ウルトラマンゼロ/iDOLM@STER CINDERELLA GIRLS   作:わたあめ丸

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君とまた会える日まで

 みりあの家にて

 

「シエルちゃーん! 朝だよーっ!」

 

 赤城みりあの元気な声が、朝の部屋いっぱいに響いた。

カーテンの隙間から差し込む日差し。ベッドの上には、色とりどりのクッション。床には昨日遊んだおもちゃがいくつか転がっている。

 

 その真ん中で、シエルは毛布にくるまっていた。

 

「……んん?」

 

「おっはよー!」

 

 みりあが毛布をめくる。

現れたのは、ふわりとした髪を寝癖で跳ねさせた少女だった。シエルはまだ眠そうに目をこすり、みりあを見上げる。

 

「おはよう、みりあ」

 

「今日はね、莉嘉ちゃんときらりちゃんも来るんだよ! みんなでいっぱい遊ぶんだから!」

 

「いっぱい……?」

 

「うん! いーっぱい!」

 

 みりあは両手を大きく広げた。

シエルは少し考えるように首を傾げる。それから、みりあの真似をして両手を広げた。

 

「……いっぱい!」

 

「そうそう! いっぱい!」

 

 二人は顔を見合わせ、くすくす笑った。

シエルがみりあの前に現れてから、数日が経っていた。

あの日、虹色の石から不思議な少女へと姿を変えたシエルは、みりあの誘いで莉嘉やきらりとも友達になりそれからはいろんな人の家に泊まる様になった

初めて莉嘉の家に泊まった夜、莉嘉が「明日は朝から遊ぶから、今日は早く寝よー!」と言った直後、シエルがその言葉を真に受けて、夕方なのに布団へ入ろうとしたり

きらりの家では、きらりが用意してくれた大きなぬいぐるみを抱きしめたまま、何時間もじっとしていたなど

シエルにとって、人間の生活は初めて知ることばかりだった。

けれど、彼女は人間の生活を少しずつ覚えていった。

朝になったら挨拶をすること。ご飯はみんなで食べると楽しいこと。遊び疲れたら眠くなること。そして――。

誰かと一緒に過ごす時間は、どうしてこんなにも温かいのかということ。

 

「シエルちゃん、今日は何して遊びたい?」

 

「……みりあがしたいこと」

 

「えーっ、シエルちゃんがしたいことも聞きたいよ!」

 

「じゃあ……みんなと一緒がいい」

 

 その返事に、みりあは一瞬きょとんとした。

次の瞬間、ぱあっと顔を輝かせる。

 

「うんっ! みんなと一緒に遊ぼう!」

 

 みりあはシエルの手を取った。

シエルも、その手を握り返した。

ただ、友達と手を繋いでいる、それだけで、今日という日は素敵な一日になるはずだった。

 

ーーーーーー

 

「みりあちゃーん! シエルちゃーん! おっはよー」

 

玄関の外から、聞き慣れた大きな声が響いた。

 

「莉嘉ちゃんときらりちゃんだ!」

 

 みりあがシエルの手を引いて玄関へ走る。

扉を開けると、城ヶ崎莉嘉が元気いっぱいに手を振っていた。その隣では、諸星きらりが両手を広げて待ち構えている。

 

「おはよー、みりあちゃん! シエルちゃんもおはよ!」

 

「おっはよー! シエルちゃん、今日もきゃわいいねぇ☆ きらり、シエルちゃんとお出かけするの、楽しみにしてたんだにぃ!」

 

「おはよう、莉嘉。きらり」

 

 シエルは二人に向かって、ぺこりと頭を下げた。

莉嘉はその様子を見て、にやりと笑う。

 

「ねえねえ、シエルちゃん! 今日はカラオケ行こーよ! この前、みりあちゃんと一緒に歌ったら楽しかったんだよね!」

 

「カラオケ……?」

 

「初めて遊んだ時言ったじゃん、歌うところだよ! 好きな歌をいっぱい歌えるんだ!」

 

「歌……」

 

シエルは小さく呟いた。

 

「シエルちゃん、歌うの好き?」

 

みりあが尋ねると、シエルは少し迷ってから答えた。

 

「……みんなが楽しそうに歌っているのを見るのは、好き」

 

「じゃあ決まり! 行こ行こーっ!」

 

「にょわー☆ 今日はみんなで歌いまくっちゃおー!」

 

四人は連れ立って、街へと繰り出した。

 

ーーーーーーー

 

カラオケボックスの一室では、朝から賑やかな歌声が響いていた。

 

「いっくよー! 莉嘉ちゃん、みりあちゃん、シエルちゃん! きらりのスペシャルステージだにぃー☆」

 

きらりがマイクを握り、画面に表示された曲のイントロに合わせて大きく手を振る。

 

「きらりちゃん、テンション高ーい!」

 

莉嘉が笑いながらタンバリンを叩く。

 

「えへへ! だって、みんなと一緒だもん!」

 

みりあも手拍子をしながら、シエルの方を振り返った。

 

「シエルちゃんも一緒に歌おうよ!」

 

シエルはマイクを見つめた。

 

「……私も?」

 

「もちろん!」

 

「でも、歌ったことがないから……」

 

「大丈夫だよ! みりあも最初は知らない歌、いっぱいあったもん!」

 

みりあはシエルの隣へ座り、マイクを持つ手をそっと支えた。

 

「ほら、みんなで歌えば楽しいよ!」

 

 シエルは少しだけ緊張した顔で、画面を見つめる。

流れてくる音楽。莉嘉の元気な歌声。

きらりの明るく伸びやかな声。

みりあの楽しそうな笑い声。

彼女らの声に釣られる様にシエルは小さく口を開いた。

 

 最初は、かすかな声だったけれど、みりあが嬉しそうに笑い、莉嘉が「いいじゃん、シエルちゃん!」と声を上げ、きらりが「一緒に歌おうにぃ☆」と手を伸ばすと、シエルの声も少しずつ大きくなった。

歌い終わったとき、シエルは不思議そうにマイクを見下ろしていた。

 

「……楽しかった」

 

「でしょーっ!」

 

 みりあが飛びつくように抱きつく。

 

「シエルちゃん、すっごくよかったよ!」

 

「うんうん! 最初は恥ずかしそうだったけど、途中からちゃんと歌えてたじゃん!」

 

 莉嘉が親指を立てる。

きらりも満面の笑みを浮かべた。

 

「シエルちゃんの声、とーってもかわいかったにぃ☆」

 

「……ありがとう」

 

 シエルは少し照れたように微笑んだ。

それから四人は、次々に好きな歌を入れていった。

莉嘉が元気いっぱいに歌えば、みりあが隣で踊る。

きらりが大きな身振りで盛り上げれば、シエルは手拍子をする。

途中で歌詞を間違えた莉嘉が「今のはノーカン!」と叫び、みりあが笑いすぎて歌えなくなり、きらりまでつられて笑い出す。

シエルも、最初は不思議そうに三人を見ていた。

けれど、やがて彼女自身も笑っていた。

理由は、よく分からない。ただ、みんなが笑っていると、自分も楽しくなる。

誰かが失敗しても、誰も怒らない。むしろ、それをきっかけにもっと笑う。

シエルにとって、それは新鮮なことだった。

何かを成し遂げるためでもない。

誰かに命じられたからでもない。

ただ一緒に過ごすために、同じ場所にいる。

それだけで、こんなにも時間が早く過ぎていくのだ。

 

 

ーーーーーーー

 

 

 カラオケを出るころには、四人ともすっかりお腹が空いていた。

 

「お腹すいたー! きらり、もうぺこぺこだにぃ!」

 

「じゃあ、カフェ行こうよ! この近くに、パンケーキがすっごくおいしいお店があるんだ!」

 

 莉嘉の提案に、みりあは勢いよく手を挙げた。

 

