転生した俺が負けヒロインを泣かせるまで   作:のめりー

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第三話∶波乱な計画

「ああクソ、纏めるのに時間掛けすぎたな……眠い……」

 

 

 次の日。

 ひたすら書いて書いて書きまくった俺は、寝落ち寸前の瞼を上げながら、スマホを片手に登校していた。

 

 学校の名前は前世で死ぬほど聞いてるのでわかるのだが、場所はわからないので調べながら行っている。

 

 住んでいるアパートからは意外と近く、歩いて10分以内の場所にあるのはありがたい限りだ。

 

 周りを見てみると俺と同じような制服の少年少女の姿が見えることから、どうやら道は間違えていないらしい。

 この調子なら間に合いそうだ。

 

(……しかし改めてこう見ても、ダクブレの世界に来たなんて実感がないなぁ……)

 

 周囲で歩いているのは普通の高校生。

 世界観の設定を考えれば当然の話なのだが、なんとも言えない気分になる。

 

 この世界では魔王候補者がどうのこうのって話だったが、そもそもとしてそれらの事象は全て、裏の事情となっている。

 

 特殊な能力や、魔法とか、人とはまた違った種族とか、そう言った色んなモノが存在してはいるのだが、それらが表に出てくることはない。

 

 普通の人間がそれらを知る機会はほとんどないのだ。

 能力にでも目覚めない限りは。

 

(で、こいつは目覚めちゃったわけ、か)

 

 スマホを持つ手とは反対の掌──『俺』の身体を見る。

 

 景山 裕市という男は、考えてみれば不幸な男だ。

 

 偶然、たまたま、能力に目覚めてしまったが故に、戦いに巻き込まれることとなり、結果としてボロ雑巾のように退場していったのだから。

 

 挙句、物語が進めば完全上位互換な能力を持つ敵が出てくるのが、もう哀れと言わざるを得ない。

 

(そもそも主人公に蹴散らされるだけの舞台装置に過ぎないのだから、仕方ないと言えばそれっきりなのだが……)

 

 と言うわけで、昨日まとめた最初の目的だが。

 

 まず『何事もなくガブリエラと会い本編通りにことを進める』が1つ目。

 

 次に『主人公に負けることなく、そして勝つことなく勝負を終わらせる』が2つ目。

 

 最後『本来、魔王候補者を外れる彼女のために、戦える仲間を集める』が3つ目。

 

 1つ目はシンプルだ。

 ガブリエラに会えばいい。

 そうすれば向こうが勝手に同調率を感知してくれるから、そこから自然な流れで眷属になれるはずだ。

 

 3つ目も簡単だ。

 俺の持つ知識があれば、本編や外伝に出てきた人に接触することができる。

 当てとしては……あのオスガキと、俺の上位互換なら、俺の情報を用いて持ってこれるだろう。

 

 ……問題は2つ目。

 あまりにも矛盾している内容だ。

 勝利でも敗北でもない、引き分けですらない。

 勝つことも負けることもせずに、勝負を中断させる。

 それが俺に与えられた目的だ。

 

(どうすっかなぁ……方法は無くもないが、あんまり取りたくない手段だよなぁ……)

 

 実のところ一つだけ、強制的に終わらせる方法は思いついている。

 だが実質的に最終手段だ。

 なんせそれをしてしまうと、物語の展開を早める可能性があるし、魔王の決め方の仕様上で本編の流れを狂わせる可能性がある。

 

 展開が早まってしまうのはあまりよろしくないし、できるだけ避けていきたい。

 

 

「……まぁ、なるようになれ、だな」

 

 

 一人、小さく呟くと、俺は遂に校門の前に建つ。

 私立異聞高等学校(いぶんこうとうがっこう)、中高一貫の総生徒数1000人超えのマンモス校だ。

 

 一見するとただクソデカいだけの普通の学校に過ぎないが、その実態は全くの別物。

 異能者、もしくはその才あるもの、人間以外の種族などなど諸々を集めた学校だ。

 

 とは言え、もちろん普通の人間もいる。

 そう言う力を持つものや、特殊な種族は一部だけのみだ。

 無論、それ専用の学校も辺りはするのだが。

 

 しかしこう……ラノベの舞台となった学校をこの目で来る日が来ようとは。

 

(なんだか感慨深いというか、感動だな……)

 

 俺は不思議そうにこっちを見てくる視線も気にせず、巨大な学校を見上げて突っ立つ。

 感動に浸っていると、突然何者かに腰を指で突っつかれた俺は、びっくりしながら声を上げる。

 

