――それは、竜だった。
八月八日、午後三時五十分。
学園都市第七学区、三沢塾。
「……何だ、それは」
アウレオルス=イザードの声が震えた。
白いスーツの男は、目の前の光景を理解できずにいた。
上条当麻。
その右腕を切断した。
あらゆる異能を打ち消す右手さえ失わせれば、ただの無能力者になるはずだった。
それなのに。
失われた右肩から、何かが現れている。
巨大な顎。
鋭い牙。
血に染まった、異形の輪郭。
竜。
それ以外に、形容する言葉が見つからなかった。
「……消えろ」
アウレオルスが呟く。
黄金錬成。
思い描いた事象を現実へ変える、究極の錬金術。
その力を使えば、目の前の異形など消し去れるはずだった。
「消えろ……!」
もう一度。
しかし。
竜は消えなかった。
巨大な顎が、ゆっくりと開く。
まるで、目の前の錬金術師を嘲笑うかのように。
「……馬鹿な」
アウレオルスが後ずさる。
その手には、細い針。
動揺を抑えるため、何度も首元へ刺してきた道具だった。
だが、今は違う。
手が震えている。
思考がまとまらない。
自分の力を信じられない。
「……あり得ん!」
男が叫んだ。
「私の黄金錬成に、不可能など――!」
その言葉が終わる前に。
竜の顎が動いた。
◇
「……おお」
久遠零司は、目を見開いていた。
先ほどまでの錬金術とは、明らかに違う。
アウレオルスの黄金錬成は、術者の想像した結果を現実へ反映していた。
だが。
目の前の竜には、妙な違和感がある。
魔力の流れ。
物理的な輪郭。
空間への干渉。
そのどれを確かめようとしても、一つの答えには結びつかない。
(……何これ)
零司の口元が緩んだ。
分からない。
それが、嬉しかった。
竜の顎が、アウレオルスへ迫る。
男は、必死に叫んだ。
「――砕けろ!」
空間が軋む。
周囲に無数の刃が生まれ、竜へ向かって飛んだ。
しかし。
刃は、竜の顎へ届く前に消失した。
「……っ!?」
ステイルが息を呑む。
「……魔術を、消した?」
零司は答えなかった。
ただ、じっと竜を見ている。
その横で、インデックスが小さく震えていた。
「……とうま……」
上条は、立っていた。
右腕を失い、出血しながら。
それでも倒れずに。
アウレオルスを見据えている。
「……何なんだよ」
上条自身も、自分の右肩から現れた異形を理解できていなかった。
だが。
目の前の錬金術師が恐れていることだけは分かった。
「……お前」
上条が、荒い息を吐く。
「……人の命を、好き勝手にしておいて」
アウレオルスの瞳が揺れる。
「……黙れ!」
「……自分が怖い思いをするのは、嫌なのかよ」
その言葉に。
アウレオルスの顔が、激しく歪んだ。
「黙れと言っている!」
黄金錬成が暴走する。
床が隆起した。
壁が崩れる。
何もない空間から、無数の刃が生まれる。
しかし。
そのどれもが、上条へ届かなかった。
竜の周囲で、次々と消失していく。
そして。
巨大な顎が、アウレオルスへ迫った。
「――――っ!!」
男は、最後まで何かを叫ぼうとした。
だが。
竜の牙が閉じる方が早かった。
◇
音が消えた。
いや。
そう感じるほど、一瞬の出来事だった。
アウレオルスの身体が、ゆっくりと傾く。
黄金錬成によって変質していた室内の景色が、揺らぎ始めた。
壁に生まれた刃。
床から伸びた石柱。
空中に浮かんでいた無数の金属片。
それらが、次々と形を失っていく。
「……あ」
上条が、小さく声を漏らした。
右肩から伸びていた異形が、消え始めている。
巨大な顎。
鋭い牙。
血に染まった輪郭。
それらが、空気へ溶けるように消失していった。
後には何も残らない。
ただ。
右腕を失った上条当麻と。
床に倒れたアウレオルス=イザードだけが残された。
「……終わった、のか?」
ステイルが呟く。
零司は、倒れた錬金術師を見つめた。
呼吸はある。
心臓も動いている。
だが。
男の目からは、先ほどまでの激しい感情が消えていた。
「……誰だ」
アウレオルスが、呟く。
ステイルの表情が変わる。
「……何?」
「……ここは……」
男は、周囲を見渡した。
そして、自分の手を見つめる。
「……私は……誰だ……?」
沈黙。
零司は、少しだけ目を細めた。
「……へえ」
少年は、床に倒れた男へ歩み寄った。
「ねえ」
アウレオルスが顔を上げる。
「……何だ?」
「名前、言える?」
「…………」
男は、口を開いた。
しかし。
答えは出てこなかった。
何度も考える。
思い出そうとする。
それでも。
「……分からない」
零司の瞳が細くなる。
身体に大きな損傷はない。
しかし、記憶が失われている。
それも、単なる一時的な混乱とは思えなかった。
(……精神の方を持っていった?)