「さんせーい!」

 

 シエルも頷いた。

 

「私も、行きたい」

 

「よーし、決まりっ!」

 

 四人は近くのカフェへ向かった。

店内は昼下がりの客で賑わっていたが、運よく四人掛けの席が空いていた。

きらりがメニューを広げ、莉嘉が身を乗り出す。

 

「ねえねえ、みりあちゃん! これ見て! チョコとアイスとバナナが全部乗ってるパンケーキだって!」

 

「わあっ、すごい! シエルちゃん、どれがいい?」

 

シエルはメニューの写真を一つずつ見ていた。

 

「……これ」

 

彼女が指差したのは、大きなアイスに色とりどりのフルーツが飾られたパンケーキだった。

 

「おっ、フルーツいっぱいのやつだね! シエルちゃん、そういうの好きなんだ?」

 

「うん。色が、きれいだから」

 

「じゃあ、きらりもそれにしよっかなぁ☆ シエルちゃんとおそろいだにぃ!」

 

「莉嘉はこのチョコのやつにする!」

 

「にょわっ!? 莉嘉ちゃんのチョコパンケーキもおいしそうだにぃ!」

 

 そんなやり取りをしながら、四人は注文を済ませた。

パンケーキが届くと、みりあは目を輝かせた。

 

「わあーっ! おいしそう!」

 

 シエルも、目の前の皿をじっと見つめていた。

 

「食べないの?」

 

 みりあが尋ねる。

 

「……きれいだから、もう少し見ていたい」

 

「えへへ、シエルちゃんらしいね!」

 

 みりあはスプーンを持ち、シエルの皿を指差した。

 

「でも、溶けちゃう前に食べようね!」

 

「……うん!」

 

 シエルが一口食べる。

それから、目を少しだけ丸くした。

 

「……甘い」

 

「でしょーっ!」

 

「シエルちゃん、パンケーキ初めて食べたの?」

 

莉嘉が尋ねると、シエルは頷いた。

 

「アイスはみりあと食べたけど……これは初めて、アイスとは別のおいしさ……すき」

 

「じゃあ、これからいーっぱい食べようね☆ おいしいもの、まだまだたくさんあるんだから!」

 

「うん! 今度はクレープも食べようよ!」

 

「それいいね! あと、またみんなでゲームセンターにも行きたい!」

 

「にょわー☆ 全部行っちゃおー!」

 

みりあは笑った。

 

「ねえ、シエルちゃん! 次は何して遊ぼうか?」

 

 シエルは、三人の顔を順番に見た。

 

「……みんながしたいことなら、何でも」

 

「またそれー!」

 

 莉嘉が頬を膨らませる。

 

「シエルちゃんもやりたいこと、言っていいんだよ? 友達なんだから!」

 

「友達……」

 

シエルはその言葉を、ゆっくりと繰り返した。

 

「うん! 友達!」

 

 みりあが頷く。

 

「シエルちゃんは、みりあたちの友達だよ!」

 

「そうそう! 遠慮なんていらないって!」

 

「きらりたちと一緒に、楽しいことをいーっぱい見つけようねぇ☆」

 

 シエルは三人を見つめていた。

そして、やがて小さく笑った。

 

「……じゃあ、またみんなで歌いたい」

 

「もちろん!」

 

みりあは即答した。

 

「何回でも行こうね、シエルちゃん!」

 

 その瞬間だった。

カフェの窓ガラスが、激しく震えた。

 

ガシャァンッ!

 

「きゃあっ!?」

 

 悲鳴が上がる。

 

 店内にいた客たちが、一斉に窓の方を振り返った。

粉々になったガラスの向こうから、異様な姿の宇宙人が姿を現した。

身体には無数の傷跡。手には、何かの怪獣のものと思しき巨大な手を加工した、鎌のような武器。

 

 宇宙人は周囲を見回し、甲高い声で叫んだ。

 

「いたバロ! やっと見つけたバロ!」

 

 みりあは息を呑んだ。

 

「な、なに……?」

 

 宇宙人は、店内の人間たちには目もくれず、四人の座る席を睨みつけた。

 

「そのエネルギー反応……間違いないバロ! そいつを渡すバロ!!」

 

「えっ……?」

 

 シエルが不安そうにみりあを見る。

宇宙人が手にした鎌を振り上げた。

 

「さあ、ギャンゴを寄越すバロ!」

 

 その言葉を聞いた瞬間、みりあは立ち上がった。

何が起きているのか分からない。

相手が何者なのかも分からない。

けれど、一つだけ分かった。

この宇宙人は、シエルを連れていこうとしている。

 

「シエルちゃん、こっち!」

 

みりあはシエルの手を握り、席を飛び出した。

 

「莉嘉ちゃん、きらりちゃん、逃げよう!」

 

「う、うん!」

 

「みんな、こっちだにぃ!」

 

 四人は悲鳴を上げる客たちの間を駆け抜け、カフェの裏口から外へ飛び出した。

背後から、宇宙人の怒声が響く。

 

「待つバロ! 逃がさないバロ!!」

 

ーーーーーーー

 

「はぁっ、はぁっ……!」

 

みりあはシエルの手を引きながら、路地を走った。

後ろから莉嘉ときらりがついてくる。

 

「みりあちゃん! どっちに行けばいいの!?」

 

「わ、分かんないよぉ!」

 

「とにかく、あの宇宙人から離れるんだにぃ!」

 

曲がり角を右へ左へ路地道を逃げ回り

人通りのある大通りへ出ようとした、そのときだった。

 

「見つけたバロ!コレで挟み撃ちだバロッサ!!」

 

前方から、同じ姿をした宇宙人が飛び出してきた。

 

「うそっ! 二人目!?」

 

莉嘉が叫ぶ。

 

 こちらの宇宙人は、両腕に奇妙な蟹のような鋏を付けており。その鋏を開くと機関銃の銃口の様な物がある。

宇宙人達は四人を見ると、嬉しそうに声を上げた。

 

「逃げても無駄バロ! そいつを渡せば、お前たちは見逃してやるバロ!」

 

「シエルちゃんを……?」

 

みりあは、シエルを背中に庇った。

 

「シエルちゃんをどうするつもりなの?」

 

「決まってるバロ! こいつは宇宙中のコレクターが欲しがるお宝バロ! どんな姿にも変わる怪獣なんて、そうそう手に入るものじゃないバロ!」

 

「お宝……?」

 

シエルが、震える声で呟く。

 

「そうバロ! お前には、俺達のコレクションになってもらうバロ! おとなしく来るバロッサ!」

 

 宇宙人はそれぞれ鎌と腕の銃を向けた。

みりあたちは、逃げるためにさらに路地の奥へと走ったが、そこは狭い裏路地だった。

両側には高い建物の壁、そして、正面には――行き止まり。

 

「……そんな」

 

 みりあの足が止まった。

莉嘉が慌てて振り返り、別の道を探す。だが、後ろにも宇宙人がおり通り抜けられそうな場所はなかった。

きらりがみんなを庇うように宇宙人の方向に立ち両腕を広げる。

 

「みんな、きらりの後ろにいてねぇ……!」

 

「きらりちゃん……」

 

「大丈夫。きらりが、みんなを守るから」

 

 その声は、いつもの明るい調子とは違っていた。

怖くないはずがない!相手は人間ではないのだから。手には見たこともない武器を持ち、こちらを捕まえるために追いかけてきた。

それでも、きらりは一歩も退かなかった。

莉嘉もシエルの前に立つ。

 

「シエルは渡さないから!」

 

「莉嘉ちゃん……」

 

「だって、シエルはアタシたちの友達だもん!」

 

 みりあも、シエルの手をぎゅっと握った。

心臓が、どきどきと鳴っている。

足が震えていた。怖い。今すぐ逃げたい。

誰かに助けてほしい。

 

けれど――。

 

シエルを一人にするなんて、できなかった。

 

「……シエルちゃんは、みりあの友達だよ」

 

みりあは宇宙人を見上げた。

 

「だから……絶対に渡さない!」

 

「渡さない、だと?」

 

宇宙人の声が低くなる。

 

「小娘どもが……。なら、無理矢理奪ってやるバロ!!」

 

両腕の銃が、鈍い光を放った。

 

その瞬間。

 

キィィィンッ!

