ウルトラマンゼロ/iDOLM@STER CINDERELLA GIRLS 作:わたあめ丸
それは、なんでもない日のことだった。
「……あっ!」
346プロダクションからの帰り道。
赤城みりあは、空を見上げたまま足を止めた。
夕暮れの空を、ひと筋の光が横切っていったのだ。
最初は、ただの流れ星だと思った。
けれど、その光はいつも見る流れ星よりずっと明るく、しかも空の高いところから、まるで地面に向かって落ちていくように見えた。
「わあっ! すっごーい!」
みりあは思わず声を上げた。
光は街の向こうへ消えていった。
方角は……事務所のある方だろうか?
「……もしかして、隕石?」
みりあは目を輝かせた。
隕石。宇宙から飛んできて、地球に落ちてくる石。
図鑑やテレビで見たことはあるけれど、実物なんて見たことがない。もしかしたら、今の光は本当に隕石だったのかもしれない。
そう考えたら、もう気になって仕方がなかった。
「明日、探してみようっと!」
みりあはそう決めると、再び歩き出した。
もちろん、隕石がどこに落ちたのかなんて分からない。
それでも、見つけられたらきっとすごい。
みんなに自慢できるかもしれないし、珍しい石なら、宝物にだってできる。
なにより――。
「宇宙から来た石って、どんなのかなあ?」
そんなことを考えるだけで、わくわくしてしまうのだった。
ーーーーーーー
翌日。
「よーし! 探すぞー!」
みりあは、元気いっぱいに宣言した。
休日の午前中。いつもより少し早く家を出て、昨日、光が消えた辺りを目指す。
とはいえ、隕石が落ちた場所を正確に知っているわけではない。昨日の光の向きと、道から見えた景色を頼りに、あちらへ行ったり、こちらへ戻ったり。最初のうちは、みりあも楽しかった。
「あっ、これかな?」
道端に落ちていた黒い石を拾ってみる。
「……違うかあ」
ただの石ころ。次に見つけたのは、丸くて白っぽい石。
「こっちは宇宙っぽいかも!」
手のひらに乗せて眺めてみる。
しかし、よく見れば表面に小さな貝殻の跡のようなものがあった。
「うーん、これも違うね!」
みりあは石を元の場所へ戻した。
そんな調子で、草むらをのぞき込み、木の根元を確かめ、少し開けた場所を見つければ地面を眺める。
途中で小さな虫さんを見つけて立ち止まったり、きれいなお花を見つけて写真を撮ったりもした。
隕石探しは、思っていたよりもずっと大変だった。
それでも、みりあは諦めなかった。
「絶対、どこかにあるはずだもん!」
そうして歩き続けること、およそ二時間。
「……あれ?」
少し木々の生い茂った場所を抜けたところで、みりあは足を止めた。
そこには、小さなくぼみがあり、大きさは、大人数人で囲めるくらい。
周囲の草が押し倒され、土がむき出しになっている。
まるで、何かが空から落ちてきたような跡だった。
「……これって!」
みりあは、そっと近づいた。
小さなクレーターの中心に、ひとつの石が転がっていた。
みりあは息を呑んだ。
それは、今まで見てきたどの石とも違っていた。
形は多角形の球体で表面はなめらかな部分と、ごつごつした部分が入り混じっている。
そして、何よりも不思議だったのは、その色だ。
赤、青、黄色、緑、紫など、いくつもの色が、まるで絵の具を混ぜ合わせたように、石の表面で溶け合っていた。
見る角度を変えるたび、石の中に別の色が浮かび上がる、それはまるで、石そのものが光を生み出しているようだった。
「……わあ」
みりあは、しばらくその場に立ち尽くした。
まるで星空その物を閉じ込めた様にきれいで不思議な石。
「もしかして……昨日の流れ星?」
そっとしゃがみ込み、石に手を伸ばす。
指先が触れた瞬間、石の表面で、色がゆらりと揺れた。
「……えっ?」
みりあは手を止めた。
気のせいだろうかそう思い、もう一度、指先で触れてみる。
今度は、石の形そのものがわずかに変化した。
角が丸くなり、表面が滑らかになっていく。
「ええっ!?」
みりあは思わず手を引っ込めた。
石は、元の多角形に戻った。
しばらく待ってみても、それ以上は動かない。
「……い、今の、なんだったんだろう?」
みりあは周囲を見回した。
誰もいない。鳥の鳴き声が聞こえるだけだ。
もう一度、石を見る。
石は何事もなかったかのように、そこに転がっている。
「……もしかして、宇宙人の石?」
みりあは、そっと呟いた。
普通の石なら、触っただけで形が変わったりはしない。
ということは、やっぱりこれは普通の石じゃないのだろう。
宇宙から来た、特別な石。そう考えると、胸がどきどきしてきた。
「……ねえ、君って、なんなの?」
みりあは石に向かって話しかけた。
だが返事はない。
「宇宙から来たの? それとも、どこか別の星から?」
