兄は全身鎧の剣士 作:鎧の剣士
十一歳になった。
毎日の鍛錬は相変わらず続いている。
剣術に魔術、身体を鍛えるための基礎訓練。やることは多いが、できることなら少しでも効率よく済ませたい。
特に最近、俺が力を入れているのが大剣の扱いだ。
以前に比べれば、大剣を使った動作にも慣れてきた。
振り下ろすだけでなく、攻撃後の体勢を立て直したり、次の動作へつなげたりすることもできるようになっている。
そこで、次の段階に進むことにした。
大剣で三大流派の技を使うことだ。
剣神流、水神流、北神流。
それぞれに特徴があり、得意とする戦い方も違う。
普通の剣で覚えた技術を、そのまま大剣に当てはめることはできない。
剣の長さも重さも違うのだから、当然だろう。
ならば、大剣に合った使い方を考えればいい。
「父さん、今日は大剣での流派の使い方を見てほしいんだけど」
「おう。何を試すんだ?」
「まずは剣神流から」
俺は大剣を構えた。
◇
最初に取り組んでいるのは剣神流だ。
剣神流の特徴は、速さと攻撃力。
大剣は重い。
普通に振れば、その重量が動きを鈍らせる原因になる。
だが、闘気で身体能力を強化すれば話は変わる。
大剣の重量を利用しながら、闘気によって爆発的な速度を生み出す。
踏み込みと同時に剣を振り抜き、遠心力を乗せる。
速さと重さ。
その二つを一撃にまとめることができれば、かなりの威力になるはずだ。
「いくぞ!」
地面を蹴る。
闘気を身体に巡らせ、踏み込みに合わせて大剣を振り下ろした。
風を切る音が響く。
ドンッ!
地面に置いてあった訓練用の木製標的が、大きく揺れた。
しかし、剣を振り切った俺の身体も前方へ流れてしまう。
「うーん……」
「威力はあるな。だが、振り終わった後がよくない」
父さんが標的を確認しながら言った。
「踏み込みに力を入れすぎだ。剣の勢いに身体が引っ張られているぞ」
「でも、速さを出すには思い切り踏み込まないと」
「速く動くことと、身体を制御できないことは違う。攻撃した後に動けなくなったら意味がないだろ」
確かにそうだ。
大剣の重量を利用するのはいいが、振った勢いに自分まで振り回されていては駄目だ。
攻撃後も次の動作に移れるよう、身体の軸を保つ必要がある。
「もう一度やってみます」
「おう。今度は振り終わった後まで意識しろ」
俺は再び構えた。
今度は踏み込みの力を調整し、闘気を使うタイミングも意識する。
踏み込み。
加速。
斬撃。
大剣が標的を捉えた。
先ほどよりも威力は少し落ちたが、振り終わった後の姿勢は崩れなかった。
「お、今のはいいぞ」
父さんが頷く。
「まだまだだけどな」
「分かってるよ」
一度成功したくらいで身についたとは言えない。
同じ動きを何度も繰り返し、安定させる必要がある。
……できれば、早く完成させて修行の時間を減らしたいところだ。
◇
次は水神流だ。
水神流は相手の攻撃を受け流し、反撃につなげる流派。
ただ、大剣で普通の剣と同じように受け流そうとすると、どうしても動きが大きくなる。
そこで俺は、大剣の分厚い刀身を防御に利用することにした。
大剣の広い剣幅で攻撃を受け止め、全身鎧でも身体を守る。
そして、剣に伝わった衝撃を利用する。
受け止めた力を完全に殺すのではなく、身体の回転につなげる。
その回転に大剣と鎧の重量を乗せ、相手の上から叩きつける。
言葉にすれば簡単だが、実際にやるとなると難しい。
「父さん、攻撃してみて」
「分かった。いくぞ」
父さんが木剣を構えた。
俺は大剣を身体の前に置き、攻撃に備える。
木剣が振り下ろされた。
ガンッ!