少年は、先ほどの竜を思い出す。
物理的な破壊ではない。
ただ魔術を打ち消したわけでもない。
その現象の正体は、まだ分からない。
「……なるほど」
零司が、小さく笑った。
「ますます気になるね」
そのとき。
「……久遠!」
上条の声が響いた。
振り返る。
上条の身体が、大きく傾いていた。
「……あ」
零司が、目を瞬かせる。
右肩から大量の血が流れている。
このままでは危険だった。
「……そっちが先か」
少年は、上条へ歩み寄った。
◇
「とうま!」
インデックスが駆け寄ろうとした。
しかし、上条の血を見て足が止まる。
「……とうま……!」
「……大丈夫、だって……」
上条が笑おうとする。
だが、顔色は明らかに悪かった。
「……全然大丈夫じゃないね」
零司が言った。
「……お前なぁ……」
上条が苦笑する。
その直後。
膝から力が抜けた。
「……っ!」
インデックスが悲鳴を上げる。
しかし、上条の身体は床へ倒れなかった。
零司が、身体を支える力の条件を変更していた。
「はい、無理しない」
少年は、上条をゆっくりと床へ寝かせた。
そして、右肩へ視線を向ける。
血液の流出。
損傷した血管。
周囲の組織。
それらを確認する。
「……止血だけなら、できるかな」
零司が指を動かした。
次の瞬間。
出血が、急速に減少した。
損傷部分に流入する血液の量を調整し、失血を抑えている。
傷口そのものを治したわけではない。
失われた右腕が戻ったわけでもない。
あくまで、医師の治療を受けるまでの応急処置だった。
「……おい」
上条が、苦しげに口を開く。
「……何、した……?」
「血、止めた」
「……簡単に、言うなよ……」
「簡単だったから」
零司は笑った。
ステイルが、上条の右腕を拾い上げた。
「……医療機関へ運ぶ必要がある」
「そうだね」
零司は頷いた。
「まだ繋げられるかもしれないし」
インデックスが顔を上げる。
「……本当?」
「僕はお医者さんじゃないから、保証はできないけど」
零司は答えた。
「少なくとも、今ここで諦める理由はないよ」
インデックスは、強く頷いた。
「……うん!」
その隣で、姫神秋沙が静かに立ち上がった。
「……私も。手伝う」
零司が顔を向ける。
「巫女さん」
「……姫神秋沙」
「ああ、そうだったね」
零司は笑った。
「じゃあ、姫神さん。インデックスをお願い」
「……分かった」
姫神は、インデックスの肩へ手を添えた。
ステイルが周囲を見渡す。
黄金錬成の崩壊によって、建物を覆っていた魔術式も不安定になっている。
このまま放置すれば、別の被害が発生する可能性があった。
「……久遠零司」
「ん?」
「君は、まだ動けるか?」
「普通に」
「……なら」
ステイルは、崩れた壁を見た。
「この建物から、一般人を逃がす手助けをしてもらいたい」
零司は、露骨に嫌そうな顔をした。
「えー」
ステイルの眉が動く。
「……何だ、その反応は」
「面倒くさい」
「……君ね」
零司は、少し考えた。
そして、天井へ視線を向ける。
偽・聖歌隊。
建物全体に組み込まれた術式。
その残骸。
まだ、すべてが消えたわけではない。
「……まあ」
少年の口元に、薄い笑みが浮かんだ。
「まとめて解除するなら、ちょっと面白いかも」
ステイルが、深々と息を吐いた。
「……君の判断基準が分からない」
「僕も、いちいち説明するの面倒だし」
零司は、軽く右手を上げた。
そして。
「じゃ、片づけようか」
◇
午後四時三分。
三沢塾。
建物の各階で、不思議な現象が起きていた。
教室で詠唱を続けていた学生たちが、一斉に言葉を止めた。
廊下に浮かんでいた魔術の光が消える。