もちろん、返事はない。
「……うーん」
みりあは首を傾げた。
そして、ふと思いついたように笑った。
「じゃあさ、変身できる?」
石を手のひらに乗せ、じっと見つめる。
すると――。
ぽんっ。
「えっ!?」
石の表面が膨らんだ。
色がぐにゃりと混ざり合い、輪郭が大きく変わる。
次の瞬間、みりあの手の上にあったのは、丸い小鳥のような形をしたものだった。
「……と、鳥さん!?」
みりあが驚いていると、鳥のようなものは翼をぱたぱたと動かした。
「すごーい! じゃあ、次はネコちゃん!」
みりあが想像した瞬間、鳥の形が崩れた。
翼が縮み、胴体が伸び、四本の足が生えてくる。
今度は、小さな猫になった。
「にゃーん!」
猫は、みりあの手のひらから飛び降りると、地面の上をちょこちょこと歩いた。
「ええっ、すごいすごい!」
みりあはしゃがみ込み、猫の姿をしたそれを追いかける。
猫は草むらへ向かいかけたが、みりあが「あっ、待って!」と呼びかけると、ぴたりと止まった。
そして、くるりと振り返る。
まるで、みりあの言葉を理解しているかのようだった。
「……ねえ、君。私の言ってること、分かるの?」
猫は、こてんと首を傾げた。
その仕草が、あまりにもかわいらしい。
「そっかあ……。じゃあ、もっといろんな姿になれる?」
みりあが考える。
今度は、うさぎ。
長い耳がぴょこんと伸び、丸い尻尾が生えた。
次は、恐竜。
短い足に大きな頭、背中には小さな突起が並んだ。
その次は、翼の生えたドラゴン。
さらに、丸くてふわふわした謎の生き物。
みりあが思いつくままに想像するたび、目の前の生き物は姿を変えた。
しかも、どの姿も、みりあが頭の中で思い描いた形にそっくりだった。
「すごい……! 君、すごいよ!」
みりあは夢中になった。
こんな不思議なもの、見たことがない。
まるで、自分の想像がそのまま形になっているみたいだ。
でも、ふと気がついた。
「……ねえ。もしかして、私が考えた姿になってくれてるの?」
生き物は、みりあを見上げた。
そして、ゆっくりと姿を変え始めた。
四本の足が二本になり、胴体が伸び、頭が小さくなる。
手が生まれ、足が伸び、髪のようなものが頭から広がった。
やがて、そこに立っていたのは――。
みりあと同じくらいの年頃に見える、人間の女の子だった。
「……わあ」
みりあは、目を丸くした。
女の子の髪は、光の当たり方によってさまざまな色が混じっているように見え瞳も不思議な色をしていて、虹のような輝きが奥に浮かんでいる。
服もまた、どこか不思議だった。色とりどりの布を組み合わせたような、ふんわりとした服。
けれど、派手すぎるわけではなく、その女の子によく似合っていた。
女の子は、みりあをじっと見つめている。その顔には、表情がほとんどない。
けれど、怯えているようにも、怒っているようにも見えなかった。
ただ、初めて見るものを確かめるように、みりあを見つめている。
「……こんにちは!」
みりあは、にっこりと笑った。
「私は赤城みりあ! 君のお名前は?」
女の子は、少しだけ首を傾げた。
「……なまえ?」
「うん! 君の名前!」
「……ない」
「そっかあ……」
みりあは考え込んだ。
名前がないのなら、つけてあげればいい。
だって、こんなに不思議で、かわいい女の子なのだ。
名前があった方が、もっと仲良くなれそうだ。
「じゃあ、私がつけてもいい?」
女の子は、しばらくみりあを見つめていた。
そして、小さく頷いた。
「……うん」
「やったあ!」
みりあは嬉しそうに両手を合わせた。
さて、どんな名前がいいだろう。この子は、いろんな色が混ざっていて、いろんな姿になれる。
虹みたいだ。
そういえば――。
「……あっ!」
みりあは、ぱっと顔を上げた。
「そうだ! シエルちゃん!」
「……しえる?」
「うん! シエルちゃん!」
みりあは、名前の由来を説明しようと、少しだけ考えた。
「フランス語でね、虹って『アルカンシエル』っていうんだって! 前にお仕事で一緒になったフレデリカちゃんが教えてくれたの!」
宮本フレデリカ。
いつも楽しそうで、いろんなことを知っているお姉さんだ。
以前、一緒に仕事をしたときに、フランス語の話をしてくれたことがあった。
そのとき聞いた言葉が、ふと思い浮かんだのだ。
「だから、シエルちゃん! どうかな?」
女の子は、口の中で名前を繰り返した。
「……シエル」
「うん!」
「……シエル」
自分の名前を確かめるように、もう一度呟く。
そして、ほんの少しだけ、口元が緩んだ。
「……いい」
「ほんと!? やったあ! じゃあ、今日からシエルちゃんだね!」
みりあは、シエルの手を取った。
シエルは驚いたように目を瞬かせたものの、手を振りほどくことはなかった。