 

 青白い光の盾が、四人の目の前に広がった。

宇宙人が放った光弾は、盾にぶつかって弾き返され、路地の壁を激しく揺らす。

 

「な、なんだバロ!?」

 

光の盾の向こうに、一人の青年が立っていた。

 

「……ったく。女の子を大勢で追い回すなんて、ずいぶんと情けねぇ真似してくれるじゃねぇか」

 

シンは、ゆっくりと拳を握った。

その腕には、ウルティメイトブレスレット。

そして、そこから展開されたウルトラゼロディフェンダーが、みりあたちを守っていた。

 

「シンさん!」

 

 みりあが声を上げた。

シンは一度だけ、彼女たちを振り返った。

 

「怪我はねぇか?」

 

「う、うん……!」

 

「なら、そこから動くなよ」

 

シンは前を向き直った。

 

「こいつらの相手は、俺がする」

 

「何者バロ、お前は!?」

 

「通りすがりの――」

 

シンは言いかけ、口の端を上げた。

 

「いや。今は、ただのアイドル事務所の臨時職員ってところか?」

 

「ふざけるなバロ!」

 

 宇宙人が飛びかかる。シンは半歩だけ身体をずらした。

鎌が空を切る。その懐へ踏み込み、シンは宇宙人の腹部へ蹴りを叩き込んだ。

 

「ぐぼっ!?」

 

 宇宙人の身体が宙を舞い、地面へ転がる。

もう一人が腕の銃を構えたが、その銃口が光るよりも早く、シンの足が相手の顎を捉えた。

 

「ぐあっ、バロォッ!?」

 

 二人目も地面に倒れ込む。

みりあは呆然と、その光景を見つめていた。

 

「……シンさん、強い……」

 

 莉嘉が口を開けたまま呟く。

きらりも目を丸くしていた。

 

「す、すっごいにぃ……!」

 

 シンは倒れた宇宙人たちを見下ろした。

しかし、戦いは終わっていなかった。

 

「この……人間ごときが……!」

 

倒れた一人が、怒りに震えながら立ち上がる。

 

「よくもやってくれたバロ! このままでは済まさないバロォォォッ!!」

 

 その身体が、膨れ上がった。

建物の壁を越えるほどの巨体へと変貌し、狭い路地を覆い隠す。

巨大化した宇宙人が、街へ向かって雄叫びを上げた。

 

「今度こそ、ぶっ潰してやるバロォォォッ!!」

 

シンは、みりあたちを振り返った。

 

「お前ら、離れてろ!」

 

そして、腕のウルティメイトブレスレットから現れたウルトラゼロアイへ手を伸ばした。

 

「……まったく。今日は休暇だったってのによ」

 

 彼の手に、銀色の光が宿る。

シンがウルトラゼロアイを装着した瞬間、眩い光が街を包み込んだ。

みりあたちは、その光景を目撃することになる。

人間の姿だった青年が、光の中で巨大な銀色の巨人へと変わっていく。

 

青と赤のライン。

鋭い目。

胸元で輝くカラータイマー。

そして、その顔に浮かぶ不敵な笑み。

 

「俺のビッグバンは、もう止められねぇぜ!」

 

銀色の巨人が、街の中へと立ち上がった。

 

「ウルトラマン……ゼロ……!」

 

みりあの口から、自然とその名前がこぼれた。

 

 

ーーーーーーー

 

 

巨大化した宇宙人は、ゼロの姿を見た瞬間、目を見開いた。

 

「な……なにぃっ!? ウルトラマンゼロだとぉっ!?」

 

驚きは、すぐさま怒りへと変わった。

 

「てめぇら師弟は、今まで何人もの兄弟をぶっ倒してきたバロ! よくも俺たちの一族をコケにしてくれたバロォォォッサ!!」

 

宇宙人は、腕に取り付けた銃を構えた。

 

「ここでテメェをぶっ飛ばしてやるバロ!!」

 

「へっ。威勢だけは一丁前だな!」

 

 ゼロは地面を蹴り宇宙人の銃から光弾が連射された方向へ真っ直ぐ突撃し

最小の動きで身をひねり、跳躍し、攻撃をかわしていく。

 

「そんなもん、当たるかよ!」

 

 ゼロの拳が宇宙人の顔面へ迫る。

しかし、相手は咄嗟に身を屈め、ゼロの攻撃をかいくぐった。

さらに、もう片方の腕から、巨大な光線兵器を取り出す。

 

「これを食らうバロォッ!」

 

 強烈な光が、ゼロの身体を襲った。

ゼロは腕を交差させて防御したが、その衝撃に地面を滑る。

 

「くっ……! こいつ、いろんな武器を持ってやがる!」

 

宇宙海賊バロッサ星人。

 

 彼らは、数々の星々から強奪した武器や道具を、そのまま自らの武器として使う種族だ。

今回の個体が持つのも、別々の星で奪い取った代物だった。

一つは、怪獣タガヌラーの手を加工した鎌。

もう一つは、バルタン星人の腕を利用した銃。

そして、インペライザーを改造したマシンガン。

どれも扱いづらく、見た目も奇妙な武器ばかりだったが、宇宙海賊の手にかかれば、恐るべき攻撃手段となる。

 

「どうしたバロ!? ウルトラマンゼロともあろう奴が、この程度で終わりバロか!?」

 

「ちっ……調子に乗りやがって!」

 

 ゼロは体勢を立て直し、再び相手へと突進した。

鎌をかわし、銃撃を避け、ライザーの攻撃を腕で弾く。

一つ一つの攻撃は見切れている、相手の動きも、武器の癖も、少しずつ分かってきた。

このままなら、押し切れる。そう判断した瞬間だった。

 

「今バロォォォッ!!」

 

背後から、別の声が響いた。

 

「なにっ!?」

 

 三人目のバロッサ星人が、建物の陰から飛び出してきた。

最初から戦場の外に潜んでいた伏兵だ。

その手に握られていたのは、巨大な刃を備えた奇妙な武器。宿那鬼の刀を振り下ろす。

ゼロが反応するよりも早く、背後からの一撃がその身体を捉えた。

 

「ぐあっ!」

 

 ゼロの身体が大きく揺らぐ。

続けざまに、正面のバロッサ星人がマシンガンを叩き込んだ。

 

「これで終わりバロォッ!!」

 

 激しい銃弾がゼロを地面へ叩きつけ、土煙が舞い上がる。

 

「シンさん!!」

 

 みりあが叫んだ。

銀色の巨人が倒れている。

ついさっきまで、自分たちを守ってくれた青年が。

シエルを連れ去ろうとした宇宙人たちを、たった一人で止めてくれた人が。

 

「そんな……!」

 

みりあは、思わず一歩前へ出た。

 

「シンさん、起きて……!」

 

 ゼロは、ゆっくりと身体を起こそうとしていた。

しかし、三人のバロッサ星人はその隙を与えない。

 

「どうしたバロ! さっきまでの威勢はどこへ行ったバロ!」

 

「兄ちゃんの仇討ちだバロ! ここで倒してやるバロォォォッ!!」

 

「三対一なら、さすがのウルトラマンも終わりバロ!」

 