壁面に刻まれた術式の一部が、淡い光を放ちながら崩れていった。
しかし。
建物そのものは、崩壊しなかった。
魔術によって歪められた通路が、本来の配置へ戻る。
破損した床には、必要な支持力が与えられる。
落下しようとしていた天井材が、空中で停止する。
科学側の万象演算。
そして、魔術側の位相勅令。
二つの異なる力が、同時に働いていた。
「……さて」
最上階の窓際。
零司は、建物全体を見下ろしていた。
術式の構造は、すでに大部分を把握している。
それぞれの生徒へ繋がっていた魔術的な回路。
それらを、一つずつ切り離していく。
さらに。
魔術によって維持されていた特殊な領域を、局所的に解除する。
数分後。
偽・聖歌隊は、完全に機能を停止した。
「……終わり」
零司は、軽く手を払った。
ステイルが、呆然と建物の様子を確認していた。
「……馬鹿な」
「何?」
「……偽・聖歌隊の術式が、完全に停止している」
「うん」
零司は頷いた。
「止めたからね」
「……君は」
ステイルは、少年を見つめた。
科学側の能力者。
そのはずだった。
しかし、目の前の少年が行使したものは、通常の超能力とは明らかに異なる。
魔力の存在を認識し。
術式の接続を理解し。
魔術的な条件そのものへ干渉する。
それも。
複数の術式を同時に扱いながら。
「……君は、どこの魔術結社に所属している?」
ステイルが尋ねた。
零司は首を傾げた。
「どこにも」
「……嘘をつくな」
「嘘じゃないよ」
少年は肩をすくめた。
「面倒だもん、そういう組織」
「…………」
「命令とか、規則とか。考えただけで嫌になる」
零司は、心底面倒くさそうに答えた。
ステイルは額を押さえた。
この少年が何者なのか。
ますます分からなくなっていた。
◇
午後五時四十二分。
学園都市第七学区、某病院。
「……また君かい」
カエルに似た顔の医師が、困ったように笑った。
病室のベッド。
そこには、上条当麻が横になっていた。
右腕には、厳重な処置が施されている。
「……先生」
上条が、情けない声を出した。
「……今回ばかりは、上条さんも反省しております」
「反省するのはいいことだけどね」
医師は、記録を確認した。
「それにしても、随分と綺麗な切断面だったね」
「……そうなんですか?」
「うん。運び込まれるまでの失血も、驚くほど少なかった」
上条は、零司へ視線を向けた。
病室の隅。
ソファに座り、携帯端末を操作している少年。
「……あいつのおかげ、ですかね」
医師は、少しだけ目を細めた。
「少なくとも、適切な応急処置がされていたのは確かだね」
そして。
「右腕については、接合処置を済ませてあるよ」
上条の顔が上がった。
「……本当に!?」
「もちろん、しばらくは安静にしてもらうけどね」
「……よかったぁ……」
上条は、深く息を吐いた。
その瞬間。
「とうま!」
病室の扉が勢いよく開いた。
インデックスだった。
「……インデックス!」
「とうま! もう大丈夫なの!?」
「あ、ああ! 何とか!」
少女は、上条の右腕を見た。
包帯。
固定具。
そして、点滴。
その表情が、みるみる曇っていく。
「……とうま」
「……何だ?」
「……もう、あんな無茶しないでほしいんだよ」
上条は、少しだけ言葉に詰まった。
それから。
「……悪かった」
静かに答えた。
零司は、二人のやり取りを眺めていた。
そして。
「……青春だねぇ」
小さく呟く。
上条が顔を向ける。
「……久遠」
「何?」
「お前、絶対面白がってるだろ」
「うん」
「否定しろよ!」
零司は笑った。
その様子を見て、インデックスも少しだけ表情を緩めた。
