話を聞くクマァァァ!!」
夕立は満面の笑みを浮かべ、抵抗する球磨をずるずると引きずりながら搭乗口へ向かっていった。
その光景を見送った時雨が、苦笑いを浮かべる。
「……僕は遠慮しておこうかな」
「むっ、時雨は行かないのかね?」
「うん。今回は球磨さんと夕立に任せるよ。それに、初めての実戦だしね」
「そうか。残念だな」
「ふふっ。提督も無茶なことをするね」
時雨はそう言って、今にも泣き出しそうな球磨の背中を見つめた。
「……2人とも、大丈夫かな」
「心配はいらん。あの二人ならば、きっとやってくれるだろう」
自信満々に答える提督に、時雨はもう一度苦笑した。
一方の大淀は、それどころではなかった。
「提督! 本当に行かせるんですか!? せめてもう少し試験を重ねてから……!」
「安心したまえ、ドレン。私が地上から指揮を執る。緊急時には直ちに作戦を中止する準備も整えてある」
「……本当でしょうね?」
「無論だ。彼女たちを無駄に危険へ晒すつもりはない」
その言葉だけは、普段のおふざけとは違う、指揮官としての真剣なものだった。
大淀は口を閉じた。
この男は確かに変人だ。とてつもない変人だ。だが、艦娘を大切に思っていることも、指揮官として優秀であることも、大淀はよく知っていた。
だからこそ、こうして頭を抱えながらも副官を続けているのである。
「……分かりました。ですが、危険だと判断したら即座に中止してくださいね」
「もちろんだとも」
提督はそう答えると、ガウへと視線を向けた。
既に機体の巨大なエンジンが唸りを上げ、滑走路には妖精たちが慌ただしく走り回っている。
『こちら龍驤! 離陸準備完了や!』
「よし、龍驤。頼んだぞ」
『任せとき! ちゃんと練習したからな!』
「うむ!」
巨大なエンジンが轟音を上げ、ガウ攻撃空母が滑走路を走り始める。
やがて、その巨体がゆっくりと地面から離れた。
「……飛んだ」
大淀は呆然と呟いた。
あれほど巨大な機体が、本当に空へ浮かび上がっていた。
滑走路の脇では明石と妖精たちが歓声を上げている。時雨も感心したように空を見上げ、提督は満足げに腕を組んでいた。
『こちら龍驤! 離陸成功や! いやあ、思ったより簡単やな!』
「素晴らしいぞ、龍驤!」
『ほな、行ってくるでー!』
通信を終えると、提督は遠ざかっていくガウを見つめた。
その姿は、まるで戦場へ向かう友軍を見送る歴戦の軍人のようだった。
やがて、仮面の奥から静かな声が漏れる。
「……勝利の栄光を、君に」
時雨がぴくりと反応した。
「……提督?」
「なんだ、時雨」
「それ、ガルマに言った台詞だよね?」
「うむ」
「……その後どうなったか、覚えてる?」
提督は何も答えなかった。
時雨は困ったように笑う。
「……縁起でもないなぁ」
こうして、人類史上初となる艦娘の空挺強襲作戦が開始され