 ゼロは歯を食いしばった。

一人なら、どうにでもできる。

二人でも、まだ対応できる。

だが、三人目の伏兵までいるとは思わなかった。

それぞれが別の武器を持ち、互いの攻撃を補い合う。

厄介な連中だ。それに、ここは街の中だ。

派手に暴れれば、人間たちを巻き込んでしまう。

ゼロは、無理に立ち上がろうとした。

 

 そのとき。

 

「シンさん……!」

 

 みりあの声が、聞こえた。

ゼロの胸が、わずかに揺れた。

ああ、そうだ。

あいつらが見ている。

俺が負けるところを。

俺が、守れなかったところを。

ゼロは拳を握りしめた。

だが、身体はすぐには動かない。

三人のバロッサ星人が、いっせいに武器を構えた。

 

「終わりバロッサァァァァ!!」

 

ーーーーーーー

 

「……シンさん!」

 

 みりあは、両手をぎゅっと握りしめた。

怖かった。目の前で、巨大な怪獣のような宇宙人たちが暴れている。

シンさんが倒されてしまうかもしれない。

自分たちを守ってくれた人が、もう立ち上がれないかもしれない。

そんなことを考えるだけで、胸が苦しくなる。

 

「お願い……!」

 

みりあは、思わず目を閉じた。

 

「誰か……シンさんを助けて……!」

 

その願いは、声にならないほど小さかった。

けれど。隣にいたシエルには、はっきりと伝わっていた。

みりあの手が震えている。それでも、みりあは逃げようとしなかった。

シンを心配して、必死に祈っている。シエルは、みりあの顔を見つめた。

自分を守るために、宇宙人たちの前へ立ってくれた少女。

自分を友達と呼び、一緒に歌い、一緒に笑い、一緒に甘いものを食べてくれた少女。

そして今、自分のために助けを求めている。

みりあを、悲しませたくない。

シエルの胸の奥で、何かが強く脈打った。

それは、これまで彼女が知らなかった感情だった。

誰かと一緒にいたい。

誰かの笑顔を見ていたい。

そして、その誰かが困っているとき、自分にも何かできるのなら。

 

「……みりあ」

 

シエルが、そっと彼女の手を握った。

 

「シエルちゃん……?」

 

「私も……助けたい」

 

シエルの身体が、虹色の光に包まれた。

 

「え……?」

 

 みりあが目を見開く。

光は一瞬で膨れ上がり、街全体を包み込むほどの輝きとなった。

その中心で、小さな少女の姿が変わっていく。

輪郭が大きくなり、手足が伸び、丸みを帯びた巨大な身体が形作られる。

虹色の光が、表面を流れるように走った。

その姿は、怪獣だった。けれど、ただ暴れ回るために生まれた怪獣ではない。

その瞳には、明確な意思が宿っていた。

守りたいという願い。

友達を助けたいという想い。

そして、その想いを届けるために、今ここに立つという決意。

 

「……シエルちゃん……?」

 

 みりあは、呆然と呟いた。

目の前に立つ巨大な怪獣。

その姿は、シエルが石だったときとも、少女だったときとも違う。

それなのに、みりあには分かった。

そこにいるのは、シエルだ。

 

「シエルちゃん……!」

 

 巨大な怪獣は、ゼロとバロッサ星人の間へ割って入った。

そして、三人のバロッサ星人へ向けて、力強く吠えた。

 

「な、何だバロ!?」

 

バロッサ星人たちが、驚きの声を上げる。

 

「まさか……あれが、脳波怪獣……!」

 

「ギャンゴが、自分の意思で動いているバロ!?」

 

 ゼロは、ゆっくりと顔を上げた。

黒いの巨体。その怪獣は、ゼロを守るように立っていた。

 

「……お前、まさか……」

 

 ゼロは、すぐに理解した。

みりあたちと一緒にいた少女。

あの不思議な存在が、今、自らの意思で怪獣の姿へ変わったのだ。

 

 そうか。

こいつは今、みりあの願いに応えた。

ゼロは奥歯を噛みしめ、立ち上がった。

 

「……へっ。助けられちまったな」

 

彼は黒色の怪獣を見上げた。

 

「ありがとよ」

 

怪獣は、ゼロの声に応えるように、もう一度吠えた。

 

「ふざけるなバロォォォッ!」

 

バロッサ星人たちは、怒りに任せて武器を構えた。

 

「ギャンゴは俺たちのものバロ! 勝手に動くんじゃないバロォッ!」

 

 三人の攻撃が、いっせいに放たれる。

鎌が振り下ろされ、銃撃が飛び交い、刀の斬撃が黒いの巨体を襲った。

しかし、ギャンゴは怯まなかった。

両腕を広げ、ゼロを庇うように攻撃を受け止める。

その巨体が衝撃に揺れた。

だが、倒れない。

 

「……っ!」

 

 ゼロは、その姿を見つめた。

まだ力の使い方に慣れていないはずだ。

自分が何者なのかも、何ができるのかも、きっと分かっていない。

それでも、こいつは戦っている。

自分を助けるために。

そして、友達を守るために。

 

「……ったく。無茶しやがるぜ」

 

ゼロは、両腕を交差させた。

 

ウルティメイトブレスレットが、強い光を放つ。

 

「だが、ここからは俺の番だ!」

 

 ゼロの身体を、燃えるような光が包み込んだ。

赤い炎のような輝きと、力強い光が弾ける。

全身の姿が変わり、より力強い形態へと変化した。

 

 ストロングコロナゼロ。

 

圧倒的なパワーを宿した、ゼロの戦闘形態だ。

 

「さあ、反撃開始だぜ!」

 

ゼロは拳を握り、バロッサ星人たちへ向き直った。

 

「ギャンゴ! 無理に前へ出るな! 俺に合わせろ!」

 

 ギャンゴはゼロを見た。

言葉の意味を、どこまで理解したのかは分からない。

けれど、彼女は一歩だけ後ろへ下がった。

ゼロの動きを見つめる。

その意思を読み取ろうとするように。

 

「よし!」

 

 ゼロが地面を蹴った。

一人目のバロッサ星人が鎌を振るう。

ゼロはその攻撃を腕で弾き、相手の懐へ踏み込んだ。

 

「おらぁっ!」

 

 拳が腹部へ叩き込まれる。

バロッサ星人が大きくのけぞった。

その隙に、二人目が銃を構える。

だが、ギャンゴが身体をひねり、頭突きで相手の腕を弾いた。

 

「なにぃっ!?」

 

銃口が逸れ、光弾が空へ飛んでいく。

 

「いいぞ、ギャンゴ!」

 

 ゼロは笑みを浮かべた。

ギャンゴは、ゼロの声に応えるように大きく吠えた。

二人は互いの動きを読み合うように戦い始めた。

ゼロが前へ出れば、ギャンゴが側面を守る。

ギャンゴが攻撃を受け止めれば、ゼロがその隙を突く。

初めて組む相手とは思えないほど、二人の動きは噛み合っていた。

 

「くそっ、何をしているバロ! 数で押し切るバロォッ!!」

 

 三人のバロッサ星人が、再びゼロを取り囲む。

正面から鎌、右から銃撃、背後から刀。

三方向からの同時攻撃。

しかし、ゼロは怯まなかった。

 

「来いよ!」

 

 ゼロは身体をひねり、鎌をかわす。

銃撃を腕で弾き、背後から迫った敵へ向けて肘を叩き込んだ。

その瞬間、ギャンゴが大きく腕を振るった。

巨体から放たれた一撃が、一人目のバロッサ星人を吹き飛ばす。

 

「ぐわぁっ、バロォォッ!?」

 

残る二人が体勢を立て直そうとしたとき、ゼロはすでに相手の身体を持つ。

 

「これで決めるぜ!」

 

 ゼロの身体が、バロッサ星人と共に高速で回転し始める。

渦巻く光が、巨大な竜巻のように周囲を包み込んだ。

 

「ウルトラハリケーン!!」

 

