その個性を、ぶち壊す! 〜レベル0と無個性 二人の英雄(ヒーロー)〜   作:まだら模様

2 / 2
思いつきで作りました。
続くかは知りません。
にわか知識なのであしからず。


第2話:不幸だー! それでも走り出す

「少し、話をしないか」

 

 オールマイトの言葉に、出久と上条は顔を見合わせた。

 

 人目につかない場所へ移動したあと、オールマイトは二人に向き直った。

 

 「その前に、上条少年。さっきの右手の話だが」

 「……右手?」

 「異能なら何でも打ち消す。そう言っていたな」

 「はい。まあ、そうらしいんですけど」

 「ならば、君にも聞いてもらわなければならない。いや、聞いておいてもらわなければ困る」

 

 オールマイトの声が、ふいに低くなった。

 

 「これから話すことは、他言無用だ。私は、これを今まで誰にも明かさずにきた」

 「……俺が聞いて、いいんですか」

 「君が緑谷少年の隣にいるからだ。それに、君の右手が、これから話す力にどう作用するのか、私にも分からない。知らないまま触れ合って、何かが起きてからでは遅い」

 

 上条は、少しだけ黙った。

 

 「……分かりました。誰にも言いません」

 「頼んだぞ」

 「まあ、俺の場合、口を滑らせるタイミングまで不幸な方向に転がりそうなんで、気をつけます」

 「はっはっは! 気を引き締めてくれたまえ!」

 

 オールマイトは笑い、それから出久へと向き直った。

 

 「まず、緑谷少年」

 「は、はい!」

 「君は、ヒーローになりたいのだな?」

 「……はい!」

 

 出久は、今度は迷わなかった。

 

 「個性がないことは分かっています。それでも、僕は……誰かを助けられるヒーローになりたいんです!」

 

 オールマイトは、しばらく出久を見つめていた。

 

 ヘドロのヴィランから爆豪を助けようとしたとき、出久は何の力も持っていなかった。

 

 それでも、考えるより先に身体が動いた。

 

 自分が傷つくことより、目の前の少年を助けることを選んだ。

 

 オールマイトは、力強く頷いた。

 

 「ならば、私が君を鍛えよう」

 「……え?」

 「君には、ヒーローになるための力を得る機会がある」

 

 オールマイトは、自分の胸に手を当てた。

 

 「私の個性、ワン・フォー・オール。それを、君に継承したい」

 「……ワン・フォー・オール?」

 

 出久は、言葉の意味を理解できずに固まった。

 

 オールマイトは、ワン・フォー・オールがどのような個性なのか、そして自分がなぜ次の継承者を探しているのかを説明した。

 

 そして、ふっと息を吐いた。

 

 筋骨隆々だった身体が、みるみるしぼんでいく。

 

 そこに立っていたのは、頬のこけた痩身の男だった。

 

 「これが、今の私だ。五年前の戦いで負った傷のせいで、ヒーローとして活動できる時間は、もう長くない」

 

 出久は言葉を失った。

 

 上条も、息をのんだ。

 

 平和の象徴の、誰も知らない姿だった。

 

 それは、単に強い個性を与えるという話ではなかった。

 

 長い年月をかけて受け継がれてきた力。

 

 そして、その力とともに背負うことになる責任。

 

 「君には、覚悟が必要だ」

 

 オールマイトは、真剣な眼差しで告げた。

 

 「力を得れば、君は今までとは違う世界に足を踏み入れることになる。危険も増える。苦しいこともあるだろう」

 「……」

 「それでも、君はヒーローになりたいか?」

 

 出久は、唇を噛んだ。

 

 自分には何もない。

 

 個性も、力も、戦う術も。

 

 それでも、誰かを助けたいという気持ちだけは、捨てられなかった。

 

 「……なりたいです」

 

 出久は、顔を上げた。

 

 「僕は、ヒーローになりたいです!」

 

