無職転生 ~愚弟の兄は全身鎧の剣士~   作:鎧の剣士

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第17話 兄は余計なことに首を突っ込まない

翌朝、空は昨日の雨が嘘だったかのように晴れ渡っていた。

 

俺は庭に出ると、いつものように訓練用の木剣を手に取った。鎧の留め具を確かめ、腕を回して動きに問題がないことを確認する。

 

雨の日に休めたのはよかったが、訓練を一日休めば、それだけ先に進むのが遅れる。

 

……まあ、昨日は仕方ない。

 

「アル、準備はできたか?」

 

「いつでもいいよ、父さん」

 

パウロが木剣を構える。

 

俺も構えを取った。

 

昨日の騒ぎについて、パウロはそれ以上何も言わなかった。ルディにも話をしたのだろう。家の中で顔を合わせた時、ルディはいつもより少しだけ落ち着かない様子だった。

 

ただ、俺から何か聞くつもりはなかった。

 

原作知識で知っている出来事だからといって、俺がすべてを確認しなければならない理由はない。ルディとシルフィの間で解決することなら、本人たちに任せておけばいい。

 

俺には俺の訓練がある。

 

「いくぞ!」

 

パウロの木剣が迫る。

 

俺は正面から受けず、半歩だけ横へずれて攻撃を流した。そこから反撃へ移ろうとするが、パウロはすでに次の動作に入っていた。

 

木剣が肩口へ迫る。

 

俺は慌てて剣を引き戻し、かろうじて受け止めた。

 

「遅い!」

 

「分かってる!」

 

衝撃が腕に響く。

 

結局、俺は体勢を崩され、地面に片膝をついた。

 

「攻撃を流す判断は悪くない。だが、その後の動きが遅れている。相手が次に何をするか、考えるだけじゃ駄目だ。考えながら動け」

 

「それができたら苦労しないんだけどな……」

 

「だから訓練しているんだろうが!」

 

パウロの声が庭に響いた。

 

俺は立ち上がり、もう一度木剣を構える。

 

昨日の騒ぎを気にしている暇はない。

 

強くなるためというより、将来、無駄な危険を避けられるようになるために。俺は今日も剣を振るった。

 

◇

 

昼前、訓練を終えて家に戻ると、居間でルディとシルフが一緒にいた。

 

二人の間に、昨日のような騒がしさはない。

 

シルフは少し緊張した様子で座っていたが、ルディが何か話しかけると、小さく頷いた。

 

「……昨日は、ごめん」

 

ルディが頭を下げる。

 

「ぼ、僕、シルフが男の子だと思ってて……その、驚かせるつもりじゃなかったんだ」

 

「う、うん。もういいよ」

 

シルフはまだ少し気まずそうだったが、ルディの謝罪を受け入れたようだった。

 

俺は二人の様子を横目で見ながら、食卓の水差しに手を伸ばした。

 

なるほど。ひとまず仲直りはできたらしい。

 

それなら問題ない。

 

「アル兄さん、聞いてたの?」

 

ルディがこちらを振り返った。

 

「何を?」

 

「いや、今の話……」

 

「謝ってたのは聞こえたけど、それだけだよ」

 

俺は水を飲み、肩をすくめた。

 

「ちゃんと謝れたならいいんじゃないか?」

 

ルディは何か言いたそうにしていたが、結局、口を閉じた。

 

俺はそれ以上追及しなかった。

 

原作を知っている俺にとって、二人の関係がこれからどう変化していくかは、ある程度予想できる。

 

だが、予想できることと、口を出すべきことは別だ。

 

そもそも、俺が余計なことを言って二人の関係をこじらせたら、それこそ面倒である。

 

「それより、今日は何をして遊ぶんだ?」

 

俺が尋ねると、ルディは少し安心したように表情を緩めた。

 

「今日は外で魔術の練習をしようと思ってる。昨日は途中で雨が降ってきたから」

 

「そうか。今度は天気に気をつけろよ」

 

「分かってるよ!」

 

ルディはむっとした顔をした。

 

シルフが隣で小さく笑う。

 

二人の間に、少しずついつもの空気が戻っていた。

 

俺はその様子を確認すると、居間を後にした。

 

◇

 

午後、俺は自分の装備の手入れをしていた。

 

金属部分に汚れが残っていないかを確かめ、留め具を一つずつ点検する。鎧は身を守るための道具だ。手入れを怠れば、いざという時に役に立たない。

 

剣の稽古と同じくらい、こういう地味な作業も大切だった。

 

「アル、また鎧をいじっているのか?」

 

声をかけてきたのはパウロだった。

 

「いじってるんじゃなくて、手入れだよ」

 

「はいはい。だが、夢中になりすぎるなよ。夕食の時間には戻ってこい」

 

「分かってる」

 

パウロは笑いながら立ち去った。

 

俺は再び鎧へ視線を戻す。

 

いつか全身を覆う黒い鎧を手に入れる。

 

そのためにも、今の装備を大切に扱い、剣術も磨いていく必要がある。

 

目立ちたいわけじゃない。英雄になりたいわけでもない。

 

ただ、危険な目に遭わず、できるだけ安心して生きていきたい。

 

そのために必要な努力なら、惜しむつもりはなかった。

 

窓の外から、ルディとシルフの楽しそうな声が聞こえてくる。

 

俺は一度だけそちらを見て、それから作業に戻った。

 

二人は二人で、少しずつ関係を築いていけばいい。

 

俺は俺のやるべきことをやる。

 

それで十分だった。

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