ゼンゼロ世界で天然の食材を使って屋台を開く。 作:ダブルモナカ
新エリー都の中心部。巨大なビル群が立ち並ぶ場所でサングラスをかけた新エリー都の歌姫アストラはいつもの調子で警護兼マネージャーのイヴリンの監視の目をかいくぐり天真爛漫な彼女は街の歩道を開いていく。通行人からは、まさか!?アストラ様!?嘘!?サイン描いてください~!!と声が上がるがまさかこんな街のど真ん中にあのアストラ様がいるわけないと、バイアスがかかっていたのかそれとも完成度の高いコスプレなのかと思われていき黄色い歓声は収まりアストラは今日も自由に闊歩していた。新エリー都の市民の憩いの場ポート・エルピスにたどり着いた時にスマホの画面が通知で埋まりアストラを必死に探す他の黒服たちのメッセージが滝のように流れるがいつものように無視して大海原や大橋の景色を傍にある小さな灯台の上の場所で静かに一人で過ごていた。
(やっぱりここの景色は最高だわ…TOPSの頭の固いおじ様達の用意した場所なんかよりもずっと落ち着ける…。)
日々のトップスターとして毎日のように疲弊している彼女にとって誰かの視線や声に包まれない1人の時間はかけがえのないリラックスできる大切なひと時だった。
「そこまでだ、アストラお嬢様。」
だがそんな時間も長くは続かないらしい、
「イヴ!?どうしてここに!?」
「はぁ…。仕事を抜け出してまたいつものように夜風を浴びたい。あなたの考えることは大方把握している。」
護衛のイヴリンが灯台の上に現れて彼女を連れ戻しに来た、二人はこのポート・エルピスから見える大橋の景色にぴったりと恋人の様に合わさり映画のワンショットになる絵だった。
「さぁお嬢様。今日のお出かけはもう終わりだ、車を用意してあるから行くぞ」
「ちょっと!イヴ、もう少し!一分だけでいいからお願い!!」
アストラはいつものようにイヴリンに直球の「おねだり」をしていくがどうやら本当にタイムリミットが迫っているのか申し訳なそうな表情を浮かべて首を横に振る。
「アストラお嬢様、残念だが今回はボーナスタイムは贈与できない。普段誰も入らない灯台の場所を選んだのは評価できるが、さぁ駐車場まで同行してもらう」
アストラは頬を膨らませて、「イヴのケチ!といいながら軽快な足取りで灯台から出てサングラスをはめてイヴリンと並んで歩き出しポート・エルピスの駐車場に向かいだすとまず先に嗅ぎつけたのはイヴリンだった。かつて裏家業に身を置いていた嗅覚が反応したのか路地の奥から香る見たことのない極上の食材の凝縮された匂いが鼻がつき眉をしかめて警戒する。
(なんだ…この鼻を通る脳が震える匂いは。)
しかしイヴリンが気づいたということは彼女も当然、どこからか漂う大都会のオアシスの匂いを感じて体に鳥肌が立ちこれは一体何かとせっかくイヴリンが捕まえてこれから仕事に向かう口実なんてどこ吹く風の様に走り出していく。
「この匂いは一体どこから!?絶対に逃がさないわよ!待っててね~!!」
「お嬢様!!これ以上のサボりはダメです!スケジュールにも限界が!本当にっ…。」
逃げるように走り出したアストラをイヴリンが素早く駆け足で追いかけるが案外近場に目的の物はあった様でわずか数分で二人は足を止めていき夜の帳がおりたこの新エリー都に珍しい小さな屋台を発見する。こじんまりとして薄汚れた路地の奥に場違いを突き詰めたような知らない料理のにおいが立ち込めえて二人は本能に従うようにどんどんと屋台に足を踏み込んでいく。先に屋台のカウンター席に座り体を飛び上がるように起こしてアストラはピンク色の帽子を被った俺にキラキラとした熱い視線を向けながら話しかけてくる。
「こんばんは!!マスター、この匂いは一体なんなの!今まで食べてきたお店でのどんな料理よりも体が震えて、熱くなって、もうっっっ我慢できないわ。早く食べたいの!!お願い~!」
アストラがカウンター席に座り子供の様に興奮している様子を見ながらイヴリンは別の視点で自分が守るべき大切な人物をたぶらかす怪しい屋台の男として冷徹で鋭い視線を向けてそっとアストラの隣に座り込んでいた。
「そこの店主。こんな夜にしかもこんな場所に何故屋台なんかを出しているんだ?しかもこの匂い、アストラお嬢様の警護する身として彼女の口に入れるものは全て確かめる。」
「もう、イヴリン!マスターに脅すような言い方はやめてってば、ほら!あなたも気になるでしょ?」