「ねえ、シエルちゃん!」
「……なに?」
「これから、私と友達になってくれる?」
シエルは、みりあを見つめた。
少しだけ考えてから、頷く。
「……うん」
「やったぁっ!」
みりあは飛び上がった。
宇宙から来た、不思議な女の子。
いろんな姿になれる、虹色の女の子。
そんな子と友達になれるなんて、思ってもみなかった。
みりあは、シエルの手を握ったまま、満面の笑みを浮かべた。
「これからよろしくね、シエルちゃん!」
「……よろしく、みりあ」
シエルは、まだ少しぎこちない口調で答えた。
けれど、その声は、どこか嬉しそうだった。
ーーーーーーー
それから、みりあはシエルと一緒に過ごした。
最初は、近くの公園へ行った。
シエルは遊具を見つけるたびに、不思議そうに立ち止まった。
「……これは?」
「ブランコだよ!」
みりあが答える。
「座って、こうやって揺れるの!」
みりあが実際に乗ってみせると、シエルはじっとその動きを観察した。
そして、ゆっくりとブランコに腰を下ろす。みりあが背中を軽く押してあげると、シエルの身体が前後に揺れた。
「……動いた」
「うん! 楽しいでしょ?」
「……うん」
シエルは、ブランコが揺れるたびに、目を丸くしていた。
やがて、自分でも少しずつ足を動かすようになった。
「わあっ、シエルちゃん、上手!」
「……こう?」
「そうそう! もっと高くできるよ!」
みりあは笑いながら、隣のブランコに乗った。
二人並んで、空へ向かって足を伸ばす。
青い空。木々のざわめき。
遠くから聞こえる子供たちの声。
そんな当たり前の景色が、シエルにとっては、何もかもが初めてのようだった。
公園を出た後は、近くの売店でアイスを買った。
「シエルちゃん、何味がいい?」
「……あじ?」
「うん! バニラとか、チョコとか、いろいろあるよ!」
シエルは、並んだアイスをじっと見つめた。
しばらく迷ってから、色の鮮やかなものを指差す。
「……これ」
「いちご味だね! じゃあ、私はチョコにしよっと!」
二人でアイスを手に、ベンチへ座る。
みりあは一口食べて、幸せそうに目を細めた。
「んーっ! おいしい!」
シエルも、真似をするようにアイスを口に運んだ。
その瞬間、目を大きく開きながらぴたりと動きが止まった。
「……?」
みりあは、心配になって顔を覗き込んだ。
「どうしたの、シエルちゃん?」
「……つめたい」
「うん! アイスだからね!」
「……あまい」
「そうそう!」
シエルは、もう一口食べた。
そして、ほんの少しだけ目を輝かせた。
「……おいしい」
「でしょー!」
みりあは嬉しくなって笑った。
シエルが何かを知るたびに、まるで自分のことのように嬉しかった。
アイスを食べ終わる頃には、シエルの口元に少しだけクリームがついていた。
「シエルちゃん、ここ!」
みりあはハンカチでそっと拭いてあげる。
シエルはじっとしていたが、やがて小さく尋ねた。
「……みりあは、いつもこうするの?」
「こうって?」
「……誰かに、いろいろ教える」
「うーん……どうかな?」
みりあは少し考えた。
「でも、シエルちゃんが知らないことを知って、楽しいって思ってくれたら、私も嬉しいよ!」
「……そう」
シエルは、ハンカチを見つめた。
それから、みりあの顔を見る。
「……みりあは、優しいね」
「えへへ。そうかな?」
みりあは照れくさそうに笑った。
それから二人は、いろいろな話をした。
みりあは、学校のことや、アイドルの仕事のこと、事務所にいる仲間たちのことを話した。
シエルは、知らない言葉が出てくるたびに質問した。
「……アイドルって、なに?」
「歌ったり、踊ったりして、みんなを笑顔にするお仕事だよ!」
「……みりあも?」
「うん! 私もアイドルだよ!」
みりあが胸を張ると、シエルは不思議そうにその姿を見つめた。
「……歌うの?」
「歌うよ! 踊るよ! みんなで一緒にやるとすっごく楽しいんだ!」
「……見たい」
「ほんと!? じゃあ、今度事務所に遊びに来てね!」
みりあは、すぐに笑顔になった。
「私のお友達も紹介してあげる!」
「……友達?」
「うん! 莉嘉ちゃんと、きらりちゃん!」
みりあは、二人の顔を思い浮かべた。
城ヶ崎莉嘉は、元気いっぱいで、いつも楽しいことを探している女の子。
諸星きらりは、背が高くて、優しくて、みりあのことをいつも気にかけてくれるお姉さん。
「二人とも、すっごくいい人なんだ! きっとシエルちゃんとも仲良くなれると思う!」
「……会いたい」
「うん! じゃあ、明日一緒に行こう!」
みりあは、そう約束した。
ーーーーーーー
その日の夜。
シエルは、みりあの家に泊まることになった。
「シエルちゃん、今日はここで寝てね!」