 オールマイトは、笑った。

 

 「よし!」

 

 その声に、出久の目から涙が溢れた。

 

 夢が、現実へと変わろうとしていた。

 

 だが、その隣で話を聞いていた上条は、少し困ったような顔をしていた。

 

 「……あの、オールマイト」

 「どうした、上条少年?」

 「俺は、どうすればいいんですかね」

 

 オールマイトは、上条を見た。

 

 「君にも、考えてほしいことがある」

 「考えてほしいこと?」

 「君は、先ほど何を考えて行動した?」

 

 上条は、少しだけ考えた。

 

 「……何も」

 「何も?」

 「いや、正確には、あいつが危なかったんで。助けなきゃ、と思っただけです」

 

 上条は肩をすくめた。

 

 「別に、ヒーローになろうとか、そんなことを考えていたわけじゃありません」

 「そうか」

 

 オールマイトは、否定しなかった。

 

 「ならば、君はどうしたい?」

 「……どうしたいって」

 「君は、今日のようなことがあったら、また同じように動くのではないか?」

 

 上条は、すぐには答えなかった。

 

 答えられなかった。

 

 自分のことは、自分が一番よく分かっている。

 

 目の前で誰かが困っていたら、きっとまた助けようとする。

 

 相手が知らない人間でも。

 

 自分に何の得がなくても。

 

 助けた結果、余計な面倒事に巻き込まれると分かっていても。

 

 結局、放っておけないのだ。

 

 「……まあ、そうでしょうね」

 

 上条は、苦笑した。

 

 「俺、そういう性分なんで」

 

 オールマイトは、静かに頷いた。

 

 「君は、ヒーローという肩書きに興味がないのかもしれない」

 「正直、そうですね」

 「だが、君には人を助ける力がある。そして、何よりも、人を助けずにはいられない心がある」

 

 上条は、黙って聞いていた。

 

 「君がヒーローになるかどうかは、君自身が決めることだ。私は、無理に勧めるつもりはない」

 

 オールマイトは、まっすぐに上条を見つめた。

 

 「だが、君のような少年が、ヒーローを目指す道を選んでくれたなら……私は、嬉しく思う」

 

 上条は、視線を落とした。

 

 ヒーロー。

 

 今まで、自分とは無縁だと思っていた言葉だった。

 

 目の前で誰かが苦しんでいるのに、見て見ぬふりができない。

 

 今日のように。

 

 「……上条君」

 

 出久が、隣から声をかけた。

 

 「僕は、ヒーローになりたい」

 

 出久は、まだ涙の残る目で笑った。

 

 「上条君がヒーローになるかどうかは、上条君が決めることだと思う。でも……もし、同じ道を歩いてくれたら、僕は嬉しい」

 「緑谷……」

 「だって、上条君がいたから、僕は今日、爆豪君を助けることができたんだ」

 

 出久は、拳を握った。

 

 「僕は、上条君みたいに強くなりたい。誰かを助けるために、ちゃんと動ける人間になりたいんだ」

 

 上条は、困ったように笑った。

 

 「お前、俺を買いかぶりすぎだろ」

 「そんなことないよ」

 「……はあ」

 

 上条は、空を見上げた。

 

 自分は、ヒーローになりたいわけではない。

 

 それでも。

 

 もしヒーローになることが、誰かを助けるための道になるのなら。

 

 自分がこれからも、目の前の誰かを放っておけないのなら。

 

 その道を選ぶことに、意味があるのかもしれない。

 

 「……まあ、考えときます」

 

 上条は、そう答えた。

 

 今は、それ以上のことを言えなかった。

 

 オールマイトは、穏やかに頷いた。

 

 「それでいい」

 

 そして、彼は出久へと向き直った。

 

 「緑谷少年。君がワン・フォー・オールを継承するためには、まず身体を鍛えなければならない」

 

 「は、はい!」

 「これから十か月。私と一緒に、鍛錬を積もう!」

 「十か月……!」

 

