兄は全身鎧の剣士   作:鎧の剣士

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第25話 大剣を振るう日々

十二歳になった。

 

毎日の鍛錬は続いているが、以前とは少し状況が変わっていた。

 

大剣を使った三大流派の修行が、ようやく一つの形になってきたのだ。

 

剣神流、水神流、北神流。

 

それぞれの流派を大剣で扱うために試行錯誤を重ね、今では三流派とも上級の技術を実戦で使えるようになっている。

 

もちろん、上級になったからといって完成したわけではない。

 

大剣という特殊な武器を使う以上、通常の剣とは違った工夫が必要になる。

 

それでも、以前に比べれば戦い方の幅は大きく広がった。

 

そして最近、俺の鍛錬には新しい内容が加わっていた。

 

魔物討伐だ。

 

父さんと一緒に、実際の魔物を狩る仕事を引き受けるようになったのである。

 

訓練相手と違い、魔物は手加減してくれない。

 

失敗すれば怪我をするし、場合によっては命を落とす。

 

だからこそ、実戦経験を積むことには意味があった。

 

……できれば、危険な仕事は避けたいところだけど。

 

◇

 

「アル、準備はできたか?」

 

父さんが玄関で声をかけてきた。

 

「うん。鎧も大剣も問題ないよ」

 

俺は全身鎧の留め具を確認した。

 

背中には大剣。

 

普段から身につけている装備だが、魔物討伐となればいつも以上に点検する。

 

「今日は森の近くに出る魔物の討伐だ。数はそれほど多くないらしいが、油断するなよ」

 

「分かってる」

 

「特に、魔物の動きをよく見ることだ。人間相手とは勝手が違うからな」

 

父さんはそう言って歩き出した。

 

俺もその後に続く。

 

今回の依頼は、村の近くに現れた魔物の討伐だった。

 

被害が出る前に数を減らしてほしいという話らしい。

 

報酬も出るし、実戦経験も積める。

 

一石二鳥だ。

 

……父さんと一緒なら、危険もある程度は避けられるだろう。

 

◇

 

森に入ってしばらく進むと、父さんが足を止めた。

 

「いるな」

 

俺も気配を探る。

 

少し離れた茂みの向こうで、何かが動いていた。

 

「魔物か?」

 

「ああ。数は三匹だ」

 

父さんが剣を抜く。

 

俺も背中の大剣を手に取った。

 

茂みから現れたのは、犬に似た姿の魔物だった。

 

普通の犬よりも大きく、鋭い牙が目立つ。

 

一匹がこちらに気づくと、低く唸りながら地面を蹴った。

 

「アル、右の二匹を頼む。左は俺が引き受ける」

 

「分かった」

 

魔物が飛びかかってくる。

 

俺は大剣を構え、闘気を身体に巡らせた。

 

最初の一匹が正面から突っ込んでくる。

 

剣神流。

 

踏み込みと同時に身体を加速させ、大剣を振り抜く。

 

重い刀身が空気を切り裂いた。

 

魔物は避けようとしたが、踏み込みの速さに対応できなかった。

 

大剣がその身体を捉える。

 

一撃で仕留めることができた。

 

続いて二匹目が横から迫る。

 

俺は大剣を引き戻しながら、身体の向きを変えた。

 

しかし、魔物の動きは予想よりも速い。

 

爪が鎧に当たる。

 

ガンッ!

 

金属音が響いた。

 

「っ!」

 

衝撃はあったが、鎧のおかげで大きな傷にはならなかった。

 

俺はそのまま大剣の刀身を前に出す。

 

魔物の次の攻撃を受け止めた。

 

水神流。

 

大剣に伝わった衝撃を利用し、身体を回転させる。

 

足を踏み替え、鎧と大剣の重量を乗せて上から叩きつけた。

 

魔物は地面に倒れ、そのまま動かなくなった。

 

「よし……」

 

残る一匹は、父さんの方へ向かっていた。

 

父さんは魔物の攻撃を軽々とかわし、反撃を入れている。

 

あっという間に決着がついた。

 

「終わったな」

 

父さんが剣を収める。

 

「そっちはどうだった?」

 

「二匹とも倒したよ」

 

「そうか。鎧に傷はないか?」

 

「少し当たったけど、大丈夫」

 

「ならいい。だが、今の二匹目の攻撃は危なかったぞ」

 

父さんの表情が少し厳しくなる。

 

「鎧を着ているからって、攻撃をわざと受けるな。相手の力や爪がどれほど強いか分からないんだ。鎧を着ていても、やられるときはやられる。最悪、殺されるぞ」

 

「分かってる」

 

「本当に分かってるか?」

 

「……次から気をつける」

 

父さんはため息をついた。

 

「まあ、実戦だからな。経験を積んで覚えていけ」

 

俺は頷いた。

 