みりあは、自分の部屋に二人で眠れる大きさの布団を並べた。
「……ここで?」
「うん! お泊まりだよ!」
「……お泊まり」
「そう! お友達のおうちに泊まること!」
シエルは、布団をじっと見つめた。
それから、そっと手で触れる。
「……やわらかい」
「でしょー!」
みりあは、自分の布団に飛び込んだ。
「ほら、こうやって寝るんだよ!」
シエルも真似をするように、布団へ横になった。
しばらく、二人で天井を見つめる。部屋の明かりは消され、窓の外からは、月光の光と夜の街の静かな音が聞こえる。
「……みりあ」
「んー?」
「……今日は、楽しかった」
シエルの声は、いつもより少しだけ柔らかかった。
みりあは、布団の中で笑った。
「私も! シエルちゃんと友達になれて、すっごく嬉しい!」
「……また、明日も遊べる?」
「もちろん!」
みりあは、勢いよく答えた。
「明日は莉嘉ちゃんときらりちゃんにも会わせてあげる! きっと、もっと楽しいよ!」
「……うん」
シエルは、目を閉じた。
みりあも、少しずつ眠くなってきた。
その夜、みりあは夢を見た。
虹色の空を、シエルと二人で飛び回る夢。
鳥になったり、猫になったり、ドラゴンになったり。
最後には、二人で大きな虹の上に座って、笑い合っていた。
朝になったら、シエルちゃんに話してあげよう。
そんなことを考えながら、みりあは眠りについた。
ーーーーーーー
翌日。
「おはよーっ!」
みりあは、いつも以上に元気よく目を覚ました。
「……おはよう、みりあ」
隣の布団では、シエルがすでに起きていた。
「えっ、シエルちゃん、もう起きてたの?」
「……うん」
「すごーい! じゃあ、今日はいっぱい遊ぼうね!」
「……うん」
朝ご飯を食べて、身支度を整える。
みりあは、シエルに外へ出るための服を貸してあげた。
シエルは、少し大きめの服の袖を引っ張りながら、不思議そうに鏡を見ている。
「……これ、みりあの服?」
「そうだよ! ちょっと大きいけど、かわいいでしょ?」
「……かわいい?」
「うん! すっごく似合ってる!」
みりあが笑うと、シエルも小さく頷いた。
「……ありがとう」
その言葉を聞いて、みりあはまた嬉しくなった。
そして二人は、346プロダクションへ向かった。
今日こそ、シエルを莉嘉ときらりに紹介するのだ。
ーーーーーーー
346プロダクションの事務所は、朝から慌ただしかった。
スタッフたちが仕事の準備をし、アイドルたちがそれぞれの予定を確認している。
そんな中、みりあはシエルの手を引いて、元気いっぱいに扉を開けた。
「おはようございまーす!」
「おはよー、みりあちゃん!」
真っ先に反応したのは、城ヶ崎莉嘉だった。
明るい髪を揺らしながら、こちらへ駆け寄ってくる。
「って、あれ? そっちの子は誰?」
「えへへー! 紹介するね!」
みりあは、シエルの前に立った。
「この子はシエルちゃん! 私のお友達なんだよ!」
「……シエルです」
シエルは、少しぎこちなく頭を下げた。
「へえー! シエルちゃんっていうんだ! よろしくね!」
莉嘉は、にっこり笑って手を差し出した。
「アタシは城ヶ崎莉嘉! よろしく!」
「……よろしく、莉嘉」
シエルはその手を握った。
莉嘉は、シエルの顔をじっと見つめた。
珍しい色合いの髪、どこか不思議な雰囲気。
そして、初めて会う相手を前にしても、妙に落ち着いた表情。
「へー、なんか不思議な子だね! でも、かわいいじゃん!」
「ほんと!?」
みりあが嬉しそうに声を上げた。
「うん! なんか、ゲームに出てくるお姫様みたい!」
「……おひめさま?」
シエルが首を傾げる。
「そうそう! お姫様! ねえ、シエルちゃんって、好きなものとかある?」
「……まだ、分からない」
「そっか! じゃあ、これからいっぱい見つけようよ!」
莉嘉は、すぐに笑顔で言った。
「好きなものが増えるのって、楽しいよ!」
その言葉に、シエルは少し考え込んだ。
「……うん。そうする」
「よーし! じゃあ、まずはきらりちゃんに会いに行こう!」
莉嘉がそう言ったところで、背後から明るい声が響いた。
「にょわー☆ みりあちゃん、莉嘉ちゃん、おっすおっすー!」
諸星きらりが、両手を振りながら近づいてきた。
「今日は二人とも元気いっぱいだにぃ☆ ……あれれ? そっちの子は?」
「きらりちゃん! この子はシエルちゃん! みりあのお友達なんだよ!」
「お友達ぃ? うきゃー☆ そうなんだにぃ!」
きらりは、シエルの前で少しだけ腰をかがめた。
大きな身体を急に近づけないように、相手の目線に合わせようとしているのだ。
「きらりは諸星きらりだよぉ☆ シエルちゃん、よろしくにぃ!」
「……よろしく、きらり」
「にょわっ、ちゃんとお名前呼んでくれたぁ☆ うれすぃー!」