俺は今日のメニューを取り出してカウンターに置くと笑顔のままアストラは手に取る。
油淋鶏
1800ディニー
ミニ炒飯
700ディニー
杏仁豆腐
500ディニー
そのメニューを見た瞬間、「バンッッ!!!」とアストラは椅子を後ろに飛ばしロケットが発射すると思うほどにカウンターを手で叩いて立ちあがり、隣にいるイヴリンも初めて見るコンサートでの彼女と違うテンションの上がり方に体を一瞬緊張させてジト目でアストラを気にかけていた。
「マスター!!なんで?なんで私の大好物が油淋鶏って知ってるの!?もしかして私のファンだったりして、嬉しいわ!ねぇイヴリン、私これからの仕事頑張れそうかも!!だってマスターが私の為に大好物を調べて用意してくれて、しかも、この匂い!私ねマスター、いろんな高級食材を使ってる店を何軒も知ってるし食べたことあるけどそのどれでもないこの匂いはなんなの!?こんな芳醇な香り嗅いだことない!一体どんな食材を使ってるの!?」
俺は天真爛漫のアストラとジト目のイヴリンの視線が痛くて下を向いて誤魔化すと咳払いをしたイヴリンが、品定めするように鋭い目を向けて、
「店主。お嬢様に出す前に私が確認する、それが条件だ。これだけはお嬢様の身を守る為には譲れない。まずは私に品を出せ。」
「ちょっと、イヴリン!先に食べるなんてズルい。ねぇマスターイヴリンが一口食べたらすぐ私も頂戴ね!」
俺は厨房の下にある冷蔵庫から鶏肉をまな板に置いてから一口サイズに包丁で切り取ってから片栗粉をまぶしてから黄金色の油で薄く衣が付くように揚げていき取り皿に乗せると甘酸っぱいネギと生姜の香味ダレを染み込ませてそっとイヴリンの席に置く。例え一切れでも天然の食材を使った料理はその食材の色と相まってキラキラとした宝石に見えていた。彼女は俺にも聞こえる音でごくりと唾を飲み込んで、毒見のつもりが腹をすかせた動物の様に油淋鶏を見て瞳孔が極限まで開いて手を震えながら箸を掴んで一口で食べる。その瞬間にイヴリンの脳内が一気に油淋鶏の味が舌に広がると同時にビックバンが起こっていた。走馬灯のように今までの人生の中で自分が一番純粋でまだ世界の残酷さを知らなかった純朴な思いでが蘇り体の細胞が湧き上がる感覚に包まれる。
「………………………………………。」
「イヴ?どうしたの、って!?えっ!?」
アストラがイヴリンのことを不自然そうに顔を覗くと、イヴリンは魂が抜けたような茫然自失な表情と目から鱗もびっくりなほど大量の涙を流して箸を持ったまま固まっていた。今まで冷徹で頼もしい姿から一変したイヴリンの様子にさすがのアストラも口を手で抑えて必死に体をゆすっていた
「はぁっっ!!はぁ…はぁ…私は一体何を、口の中が爆発して何処か遠い記憶に遡って子供の時に戻った感覚…、お嬢様は何処に!!」
「ちょっと!イヴ!?どうしたの?私はここにいるのに、そんなにマスターの作った油淋鶏が美味しかった?私も早く食べたい食べたい!マスター!!私はメニュー全部頂戴!!」
俺は鉄板に食材を動かしてまずミニ炒飯を作り始める。細かく刻んだ長ねぎとチャーシューを冷蔵庫から出してから先に卵を四つ割り白米を絡めてから具を混ぜていくと、正気を取り戻して姿勢を整えてからアストラと共に俺の作業工程に釘付けになっていた。二つの皿に普通のご飯茶碗に収まるサイズの量を白い皿に乗せると、黄金色に輝きピカピカの水晶の様な炒飯が出来上がると俺は二人のカウンターに出す。
「なんて美しいのかしら!こんな宝石箱の炒飯が実在するのね、ありがとうマスター!!もう!戴きます!!」
はむっ!と可愛らしい声が小さく響きアストラがレンゲを掴み大きく炒飯をすくって放り込むとアストラの目が限界まで開いて座っていた椅子が後ろに倒れて俺の傍に待機していたボンプがびっくりして小さな腕を俺の足元に支えるように添えてきて動揺している。
「んんんんんっっっっ!?!?!はぁぁぁぁ!!美味しいわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
アストラは俺の作った炒飯を食べてイヴリンとは別の天真爛漫な彼女らしい喜び方で天然の食材による料理の味にこの屋台がある薄暗い路地の道に新エリー都の歌姫の悲鳴か歓喜の声かわからない絶叫が響いていつもならイヴリンが制止するはずがさっき食べた油淋鶏の味によりまだ頭がフワフワとしてただアストラの様子を見る事しか出来なかった。