大剣の刀身で受け止める。
衝撃が腕に伝わり、足元がわずかに沈んだ。
その力を利用して身体を回転させる。
大剣を持ち上げ、父さんへ振り下ろそうとした。
しかし、動きが遅い。
父さんはすでに後ろへ下がっていた。
「今のは駄目だな」
「やっぱり?」
「受けるところまではいい。だが、その後の動きが大きすぎる。攻撃を受けてから考えているようじゃ遅いぞ」
「反動を利用するのが難しいんだよ」
「だったら、最初から次の動きを考えておけ」
父さんは木剣を構え直した。
「水神流は受けて終わりじゃない。相手の攻撃を利用して、自分の攻撃につなげるんだ。大剣だからって、ただ受け止めて力任せに振ればいいわけじゃない」
「分かった」
今度は攻撃を受ける前から、身体の回転を意識する。
木剣が迫る。
大剣の刀身で受け止める。
衝撃を利用し、足を踏み替える。
身体を回転させながら、大剣を振り上げる。
先ほどよりも動きは滑らかになった。
だが、反撃の一撃は父さんに簡単に止められてしまった。
「悪くない。だが、まだ攻撃が大きいな」
「うーん……」
「大剣の重さを利用するのはいい。だが、その重さに頼りすぎるな。相手が避けたらどうする?」
「次の攻撃につなげる」
「そうだ。最初の一撃で終わると思うな」
父さんの言葉に頷く。
水神流は防御から反撃へつなげる技術だ。
一撃を叩きつけて終わりではない。
相手の動きに合わせ、次の行動を選べるようにしなければならない。
まだ改善するところは多そうだ。
◇
最後は北神流。
この流派は、正面からの攻防だけにこだわらない。
相手の予想を外し、意表を突く。
大剣の間合いと重量を利用すれば、普通の剣とは違う戦い方ができるはずだ。
例えば、大剣を振ると見せかけて途中で軌道を変える。
大きく踏み込むと見せて、逆に相手の攻撃を誘う。
あるいは、大剣の長い間合いを利用して、相手が届かないと思っている距離から攻撃する。
もっとも、今の俺には思いついた動きを実際に成功させるだけの技量が足りない。
「父さん、次は北神流を試したい」
「北神流か。お前らしいな」
「どういう意味?」
「いや、なんでもない」
父さんは笑って木剣を構えた。
俺も大剣を構える。
最初は正面から攻めると見せかけ、途中で足を止める。
父さんが反応したところで、横へ回り込もうとした。
しかし、父さんは簡単についてきた。
「今のは分かりやすすぎるぞ」
「そう?」
「相手を騙すなら、動きだけじゃなく視線や身体の向きも使え。何をしようとしているのか、相手に悟らせないことだ」
なるほど。
技の形だけを変えても意味がない。
相手に次の行動を読ませないことが大切なのだ。
大剣は動きが大きい分、攻撃を読まれやすい。
だからこそ、相手の予想を外す工夫が必要になる。
「もう一度お願いします」
「おう!」
何度か試したが、父さんを出し抜くことはできなかった。
それでも、攻撃の見せ方や間合いの取り方について、新しい発見はあった。
北神流は奥が深い。
◇
一通りの修行を終えた頃には、かなり疲れていた。
大剣を扱うだけでも体力を使うのに、闘気まで併用すれば消耗は大きい。
「今日はここまでにするか」
父さんが木剣を片付けながら言った。
「ありがとうございました」
「なかなか面白いことを考えてるな。大剣で三つの流派を使いこなそうなんて、簡単なことじゃないぞ」
「普通の剣と持ち替えるのが面倒だからね」
「……そうか」
父さんが一瞬だけ黙った。
「まあ、理由はどうあれ、続けることだ。どんな武器でも使いこなせるようになれば、それだけ選択肢が増える」
「うん」
俺としては、武器を持ち替える手間を省きたいだけなのだが。
父さんには、随分と意欲的な目標に聞こえたらしい。
まあ、別に誤解を解く必要もないだろう。
◇
家に戻ると、ノルンとアイシャが出迎えてくれた。
「アル兄、おかえり!」
「おかえりなさい!」
「ただいま」
二人とも四歳になり、以前よりも随分と話せるようになっている。
俺の鎧を見ると、二人は興味津々で近づいてきた。
「今日も剣の練習?」
「そうだよ」
「その大きな剣で?」
「うん」
「すごいね!」
ノルンが目を輝かせる。
アイシャも大剣を見上げていた。
「私も大きくなったら持てる?」
「大きくなって、身体を鍛えたらね」
「じゃあ、頑張る!」
二人とも元気だ。
その様子を見ていると、疲れも少し和らいだ気がした。
◇
夜、自室で鎧の手入れをする。
今日の修行を振り返ると、まだまだ課題は多い。
剣神流は、闘気による加速と大剣の重量をうまく合わせる必要がある。
水神流は、受け止めた衝撃を身体の回転に変え、反撃へつなげなければならない。
北神流は、相手の予想を外す工夫と、攻撃の見せ方が重要になる。
どれも簡単には身につかない。
それでも、普通の剣とは違う大剣ならではの戦い方を考えるのは面白い。
……いや、面白いというより、これができれば武器を持ち替えなくて済む。
その方が楽だ。
俺は鎧の留め具を確認し、手入れ道具を片付けた。
明日も修行がある。
できることなら、今日より少しでも上手くなっていてほしい。
そうすれば、いつか修行の時間を減らせるかもしれない。
そんなことを考えながら、俺は寝台に入った。