きらりは、ぱあっと顔を輝かせた。
それから、シエルの服装に目を向ける。
「そのお洋服、かわいいねぇ☆ みりあちゃんのかな?」
「うん! 昨日、シエルちゃんがお泊まりしたから、貸してあげたの!」
「そっかぁ。お泊まりしたんだねぇ☆」
きらりは、嬉しそうに頷いた。
「じゃあ、今日はみんなで遊びに行こっか! シエルちゃんにも、いっぱい楽しいことを教えてあげたいにぃ☆」
「やったあ!」
みりあは飛び上がった。
「ねえねえ、どこに行く? 公園? お買い物? それともゲームセンター?」
「うーん、全部行っちゃう?」
莉嘉が楽しそうに笑う。
「いいねいいね! 今日は遊びまくっちゃおう!」
「にょわー☆ みんなでお出かけ、きらりも大賛成だにぃ!」
三人のテンションは、あっという間に上がっていった。
その様子を見て、シエルは少しだけ目を丸くした。
「……みんな、元気」
「でしょー!」
みりあが胸を張る。
「莉嘉ちゃんもきらりちゃんも、すっごく元気でみんなで遊ぶと楽しいんだよ!」
「アタシもみりあと遊ぶの楽しいよー!」
莉嘉は、にっと笑った。
「シエルちゃんも、今日はいっぱい楽しもうね!」
「……うん」
シエルは、今度は少しだけはっきりと笑った。
ーーーーーーー
その頃。
事務所の奥にある会議スペースでは、モロボシ・シンが武内Pと向かい合っていた。
「……それで、正式に雇用してほしい、と」
「あぁ」
シンは、机の上に書類を置いた。
身分証明書をはじめ、この世界で生活するために必要な書類が一通り揃っている。
もちろん、書類の出所については説明してあった。
円谷プロへ呼び出された際、昔からの知り合いだという人物と再会したこと。
その人物から、記憶を失う前の自分について、いろいろと話を聞かせてもらったこと。
そして、身元を証明するための書類も、その人物の協力で用意できたこと。
本当の事情を話すわけにはいかない。
しかし、少なくとも武内Pに対して、これまでのように身元不明の人間として世話になり続けるわけにはいかなかった。
「これまで、仮の立場で働かせてもらっていたが……。身分を証明するものが手に入った。改めて、正式に雇ってくれねぇか」
シンは、まっすぐに武内Pを見つめた。
武内Pは書類に目を通し、ひとつひとつ内容を確認していく。
表情はいつも通り、ほとんど変わらない。
だが、その目は真剣だった。
「……事情は承知しました」
しばらくして、武内Pは顔を上げた。
「ただ、正式な雇用となれば、業務内容や勤務条件、給与などについて、改めて確認する必要があります。これまでのように、できることを手伝っていただくという形ではなくなります」
「分かってる」
「それでも、こちらで働きたいと?」
「おう」
シンは、迷いなく答えた。
「ここには、俺が世話になった人たちがいる。俺にできることがあるなら、力になりたいと思ってる」
それは、嘘ではなかった。
この世界に来たばかりの自分を受け入れてくれた卯月たち。
仕事を教えてくれた武内、気にかけてくれたちひろ。
そして、彼らを支えるために日々働いている人々。
自分は、ただ助けてもらうだけの存在でいたくなかった。
ウルトラマンとして戦うことだけが、自分にできることではない。
そう思えるようになったのは、この事務所で過ごした時間のおかげでもあった。
「……分かりました」
武内Pは、静かに頷いた。
「正式な採用について、社内で必要な手続きを進めます。業務内容や条件についても、後ほど詳しく説明させていただきます」
「あぁ!これからもよろしくな、武内!」
「こちらこそ。今後とも、よろしくお願いいたします」
武内Pは、深く頭を下げた。
シンもまた、頭を下げる。
その時だった。
「……あれ?」
会議スペースの外から、明るい声が聞こえた。
二人がそちらへ目を向けると、みりあが顔を覗かせていた。
「シンさん?」
「おう、みりあ。どうした?」
「えっとね、今、シンさんが正式に働くって聞こえたんだけど……」
みりあは、ぱっと顔を輝かせた。
「シンさん、これからも事務所でお仕事するの?」
「ああ。まだ手続きはこれからだけどな」
「ほんと!? やったあ!」
みりあは嬉しそうに手を叩いた。
「じゃあ、これからもいっぱい会えるね!」
「まあ、そうなるな」
「えへへ! よかった!」
その笑顔に、シンも少しだけ表情を和らげた。
そして、みりあの後ろに立っている少女へ目を向けた。
「……ん?」
虹色の髪、不思議な色をした瞳。
そして、普通の人間とはどこか違う気配。
その瞬間、シンの目つきが、鋭くなった。
ほんの一瞬、獲物の正体を見極めようとする戦士の眼差しが、シエルを射抜いた。
――こいつは……。
シンは、目の前の少女を見据えた。
