無職転生 ~愚弟の兄は全身鎧の剣士~ 作:鎧の剣士
朝の鍛錬。
俺は鎧を着て、木剣を構えていた。
「今日は、お前から攻めてみろ」
パウロが木剣を構えた。
「相手の動きを待つだけじゃなく、自分から仕掛けるんだ。相手を動かすことも、剣術のうちだからな」
「分かりました」
真正面から攻めれば、簡単に止められる。
ならば、相手に反応させ、その動きを利用すればいい。
俺は剣先をわずかに動かした。パウロの視線がそちらへ向いた瞬間、踏み込んで斬りかかる。
しかし、パウロは半歩ずれて攻撃を受け流した。
「剣先に意識を向けさせたのは悪くない。だが、その反応をどう利用する?」
「その隙に攻撃するつもりでした」
「相手が動いてから次を考えていたら遅れることもある。反応をいくつか予想しておけ。ただし、全部を同時に考えようとするな。まずは一つの仕掛けと、その次の動きを身につけるんだ」
俺は頷いた。
相手の反応を見てから慌てるのではなく、次の動きをあらかじめ決めておく。
そこで俺は、先ほどと同じように剣先を動かした。
パウロの木剣がこちらを警戒するように上がる。
今だ。
俺はその動きに合わせて踏み込み、剣の軌道を変えた。
木剣がパウロの構えをかすめる。
だが、最後の一歩が甘かった。パウロは身を引いて攻撃をかわし、俺の木剣を軽く弾いた。
「惜しいな。今の考え方は悪くない」
パウロが笑った。
「相手の反応を見てから動けていた。ただ、攻撃を届かせるところまで意識しろ」
「はい」
完敗ではない。
かといって、成功とも言いがたい。
実に微妙な結果だった。
それでも、ただ闇雲に攻めるよりは一歩進んだのだろう。
「明日もこの練習を続けるぞ」
「分かりました」
俺は素直に返事をした。
上達するのは悪くない。
ただし、上達した分だけ訓練が増える仕組みだけは、どうにかしてほしい。
◇
昼食の席で、ルーデウスが尋ねてきた。
「兄さん、今日は何を習ったの?」
「相手の反応を見ながら攻める練習だ」
「へえ。相手が避ける方向を予想して、その先に別の攻撃を用意しておくとか?」
「考え方としては、そういうことだな」
「面白そうだね」
ルーデウスは興味深そうに頷き、食事に戻った。
俺もそれ以上は話さなかった。
昼食くらい、剣術のことを忘れてゆっくり食べたい。
俺は皿の上の料理を片づけることに集中した。
◇
夜。
鎧の手入れを終えた俺は、寝床に入った。
明日も今日と同じ練習が待っている。
少しずつ上手くなればいい。焦って無理をする必要はない。
……ただ、上達をパウロに見抜かれると、訓練が増える可能性がある。
かといって、わざと失敗するわけにもいかない。
真面目に取り組みながら、追加訓練は避ける。
言うだけなら簡単だが、実行するのは剣術より難しそうだ。
俺は布団を引き寄せた。
明日はどうか、父さんが機嫌よく訓練を切り上げてくれますように。
そう願いながら、俺は目を閉じた。