ゼロが放った光の竜巻が、三人のバロッサ星人を巻き込む。

 

「「「な、なんだバロォォォッ!?」」」

 

 三人の身体が宙へ持ち上げられ、身動きが取れなくなる。

その瞬間、ゼロは拳を大きく引いた。

全身に炎のようなエネルギーが集まる。

 

「ガルネイトォォォ……!」

 

そして。

 

「バスターッ!!」

 

 灼熱のエネルギーが、竜巻の中へと放たれた。

閃光が街を照らし轟音が響き渡る。

 

「「「ぎぃやぁぁぁぁあ!!」」」

 

 三人のバロッサ星人は、まとめて吹き飛ばされ、光の中へ消えていった。

やがて、煙が晴れ街に静けさが戻る。

ゼロは着地し、ゆっくりと拳を下ろした。

 

「……ふぅ。これで終わりだな」

 

 その隣では、ギャンゴがゼロを見上げていた。

ゼロは彼女へ向き直る。

 

「助かったぜ。お前がいなかったら、ちょっと面倒なことになってた」

 

 ギャンゴは、嬉しそうに身体を揺らした。

その仕草を見て、ゼロは少しだけ目を細めた。

 

「本当に、妙な奴だぜ」

 

 こんな状況でなければ、もっとゆっくり話をしてみたかった。

けれど、まだ終わっていない。守らなければならないものが、ここにある。

ゼロは、みりあたちのいる方へと顔を向けた。

 

ーーーーーーー

 

「……シンさん?」

 

 みりあは、目の前の巨大なゼロを見上げていた。

ついさっきまで、シンは人間の姿をしていた。

事務所での彼は自分たちと同じくらいの大きさで、冗談を言って、仕事をして、みりあたちと話をしていた。

その彼が、今は街を見下ろすほど大きな銀色の巨人になっている。

そして、シエルもまた、巨大な怪獣の姿になっていた。

 

「え……えっと……」

 

莉嘉は、混乱した様子で頭を抱えた。

 

「シンさんがウルトラマンで……シエルちゃんが怪獣で……えっ、どういうこと!?」

 

「にょわ……。きらり、夢を見てるのかなぁ……?」

 

 きらりは、何度も目をこすった。

だが、目の前の光景は消えない。

ゼロは、そんな三人を見下ろしていた。

やがて、彼の身体が光に包まれる。

光が収まると、そこには再びモロボシ・シンの姿があった。

シンは少し気まずそうに頭を掻いた。

 

「……隠してて悪かったな。」

 

「シンさん……」

 

みりあは、まだ信じられないという顔で彼を見つめていた。

 

「シンさんが……あの、ウルトラマンだったの……?」

 

「ああ。俺はウルトラマンゼロだ」

 

シンは、静かに答えた。

 

「お前らが知ってるテレビのウルトラマンとは、少し事情が違うんだけどな。俺は本物の宇宙人で、地球を守るために戦ってる」

 

莉嘉は目を丸くした。

 

「ほ、本物……!? じゃあ、今まで一緒にいたシンさんって……!」

 

「そりゃ、俺は俺だぜ。別人になったわけじゃねぇ」

 

シンは肩をすくめた。

 

「ただ、俺には守らなきゃならねぇ星があって、守らなきゃならねぇ奴らがいる。だから、戦ってるんだ」

 

きらりは、シンを見つめた。

 

「……シンちゃんは、ずっとみんなを守ってくれてたんだねぇ」

 

「まあな」

 

 シンは、照れくさそうに視線を逸らした。

みりあは、ふと隣を見た。

巨大な怪獣の姿だったシエルが、再び光に包まれている。

光が収まると、そこにはいつもの少女の姿があった。

シエルは、みりあの方へ歩いてきた。

 

「……みりあ」

 

「シエルちゃん!」

 

みりあは駆け寄り、シエルの手を握った。

 

「すごかったよ! シエルちゃん、あんなに大きくなれるんだね!」

 

「……うん」

 

シエルは、少し困ったように微笑んだ。

 

「でも……私、知らなかった」

 

「え?」

 

「自分が、あんな姿になれることも。あんな力があることも」

 

シエルは、自分の手を見つめた。

 

「みりあがシンさんを助けてって願ったから……私も、助けたいって思ったの」

 

「……そっか」

 

みりあは、シエルの手をぎゅっと握った。

 

「ありがとう、シエルちゃん。シンさんを助けてくれて」

 

「……ううん。私が、みりあを悲しませたくなかったから」

 

シエルは、みりあの顔を見つめた。

 

「みりあが悲しいと、私も悲しい」

 

みりあの目が、少しだけ潤んだ。

 

「……シエルちゃん」

 

 シンは、二人の様子を見ながら、表情を引き締めていた。

彼はシエルを疑っていたわけではない。

だが、彼女の力はあまりにも大きい。

人間の脳波を受け取り、その思い描いた姿へ変わる能力。

使い方によっては、誰かを守ることもできる。

けれど、誰かを傷つけるために利用される可能性もある。

だから、バロッサ星人どもはこいつを狙ったのか。

 

 ゼロは、心の中で呟いた。

そして、もう一つの事実を思い出す。

シエルの能力は、単に姿を変えるだけではない。

人々の願いや想像を受け取り、それを現実の形にしてしまう。

もし、その願いが際限のない欲望へ変わったら。

もし、誰かが彼女を利用して、破滅を望んだら。

この力は、どこまでの災厄を引き起こす?

 

 ゼロは、シエルを見つめた。

今、彼女はみりあの隣で微笑んでいる。

ただの少女のように。

誰かを傷つけることなど、考えたこともない顔で。

それでも、力の危険性は消えない。

ゼロは、静かに口を開いた。

 

「……シエル…それにみりあ達、少し、聞いてくれ」

「お前の力は、すごいもんだ。誰かを助けることだってできる。さっきみたいにな」

「けど、どんな力にも危険はある。お前が悪いって話じゃねぇ。ただ、お前の力を欲しがる奴は、これからも現れるかもしれない」

 

シエルは黙って聞いていた。

 

「お前の力を使えば、思い描いたものを形にできる。けど、そいつが必ずしも良いものになるとは限らねぇんだ」

 

シンの声は、いつになく真剣だった。

 

「ある惑星では、お前と同じ…ギャンゴの力で八十パーセントを超える生命が滅んだ。初めは清き願いだったとしても、それはいつか際限のない欲望となり、あらゆるものを破滅に向かわせる……」

 

みりあたちは、息を呑んだ。

 

「そ、そんな……」

 

莉嘉が呟く。

 

「シエルちゃんが……そんなことを?」

 

「シエルが悪いって言ってるわけじゃねぇ」

 

シンは、すぐに言葉を続けた。

 

「お前は、みりあたちを助けてくれた。自分の意思で、誰かを守るために力を使った。それは間違いなく、お前自身が選んだことだ」

 

彼はシエルをまっすぐに見つめた。

 

「けど、お前がどんな存在なのか、どんな力を持っているのか。それを知らないまま、ここに置いておくわけにはいかねぇ」

 

みりあは、シンの言葉を聞きながら、シエルの手を握り直した。

 

「……シエルちゃんは、悪いことなんてしてないよ」

 

「ああ。分かってる」

 

シンは頷いた。

 

「だからこそ、守らなきゃならねぇんだ」

 

その言葉に、シエルはゆっくりと顔を上げた。

 

「……私を、どこかへ連れていくの?」

 

 シンはすぐには答えなかった。

みりあの手が、シエルの手を握りしめている。

莉嘉も、きらりも、不安そうに二人を見ていた。

シンは、胸の奥に苦いものを感じた。

本当なら、何も知らないまま、みんなで遊んでいられればよかった。

シエルがどんな存在であろうと、彼女はみりあたちの友達だ。

笑って、歌って、パンケーキを食べて。

そんな時間を過ごすだけなら、誰も傷つかずに済んだのかもしれない。

 