 出久は、驚きながらも力強く頷いた。

 

 「よろしくお願いします、オールマイト!」

 

 その姿を見ながら、上条は小さく息を吐いた。

 

 これから、どうなるのだろう。

 

 自分の右手に宿る力。

 

 緑谷の夢。

 

 そして、ヒーローという道。

 

 まだ、何一つ答えは出ていない。

 

 翌日から、出久と上条は、オールマイトの指導のもとで鍛錬を始めた。

 

 とはいえ、最初から華々しい訓練が待っていたわけではない。

 

 「まずは、ここを片付ける!」

 

 オールマイトが指差したのは、海岸に積み上がった大量の粗大ゴミだった。

 

 壊れた家具。

 

 錆びた金属。

 

 流れ着いたプラスチック。

 

 何年も放置されたままの廃棄物が、砂浜を埋め尽くしていた。

 

 「これを、十か月かけて綺麗にするのだ!」

 

 「……え?」

 

 出久が固まった。

 

 

 上条も、思わず海岸を見渡した。

 

 「いやいやいや、待ってください。これ、どんだけあるんですか!?」

 「たくさんあるな!」

 「いや、そういう問題じゃねえだろ!」

 

 上条の叫びが、海岸に響いた。

 

 オールマイトは豪快に笑った。

 

 「身体を鍛えるには、うってつけだ!」

 

 こうして、二人の鍛錬が始まった。

 

 最初の一週間は、ひたすら体力作りだった。

 

 ゴミを運ぶ。

 

 重いものを持ち上げる。

 

 砂浜を走る。

 

 疲れたら休み、休んだらまた動く。

 

 出久は、すぐに息が上がった。

 

 上条も、決して体力に余裕があるわけではなかった。

 

 その三日目のことだった。

 

 上条が運んでいた壊れた家具の山が、なぜか彼の頭上にだけ崩れ落ちてきた。

 

 「ふ、不幸だー!」

 「上条君!?」

 

 ガラクタの下から聞こえる悲鳴に、出久が慌てて駆け寄る。

 

 少し離れた場所では、オールマイトが腹を抱えて笑っていた。

 

 「笑ってないで助けてくださいよ!」

 「いや、すまん! あまりに見事な崩れ方だったのでな!」

 

 それでも、二人は毎日、少しずつ作業を進めた。

 

 「はあっ……はあっ……」

 

 夕方。

 

 出久は、砂浜に座り込んだ。

 

 「もう、腕が……」

 「無理すんなよ。今日はここまでにしようぜ」

 

 上条も隣に腰を下ろした。

 

 オールマイトは、少し離れた場所から二人を見守っていた。

 

 「よく頑張ったな、少年たち!」

 「……ありがとうございます」

 

 出久は、息を整えながら答えた。

 

 上条は、砂浜に仰向けになった。

 

 「……不幸だー」

 「上条君、まだ始まったばかりだよ」

 「それが一番不幸なんだよ……」

 

 出久は、思わず笑った。

 

 疲れ切った身体には、笑う余裕すら残っていなかったはずなのに。

 

 それでも、隣に上条がいると、不思議と気持ちが軽くなった。

 

 数週間が過ぎた。

 

 少しずつ、身体が変わり始めた。

 

 出久は、以前より長く走れるようになった。

 

 重いものも、以前より安定して運べるようになった。

 

 上条も、持久力と筋力がつき、動きに余裕が出てきた。

 

 だが、鍛錬は体力作りだけではなかった。

 

 「上条君、ちょっといい?」

 

 ある日、作業の合間に出久が声をかけた。

 

 「ん?」

 「僕、上条君の戦い方について、少し考えてみたんだ」

 「……戦い方?」

 「うん。上条君の右手は、相手の個性を打ち消せる。でも、右手で触れなければ効果がないんだよね?」

 「まあ、そうだな」

 「だったら、相手の攻撃を避けて、右手で触れられる位置まで近づくことが大事になると思うんだ」

 

