レインボー仮面は安易な曇らせは許さない 作:葱ラーメン大盛A定食セット(旧竜騎兵)
オリジナル:ファンタジー/冒険・バトル
タグ:R-15 ガールズラブ 残酷な描写 転生 性転換 ダークファンタジー 架空原作 変身ヒーロー
ろ‐あく【露悪】
読み方:ろあ
欠点や悪いところをわざとさらけ出すこと。「―趣味」
デジタル大辞泉 - Weblio 辞書・百科事典より引用
世の中には様々な露悪的で、プレイする人を選ぶ悪趣味なゲームが存在している。
その中で少なくとも
某インターネットプラットフォーム向けにとある日本人クリエイターの手によって作られたこの作品はエロゲーと言う訳でもないのに様々な暗喩、隠喩で登場人物の尊厳が辱められる描写が物議をかもした。
ゲーム内容は故郷を悪の勢力に焼かれた主人公が仲間を集めて、その悪の勢力を打倒するというシンプルなもの。
ダークソウル風のアクションRPGゲームという事を加味しても難易度は高く、その上、無駄にバッドエンドの数だけは豊富だった。
あるバッドエンドでは主人公は四肢をもがれて怪物の制御ユニットとして肉塊の中に埋め込まれて守るはずだった人々を虐殺するための生体兵器となり、またあるバッドエンドでは【施術】によって感情を無くした兵隊となったかつての仲間と殺し合う事になる。
また、あるエンドでは戦いから身を引いて人里離れた山奥で親しい人と暮らしていた主人公のその後を長尺で描写した。
そして、一種のハッピーエンドであるとプレイヤーに誤認させ、登場人物に感情移入させた後に追手を登場させて、一人ずつ主人公と親しい人を目の前で惨殺。
主人公の心が壊れる所を長尺で描写した後に主人公自身も最後は殺されるという展開を長々と見せられることになる。
「だ、誰か……助けてやめっ!? アサガオだけは許してっ」
「くっ、この……! よくも母上を! 父上を! 絶対に殺してやるっ!」
「へへ、いい体つきしてるじゃねぇか! ブチ犯してお前らも天国に連れていってやるぜ!」
当然、万人受けするゲームでは無かった。ソウルライクのシビアなゲーム難易度。そして刺さる人には刺さるシナリオ。
更には真っ当に熱い展開も相まって、一部のプレイヤーからカルト的な人気を集めた。私も
現実逃避気味にこの世界について考えていた思考を切り替える。目の前の現実を直視する。人気投票の際には人気5位に入った主人公の仲間の1人が、盗賊に組み伏せられている。
その横では彼女の妹であるアサガオが組み伏せられ、両親の仇である盗賊を睨みつけていた。
彼女達の両親は、すぐ横に転がっている。豚が群がっている場所に転がっている肉片がそれだろう。あまりにも悲惨な光景を見ると感情が麻痺するというのは本当らしい。
一周回って私も冷静になってきた。
ゲームの設定として、彼女達の運命を知っていた。
東方の島国からやってきた彼女達は街へと向かう途中で冒険者崩れの盗賊に襲撃を受け、両親を目の前で殺された挙句、妹も陵辱された後にバラされて両親の後を追う事になる。
姉、ツユクサの方はその後は盗賊の気まぐれか、生かしたまま奴隷商人に売り払われた。もっとも、その後の彼女の人生を考えるにそれが幸せだったとは言えないだろうが。
世の中に絶望し、家族を奪った挙句自分を売り払った盗賊に復讐するために悪魔に自らの寿命の99%を捧げ、絶大な力を得る。その後は……。
現実逃避を辞める。自分の役割が何なのか思い出す。
「ヒャーハハハハ! 処〇にねじ込んでやるぜぇ!」
彼女の名の由来であるツユクサの文様が美しい着物がゲスな男の手に触れて、乱暴に引き裂かれようとしている。そんなゲスな男へと【隠す】力を使って自らの気配を【隠し】ながら、背後から近づく。
……前世が男性だったこともあって、やはり体格の差は大きい。若干気圧されるが、それでも背後へと迫る。
胴体めがけて拳を振り抜く。力が少し入りすぎてしまった。背骨を打ち砕く音を響かせて私の拳は相手の胴体を貫く。
「げ、ぼぉ……な、なんだぁ……これは……う、腕が、生えてる、ですぅ……はひーっ」
全員助けるつもりだった。間に合わなかった。そんな無力感を振り払うように、その腕を引き抜く。私が早く来ていたら、彼女達の両親も助けることができたんだろうか?