その身体から感じる、奇妙な気配。
人間の姿をしているが、ただの人間ではない。
それは間違いなかった。だが、シエルが何かを仕掛けてくる様子はない。
みりあの隣に立ち、少し緊張したようにシンを見つめているだけだった。
シンは、すぐに目つきを緩めた。
「……みりあ。その子は?」
「あっ、そうだった!」
みりあは、シエルの手を取った。
「この子はシエルちゃん! みりあのお友達なんだよ!」
「……シエルです」
シエルは、小さく頭を下げた。
シンは彼女を見つめた後、みりあへ視線を戻した。
「そうか。みりあの友達か」
「うん!」
「……そいつはよかったな」
シンは、いつもの調子で笑った。
「友達は大切にしろよ」
「もちろん!」
みりあは、元気よく答えた。
シエルも、シンの顔を見つめていた。
ほんの一瞬だけ向けられた、鋭い眼差し。
けれど、今のシンは優しい顔をしている。
シエルは、その違いを不思議に思ったようだったが、何も言わなかった。
「それでね、シンさん! 今日はシエルちゃんと莉嘉ちゃんときらりちゃんと、みんなで遊びに行くんだよ!」
「おう。目一杯楽しんでこい」
「うん!」
みりあはシエルの手を引き、会議スペースを離れていった。
シンは、その後ろ姿を見送り。みりあは、シエルに何かを話しながら、楽しそうに笑っている。
シエルも、みりあの隣を歩いていた。
二人の姿が廊下の角を曲がり、見えなくなる。
その瞬間。
シンの目から、笑みが消えた。
彼は、誰にも見られていないことを確かめるように周囲へ目を向けてから、先ほどの少女が消えた方向を見つめた。
「……あの姿。あの気配……」
低く、誰にも聞こえない声で呟く。
敵意があるようには見えなかった。むしろ、みりあに対しては素直に懐いているようだった。
だが、問題はそこではない。あの少女の正体が何であれ、その力が悪意ある者の手に渡ればどうなるのか。
それを考えずにはいられなかった。もし、あの能力が誰かに利用されたら。
もし、侵略者たちが彼女を見つけたら。あるいは、彼女自身に悪意がなくても、何かの間違いで暴走したら。
この世界の人間たちは、彼女を守ることができるだろうか。
「……今は、様子を見るしかねえか」
シンは、ゆっくりと息を吐いた。
みりあが、あれほど嬉しそうに友達を紹介してきたのだ。
彼女を無闇に怖がらせるわけにもいかない。
そして何より、現時点でシエルが危険な存在だと決まったわけではない。
必要なのは、警戒すること、決めつけないこと。
そして、万が一の時にはすぐに動けるようにしておくこと。
シンはそう自分に言い聞かせ、机の上の書類へ視線を戻した。
……とはいえ。
「……子供が拾ってくるには、ずいぶんと厄介そうなもんだな」
小さな呟きは、誰にも届かなかった。
ーーーーーーー
事務所の外では、みりあたちが出発の準備を終えていた。
「よーし! それじゃあ、しゅっぱーつ!」
「おーっ!」
莉嘉が元気よく拳を突き上げる。
「にょわー☆ 今日はみんなで、いーっぱい遊ぶにぃ!」
きらりも、両手を広げて笑った。
「シエルちゃん、行きたいところはある?」
みりあが尋ねる。
シエルは少し考えた。
「……みんなが、楽しいところ」
「えーっ、そんなのいっぱいあるよ!」
莉嘉が笑う。
「じゃあ、まずはゲームセンター! その後にお買い物! それからカフェでおやつ!」
「にょわっ☆ きらり、ぜーんぶ賛成だにぃ!」
「わあっ、いいねいいね!」
みりあも大賛成だった。
「シエルちゃん、ゲームセンターって知ってる?」
「……知らない」
「じゃあ、初めてだね! きっとびっくりするよ!」
「……楽しみ」
シエルは、みりあの手を握り返した。
四人は、賑やかに歩き始めた。
まず向かったのは、駅前のゲームセンターだった。
ーーーーーーー
「…………! なにこれ、すごくキラキラ!」
ゲームセンターに入った瞬間、シエルは立ち止まった。
光る画面、鳴り響く音楽。
あちこちで動いているゲーム機。
人々の笑い声、そのすべてが、シエルにとっては初めて見るものだった。
「ね? すごいでしょ!」
みりあが得意げに笑う。
「ここでは、いろんなゲームができるんだよ!」
「……ゲーム」
「そうそう! じゃあ、…まずはあれをやろう!」
「ダンスゲーム!良いね楽しそう!」
「にょわー☆ ほんとだぁ! みんなでやってみよっか!」
「………うん!」
四人が並ぶ。
音楽が始まり、画面に合わせて、足を動かす。
「わっ、わわっ!」
みりあは、慌てながらも楽しそうに踊った。
莉嘉は、さすがの身のこなしで次々とステップを決めていく。
きらりは大きな身体を器用に動かし、画面の指示に合わせて軽やかにステップを踏んでいた。
そして、シエルは――。
「……!」