 出久は、ノートを開いた。

 

 そこには、上条の戦闘を観察した記録が書かれていた。

 

 右手を使う際の姿勢。

 

 相手の攻撃を避ける方向。

 

 足場によって変わる動き。

 

 幻想殺しが通用する相手と、通用しない相手の違い。

 

 「……お前、こんなことまで考えてたのか」

 「うん。上条君の力は強いけど、万能じゃないから」

 

 出久は、真剣な顔で続けた。

 

 「だからこそ、どう使うかが大事だと思うんだ」

 

 上条は、しばらくノートを見つめていた。

 

 自分の力について、ここまで真剣に考えてくれた人間は、初めてだった。

 

 「……ありがとな」

 「え?」

 「いや。助かるよ」

 

 上条は、少し照れくさそうに笑った。

 それから、今度は上条が出久に声をかけた。

 

 「なあ、緑谷」

 「何?」

 「お前も、身体の使い方を覚えた方がいい」

 「……身体の使い方?」

 

 「そう。頭で分かってても、身体が動かなきゃ意味がないだろ」

 

 上条は、地面に落ちていた小枝を拾った。

 

 「相手が攻撃してきたとき、真正面から受け止める必要はない。避けられるなら避ける。相手が体勢を崩したら、その隙を使う」

 

 上条は、小枝を振るようにして動きを示した。

 

 「力がないなら、力以外のものを使えばいい。地形でも、相手の動きでも、周りにあるものでもな」

 

 出久は、食い入るように見つめていた。

 

 「……なるほど」

 

 「もちろん、俺も大したことはできないけどな」

 

 上条は肩をすくめた。

 

 「少なくとも、真正面から殴り合うよりはマシだろ」

 

 その日から、二人は鍛錬の合間に、簡単な実戦形式の練習を始めた。

 

 上条は、出久に足運びや回避の仕方を教えた。

 

 出久は、上条に相手の動きの分析や、戦闘中の状況判断を伝えた。

 

 二人は、それぞれが持っているものを出し合いながら、少しずつ成長していった。

 

 もちろん、失敗もあった。

 

 出久は、相手の動きを読むことに集中しすぎて、身体が反応する前に攻撃を受けることがあった。

 

 上条は、幻想殺しが効くと思い込んで不用意に近づき、危うく大きな怪我をしかけた。

 

 「上条君、今のは危なかったよ!」

 「分かってるって……!」

 「分かってるなら、どうして避けなかったの!?」

 「いや、あれは……いけると思ったんだよ!」

 「その判断が間違ってたんだよ!」

 「ぐっ……!」

 

 出久の指摘に、上条は言葉を詰まらせた。

 

 反対に、出久も上条から厳しい指摘を受けることがあった。

 

 「緑谷、考えすぎだ」

 「えっ?」

 「相手の動きを読むのはいい。でも、全部を予測しようとするな」

 

 上条は、出久の肩を軽く叩いた。

 

 「予測が外れたとき、動けなくなるだろ。だったら、外れたときにどうするかも考えとけ」

 「……そっか」

 「何が起きても、すぐに立て直せるようにする。それも大事なんじゃねえの」

 

 出久は、ノートにその言葉を書き留めた。

 

 鍛錬は、身体だけではなかった。

 

 雄英高校の入試には、実技のほかに筆記試験がある。

 

 しかも、その偏差値は全国でもトップクラスだった。

 

 「……上条君」

 

 夕方、ノートを広げた出久が、深刻な顔で上条を見ていた。

 

 「模試の結果、見せてもらえるかな」

 

 「え。いや、それは……」

 

 「見せて」

 

 上条は、観念して鞄から一枚の紙を取り出した。

 

 出久は、それを受け取ったまま固まった。

 

 「……全教科、合格ラインの半分もない」

 