◇
「……それで」
夕方。
インデックスが姫神と一緒に病室を離れた後。
ステイルが、静かに口を開いた。
零司はソファに座ったまま顔を上げる。
「何?」
「アウレオルスのことだ」
上条も顔を向けた。
「……あいつ、どうなったんだ?」
ステイルは、少しだけ目を伏せた。
そして。
「……もう、アウレオルス=イザードという魔術師は存在しない」
低い声で答えた。
上条の表情が変わる。
「……おい」
「彼は記憶を失った」
ステイルは続けた。
「自分の名前も、黄金錬成の術式も、過去の経歴も覚えていない」
「……それで?」
「姿も変える。別人として生きられるようにね」
上条が目を見開いた。
「……生きてるのか?」
「ああ」
ステイルは頷いた。
「少なくとも、今はね」
その答えに、上条は大きく息を吐いた。
「……そっか」
小さく笑う。
「……よかった」
ステイルは、そんな上条を見て目を細めた。
「……君は本当に、お人好しだね」
「悪いかよ」
「いや」
ステイルは首を横に振った。
「……別に」
零司は、二人の会話を聞いていた。
そして。
「……ふうん」
小さく呟く。
上条が顔を向ける。
「……何だ?」
「いや」
零司は肩をすくめた。
「ステイルって、結構面白いことするんだね」
ステイルの眉が動く。
「……何?」
「普通なら殺すところを、別人にして逃がすんでしょ?」
「……彼には、複数の勢力から追跡命令が出ている」
ステイルは答えた。
「このまま生かしておけば、ろくなことにならない」
「だから、別人にする」
「そうだ」
零司は、少しだけ笑った。
「いい判断だね」
ステイルが、意外そうに顔を上げた。
「……君に評価されるとは思わなかったよ」
「そう?」
零司は頷いた。
「殺すだけなら簡単だけど、そういう方法もあるんだなって」
上条が顔をしかめる。
「……お前、本当に物騒だな」
「今さら?」
零司は、楽しそうに笑った。
そのとき。
ステイルが、真剣な表情へ戻った。
「……久遠零司」
「ん?」
「一つ、忠告しておく」
零司は首を傾げた。
「何?」
「君が今日見せた力は、科学側の能力では説明できない」
「そうだね」
「……認めるのか」
「隠すほどのこと?」
ステイルは、数秒ほど黙った。
そして。
「……魔術側に、君の存在を知る者が増える可能性がある」
零司は、少しだけ考えた。
「ふうん」
「……それだけか?」
「うん」
少年は笑った。
「面白い人が来るなら、歓迎するよ」
ステイルは、深々と息を吐いた。
「……君という人間は」
「よく言われる」
零司は立ち上がった。
「じゃ、僕は帰るね」
上条が顔を上げる。
「……もう帰るのか?」
「うん」
零司は頷いた。
「今日は十分遊んだし」
「……遊んだって」
上条は、呆れた顔をした。
「こっちは死にかけたんだぞ」
「大変だったね」
「他人事かよ!」
「他人事だし」
即答だった。
上条は、何も言えなくなった。
ステイルは額を押さえる。
零司は、そんな二人を見て笑った。
「……じゃあね、上条君」
そして。
「また面白いもの、見せてよ」
その言葉に、上条の表情が変わった。
「……おい」
「ん?」
「……さっきの、あれ」
上条は、自分の右腕を見た。
包帯に覆われた腕。
そこから現れた、得体の知れない何か。
「……お前、見たんだよな」
「うん」
零司は頷いた。
「見たよ」
「……何だったんだ、あれ」
その問いに。
零司は、しばらく黙っていた。
そして。
「……分かんない」
あっさりと答えた。
上条が目を瞬かせる。
「……お前でも?」
「うん」
零司は笑った。
「でも、すごく面白かった」
