カードアニメ世界で悪魔王の生まれ変わりだと勘違いされてる! 作:葱ラーメン大盛A定食セット(旧竜騎兵)
好評だったら追加のファンサービスしたりしなかったりします。
寮監が説明会で語っていた事は本当だった。
【デモン】寮の食事の質は確かに高い。
それこそ普通のレストランよりも美味い。
俺の目の前に置かれたトレーの上には主食、主菜、副菜、そして汁物の一汁三菜が揃っている。
湯気が立つ艶やかな塩鮭がキャベツとポテトサラダと共に堂々と鎮座し、その横にはほうれん草のおひたしが入った小鉢。
汁物が注がれたお椀からは食欲をそそる味噌の香りが漂い、ぐぅ、とどこからかお腹の音が響いた。
そして主食は春の季節にぴったりの筍ご飯。至れり尽くせりとはまさにこの事だろう。
いただきます、と手を合わせてお箸を鮭に押し当てる。
ほろほろと身が崩れ、旨味が汁となって更に零れた。
そのまま口元へと箸を運び、咀嚼していく。
これは美味い。
噛めば噛む程塩と鮭の旨味が口の中で混ざり合い、次の一口をと俺の手を動かそうとする。
最初、この寮に入った時はさっさと出ていきたいと思っていた。
だが、この食事を毎日食べられるならここで過ごすのも悪くはないかもしれない。そう考えてしまう。
「まぁ、普通にこの寮からメンズーアのプロを目指すのは大変だからさっさと上に上がりたいんだが」
「んー?
【デモン】寮からプロになったやつもいるんじゃないのか?」
「ふふ、鉄火さん。
口元が汚れてますよ」
「ん、サンキューな、堕天!」
因みに俺と鉄火、そして堕天と並んで食事をとってるテーブルの周囲にはまるでモーセがその力を発揮したように人が全くいない。
鉄火や堕天と仲良くなかったら自室に引きこもっていたかもしれねぇ……二人には感謝してもしきれないな。
「まぁ居ないでもないぞ。
メンズーアプロレスのヒールレスラーで有名な人とかな。
例えば【デス・クラウドン五世】とかはこの寮出身だ」
「あの私生活は真面目だっていう噂のある人だよな!
奇抜な髪型をしてるから俺も覚えてるぜ!」
なんであの手のヒールレスラーはやたらと奇抜な髪型をするんだろうか?
そう思いながら熱々の味噌汁をすする。
これもまた美味い。
新玉ねぎの甘みと、自家製味噌の風味が調和して俺の体と心を温めてくれる。
「奇抜な髪型といえば気になったんだけどよー。
なんで惡都、お前はそんなヒトデみたいな髪型してるんだ?
はっきり言ってダサくねぇか?」
「まぁ!
鉄火様、この髪型は惡都様が悪魔王であるという事を知らしめるためにセットしてるという事をご存じないんですか!?」
「俺もその話初めて知ったんだけど堕天」
別に好き好んでこんな髪型してる訳じゃない。
ヒトデみてぇな髪型なのは否定できないけど、鉄火、お前もイガグリみてぇな髪型してるから人の事言えねぇだろ。
「実は中学デビューの時に七三分けにしたことがあった」
「今よりも似合わなさそうじゃねぇか~? それならヒトデの方がいいぜ!」
「実際似合わなかった!
でもイメチェンしようとしたんだ、別に俺は悪い奴じゃなくて真面目だって印象を持って貰いたくてさ」
「人を見た目で判断するような輩は信用には値しませんよ。
私の事を見て変人扱いする人が多い事!
私は自分の信仰に真面目なだけですのに!
ついでにこの服も神官の伝統的な衣装なんですっ、制服の改良も大変なのに、偏見の目で見られるのは納得いきません!」
「その服装についてはノーコメントで頼む。
で、話を続けるが、七三分けにしてる時はデッキが俺の想いに答えてくれなくなった
というよりへそを曲げちまった!