 「だから見せたくなかったんだよ!」

 

 「どうして今まで黙ってたの!?」

 

 「補習の常連なんて、わざわざ言うことでもねえだろ!」

 

 「雄英の筆記は、これだと実技より先に落ちるよ!」

 

 「ぐっ……」

 

 反論できなかった。

 

 出久は、深く息を吸った。

 

 「分かった。僕が教える」

 

 「……え?」

 

 「実技の練習は、上条君が教えてくれてる。だから、勉強は僕の番」

 

 その日から、鍛錬のあとの夕方は、砂浜にノートを広げる時間になった。

 

 出久の教え方は、驚くほど丁寧だった。

 

 間違えやすい箇所をあらかじめ洗い出し、解き方を何通りも用意している。

 

 「ここは、公式を覚えるより先に、なぜこの形になるのかを考えるんだ」

 

 「なるほど……って、なんで風でページがめくれるんだよ!」

 

 海風がノートを巻き上げ、ページが上条の顔面に張りついた。

 

 「不幸だー!」

 

 「上条君、押さえて押さえて!」

 

 出久は笑いながらも、手を止めなかった。

 

 ときには、疲れ切った上条が、ノートの上で寝落ちすることもあった。

 

 「上条君、起きて。まだ三問残ってるよ」

 

 「……あと五分だけ……」

 

 「それ、さっきも言ったよね」

 

 それでも、出久は見捨てなかった。

 

 「……悪い、緑谷。もう一回、最初から頼む」

 

 「うん!」

 

 季節が移り変わる。

 

 海岸のゴミは、少しずつ減っていった。

 

 出久の身体は鍛えられ、走る速度も、持ち上げられる重量も増えていった。

 

 上条もまた、以前よりも素早く動けるようになり、無駄な動きを減らしていった。

 

 もっとも、不運だけは相変わらずで、彼の頭上にだけ鳥が群がる日もあったし、彼が選んだ列だけ進まない日もあった。

 

 「不幸だー……」

 

 そんな声が、海岸に響く日々が続いた。

 

 そして、十か月目。

 

 「……終わった」

 

 出久は、綺麗になった海岸を見つめていた。

 

 かつて大量のゴミに埋め尽くされていた砂浜には、青い海と広い空が広がっている。

 

 「やったな、緑谷」

 

 上条が隣に立った。

 

 「うん……!」

 

 出久は、拳を握りしめた。

 

 十か月。

 

 長いようで、短い時間だった。

 

 苦しいこともあった。

 

 何度も失敗した。

 

 それでも、二人は最後までやり遂げた。

 

 「よく頑張ったな、二人とも!」

 

 オールマイトが、満足そうに頷いた。

 

 「緑谷少年。君は、十分にワン・フォー・オールを受け継ぐ準備ができた」

 「……はい!」

 

 出久は、まっすぐにオールマイトを見つめた。

 

 そして、上条もまた、自分の拳を握った。

 

 自分がヒーローになりたいのか。

 

 その答えは、まだ完全には出ていなかった。

 

 だが、少なくとも、今の自分なら。

 

 以前よりも、誰かを助けるためにできることが増えている。

 

 その実感があった。

 

 ワン・フォー・オールの継承は、静かに行われた。

 

 オールマイトは、自分の髪を一本、出久に手渡した。

 

 「これを飲みなさい」

 「……えっ!?」

 

 出久は固まった。

 

 「の、飲むんですか!?」

 「そうだ!」

 「え、えええっ!?」

 

 上条は、思わず顔を引きつらせた。

 

 「いや、待ってください。そういうものなんですか!?」

 「そういうものだ!」

 「いや、説明が雑すぎるだろ!」

 

 結局、出久は覚悟を決めて髪を飲み込んだ。

 

 そして、ワン・フォー・オールは、出久へと受け継がれた。

 

 それは、長い年月をかけて受け継がれてきた力。

 