少年は、上条の右腕を指差した。
「君、自分でも知らないもの持ってるんだね」
上条は、何も言えなかった。
零司は続ける。
「まあ、無理に調べるつもりはないけど」
「……本当か?」
「うん」
少年は頷いた。
「今はね」
「……今は、って何だよ!」
零司は、楽しそうに笑った。
「じゃ、お大事に」
そして、病室を後にした。
◇
午後七時十一分。
学園都市第七学区。
「……ただいま」
零司が部屋へ戻ると、食欲を刺激する匂いが漂ってきた。
キッチンでは、N-13とN-12が夕食を準備している。
「……あ、帰ってきた」
N-13が顔を上げた。
「……おかえり」
「ただいま」
零司は上着を脱いだ。
N-12が首を傾げる。
「……今日は、何してたの?」
「んー」
零司は、少し考えた。
「錬金術師と遊んでた」
「…………」
二人が動きを止めた。
「……錬金術師?」
N-13が聞き返す。
「うん」
「……学園都市に?」
「いたよ」
零司は頷いた。
「なかなか面白かった」
N-12は、困ったように眉をひそめた。
「……何か、危ないことした?」
「ちょっと」
「……ちょっと?」
「建物が壊れそうになったり、腕が飛んだり」
「…………」
N-13が、ゆっくりと包丁を置いた。
「……零司」
「何?」
「……もう少し、普通に説明して」
「面倒くさい」
「……そこを何とか」
零司は、しばらく考えた。
そして。
「すごい魔術師がいて、変な右手の人が倒した」
あっさりと答えた。
N-12が、目を瞬かせる。
「……零司が倒したんじゃないの?」
「うん」
少年は頷いた。
「僕がやってもよかったけど、面白そうだったから見てた」
「…………」
N-13は、深く息を吐いた。
「……本当に、あなたらしい」
「そう?」
零司は笑った。
それから、食卓へ視線を向ける。
「……あ、ご飯できてる」
「……まだ」
「お腹空いた」
「……少し待って」
「えー」
零司は、露骨に不満そうな顔をした。
N-12が、思わず笑った。
「……子供みたい」
「失礼な」
零司は、椅子へ腰を下ろした。
そのとき。
N-13が、ふと尋ねた。
「……ねえ、零司」
「ん?」
「……その錬金術師、強かった?」
零司は、少しだけ考えた。
黄金錬成。
思い描いた現実を成立させる力。
確かに、規格外だった。
だが。
それ以上に印象に残っているのは。
上条当麻。
その右腕から現れた、異形の竜。
「……うん」
零司は頷いた。
「強かったよ」
そして。
少しだけ笑った。
「でも、もっと面白いもの見つけちゃった」
N-13が首を傾げる。
「……何?」
零司は、窓の外へ視線を向けた。
夜の学園都市。
無数の灯り。
科学によって築かれた巨大な街。
その中に、魔術が存在している。
そして。
科学にも魔術にも、簡単には分類できないものが存在している。
「……秘密」
零司は笑った。
N-13が、露骨に顔をしかめる。
「……ずるい」
「そう?」
「……うん」
零司は、楽しそうに笑った。
そして。
「ま、そのうちね」
適当に答えた。
N-12は、そんな二人のやり取りを見ながら、静かに食器を並べた。
いつもと変わらない夕食。
騒がしくて。
少しだけ奇妙で。
それでも、研究施設にいた頃とは比べものにならないほど自由な時間。
その中心にいる少年は、今日も気まぐれだった。
そして。
学園都市の暗部で第零位と呼ばれる少年は、まだ知らない。
数日後。
自分が、学園都市の第一位と深く関わることになるということを。
久遠零司は、目の前に並べられた夕食を見て笑った。
「……いただきます」
そして。
何事もなかったかのように、箸を手に取った。