無職転生 ~愚弟の兄は全身鎧の剣士~ 作:鎧の剣士
ルーデウスが七歳、俺が九歳になった頃、グレイラット家に新しい家族が二人増えた。
ゼニスは女の子を出産し、ノルンと名付けられた。
そして、その後にリーリャも女の子を出産した。こちらの名前はアイシャ。
二人とも無事に生まれ、母子ともに健康だった。
……これで、グレイラット家も一段と賑やかになるわけか。
俺はそう思いながら、小さく息を吐いた。
原作知識では知っていた出来事だ。
ゼニスがノルンを産み、リーリャがアイシャを産む。そこまでは記憶している物語と概ね同じだった。
もちろん、俺がこの世界に存在している以上、細かな部分まで完全に一致するとは限らない。
実際、これまでにも原作とは少し違う出来事があった。
まあ、概ね一緒だからいいんだけどさ。
大切なのは、二人が無事に生まれてきたということだ。
◇
「アル、ルディ。妹たちに会いに行くぞ!」
パウロに呼ばれ、俺とルーデウスは赤ん坊たちのいる部屋へ向かった。
ゼニスのそばではノルンが眠っていた。
小さな体を布に包まれ、すやすやと寝息を立てている。
少し離れた場所には、リーリャのそばにアイシャも眠っていた。
こちらも気持ちよさそうに眠っている。
「かわいいね、アル兄さん」
ルーデウスが小声で言った。
「そうだな」
俺は頷いた。
赤ん坊というのは、見ているだけなら確かにかわいい。
もっとも、これから泣いたり、夜中に起こされたり、世話が必要になったりすることを考えると、家の中は今まで以上に騒がしくなるだろう。
静かな時間が減るのは、少々困る。
だが、家族が増えること自体を嫌だと思っているわけではなかった。
「アルもルディも、お兄ちゃんになったんだから、二人を可愛がってあげてね」
ゼニスが微笑む。
「できる範囲でな」
「もう、アルったら」
母さんは苦笑した。
隣ではルーデウスが、すでに妹たちに興味津々といった様子で顔を覗き込んでいる。
俺はその様子を見ながら、少しだけ考えた。
ノルンとアイシャ。
原作では、この二人もそれぞれ成長し、異なる道を歩んでいく。
しかし、今ここにいるのは、まだ何も知らない赤ん坊だ。
これから何を好きになり、どんなことに悩み、どんな人間になっていくのか。
その未来は、まだ決まっていない。
原作の知識があるからといって、目の前の二人の未来まで決めつけるつもりはなかった。
この世界は、俺が知っている物語そのものではないのだから。
「……元気に育てよ」
俺は小さく呟いた。
もちろん、赤ん坊たちから返事はない。
二人は変わらず、気持ちよさそうに眠っていた。
◇
家族が増えたことで、屋敷の生活も少しずつ変わり始めた。
赤ん坊の世話に時間を取られることが増え、家の中は以前より慌ただしい。
パウロも父親としての責任が増えたせいか、以前にも増して家のことを気にするようになった。
……いや、父さんの場合は、以前のやらかしもあるからな。
家族を大切にするのは当然として、これからは今まで以上に責任ある行動を取ってもらいたいものだ。
俺はそんなことを考えながら、庭で木剣を振っていた。
家族が増えても、俺の日課は変わらない。
パウロとの剣術訓練を続け、鎧の扱いを覚え、必要に応じて魔術も学ぶ。
将来、何が起きるか分からない以上、備えは必要だ。
むしろ、家族が増えたことで、これまで以上に自分の力を磨いておく意味は大きくなったのかもしれない。
もっとも、俺は英雄になりたいわけでも、誰より強くなりたいわけでもない。
危険を避け、面倒を減らし、できるだけ平穏に暮らしたいだけだ。
そのために努力するのは、結局のところ自分自身なのだろう。
「アル! 次はどうした!」
パウロの声が飛んできた。
「今行くよ!」
俺は木剣を握り直した。
ノルンとアイシャがこれからどんな人生を歩むのか、俺にはまだ分からない。
原作と同じ道を進むのか、それとも少しずつ違う未来を選ぶのか。
それを今から考えすぎても仕方がない。
今は目の前のことを、一つずつこなしていこう。
家族が増えたこの家で、俺自身も生きていくために。
俺は地面を蹴り、パウロへ向かって踏み込んだ。