「口の中がほわほわでネギと舌に触れるチャーシューの食感と!卵とこの油がコーティングされたお米の味!!大好きよ!!もっともっと!手が止まらないの!」
「ア、ス…トラ。……アストラお嬢様!そんな食べ方はやめて下さい!!貴方はこの新エリー都の星なんですから、そんな姿勢を崩す食べかたは…。私にも、あるのか!?あっ…ああああ!駄目だ…くっ、食べる!!」
がつがつとこんなエレガントな女性二人が気品を忘れて夢中になり食べていき俺はメインディッシュの油淋鶏とデザートの杏仁豆腐を作っていきちょうど食べ終わったときに空になった皿の空いた場所に油淋鶏を盛りつけた大皿とぷるぷると音が響くような杏仁豆腐をちいさなパフェグラスに入れて素早く置くと二人は同時に顔を見つめあって、(そういえばまだ二品残ってたんだ…)と熟年夫婦の空気感でアイコンタクトを取り終わると箸を鷲掴みして出された料理に吸い込まれていく。
「ついにメインディッシュよイヴ!!私の大好きな油淋鶏がこんなにしかも今食べた炒飯と同じかそれ以上の美味さが約束されているんでしょ!?マスター!!私が一番乗りで決まりよ!」
アストラの我慢の線はとっくのとうに切れていた、いやもうないと説明するのが正しいのだろう。自分を守るはずのイヴリンは炒飯の味にオーバーヒートを脳で起こしてかすかに油淋鶏と杏仁豆腐の違う匂いを鼻に入れながら意識を回復しかけていたが先を越されてしまった。そこから先、アストラとイヴリンはすべての渇きを満たすように俺の作ったメインディッシュの品とデザートを一瞬で食べ終わり、椅子に顔をとろけさせてそのまま地面に倒れる寸前まで後ろに体重を預けて夢心地の気分を味わっていた。
「素晴らしかったわ……私もうこれがないと生きていけないかも、今まで食べてきた最高級の料理は確かに美味しくて洗練されてたけど、これには勝てないわ……。」
「お嬢様…その感想には私も激しく同意します。しかしこれからまだあなたには仕事のスケジュールがあるので、早く車を待機させてある場所まで向かいましょう。でないと朝まで…いや私さえも永遠にここに居たいと思ってしまっている。」
イヴリンはメニュー全品二人分の支払いをする為にポケットから高級の革の長財布を取り出すとおれの傍にいたボンプがお会計のキャシュトレイを取り出してイヴリンの傍に近づくとその可愛い俺のボンプを見て自分とイヴリンの関係性と重ねたのか持ち上げてキラキラと見つめていた
「あら!!こんにちわ可愛らしい騎士さん。ずっとマスターの所に居たのね?ふふっ、作り手のマスターとそれを守る可愛いボンプ!私とイヴリンと一緒ね!!」
そしてアストラは俺のボンプに唇を尖らせてそのままの勢いで濃厚なキスをしていきそれを見ていたイヴリンはまたいつもの事か、とばかりに腕を組みながらどこか見守るように見ていた。顔を真っ赤にしたボンプは地面に降ろされてから無表情でイヴリンの席にキャシュトレイを置いてしっかり二人分の金額を確認すると大急ぎの足で俺の後ろに隠れてふらふらと体を揺らしていて、俺は抱っこして大丈夫か?と無言で背中をゆっくりと撫でていた。
「それじゃあマスター!!今日は最高の料理をありがとう!私絶対にまたここに来るから、あなたの事大好きよ!」
アストラは先に路地から立ち去っていき帰り際に俺に投げキッスを飛ばしてくるが俺は帽子を被っていつもの無反応だったがイヴリンがそっとカウンターに一枚の名刺を置いていく。
「私に直接つながる番号だ。あなたの料理は、本当に…この新エリー都を揺るがすものだと私の直感が言っている。お嬢様の健康と安全を守るのが私の仕事だが、もし……いや、確実にまたアストラお嬢様はこの料理を求めるだろう。その時すぐに手配できるようにこの番号を登録してほしい。」
俺はそっと名刺を手に取ってからポケットに入れると納得したようにイヴリンはアストラの後を追いかけていきそのまま消えていった。そしてまるで蜃気楼のように数分後には屋台も匂いも消えて普段と変わらないただの薄暗い路地になっていた。
今回は初めて二人の話だったので少し苦戦しました。またたくさんの人に見てもらえて感謝しかないです。ゼンゼロの中で自分はアストラとイヴリンの関係性が好きなのでも話を書くなら必ず書きたいと思っていたので今回は楽しかったです。