「なんだお前は!?」
「へっ、悪趣味な仮面付けてやがるぜ、虹色の仮面だぁ? へへへ! 引っぺがして売り払ってやるよ!」
「へへへっ! 雌の匂いがするぜぇ! さてはテメェ女だな!?」
胴体を貫かれて崩れ落ちた盗賊を見ても、相手は怯むことが無い。教会の密売人が売っている麻薬で頭がダメになってるんだろうか?
数は4人。敵じゃない。
「……レインボー仮面。参上」
私の今の姿は、全身黒タイツに虹色の死ぬほど悪趣味な仮面を被った、ダークファンタジー世界にはあまりにも似つかわしくない衣装だ。私の育ての親になった人から受け継いだ物。その人はもう死んでいる。だから、その人の代わりになる必要が私にはある。
「しゃあ! 死ねっ」
アサガオから離れて、私の方へと向かってきた敵が手に握っているのはサーベル。冒険者としては一般的な装備。
勢いよく振り上げられて、こちらを袈裟斬りにしようとするかのように振り下ろされたそれを【隠す】。
刀身だけが何かに【隠された】かのように無くなり、刃が私に届くことは無かった。
「新手の魔法か!? ちぃ、面妖な技を!」
「ならこれはどうだ! 汚物は消毒だぁ~! 【ファイアランス】!」
どうやら賊の1人は魔法が使えたらしく、私に向かって炎の槍を投射してきた。が、その程度でこの世界観に似つかわしくない存在を倒すことはできない。
飛んできた炎の槍を【隠す】。目視で確認したそれを消滅させる。【隠す】先は分からない。どこかの異空間かもしれないし、あるいは別の次元の何かなのかもしれない。
驚愕に染まった相手の表情を見つつ、地面を蹴って跳躍。
クロスボウを構えていた賊の顔面を出来る限り手加減して踏みつけ、更に高く跳躍。
第二射を放とうとしていた敵の背面へと回り込む。ちょっと背伸びして首筋にヘッドバッド。サッカーボールのように相手の体は吹き飛ばされた。
「な、なんだ貴様は……うぼぁ!?」
瞬く間に仲間が倒されて動きが鈍った相手へと正面から向かう。闇雲に振るわれたブロードソードの刀身めがけて拳を振う。剣がおもちゃのようにへし折られる。
そのまま鳩尾に1発。地面から1m程浮かび、肺の中の空気を全て吐き出しながら相手はその場に崩れ落ちた。
静かになった周囲を見回す。豚が呑気にまだ肉片を頬張っていた。掌から血が伝う。強く拳を握りしめ過ぎたみたいだ。
「ハーッハッハッ! このレインボー仮面が来たからには安心だ! 賊は討伐された!」
瞬く間に自分たちの脅威だった賊が倒されて呆然としていた少女たちの視線に気が付く。
そう、私は弱きを助けて強きを挫く、最強で無敵のヒーロー。レインボー仮面なのだ。
それを、演じる。育ての父親がそうしていたように。
「…………レインボー仮面? 教会の方でしょうか?」
「教会? ノンノン! 私はこの地方で悪いやつらをぶちのめしてる正義の味方さ! スーパーヒーローと呼んでくれてもいいよっ!」
ヒーローが聞いて呆れる。彼女達の親を助けるだけの能力はあっただろうに、結局間に合わずに彼女達を不幸にしてしまった。
何がヒーローだ? こうなる未来は知っていた筈なのに結局、彼女達の親は救えなかったじゃないか。
そんな感情は表には出さない。それがヒーローであるための必要条件なのだから。
仮面で表情を隠し、親しみやすいがミステリアス。それがヒーローであると父親は語っていた。
「姉さま、この人ちょっとおかしいですよ……」
「しっ、黙ってアサガオ! 失礼でしょう!? 折角、助けて貰ったのに……」
「ふふっ! 私は気にしないさ! ヒーローと言うのは常人からは理解されがたいものだからね!」
嘘。ちょっと傷ついた。
でも、私の育ての親だったら絶対にそんな面は見せることは無いだろう。
レインボー仮面。このゲームを作ったクリエイターが悪乗りで入れたキャラクター。私はプレイしたことは無いけど、クリエイターの処女作のキャラクターらしい。
【終撃のヘヴン】作中においては、カルマ値が善であり、その上で特定の条件を満たすことで呼び出すことができる某国民的ファンタジーゲームで言う所の召喚獣みたいな扱いのキャラだった。
【隠す】力を持ち、その力を他者に付与することで隠密の補助もできたり、アイテムを【隠す】事によって上限を圧迫しがちなアイテムも持ち運んでくれる。カルマ善ルートにおいての最大のメリットと言って良いお助けキャラだった。
……まぁ、ダークファンタジーな世界観の癖に世界観ぶち壊しなクリエイターの自己満足キャラが出てるのは色々と物議をかもしたのは確か!