最初は、画面を見ながら真似をしていた。
けれど、曲が進むにつれて、その動きはどんどん滑らかになっていく。
足の動き、腕の振り、身体の傾け方。
まるで、最初から振り付けを知っていたかのようだった。
「えっ!? シエルちゃん、すごくない!?」
莉嘉が驚きの声を上げた。
「初めてなんだよね!?」
「……うん」
「なのに、なんでそんなに踊れるの!?」
シエルは、少し困ったように首を傾げた。
「……画面を見て、真似しただけ」
「いやいやいや! それだけでできる動きじゃないって!」
莉嘉が目を丸くする。
きらりも、感心したように頷いた。
「にょわー☆ シエルちゃん、リズム感ばっちりだにぃ! すっごく上手!」
「ほんと!?」
みりあが嬉しそうに声を上げる。
「シエルちゃん、アイドルになれるかも!」
「……アイドル」
シエルは、少しだけ考え込んだ。
「……みりあみたいに?」
「うん! 歌って踊って、みんなを笑顔にするの!」
「……楽しそう」
「でしょー!」
みりあは、シエルの手を取った。
「今度、私たちのレッスンも見に来てね!」
「……うん」
シエルは、嬉しそうに頷いた。
ゲームを終えた後、四人はクレーンゲームにも挑戦した。
莉嘉は、ぬいぐるみを見つけるなり目を輝かせた。
「これ、かわいい! 絶対取る!」
「莉嘉ちゃん、頑張ってー!」
みりあが応援する。
「にょわー☆ きらりも応援するにぃ!」
莉嘉は、慎重にアームを動かした。
しかし、ぬいぐるみは少し持ち上がっただけで、すぐに落ちてしまった。
「ああーっ! 惜しい!」
「もう一回いってみよ!」
みりあが励ます。
「よーし、次こそ!」
莉嘉は再び挑戦したが、また失敗。
「うそーっ! なんでー!?」
「莉嘉ちゃん、がんばれー!」
みりあは応援を続けた。
その隣で、シエルはクレーンゲームをじっと見つめていた。
アームの動き、ぬいぐるみの位置、落ちる角度。
それらを静かに観察している。
やがて、莉嘉が三度目の挑戦を始めた時。
「……少し、右」
「えっ?」
シエルの声に、莉嘉が手を止めた。
「……もう少し、右。あと、少しだけ奥」
「こ、こう?」
「……うん」
莉嘉は言われた通りにアームを動かした。
ボタンを押すとアームが降り二つのぬいぐるみをつかむ。
そして――。
ぽとん!とぬいぐるみが、景品の取り出し口へ落ちた。
「……え?」
一瞬、誰も動かなかった。
次の瞬間。
「やったああああっ!」
莉嘉が飛び上がった。
「取れた! 取れたよーっ!」
「わああっ! 莉嘉ちゃん、すごーい!」
みりあも一緒になって喜ぶ。
「にょわー☆ やったにぃ!」
きらりが拍手した。
莉嘉は二つ取れた景品を取り出すと、片方のぬいぐるみをシエルの前へ差し出した。
「シエルちゃん、ありがと! これ、シエルちゃんにあげる!」
「……私に?」
「うん! だって、シエルちゃんのおかげで取れたんだもん!」
莉嘉は、ぬいぐるみをシエルへ手渡した。
シエルは、それを両手で受け取った。
ふわふわした、丸い動物のぬいぐるみ。
シエルは、しばらくその感触を確かめるように撫でていた。
「……やわらかい」
「でしょー! かわいいよね!」
「……うん」
シエルは、ぬいぐるみを胸に抱いた。
「……ありがとう、莉嘉」
「えへへ! どういたしまして!」
莉嘉は嬉しそうに笑った。
その笑顔を見て、みりあも笑った。
きらりも、目を細めて二人を見守っている。
いつの間にか、シエルは三人の輪の中に自然と溶け込んでいた。
ーーーーーーー
ゲームセンターを出ると、ちょうどお昼時になっていた。
「おなかすいたー!」
莉嘉が、お腹を押さえた。
「みりあ、何食べたい?」
「うーん……。シエルちゃんは?」
みりあが尋ねると、シエルは少し考えた。
「……みんなと、同じもの」
「そっか! じゃあ、みんなで選ぼう!」
四人は、駅前のフードコートへ向かった。
店の前には、いろいろな料理の写真が並んでいる。
ハンバーガー。
オムライス。
うどん。
パスタ。
カレーライス。
シエルは、ひとつひとつの写真をじっと見つめた。
「……全部、食べ物?」
「そうだよ!」
みりあが答える。
「どれもおいしいんだから!」
「……迷う」
「じゃあ、みんなで違うものを頼んで、少しずつ交換するのはどう?」
きらりが提案した。
「にょわー☆ いろんな味を楽しめるにぃ!」
「それいいね!」
莉嘉も賛成した。
「じゃあ、アタシはオムライス!」
「私はハンバーガーにしようかな!」
みりあが言う。
「きらりはパスタにしよっかなぁ☆」
三人が決めた後、シエルはしばらく迷っていたが、やがてカレーライスを指差した。
「……これ」
「よーし、じゃあ決まりだね!」
みりあが嬉しそうに笑った。
料理を受け取って席につく。