鎧があるからといって、何でも受け止めていいわけではない。

 

防御できることと、無傷で済むことは別だ。

 

そこは忘れないようにしよう。

 

◇

 

討伐した魔物を確認し、必要な処理を済ませる。

 

その後も森の周辺を調べたが、ほかに魔物の姿はなかった。

 

「今日はこれで終わりだな」

 

父さんが言った。

 

「思ったより早かったね」

 

「数が少なかったからな。いつもこうとは限らないぞ」

 

「そうだね」

 

父さんは歩きながら話を続けた。

 

「アル、お前は三つの流派を大剣で使えるようになってきた。だが、技を使えることと、戦いに勝てることは別だ」

 

「うん」

 

「相手の種類によっても戦い方は変わる。人間と魔物では動きも違うし、同じ魔物でも大きさや特徴が違う。毎回同じ技を使えばいいわけじゃない」

 

「状況に合わせて使い分けろってこと?」

 

「そういうことだ」

 

俺は背中の大剣に手を添えた。

 

剣神流で攻める。

 

水神流で守り、反撃する。

 

北神流で相手の予想を外す。

 

それぞれの技術を覚えたとしても、使う場面を間違えれば意味がない。

 

実戦では、その判断も必要になる。

 

「父さん」

 

「なんだ?」

 

「魔物の討伐って、これからも一緒に行ける?」

 

「もちろんだ。ただし、無理はさせない。危険な相手なら俺が止める」

 

「分かった」

 

これからも経験を積めるなら悪くない。

 

……まあ、仕事をする以上は報酬も欲しいところだが。

 

◇

 

家に戻ると、ノルンとアイシャが出迎えてくれた。

 

二人は四歳になり、以前よりも元気に家の中を走り回っている。

 

「アル兄、おかえり!」

 

「今日はどこに行ってたの?」

 

「魔物を狩りに行ってたんだ」

 

「魔物?」

 

ノルンが目を丸くする。

 

「怖くなかった?」

 

「父さんも一緒だったからね」

 

「お父さん強いもんね!」

 

アイシャが嬉しそうに言った。

 

「ああ。父さんは強いよ」

 

それは間違いない。

 

俺もかなり鍛えてきたつもりだが、実戦経験では父さんに及ばない。

 

魔物との戦いでも、父さんは状況を見極めるのが早い。

 

俺が技を使うことに意識を向けている間にも、父さんは周囲の状況を確認している。

 

まだ学ぶことは多い。

 

「アル兄、その大きな剣で魔物を倒したの?」

 

「そうだよ」

 

「すごい!」

 

ノルンが大剣を見上げる。

 

「でも、危ないから触っちゃ駄目だよ」

 

「分かってる!」

 

二人は元気よく返事をした。

 

本当に分かっているのか少し不安だが、今はそれ以上言わないでおこう。

 

◇

 

それからも、父さんとの魔物討伐は続いた。

 

森に出る魔物を狩ったり、街道に現れた魔物を追い払ったり。

 

依頼の内容によって、相手も状況も違う。

 

ある時は剣神流で一気に仕留め、ある時は水神流で攻撃を受け流して反撃する。

 

相手がこちらの攻撃を警戒している時には、北神流の変則的な動きも使う。

 

ただし、どんな相手にも通用するわけではない。

 

大きな魔物の攻撃を受け止めきれず、後ろへ吹き飛ばされたこともあった。

 

素早い魔物に翻弄され、父さんに助けられたこともある。

 

そのたびに、父さんから注意を受けた。

 

「技にこだわりすぎるな。勝つために何が必要かを考えろ」

 

その言葉は何度も聞いた。

 

確かに、流派の技を使うこと自体が目的になってはいけない。

 

生き残り、相手を倒す。

 

そのために剣術があるのだから。

 

◇

 

そんな日々を過ごしているうちに、ルーデウスの十歳の誕生日が近づいていた。

 

ルーデウスは今もボレアス家で生活している。

 

離れて暮らすようになってから、それなりの時間が経った。

 

もちろん、俺はこの先に何が起こるのかを知っている。

 

原作知識があるからだ。

 

ルーデウスが十歳の誕生日を迎えた後、フィットア領を巻き込む大規模な転移事件が発生する。

 

それがどれほど多くの人間の運命を変えることになるのかも、俺は知っていた。

 

ただ、知っているからといって、すべてを思い通りにできるわけではない。

 

今の俺にできることは限られている。

 

自分の鍛錬を続けること。

 

父さんとの仕事を通じて実戦経験を積むこと。

 

そして、いざという時に家族を守れるだけの力を身につけておくことだ。

 

ルーデウスの十歳の誕生日が過ぎれば、いよいよ原作の大きな転換点が訪れる。

 

その時に備えて、今できることを続けていこう。

 

俺はそう考えながら、再び大剣を手に取った。

 

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