彼の話題が出る度に掲示板は荒れて、なんでこの世界に存在してるかの考察も結構盛んに行われてた気がする。
その力を紆余曲折……と言うより死の間際に仮面を託されて私は受け継ぐことになった。
正義の味方として、誰かを救う力が与えられてしまった。
育ての親でもあり、父親と言ってもいい彼の期待に応えない訳にはいかない。
このクリエイターの悪意に満ち溢れ、人の命がゴミのように失われる世界で、人々を助けなくてはいけない。
この世界はゲームの世界なのかもしれない、だが、それでも今を生きる人たちは尊い命なんだ。
そして、ヒーローが弱気な姿を見せるわけにはいかないのだ。
「すいません……後で妹には言い聞かせておきますので……。危ない所を助けていただき、ありがとうございました」
「姉様、これからどうします? ……父上も、母上も死んでしまいました……。私達、これからどうすれば……娼館に入るしかないんじゃないでしょうか?」
「それは……」
「それはおすすめしないぞ、少女よ。この西方において娼館に入るという事は、大体の場合、死を意味するからね!」
バッドエンドルートの1つで直接的な描写は用いられずに暗喩で描写されたがそれはもう酷い有様だった。基本的に家畜として扱われるのだ。比較的待遇がいい娼館でも、あてがわれる客によっては行為中に殺される事も普通にあり得る。
というより、街の治安を守るはずの衛兵隊、そして冒険者も治安悪化の一因でもある。それについては深掘りすると長くなるので辞めておく。まぁ何が言いたいのかと言うと娼館に入るという事は全ての権利の喪失を意味するのだ。
「……アサガオ、そこにいる盗賊の装備を剥ぐの手伝って。私たちの父上や母上を殺したのよ。装備は奪っていきましょう」
「でもこいつ、息がありそうですよ、お姉さま。トドメは刺します?」
「刺しましょう」
即答で答える。西方に染まってきたね、この子も。
「まぁまぁ、落ち着きたまえ。わざわざ君達の手を汚す必要もあるまい、ほら深呼吸して――」
と、言いかけた所で、地面を舐めていた盗賊が起き上がる。そして、装備を剥ぐために近づいていたアサガオの首筋にナイフを突きつけた。
「へ、へへ……! その甘さが命取りだな! お前ら武器を捨てろ! こいつがどうなってもいいのか!?」
「っ! アサガオ……やめなさいっ! 私が代わりに人質になるわ、その子を解放してっ」
……油断していたつもりはなかった、いや、結果から見れば油断していたと言うべきだな。掌に爪が食い込む。奥歯を噛みしめる。いつも私はこうだ。肝心な所の詰めが甘い。
怯えるアサガオと目が合う。目じりに涙が浮かんでいた。
「……警告だ。その子を放せ。1回しかしないぞ?」
「へへへ! 随分と肉付きの薄い雌だがここまでやられたんだ! 輪して奴隷商人に……」
警告の意を込めて、相手の手に握られたナイフを【隠し】た。刀身が無くなったナイフの柄を見て、あんぐりと口を開けている。バカめ。
「輪して、奴隷商人に、なんだって?」
「こ、この化け物が! いいのか!? 俺達はもう免罪符を買ってるんだぞ! 俺達は金を払って合法的に盗賊をしてるんだ! そんな俺達に逆らったらどうなるのか分かんねぇのか!?」
「あいにく、分からないね。何故ならば私は、自分の正義に基づいて行動してるからだ。……さっさと彼女を放せ、もう警告はしないぞ」
「ま、まだだ! お前ら近づくな! こいつの首へし折っちまってもいいのかぁ!?」
……言っても分からんバカばかり。相手の腕を【隠そう】とした所で、アサガオを拘束していたゲスの口から血が溢れる。そして、横腹の方へと視線が向いた。そこには東方での一般的な武器である、刀を握りしめて横腹に切っ先を突き立てているツユクサの姿があった。
深々と刃は肋骨の隙間を貫いて臓器をズタズタに切り裂いたようで、盗賊の口からは血が溢れる。
「妹を、放しなさいっ」
