兄は全身鎧の剣士   作:鎧の剣士

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第27話 森の中の出会い

見渡す限り、知らない木々ばかりが続いていた。

 

方角も分からない。地図もない。それでも立ち止まっていても何も始まらない。俺は大剣を背負い、とにかく歩き始めた。

 

「水と、食べるものを探さなきゃ……」

 

小さくつぶやく声が木々に吸い込まれる。鎧の重さがいつもよりずっと重く感じる。不安がそうさせるのか、それとも本当に長い距離を歩いているのか —— それすら分からない。

 

とにかく人の気配のある場所へ。街でも村でもいい。誰かに会える場所へ。それが唯一の手がかりだ。

 

歩き続けること半日。木々の密度が少しずつ変わり、視界が開け始めた頃、前方に動く気配を感じた。

 

—— 魔物じゃない。人だ。

 

木の陰からそっとうかがう。そこには一人の男が立っていた。

 

人族の 50 代後半に見える。口元には髭が生え、落ち着いた風格が漂っている。白髪混じりの黒髪は無造作に肩まで伸び、手には長剣ではなく金属製の長棍を携えている。一見すると旅人のようだが —— その佇まいはあまりにも静かで、まるで周囲の空気そのものを掌握しているかのようだ。

 

—— こいつ、もしかして……。

 

心臓が鼓動を速める。まだ確信はない。だけどその雰囲気、手にする武器、どれを取っても知っている姿と重なる。ここで出会えるなんて —— そう思うと、足が自然に前へ出ていた。

 

俺が木陰から出ると、男はすぐにこちらに気づき、長棍の手を緩めないまま穏やかな声をかけてきた。

 

「おや、こんな場所に珍しい。君、子供か? しかも立派な鎧に大剣…… 随分と渋い装備だなあ」

 

俺は大剣の柄から手を離し、一歩前に出て深く頭を下げる。

 

「突然すみません。その…… あなたの佇まい、とても強者に見受けられました。よろしければ、ぜひ手合わせをお願い致します」

 

男は目を細め、驚いたように俺を眺める。

 

「ほう。いきなりそう来るか。随分と真っ直ぐな子供だな。名前はなんというんだ?」

 

「アルベルトです」

 

「アルベルトか。俺はシャンドル。シャンドル・フォン・グランドール。別に名を知られているわけでもないのに、俺が強者だなんてよく分かったものだ」

 

—— やっぱり。

 

内心で思わず息を呑む。シャンドル・フォン・グランドールと名乗っているが、この人こそ北神2世として有名な人物。本名はアレックス・カールマン・ライバック —— その人に間違いない。

 

だからといって、それを知っているとは言わず、俺はただ真っ直ぐに見つめ返す。

 

「見ていれば分かります。手加減なしでお願いします」

 

シャンドルはくつくつと笑いながら長棍を構え直す。

 

「はは、面白い。いいだろう。だが痛くても泣くなよ」

 

「はい!」

 

俺は大剣を抜く。頼りになる相棒を構えると、自然と三つの流派の動きが頭を巡る。

 

シャンドルが踏み込む。音もなく距離が詰まり、長棍がしなるようにして伸びてくる —— 速い。俺は水神流で受け流そうと剣を振るが、棍の軌道が一瞬で変わり、逆の方向から迫ってくる。

 

「っ!」

 

とっさに身をかわす。だがその隙に、棍の先端が俺の鎧の側面をかすめる。鈍い音が鳴り、体がよろける。

 

「速い……」

 

態勢を立て直し、今度は剣神流で踏み込む。最大限まで加速し、真正面から一撃を叩き込む。だがシャンドルはそれを軽くいなすように棍で弾き返すだけ。俺の力がまるで伝わらない。

 

「まだまだだな」

 

穏やかな声が聞こえた次の瞬間、視界から相手が消える。気づけば背後に長棍が突きつけられていた。

 

「降参です」

 

俺は素直に剣を下げる。わずか数瞬の出来事だった。手応えすら与えてもらえなかった。それほどまでに圧倒的な実力差があった。

 

シャンドルは長棍を収め、にっこりと笑う。

 

「見事な構えだ。三つの流れを混ぜて戦っているのか。面白い。だがまだそれぞれが別々に動いている。一つになれば、もっと強くなる」

 

俺は胸が躍るのを感じた。間違いない。北神2世 —— アレックス・カールマン・ライバック。この人だ。

 

一歩前に進み、改めて深く頭を下げる。

 

「シャンドルさん。弟子にしてください。俺、強くなりたいんです。家族を探すためにも」

 

シャンドルは俺をじっと見つめ、やがて髭の下で穏やかに笑った。

 

「ふむ。立ち合いの後に即決か。実に潔い。久しぶりだな、こういうのは」

 

少し間を置いて、彼は続ける。

 

「俺は剣にこだわらない。長い棍を使う。それは単純に、リーチが長い方が有利だからだ。剣神流は斬撃を飛ばし、水神流はどんな攻撃も受け流す。なら最初から届く武器を持てばいい。それが俺の流儀だ。それでもいいか?」

 

「はい! 剣でも棍でも、何でも教わります。全部吸収します!」

 

俺が力強く答えると、シャンドルは大きくうなずいた。

 

「よし。ならば今すぐとはいかないが、俺が認めるまでついてこい。覚悟はいるぞ。北神流は体術も歩法も、生きる姿勢そのものを学ぶ流派だからな」

 

「はい! よろしくお願いします!」

 

深く頭を下げたまま、胸の奥が熱くなる。不安はまだ消えない。だけど進むべき道が見えた。頼るべき人ができた。本名はアレックス —— 今はシャンドルと名乗るこの人が、俺の師となる。

 

シャンドルは俺の肩を軽く叩く。

 

「行くぞ。まずは人里まで案内する。そこからだ」

 

「はい!」

 

こうして俺の旅は、シャンドルと共に歩み始めた。まずは家族を見つけること。そのために強くなる。今はただ、目の前の師の背中を追う。

 

白い光の向こうで始まった物語は、新たな一歩を刻んだ。

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