 だが、現実はそうではない。

バロッサ星人たちは、彼女を宝として奪おうとした。

彼女の力を知れば、同じことを考える者はほかにも現れるだろう。

それを防ぐためには、シエルを安全な場所へ移す必要がある。

 

「……しばらくの間、俺の仲間がいる場所で預かる」

 

シンは、静かに言った。

 

「そこなら、簡単には手を出せねぇ。お前の力についても、もっと詳しく調べられるはずだ」

 

「……みりあたちとは、会えなくなるの?」

 

シエルの問いに、シンは言葉を詰まらせた。

 

「……永久に、とは言わねぇ。けど、しばらくは会えなくなるかもしれない」

 

「そんな……!」

 

みりあは、思わず声を上げた。

 

「やだよ……!」

 

シエルの手を、さらに強く握る。

 

「シエルちゃん、行っちゃうの……? みりあたち、まだまだ一緒に遊びたいよ……!」

 

声が震えた。

 

「カラオケも行きたいし、パフェも食べたいし……! きらりちゃんの家にも、莉嘉ちゃんの家にも、また泊まりに行きたいよ……!」

 

涙が、みりあの頬を伝った。

 

「やだ……やだよぉ……!」

 

 シエルは、みりあを見つめていた。

自分を抱きしめようとする小さな手。

泣きながら、自分と一緒にいたいと言ってくれる声。

そのすべてが、胸に染み込んでくる。

シエルは、そっとみりあの頬に手を伸ばした。

 

「……みりあ」

 

「シエルちゃん……!」

 

「私も……みんなと一緒にいたい」

 

シエルの目にも、涙が浮かんでいた。

 

「きらりと歌いたい。莉嘉と遊びたい。みりあと、……またお泊まりしたい」

 

彼女は、一つずつ言葉を確かめるように続けた。

 

「みんなと一緒にいると、楽しい。みんなが笑っていると、私も嬉しい」

 

シエルは、みりあの手を両手で包み込んだ。

 

「でも……私がここにいたら、またみんなが危ない目に遭うかもしれない」

 

「そんなの……!」

 

「私は、みりあを傷つけたくない」

 

シエルの声が、かすかに震えた。

 

「みりあが泣くのは、嫌だよ」

 

みりあは首を横に振った。

 

「でも、シエルちゃんがいなくなったら……みりあ、もっと悲しいよ……!」

 

「……うん」

 

シエルは、泣きながら微笑んだ。

 

「ごめんね」

 

「やだぁ……!」

 

みりあは、シエルに抱きついた。

シエルも、みりあを抱きしめ返した。

二人の間に、言葉はなかった。

ただ、離れたくないという気持ちだけが、そこにあった。

莉嘉は唇を噛みしめ、顔を伏せていた。

 

「……なんで」

 

その声は、とても小さかった。

 

「なんで、友達になったばっかなのに……」

 

 きらりは、莉嘉の肩をそっと抱いた。

いつもなら、明るい言葉でみんなを励ますきらりも、今は何も言えなかった。

ただ、みりあとシエルの姿を見つめていた。

 

シンは、自分の不甲斐なさに拳を握りしめた。

 

(くそっ。)

 

 守るために戦ってきた。

誰かが傷つく前に、危険を取り除くために。

けれど、守るというのは、ただ敵を倒せばいいわけじゃない。

時には、誰かの大切なものを引き離すことにもなる。

それが正しい判断だと分かっていても、胸が痛むことはある。

ゼロは、そうした痛みを何度も見てきた。

そして今、自分自身がその原因になろうとしている。

 

「……みりあ」

 

シンは、なるべく穏やかな声で呼びかけた。

 

「俺も、こんなことはしたくねぇ。けど、今はシエルを守るために必要なんだ」

 

 みりあは顔を上げなかった。

シンは続けた。

 

「俺の仲間がいる場所は、マイティベースっていう秘密基地だ。そこなら、俺の仲間たちが絶対にシエルを守ってくれる」

 

「……秘密基地?」

 

莉嘉が、涙を拭いながら尋ねた。

 

「ああ。ウルティメイトフォースゼロっていう、俺の頼もしい仲間たちがいる場所だ」

 

シンは頷いた。

 

「しばらくの間、そこで預かってもらう。地球が安全になったら、また会いに来られるようにする。俺が責任を持って、シエルを連れてくる」

 

「……本当?」

 

 みりあが、涙で濡れた顔を上げた。

シンは、まっすぐに頷いた。

 

「ああ。約束する」

 

 それは、軽い約束ではなかった。

地球が安全になるまで、どれほどの時間がかかるのか。

シエルを狙う者が、ほかにどれだけいるのか。

今のゼロには、分からないことばかりだった。

それでも、彼は約束した、この別れが、永遠のものにならないように。

みりあたちが、もう一度シエルと笑い合えるように。

 

 少しして、シエルはみりあから離れた。

涙を拭い、莉嘉ときらりの方へ向き直る。

 

「……莉嘉、きらり」

 

「……なに?」

 

莉嘉が顔を上げる。

 

「きらりたちも、また会えるよねぇ……?」

 

 きらりは、声を震わせながら尋ねた。

シエルは二人に向かって、しっかりと頷いた。

 

「うん。私も、またみんなに会いたい」

 

「……だったら、絶対に戻ってきてよね!」

 

莉嘉は、涙をこらえながら言った。

 

「次に会ったら、またカラオケ行くんだから!」

 

「……うん」

 

「それから、きらりのお家にもまた泊まろうねぇ☆ 今度はもっと大きなお布団を用意して、みんなで一緒に寝るんだにぃ……!」

 

 きらりの笑顔は、いつもより少しだけぎこちなかった。

それでも、彼女は笑おうとしていた。

シエルは、二人の顔を見つめた。

 

「ありがとう」

 

そして、みりあへと向き直る。

 

「みりあ」

 

「……シエルちゃん」

 

「私、みりあと友達になれてよかった」

 

みりあの目から、また涙がこぼれた。

 

「……みりあもだよ」

 

「一緒に歌ったことも、パンケーキを食べたことも、みんなのお家に泊まったことも……全部、忘れない」

 

シエルは、胸の前で両手を握った。

 

「だから、みりあも忘れないでね」

 

「……忘れないよ」

 

みりあは、何度も頷いた。

 

「絶対に忘れない……! シエルちゃんは、みりあの大切な友達だもん……!」

 

 シエルは、最後にもう一度、みりあを抱きしめた。

小さな身体、温かな手、そして、涙に濡れた頬。

この時間を、ずっと覚えていたい。

シエルはそう思った。

やがて、シンが一歩前へ出る。

 

「……そろそろ行くぞ」

 

 シエルは、みりあからゆっくりと離れた。

名残惜しそうに、何度も振り返る。

みりあは泣きながら、手を振った。

 

「シエルちゃーん……!」

 

「……またね、みりあ」

 

「またねぇ……!」

 

「絶対に戻ってきてよーっ!」

 

莉嘉の声が響く。

 

「きらりたち、ずーっと待ってるからねぇ……!」

 

 きらりも、精いっぱいの笑顔で手を振った。

シエルは、三人の姿を目に焼きつけるように見つめていた。

そして、シンの隣へ歩いていき、二人の姿が、少しずつ遠ざかっていく。

 

 みりあは、いつまでも手を振っていた。

見えなくなっても、もう、声が届かなくなっても。

 

ずっと。

 

ーーーーーーー

 

 その後、シンはウルティメイトブレスレットを通じて、仲間たちへ連絡を入れた。

事情を聞いたウルティメイトフォースゼロは、シエルをマイティベースで保護することを了承した。

そこには、ゼロの仲間たちがいる。

彼女の能力を調べ、危険から守り、地球が安全になるまで匿うことができる。

シンは、シエルを連れていく前に、もう一度だけ振り返った。

みりあたちは、まだそこに立っていた。

莉嘉がみりあの肩を抱き、きらりが二人を包むように寄り添っている。

 