 今まで出久が持っていなかった、強大な個性だった。

 

 「……これが」

 

 出久は、自分の手を見つめた。

 

 「僕の、個性……」

 

 その表情には、喜びと不安が入り混じっていた。

 

 オールマイトは、出久の肩に手を置いた。

 

 「忘れるな、緑谷少年。力を得たからといって、すぐに使いこなせるわけではない」

 「はい」

 「焦らず、少しずつ身につけていくんだ」

 「……はい!」

 

 上条は、二人のやり取りを見守っていた。

 

 自分には、ワン・フォー・オールは与えられなかった。

 

 だが、それでよかった。

 

 これは、出久が受け継ぐべき力なのだ。

 

 自分は自分のやり方で、できることを増やしていけばいい。

 

 「緑谷」

 「ん?」

 「これから大変だろうけど、頑張れよ」

 「……うん!」

 

 出久は、力強く頷いた。

 

 「上条君も、一緒に頑張ろう!」

 「おう」

 

 上条は笑った。

 

 まだ、自分がヒーローになると決めたわけではない。

 

 それでも、雄英高校を目指すことは決めていた。

 

 「オールマイト」

 「ん?」

 「俺も、雄英を受けます」

 「ほう」

 「ヒーローになるって決めたわけじゃないです。ただ、あのヘドロのとき、緑谷が声をかけてくれなきゃ、間に合わなかったかもしれない。次は、自分だけでも間に合うようになりたいんで」

 

 オールマイトは、嬉しそうに目を細めた。

 

 「理由は、それで十分だ」

 

 ヒーローという道が、そのために役立つのなら。

 

 まずは、その道を歩いてみよう。

 

 そう考えるようになっていた。

 

 雄英高校の入試当日。

 

 受験生たちが、試験会場へと向かっていく。

 

 出久と上条も、校門の前で合流していた。

 

 「……いよいよだね」

 

 出久は、緊張した様子で呟いた。

 

 「そうだな」

 

 上条は、周囲を見渡した。

 

 受験生たちの中には、明らかに戦闘向きの個性を持っていそうな者もいる。

 

 身体そのものが変化している者。

 

 強力な攻撃能力を持っていそうな者。

 

 自信満々に笑っている者。

 

 誰もが、これから始まる試験に向けて準備を整えていた。

 

 「俺たちも、やるしかねえな」

 「うん!」

 

 二人は、拳を軽くぶつけ合った。

 

 だが、彼らが向かう試験会場は同じではない。

 

 受験番号と指定された会場が違うため、実技試験は別々に受けることになっていた。

 

 「じゃあ、ここからは別行動だね」

 「ああ。そっちはそっちで頑張れよ」

 「上条君も!」

 「おう」

 

 出久は、自分の試験会場へと向かった。

 

 上条も、指定された別の会場へと歩き出した。

 

 その数歩目で、靴紐がぷつりと切れた。

 

 「……不幸だー」

 

 二人は、互いの試験を目撃することも、試験中に助け合うこともない。

 

 ここから先は、それぞれが自分の力で切り抜けなければならなかった。

 

そして…本番

 

遠くで、実技試験の開始を告げるサイレンが鳴り響く。

 

10ヶ月間、ノートを擦り切れるまで読み込み、泥臭く予習を重ねてきた出久。

 

そして、不運に愚痴を叩きつけながらも、右手ひとつで現場に立つ上条。

 

助け合いのない、それぞれの試練が、いま幕を開ける。

 

 




やはりダブル主人公(?)ものは良いですね…
まあ私が書けるとは言ってないのですが…HAHAHA()

ここまで読んでくださってありがとうございます。
楽しんでいただけたら、今の時点での率直な評価をいただけると嬉しいです。続きを書く大きな励みになります。

「もう一作品、『緑谷出久は未来を予習しているだけなのに、全員に策士だと思われている』も投稿しています。そちらもよろしくです」と一行入れる
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
点
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。