そのまま刃を引き抜くと、盗賊の体がずるり、とその場に崩れ落ち、死の間際に「おがあ、ぢゃん……」と呟き、そのまま動かなくなった。
彼のそのつぶやきは、もしかしたら僅かに残った人間性の残滓が言わせたものかもしれない。
「……すいません、レインボー仮面さん。私はこの人たちを許すことはできません!」
そのまま、まだ息のある盗賊たちに向かって刃を振り下ろそうとする彼女。地面を蹴って駆け出す。そして、腕を寸前で掴み、そのまま抱き留める。
「……落ち着け、殺す必要はない」
「でもっ! こいつらがっ! こいつらが私達の家族を! 免罪符で許されるからって! 許せません!」
「……憎しみ、殺し合う関係は、終わらない連鎖を産む。どうか命を助けた私に免じて、許してくれないだろうか?」
「でもっ! 誰が罰するんですか!? こいつらを! この世界はこの屑たちを罰することはしてくれない!」
そんな世界だからね。この世界は。ゲームクリエイターの趣味で悪人だけが得するようになっている。それを未来の君と、主人公が変えるんだ。
安易な曇らせに走っている作者の思惑を打ち砕く。その結果として、彼女達が強くなる機会は失われるだろう。でも、それでいい。そんな彼女達に代わって、私が戦う。それだけの力はあるんだから。
まぁ、このゲーム世界本来の主人公。プレイヤーから主にカリスマ性だけで生きてると呼ばれてるあの子が使命感に目覚めるあるイベントを待つしかないんだけどね。
「……分かりました。ですけど、私は納得できませんよ」
「……いいさ、私の事を恨んでくれ」
「……この荒んだ世界には珍しいぐらい優しい心を持っていますけどね」
「ふふ、正義の味方だからね」
「今のは皮肉です」
「それは手厳しいな」
……果たして私が彼女達の復讐を止めることは正しい事なんだろうか? ここで彼らを見逃したとして、彼らが心を入れ替える保証などどこにある?
……でも、私のエゴになろうとも、私に負けたことで彼らが心を入れ替える事を信じたい、人の善性を信じてこそのヒーローであると育ての親が言っていたのだから。
ただ、流石に装備を引っぺがしていくのを止めることはできない。武装解除しておかないと殺されかねないし。
【隠して】おいた銀貨を取り出す。なけなしの銀貨であるが、仕方あるまい。意識を失いつつ、服と装備を羅生門めいてひん剥かれた彼らのすぐ傍に置く。
「死んでる奴らは犬に食わせましょうっ!」
「……待ちたまえ、死ねば人は全て一緒だ。ご遺体も丁寧に葬る必要があるだろう」
死んだ盗賊の方は犬にでも食わせろと言ってる姉妹を宥めて、能力で取り出したスコップを構える。
そしてそのまま、穴を掘る。手慣れている。何度もしているから。
しっかりと掘り起こされないように穴を掘る。
普段からレインボー仮面の力が使えたら、業務も楽になりそうなんだけど仕方ない。
2m近く穴を掘って、装備がひん剥かれることになった盗賊のご遺体を収める。土を被せていき、もう一個同じような穴を作る。
そこに、彼女達の両親のご遺体を収めて、手を合わせる。
「……。正直、盗賊の死体も埋葬するレインボー仮面さんでしたっけ? どうしてそこまでするのかは分かりません」
「ヒーローだからさ」
「……ヒーローですか。この荒んだ世界にはあまりにも眩しい存在ですね。もしかしたら、貴女こそがこの地獄に平和をもたらす存在と予言された、天の使いなのかもしれませんね」
実際は違う。本当にこの世界に平和をもたらす存在は、私ではない。
このゲーム本来の主人公が、その役割を担うんだ。
だから、天の使いを見るような目で私を見るんじゃない。
……事実、勢い余って人を殺してしまう事もある。
そして、見逃した奴が結局、誰かを襲う場面に遭遇した事もある。その結果として誰かの運命を変えてしまって、本気でヒーローを辞めようかなと思った事もあった。
強さとはなんだ? 私のやってる事は結局正義ごっこで、自己満足の為に他人を不幸にしてるだけではないのか?