 

「うわっ!!? な、なんだ!?」

 

 

 そうして振り返ると、俺を突っついたものの正体に驚愕して、思わず唖然としながら後退りをしてしまう。

 

 

「驚かせて、ごめんなさい。少しだけ、時間を──急に固まって、どうしたの……?」

 

 

 なんせ、そこに立っていた最初の目標、俺が成すべき1つ目の目的──輝かく銀の長い髪を持つ小柄で薄く細い美少女、ガブリエラ・アッシュバルトがそこに立っていたからである。

 

 彼女は唖然とした俺を見て、訝しげに目を細めている。

 

(……いや、マジかよ!? いずれ会うとは思ってたけど、まさか今!? いくらなんでも早すぎるだろ!!? 心の準備できてねぇよ!?)

 

 慌て騒ぐ心中とは裏腹に、俺は声一つ出せずに固まってしまっていた。

 

 

「え、えっと……?」

 

 

 様々な感情が入り乱れる中、少し遅れて目の前の光景を受け入れた俺は、なんとか言葉を絞り出そうと色々と思考を巡らせ、その果てに──

 

 

「お、おうっ! こんにちは! 可愛いなっ!!」

 

 

 突然の出来事に対する焦り、その他諸々のせいで思いついたことが口から出てしまった。

 

(お、俺は一体、何を言っているんだろうか……)

 

 これでは初手からナンパをするやばいやつである。

 変な誤解をされて逃げられる前に、なんとか誤解を解かねば。

 

 だが俺の予想に反して、彼女は顔を仄かに赤く染めると、少し驚きに目を開いて俺と同じく後退りする。

 

 

「か、可愛い……?」

「あ、いや、そのっ! 違っ! 違わないけどっ!! 本心だけど!! 間違えたッ!!」

 

 

 慌て騒いで言い訳祭り。

 もうめちゃくちゃだ。

 

(ふっ、初手から推しに出会って、落ち着けるわけないよな。二次元ではなく現実とは言え、推しは推しはだもんな。ふふっ)

 

 もはや心は凪。

 慌て過ぎていて心の中は逆に落ち着いてしまった。

 

 ともかく俺は一旦、深呼吸を繰り返す。

 訝しげな目が不審な人を見る目に変わったところで、大きく息を吐いてガブリエラの顔を見る。

 

 

「わ、悪かった。急に声をかけられて驚いてしまったんだ」

「……うん。私も、急に声をかけて、ごめんなさい……」

「…………」

「…………」

 

 

 こんな状態では会話なぞ続くはずもなく。

 俺達は校門の中心に立って、二人向き合いながら黙ってしまった。

 

(マジでやらかした……)

 

 大きくため息をつきたいが、ここで落ち込んでいても始まらない。

 俺は意を決して声をかける。

 

 

「「あ、あのっ……!」」

 

 

 二人の声が重なる。

 あっ、となって、言葉を止めた俺たちは、お互いに顔を見合わせた。

 

 

「先に、いいよ……?」

「いや、なにか言おうとしてたから、それを聞こうと思って」

「そ、そっか。じゃあ私、だね」

 

 

 ギクシャクしてしまって話が上手く進まない。

 どうしたものか、と思いつつもガブリエラの次の言葉を待つ。

 

 

「……私、2年E組のガブリエラ・アッシュバルト。貴方と、少しお話がしたいの。放課後に少しだけ時間、もらっても、いい?」

 

 

 少し不安そうにこちらを見つめてくる姿が凄まじく可愛い。

 

 そんな彼女の顔を見つめていたいが、それができるのは媒体越しでだけだろう。

 俺は話を次へ進めるべく頷く。

 

 

「ああ、大丈夫だ。放課後は空いてる」

「……よかった」

 

 

 ホッとしたような顔をして、俺の横を少し嬉しそうに通る。

 だが何かを思い出したかのように足を止めると、少しだけ振り返って俺の顔を見た。

 

 

「貴方の名前、聞いてなかった」

「俺の名前は景山。景山 裕市だ。よろしくな」

「ユーイチ……よろしく、ね」

 

 

 にへらと笑って、そのまま小走りで立ち去ってしまった。

 俺はその背を見送って、スマホの画面を叩く。

 

 最初の目標達成──と、即興で作ったチェックリストにマークを入れた。

 

(まさかこんな早く遭遇することになるとは……早々にこれからの行動を考えないとな)

 

 そうして遠くから鳴り響くチャイムの音に、俺は再度慌てて学校へと入っていくのだった。

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