スランプに陥って戦績は悪化して、本気でメンズーアを止めようと考えた事もあるぞ」
結局、七三分けを止めてヒトデみたいな髪型にすることで精霊たちの機嫌は直り、俺はメンズーアを続けることができるようになった。
が、それと引き換えにこのクソみてぇな髪型で過ごすことを義務付けられてしまった。
本当に好きでやってる訳ではない。
見るからに悪役な見た目だしな。
……だからこそ悪魔たちは好んでるのか?
「なるほど……そのような事情が。
ですが、私はその髪型はとても素敵だと思いますよ!
私を導いてくださる悪魔王様に相応しいですわ!」
「まぁー、ヒーローというよりもヴィランだよな、見た目」
「悪魔王やらヴィランやら酷い言いようだな、全く!」
鉄火の鮭の切り身を箸で取って口に運ぶ。
実に美味い。
「あっ、俺の鮭!?
てめーっ、食べ物の恨みは重いぞ!?」
「人の食べ物を取るという大罪を白昼堂々犯すなんて……
流石は我が悪魔王様です!」
ぐぬぬ、と睨みつけてくる鉄火に筍ご飯を少し分けてやる。
機嫌を直したようでニコニコと笑みを浮かべた彼を見た後に、ちらりと堕天へと視線を向けた。
俺の事を崇拝してるようだが、健全な関係とは言い難い。
俺に仕えるのではなく、できれば友達として対等な関係で接したいんだがな。
ま、それについては少しずつ時間をかけてまともな関係を築くしかないか。
「バトル! 【戦隊の矛:パープルゲイラ】で惡都に直接攻撃!」
「……これでライフは0。俺の負けだな」
「よっしゃあ!
これで150戦中90勝だぜっ!
いいメンズーアだった、対戦ありがとう!」
「うん、ありがとう」
昼休みで食事を食べ終わった後もメンズーア。
本当に鉄火はメンズーアが好きなんだな、だからこそ精霊は彼に答えてくれるのかもしれないが。
「ふふ、鉄火さんの精霊は、いつも楽しそうに戦っておられますもんね。
私が所属していた【教団】でも、これほど精霊に愛されていた方はいらっしゃいませんでした」
「へへん、精霊とは小さい頃からずーっと友達だったからな!」
鉄火がデッキを撫でると、ポンっ、と音を立ててカードの精霊が飛び出す。
ふわふわ、と彼の周辺を【戦隊の調停者:グリーンエイル】が仲良しである事を示すように飛び回った。
あ、俺を睨んで舌をべーっと突き出してきた。
俺も精霊にはそれなりに好かれるタイプではあるんだが、なぜか見目麗しい精霊には嫌われるんだよな。
共通点を考えて見ると、俺の事を嫌う精霊は【エンジェル】やら【戦隊】やら、【色騎士】やら、いわゆる秩序側のテーマばかりな気がする。
逆に俺の事を好いてくれるのは【ソロモン七十二柱】、【モヒカンレイダー】、【ヴィランズ】などの悪とされるテーマばかり。
……なんで俺の事を好きになる精霊は見た目がいかつい奴らばかりなんだよ!?
世の中理不尽だ。
そんな俺に露骨に警戒して盾を構えて近づいてくるカードの精霊を視認。
あ、教室の中の何人かが精霊を目で追ってる。
あいつらも精霊見えるんだな。
盾を威嚇するように構えて俺に鋭い視線を向けてくる精霊の名は【黄騎士:ワールウィンド】、幼馴染が使うカードだが……。
教室のドアが勢いよく開かれて、高笑いと共に誰かが入ってくる。
こんな事する奴に思い当たる節は一人しかいない。
「やぁやぁ! 久しいね、僕の好敵手にして幼馴染よ!」
「相変わらず賑やかだな、夜都」
霜柱 夜都。
因みに夜都はナイトと読む。
小学校に上がるまでの幼馴染で、中学に上がってからは彼はメンズーアアカデミアの中等部に入った。
「ハーッハッハッ! 僕もよかったらメンズーアに混ぜてくれないかい? 冬休みの借りを返させて貰うよ!」
「さっきメンズーアしたばっかりだから今は勘弁してくれ」
「む、そうか……」
露骨に落ち込んだ彼の姿を見つつ、こいつも相変わらず変わらないなと少しだけ安心した。
冬休みの時に一緒に実家近くのカードショップでメンズーアした時以来だが、元気そうだ。
「お前忙しい筈なのに、こんな所で油売ってていいのか?」
「まぁM14世界大会の優勝者だからね!