考え始めるとキリがない、考えを切りあげる。
「それでは、私は去るとしよう。近くに街がある! 道中に無力化された盗賊が転がっているかもしれないが、既に武装解除してる上に意識も失ってるから安全に通り抜けることができるだろうさ」
そう言って、くるり、と踵を返す。そしてそのまま地面を蹴る。
姉妹たちの背中が私の背中をじー、と見ていた気がするが、気にせずに茂みの中へと飛び込んだ。
「ふぅー……」
街外れにある我が自宅に返ってきて、ドアを開く。ドアの立て付けが悪い、近いうちに修理しないと。
彼女達の運命は変わった、変わってしまった。
ゲーム本編が始まる切欠となる、街への襲撃は遠くない内に発生するだろう。少なくとも一年以内には発生する。
姉が性奴隷として売り払われることは無く、妹も貞操が踏みにじられて殺される事は無かった。彼女が復讐の鬼になり、主人公の旅に同行しながら身を削って戦う必要もなくなった。
その結果として、本来の物語は大きく変わる事になるだろう。だからこそ、私が主人公を助けないと。彼女達が泥を被る必要はない。
そういう役割は、私がやるべきなんだ。
レインボー仮面の仮面を外す。
全身から力が抜ける、ふへぇ~ と、情けない声も溢れてしまった。
ふと、鏡へと視線を向ける。すると、そこには前世のむさくるしい男とは全く違う少女の姿が映っていた。
身長は前世と比べて頭2つ分低く、栄養状態がよくないことを示すように肉付きは薄い。
そばかすが頬を彩り、戦闘に備えてショートカットにした黒髪がふわり、と揺れ動く。
「この世界で、私を女の子として産み落とした神が居るとするならばきっと邪神の類だろうね」
私の神への恨み言は、誰にも聞きとられる事無く虚空へと消えていった。
墓掘り人の証であるペストマスクを深々と被り、地面へとスコップを振り下ろすのは中々の重労働だ。
因みに高価なペストマスクと黒衣一式は、街の領主の娘さんから貰った。よくしてくれるんだよね。
スコップを地面に突き立て、土を掘り起こす。小さな土の山ができる。
変身してる時と違って地道かつ、手間のかかる作業。それでいて墓掘り人は不吉の象徴と忌み嫌われてるのだから、困ったものだ。
「……失礼します、墓掘り人さん。今日も商品はありますか?」
「ん? ツユクサさんかな? うん、あるよ、そこに置いてあるからね」
盗賊の魔の手から助けた姉妹は、私の自宅近くの街で生活するようになった。
墓掘り人である私が回収したご遺体の服などを魔法で洗浄し、雑貨として売って生計を立ててるらしい。
商才があったらしく、そこから色々なものを取り扱うようになり、今では素行が真面目な冒険者からもそれなりに名の知れた存在になった。
……ツユクサが復讐の鬼となって悪魔と契約し、主人公の仲間として大活躍する未来は失われた。けども、これはこれで彼女にとっては良い未来、なんだと信じたい。
その分の負担は私が背負う事になるだろうけど、必要だから仕方ないよね。
それに、一番嬉しいのは、彼女達が自分の手の届く範囲では人を助けるようになったって話を聞いたこと。困ってる冒険者の人には格安で取り扱ってる商品を売っている。
理由は、昔、自分も助けられたから。
そしてレインボー仮面の木彫りの像も作って売っている、らしい。
「……ありがとうございます、それでは」
商品を回収した彼女は、服に染み付いた死臭に顔をしかめて銀貨の入った小袋を置き、そのまま足早に去っていった。
私の正体についてはバレては無いけど、対応が冷たい。
いやまぁ墓掘り人って言う蔑まれる仕事だから仕方ないんだけどね。
……ちょっと傷ついたのは内緒! ヒーローは泣かない、しょげない、くよくよしない!
――何故ならば私は、安易な曇らせを許さないレインボー仮面なんだから!
評判によっては続編作ったり作らなかったりします。