三人とも、泣いていた。

 

人間の視力ではもう見えないだろうにそれでも、彼女たちはシエルに向かって手を振り続けていた。

 

(あいつらなら、大丈夫だ)

 

 ゼロは、心の中で呟いた。

あの三人は、きっとこの別れを乗り越える。

そして、いつかまた、シエルと笑い合える日が来る。

そのためにも、自分がやるべきことは一つだった。

シエルを守ること、彼女の力を狙う者たちから、この星を守ること。

そして、いつか再会する日まで、彼女たちの友情が途切れないようにすること。

 

 ゼロは、空を見上げた、この宇宙には、数え切れないほどの星がある。

そこには、まだ見ぬ生命がいて、まだ知らない物語がある。

そして、誰かの願いが、誰かの未来を変えることもある。

シエルの力は、危険なものかもしれない。

けれど、その力を通して生まれた友情まで、危険なものだとは思いたくなかった。

 

「……また会いにいこうぜ、シエル」

 

 ゼロは、小さく呟いた。

その声は、風に溶けて消えていった。

虹色の少女が、再び地球の友達と笑い合える日を願いながら。

 

 こうして、虹色の友達との物語は、いったん幕を下ろす。

けれど、別れは終わりではない。

また会いたいと願う心がある限り、いつかきっと、再会の日は訪れるのだから。

 

 

 

 





星屑が静寂の宇宙のように瞬き、幾何学的な光のラインが幻想的なグラデーションを描き出す次元の狭間。本編の街並みや悲しい別れの余韻を包み込むように、ここは『ウルトラマンゼロのウルトラ徹底解説⭐︎』の特設スタジオである。

「いやぁ……! さっきの別れのシーン、じーんときちゃったぜ……っ! 人間と怪獣の友情、そしてシエルちゃんとみりあちゃんたちの絆……。本当に感動的な話だったなぁ……!」

 ハンカチを取り出し、大袈裟に目頭を押さえながらそう声を上げたのは、炎の戦士・グレンファイヤーだった。燃え盛る赤い髪を揺らし、熱い涙を拭うフリをしている。

その隣で、ウルトラマンゼロはジト目で腕を組んでいた。

「……なぁ、お前さ。なんでシレッとこの解説コーナーに混ざってんだよ。本編に、お前一言も出てねぇじゃねぇか!」

「はぁ!? なんだとゼロ! このグレンファイヤー様が、困っている可愛い女の子たちと、いじらしい宇宙の少女のドラマを見逃すわけねぇだろ! 演出上の友情出演ってやつよ!」

「勝手に出演すんな! まぁ、来てくれたこと自体は嬉しいけどよ……」

ゼロが呆れたように息をつくと、その背後からパタパタと足音が響いてきた。

「シンさん! グレンさん!」

「あっ、お疲れ様ですーっ!」

「きらりたちも、このキラキラした空間に呼ばれちゃったにぃ☆」

 元気よく駆け寄ってきたのは、赤城みりあ、城ヶ崎莉嘉、諸星きらりの三人だ。そして、その少し後ろを、少しだけ名残惜しそうな、けれど穏やかな表情を浮かべたシエルが静かについてきている。

「おっ、みりあちゃんたちじゃねぇか! さっきは本当によく頑張ったな!」

グレンファイヤーが豪快に笑いながら、みりあたちの頭をポンポンと撫でる。

「ありがとう、グレンさん! シンさんも、あんなに大きな宇宙人たちをやっつけてくれて、すっごくカッコよかった!」

みりあが満面の笑みを浮かべると、シエルもそっとうなずいた。

「うん……ゼロ、強かった。……助けてくれて、ありがとう」

シエルが改めてお礼を言うと、ゼロは少し照れくさそうに頭をかいた。

「おう……まぁ、目の前で女の子たちがピンチになってたら、助けるのは当然だろ。それに、お前も俺の事助けてくれただろ。大したもんだぜ、シエル」

 シエルはその言葉に、ふわりと柔らかい笑みを浮かべた。
そして、隣に立つみりあを見つめる。

「みりあ……また、一緒に遊べるよね?」

「うんっ! 絶対に遊ぼうね、シエルちゃん!」

みりあはシエルのおずおずと差し出された手を、迷いなくしっかりと握りしめた。

「カラオケも行きたいし、甘いパンケーキもまた食べたいし、きらりちゃんのお家でお泊まり会もしたい! だから、マイティベースから帰ってきたら、やりたいことリストをいーっぱい叶えようね!」

「……ふふ、うん。楽しみにする」

シエルが嬉しそうに微笑むと、莉嘉が腕を組んで得意げに鼻を鳴らした。

「そうだよ! 次に会うときまでに、アタシ、もっとカラオケのレパートリー増やしておくからさ! シエルちゃんをびっくりさせちゃうんだから!」

「にょわー☆ それじゃあ、きらりも負けじと特製の特大パンケーキを作っちゃうにぃ! シエルちゃん、覚悟しててねぇ☆」

 賑やかな仲間たちの声に、シエルは「うん!」と大きくうなずいた。
その温かいやり取りを、ゼロとグレンファイヤーは目を細めて見守っていた。

「……さてと」

ゼロがパッと手を叩き、スタジオ中央のホログラムモニターへ視線を向けた。

「感動の再会の約束も済んだところで、今回の本題に入るとするか! 今回徹底解説するのは、さっきの騒動の元凶であり、シエルと同じ能力のルーツでもある――あの脳波怪獣と、厄介な宇宙海賊だ!」

ゼロが指を鳴らすと、空間のホログラムに、不気味で愛嬌のあるような、それでいてどこか異様な黒い影が映し出された。

「まず前半戦はこいつだ! 脳波怪獣 ギャンゴ!」

ホログラムのギャンゴが、画面の中でコミカルに身悶えする。

「元々は宇宙から地球に落下してきた黒い隕石なんだ。こいつの恐ろしいところ……いや、厄介なところは、半径2メートル以内にいる人間の『脳波』を受信して、その人間が頭の中で思った通りの姿形に変化しちまうって性質を持っていることなのさ!」

「思った通りの姿に……? それって、何にでもなれちゃうの?」

莉嘉が驚きの声を上げると、ゼロは大きくうなずいた。

「その通り! 劇中でもな、ビー玉になったり、スロットレーシングになったり、果てにはデコレーションケーキやグランドピアノ、花嫁の姿にまで変形しやがった。まぁ、持ち主だった悪人の鬼田ってのが調子こいて『もっと大きくなれ!』って命令したもんだから、コントロールを失ってそのまま巨大怪獣の姿で暴れ回る大惨事になったんだけどな!」

「悪人さんが使うと大変な事になっちゃうけど、変身するものによってはみんなではぴはぴになれるにぃ⭐︎」

きらりが笑顔で語ると、ゼロはふっと不敵な笑みを浮かべ、さらに話を続けた。

「で、だ。このギャンゴの能力、実はウルトラマンだけの世界だけじゃ収まらなかったって話があってな……。別の次元のウルトラマンが活躍した地球にあの『蜘蛛男のヒーロー』が現れた時、このギャンゴが大型の蜘蛛の姿になって人間に襲いかかってきたりしたんだぜ」

その言葉を聞いた瞬間、グレンファイヤーが「おっ!」と声を張り上げた。

「あぁ、あれだろ! あの『地獄からのし…

「おい、そこまで言うな! それは別の次元の、大人の事情がめちゃくちゃ絡む版権の壁が分厚い大人気ヒーローだから、名前を出したら色んな大人が血相変えて飛んでくるわ!!」