さっきアカデミアに戻ってきたばかりさ!」
こいつ誰? と堕天に聞いてる鉄火。
人の面倒を見るのが好きなのだろう、無知な彼の質問に、ジュニア級世界チャンピオンだと堕天は答えた。
そう、ついでにM14世界大会を襲撃した【ヨグソトース団】相手に肩を並べて戦った戦友でもある。
「さて、君達を訪ねたのは他でもない。
君達にしか頼めないことがあってね」
じとー、と盾越しに俺を睨むな、【黄騎士:ワールウィンド】。
ついでにカードの精霊相手に威嚇するな、堕天。
「こほん! 君達、このメンズーアアカデミアには様々な超常現象が起こるという事は知ってるかい?」
「ん? ああ、【デモン】寮の通路で西洋人形に会ったら気を付けろとか
俺、精霊はともかく幽霊は苦手なんだよなー」
「後は【エンジェル】寮の天使像に夜中に祈れば、恋が成就するとか、でしたっけ?
ふふ、ロマンチックですよね」
「……まぁ不思議な事件はよく起こってるな」
噂によれば毎年何人かメンズーアアカデミアの学生が学校の敷地内で行方不明になるという話もあるな。
……治安終わってないか?
メンズーアポリスは何してるんだ。
「そう!
そのような不思議の現象を総称して、メンズーアアカデミア七十七不思議と呼ばれている!
中にはカードの精霊が関係してる事件もあるだろう。
僕としてはその事件を調査するための研究会を立ち上げたいと思っていてね」
「それで、俺達を誘いたいという訳か」
「流石は僕の幼馴染!
話が速くて助かるよ
いやぁ~、部活と認めてもらうための定数に届かなさそうだったからね
君達が加わってくれるなら頼もしいよ! これで定数の5人が揃う!」
「まぁ、部活にも入ってない帰宅部だし、俺は受けて良いと思うけど」
カードの精霊が関わってる可能性があるというのなら、無視も出来ないしな。
カードの精霊の力を悪用して、彼らのエネルギーを搾取しようとする輩。
その他様々な方法で搾取する輩もいる。
更に、カードの精霊自体が悪意を持って人間を害する事も少なくない。
まぁ、俺も自分の手が届く範囲で何とかしようとはしてるんだが、その度に変な噂が生まれてその噂に尾ひれがついてる気がする。
だが、気になる事があるな。
「数合わせならお前、俺と違って人気者なんだし部員になりたい奴もいるんじゃないのか?」
「いい質問だね。
彼らを加えないのには二つ理由がある。
一つが大部分が精霊が見えない人であるという事。
そして二つ目、これが一番重要だが……。
僕が正式にプロとして活動し始めた時に、甘い汁を吸いたい連中ばかりなんだよ」
「あー……。
有望なメンズーアプレイヤーにはありがちな話だな」
どういうことなの? と首をかしげて聞く鉄火にまた堕天が解説している。
仲が良さそうで何よりだ。
メンズーアは世界的に人気なカードゲームであり、そのプロともなれば途方もない額の金が動く。
長者番付に著名なメンズーアプレイヤーも入るほどだ。
そして、有望なメンズーアプレイヤーに取り入って甘い蜜を吸おうとする輩も大勢いる。
M14でジュニア級世界チャンプとなり、世界を救った夜都は今は立派な著名人だ。
その整ったルックスもあって女の子にもモテモテと聞いたことがある。
ちょっと同情した気持ちが失せた。
「だから、まぁ。
信用できそうな君達の力を借りたいのだよ。
君の仲間の二人も腕が立つメンズーアプレイヤーと見たよ、精霊も見えるみたいだしね」
「腕が立つかどうかに精霊が見えるかどうかは関係ないだろうが、まぁ腕は保証する」
近所のカードショップの店長とか精霊が見えない人で特別な力もないのに、俺の事を何度もぶちのめしたしな。
「よし、君のお墨付きがあるのだったら頼もしいね。
それで、どうかな?