みりあは、まずシエルにスプーンの使い方を教えた。
「こうやってすくって、口に運ぶんだよ!」
「……こう?」
「そうそう!」
シエルは、慎重にカレーを口へ運んだ。
そして――。
「……からい」
「えっ!? 大丈夫、シエルちゃん?」
みりあが心配そうに尋ねる。
シエルは、しばらく口を閉じて、やがて、水を一口飲む。
「……大丈夫、味はおいしかった……でも、少し、びっくりした」
その言葉に、莉嘉が笑った。
「カレーって、辛いのもあるからね! アタシも間違って辛いの頼んじゃってびっくりしたことあるもん!」
「じゃあ、こっちも食べてみる?」
莉嘉は、オムライスを少し分けてあげた。
「これはそんなに辛くないよ!」
シエルは、そっと口に運んだ。
「……おいしい」
「でしょー!」
莉嘉が得意げに笑う。
きらりも、パスタを少し取り分けた。
「こっちもおいしいよぉ☆ はい、あーん♪」
シエルは少し驚いたが、差し出されたフォークを見つめてから、そっと口を開けた。
「……おいしい」
「にょわー☆ よかったにぃ!」
きらりは、満面の笑みを浮かべた。
みりあは、そんな二人を見て嬉しくなった。
「シエルちゃん、いろんなものが食べられてよかったね!」
「……うん」
シエルは、ぬいぐるみを隣の席に座らせるように置いていた。
食事の間も、時々そのぬいぐるみに目を向けている。
莉嘉は、それに気づいて微笑んだ。
「そのぬいぐるみ、気に入った?」
「……うん。莉嘉がくれたから」
「……っ!」
莉嘉の頬が、少しだけ赤くなった。
「そ、そっか! じゃあ、大事にしてね!」
「……大事にする」
シエルは、ぬいぐるみをそっと撫でた。
きらりは、その様子を見て、嬉しそうに目を細めた。
「お友達からもらったものって、特別だもんねぇ☆」
「うん!」
みりあは、元気よく頷いた。
「私も、シエルちゃんと一緒に遊んだこと、いっぱい覚えておくんだ!」
シエルは、みりあの顔を見た。
それから、ゆっくりと頷いた。
「……私も」
ーーーーーーー
食事の後は服をみんなで見て周り、ショッピングモールを出る頃には、空が少しずつ夕暮れに染まり始めていた。
「ふわあーっ! 今日はいっぱい遊んだね!」
みりあが両手を伸ばす。
「ゲームもしたし、おいしいものも食べたし、お買い物もしたし!」
「うんうん! めっちゃ楽しかった!」
莉嘉も満足そうだった。
「シエルちゃん、今日はどうだった?」
きらりが尋ねる。
シエルは、少しだけ考えた。
初めて見るもの、初めて食べるもの、初めて触れるもの。
そして、初めて一緒に遊ぶ友達。
その一つひとつを思い返すように、ゆっくりと口を開いた。
「……楽しかった」
「ほんと!?」
みりあは、嬉しそうに顔を輝かせた。
「よかったあ!」
「……みりあも、莉嘉も、きらりも、優しい」
シエルは、三人を順番に見つめた。
「……また、遊びたい」
「もちろん!」
莉嘉がすぐに答えた。
「次はカラオケとかどう? みりあたち、アイドルなんだし!」
「いいねー! きらりも行きたーい☆」
「じゃあ、今度はみんなで歌おうね!」
みりあが、シエルの手を握った。
「私、シエルちゃんと一緒に歌ってみたいな!」
「……歌」
「うん! 楽しいよ!」
シエルは、しばらくみりあを見つめていた。
そして、ゆっくりと頷いた。
「……私も、歌ってみたい」
「やったあ!」
みりあは、満面の笑みを浮かべた。
夕暮れの道を、四人で並んで歩く。
シエルは、みりあの手を握りながら、時々、空を見上げていた。
昨日、自分が落ちてきた空、その空の下で、今は友達と一緒に歩いている。
そんなことを、シエルがどこまで理解しているのかは分からない。
けれど、みりあには、シエルが少しだけ嬉しそうに見えた。
ーーーーーーー
その頃、346プロダクションの事務所では。
シンが、窓の外を眺めていた。
仕事の書類を片づけながらも、頭の片隅では、先ほど出会った少女のことが気になっていた。
シエル、みりあの友達だという、あの不思議な少女。
彼女自身から敵意は感じられなかった。
だが、あの姿と気配は、どう考えても普通ではない。
そして、もし彼女が持つ力が、俺の想像通りの場合、彼女を利用しようとする者が現れないとも限らない。
「……あいつが何者だろうと、みりあたちに危害を加えないなら、それでいい」
シンは、小さく呟いた。
自分が警戒すべきなのは、シエルそのものというよりも、彼女の力を利用しようとする者たちだ。
だからこそ、今は何も決めつけず、様子を見る。もし本当に危険が迫ったなら、その時は自分が止めればいい。
シンは、ウルティメイトブレスレットをちらりと見た。
この世界での生活は、まだ始まったばかりだ。
そして、守るべきものも、少しずつ増えている。