ゼロが慌ててグレンの口を両手で塞ぎ、必死にツッコミを入れる。

「んぐっ……! ゼロちゃん、手汗がすげぇぞ!」

「当たり前だ、黒いネズミにだけは喧嘩売っちゃイケねぇんだ! ……とにかく、ギャンゴの持つ変幻自在の脳波受信能力は、それだけ宇宙規模で見ても異質で、危険な代物だってことだ!」

ゼロがフーフーと息を整えながら軌道修正すると、シエルは自分の胸にそっと手を当てた。

「私の力も……あの怪獣と同じ……」

「だがな、シエル」

ゼロは優しくシエルに視線を向けた。

「ギャンゴは使ったやつの邪な欲望や悪意に流されて暴走したが、お前は違った。お前は自分の意思で、みりあ達を、この街を守りたいって願った。力の性質がどうであれ、それをどう使うかを決めるのは、いつだって『心』だ。お前は立派に自分の心で戦ったんだぜ」

シエルは胸のあたりが温かくなるのを感じ、小さくうなずいた。

「うん……ありがとう、ゼロさん」

「よし! じゃあ、解説の後半戦に行こうか!」

 ゼロが再び指を鳴らすと、ホログラムの映像が切り替わり、今度は不敵な笑みを浮かべた数多の宇宙人たちの姿が映し出された。

「続いては、さっき俺たちを散々引っ掻き回してくれた奴らだ! 宇宙海賊 バロッサ星人!」

ホログラムに映るバロッサ星人の姿を見て、莉嘉が「あ、さっきのムカつく奴らだ!」と拳を握りしめる。

「そう、宇宙海賊バロッサ星人だ。こいつらの生態がまた厄介でな……卵生の種族なんだが、一度に『1万個』もの卵を生み落とすらしい。ゼットの前に現れた奴の他にも、母星にはあと『9999人』の兄弟が控えてるってんだから、考えただけでも頭が痛くなるぜ」

「いちまん個……!?」

みりあが目を丸くして驚くと、グレンファイヤーが腕を組んで鼻で笑った。

「他の星からお宝を強奪して回る海賊なんて、だいぶ傍迷惑な荒くれ者どもがいたもんだなァ! 」

そのグレンの言葉を聞き、ゼロはジト目でフッと鼻を鳴らした。

「……どの口が言ってやがる。お前だって、『炎の海賊』の用心棒やってただろ。自分を棚に上げるなよ、グレン」

「なっ……! 俺様は正義の為にゴーカイで派手行く宇宙海賊……いや、用心棒だ! バロッサ星人と一緒にするな、あいつらはただの強盗団だろ!」

「五十歩百歩だわ!」

ゼロのツッコミに、スタジオのアイドルたちからクスッと笑い声が漏れる。

「まぁ、グレンの言う通り、あいつらはれっきとした宇宙の略奪者だ。だがな、バロッサ星人のやっかいなところは、単に暴れるだけじゃねぇところにある。あいつら、それどうやって手に入れた!!って思わずツッコミたくなる、強奪しようにも中々手に入らねぇはずの代物――例えば、ザムシャーの星斬丸や、コダイゴンジアザーの鯛型の砲台、他にも強力な怪獣のパーツ、特殊な武器の数々を平然と持ってやがる。個体によって好みが違うとはいえ、お宝を集める執念と収集力、そして自分のコレクションに対する愛着だけは、本気で侮れねぇものがあるぜ」

ゼロの真面目な解説に、シエルは真剣な表情で頷いた。

「私を狙ったのも……コレクションにするため、だったから……」

「ああ、そうだ。あいつらにとって、お前の存在は宇宙のどこを探しても見つからない究極の『お宝』に見えたんだろうよ。だがな、そんな他人の大事なものを力ずくで奪おうとする奴らに、俺たちが負けるわけにはいかねぇんだ」

ゼロは拳を固め、いつもの不敵な笑みを浮かべた。
そして、カメラの向こうに向けて、ビシッと指を突きつける。

「どんなに厄介な宇宙海賊だろうが、この地球を荒らし、俺の大切な仲間たちを泣かせる奴がいれば、このウルトラマンゼロがまとめて叩きのめしてやるぜ! ……人間の絆をナメんなよ、悪党ども! お前らが地球で悪さをしようなんて、2万年早いぜっ!!」

その気迫に満ちた決め台詞に、みりあ、莉嘉、きらり、そしてシエルも、パッと顔を輝かせて大きな拍手を送る。

「わぁーっ、カッコいいーっ!」

「さすがゼロ、締まるところはビシッと決めるじゃん!」

「シンちゃん、最高にキマッてたにぃ☆」

みんなが絶賛する中、グレンファイヤーだけは腕を組み、やれやれといった風に肩をすくめた。

「おいおいゼロちゃんよ……相変わらずいい台詞吐くじゃねぇか。だがな、お前、『2万年早いぜ』って決め台詞にしてるけどさ……ぶっちゃけ、お前自身もまだ2万年も生きてねぇくせに、よくそんな大きく出られたもんだぜ?」

グレンの鋭すぎるツッコミに、ゼロの背中がビクッと硬直した。

「なっ……! てめぇ、野暮なこと言うなよグレン! これはな、セリフとしての勢いとハッタリが大事なの!そんなこと言ったら親父はいつまで1万7000歳なんだよ、親父が地球で戦ってからもう数千年は経ってる筈だろ! 年齢の細かいツッコミはウルトラマンのタブーなんだよ!」

「はははっ、図星かよゼロちゃん!」

 スタジオ中が二人の軽妙な掛け合いに笑い声で包まれる。
張り詰めていた空気がすっかりほぐれ、温かな笑顔が戻ってきた。

 やがて、賑やかな笑い声が少しずつ落ち着いていくと、グレンファイヤーはふっと表情を引き締め、大きく腕を回してから、シエルとみりあたちのほうを真っ直ぐに見据えた。

「……まぁ、冗談はここまでにしておこうぜ」

グレンの炎のように熱く、けれどどこか優しい声が、空間に響く。

「シエルちゃん。お前はこれから俺たちの仲間がいる『マイティベース』に行って、少しの間、自分自身のことやその力を知るための時間を過ごすことになる。最初は不安かもしれないし、みんなと離れるのは寂しいだろうよ」

シエルは小さくうなずいたが、その瞳にはしっかりとした光が宿っていた。

「……うん。寂しいけど、でも……私、強くなる。みんなとまた笑顔で会うために」

「その意気だ!」

グレンはドンと自分の胸を叩いた。

「心配すんな! マイティベースには俺様たち『ウルティメイトフォースゼロ』の頼れる野郎どもが揃ってる! それに、万が一またあんな変な宇宙海賊や、厄介な怪獣がちょっかいを出そうもんなら……このグレンファイヤー様と、ゼロちゃんをはじめとする最強の仲間たちが、絶対にシエルちゃんを鉄壁の守りで守り抜いてやるからな!」

「あぁ、グレンの言う通りだ」

ゼロも優しく笑い、シエル、そしてみりあたちへと視線を配る。

「地球の平和は俺が守る。そして、マイティベースにいるシエルの安全は、ウルティメイトフォースゼロが全力で守り通す。だからお前らは、安心してまたいつもの日常に戻りな。次に会うときは、もっと盛大に笑い合えるようにさ」

「はいっ!」

 みりあが元気よく返事をし、莉嘉ときらりも力強くうなずいた。
シエルもまた、胸の奥からこみ上げてくる温かい気持ちを噛みしめながら、みんなに向けて深々と頭を下げた。

「うん……! みんな、ありがとう。私、行ってくるね」

 星屑のスパークが再び盛大に弾け飛び、別れの寂しさと、未来への希望を乗せた『ウルトラ徹底解説』は、最高潮の温かさの中で大団円を迎えたのだった――。
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