鉄火君に、堕天ちゃん!
この学園の謎に挑んでみないかい!?」
「ははは!
いいぜ、俺は入っても!
部活動の一環でメンズーアもするんだろ?
夜都、アンタとも戦えそうだしな!」
「惡都様が入るというのなら、私も入ります!」
「ま、俺も入るのは良いぞ。
でも一人足りなくないか? これで四人だぞ」
「ああ、残りの一人は海外にいるよ。
君と僕がよく知る人さ」
ああ、あのよく洗脳されてる……。
と言いかけたが口を閉じる。
よく洗脳されて俺や夜都と戦う以外はマジでいい奴だしな、あいつ。
「しかし、君は変わってないね。
悪そうに見えるが、何時も誰かしら人が居る。
しかもその人は信用に値する人だ、少し羨ましいよ」
「ん……んー」
入部記念だと言って早速メンズーアで対戦してる堕天と鉄火を見てると、夜都が声をかけてきた。
その目はどこか遠くを見てるように見えた。
変わってないか。
……いや、俺も少しは変わったな。
M14世界大会が終わった後、本気で俺は自分の使ってるデッキを封印しようと思った。
得体のしれない何かの生まれ変わりだと信じて寄ってくるカルト。
事件の度に巻き込んでしまう事になる、夜都や友達、それに家族。
辟易としてたし、世界に絶望もした。
でも、結局メンズーアを捨てることはできなかったし、プロも目指してメンズーアアカデミアにまで入った。
悪魔王と呼ばれることは嫌いだったし、周りの勘違いだって今でも思ってる。
いや実際、前世は普通のサラリーマンだったし。
でも、堕天を助け出すときに悪魔王だって名乗った時。
人に蔑まれて、嫌われてるけど、そんな自分でも人を助ける事ができた。
ちょっとだけ自分に自信が持てた。
今まで悪魔王やら混沌神の生まれ変わりやらの肩書を捨てるために手を尽くしてきたが、今はそんな自分を受け入れられそうになっている。
この世界がホビーアニメの世界でよかった。
襲い掛かってくる輩はメンズーアでぶちのめせばいいし、大抵の問題はカードゲームで解決するしな。
「……ちょっとは変わったよ、俺も」
「ふふ、そうか」
どうせ生きてる限りはカルトが寄って来るんだ。
七三分けにしようがデッキを捨てようが恐らくは何かしらあいつらは俺に関わってくる。
なら自分から首を突っ込んで大切な人傷つける前にぶちのめしてやるよ。
――俺のデッキから、また悪魔の高笑いが聞こえたような気がした。
「ふふふ、ははは!
確かによく見て見ると、君の悪人面もヒーローらしくなってきたように見えるね!
ヒーローとしての心得が身についてきたんじゃないのか?」
「まさか、ヒーローって柄じゃねぇよ
ただ自分のやれる事をやろうって思っただけだ
見て見ぬふりするのは嫌だしな」
「君はよく勘違いされるが、それでこそヒーローだ」
堕天の引きが良い。
今、彼女のモンスターカードゾーンに展開したカードは【染井吉野の侍文楽】。
【桜文楽】においてのエースカードだ。
因みに俺のコレクションしてたカードをプレゼントした。
元々、俺とは折り合い悪かったしな、あのカードに宿った精霊とは。
重厚な鎧に身を包んだ少女。それを模したちっこい人形。
彼女は勝負を決めるには十分な突破力を持ったフィニッシャーだ。
召喚時の効果で鉄火の盤面は一掃され、場はがら空きになる。
劣勢だと思われていた盤面がひっくり返され、鉄火が追い詰められる。
メンズーアを本気で楽しむ彼女に応えるように、精霊たちも全力で戦っていた。
窓から春風が、堕天の勝利を祝うかのように吹き込んだ。
「部活立ち上げの関連書類は僕が出しておこう。
そして、部活の一環で君達に調査して欲しいものは――」
太陽の日差しが、雲に遮られて教室が暗くなる。
ぴたり、と風が止んだ。
「――アカデミア敷地内の一角で木々が大量に枯れ始めた事件についてだ」