私の親友が百合ハーレムを作ってるわけないじゃん! 作:木下てれん
親友が学園のスパダリに告白されてました、私はどうすれば良いのでしょうか。
A組の教室に一人佇みながら、外の景色を眺めていた。というより現実を見たくなかった。空は相変わらず綺麗だ。
あの雲はわたあめみたい。そっちの雲もなんかわたあめに似てる。わぁ、あっちの雲は完全にわたあめだ。すごいすごい、あはは……はは……。
すぐに我に返ってしまいそうな逃避に意識を委ねていると、背後から扉の開く音が聞こえた。
「れ、れいー……ごめんおまたせー……待たせちゃったよねー……あ、あはは……」
声が聞こえた方を見てみれば、そこには何故か頬を赤らめながら周囲を散策するように首を振り続けている私の親友、甘織れな子がいた。そう、専ら渦中の女である。
「あ、あー、その、そのね?なんかちょっとなんかこう、すんごい用事があって声かける暇もなかったっていうかその、そのなんか、うん!帰ろう!帰ろっか爆速でとりあえず!」
人が現実逃避を行っている最中なのだから、少しくらい隠したりとか出来ないのだろうか。察せない方がイカれてるくらいの態度である。
いや確かに盗み聞きしたのは悪かった、本当に悪かったと思っているからそのことについて何も聞いてこないで欲しい。クインテットとは一切関わりを持ちたくないとまでは言わないが、話を聞くだけで一般人には十分なのだ。それに加えて恋愛事なんて付属されてしまったらパンクしてしまう。別に恋愛経験が豊富というわけでもないし………………ん?
なんで私は相談される確証があるかのように言い訳をしてるんだ……?
考えてみればれなは私が例の現場の近くに居たなんて知らないだろうし、こっちから話を降らなければそこに繋がることなんてないのではないか? 流石のれなといえどね、王塚真唯から告白されたーなんて言わないでしょうって。いくら私が信用されてるからってね、議題が議題よ。誰にでも話せないことはある!そしてその話はそれに値する!なぁんだ心配することなんてひとつもなかったじゃないか!
そうと決まればさっそく一緒に帰ろっか!れな!
「あ……ごめん、今日も私の家……来てもらってもいい……?」
……イイヨ!
◇
さて、結局あの言い訳はフラグになってしまったみたいでしたっと。私は死体のような中身をひた隠しにしながら、いつも通りの表情でれなの部屋で話を聞いていた。
「つまり話をまとめると、昼休み中に限界が来て屋上に逃げ込んだところ王塚真唯と接触。そのまま2人して屋上から落ちるアクシデントのあとにお互い本音を吐露しあって意気投合。そのまま本当の友達として関係を続けられるかと心を踊らせていたら、放課後に呼び出されそのまま告白された……と」
「はい……そんな感じです……」
なるほどなるほど……。
「それ、なんてタイトルの小説なの?」
「ノンフィクションだよ!!!!!!」
先程までベッドの上に体育座りでもーだめだーって感じのれなが声を張り上げツッコミを刺してきた。どうやら本気で困っているらしい。
と言ってもなぁ、いや、嘘じゃないってのは分かってはいるんだけどね?改めて聞くと現実味がないっていうか……だってあのれなが王塚真唯に……それなんてタイトルの小説ですか?
未だに態度を一貫している私に諦めたのか、れなはそのまま話を進めだした。
「それでその、こっからが本題なんだけどね?」
「え、まだ前座だったの?」
「そうなの!だから早く信じて!!!」
滅多に見ない切迫したような表情で詰め寄ってくるれなに押され、一旦この状況を飲み込むことにした。ちなみに私は王塚さんの告白を聞いた時点で即刻その場から逃げ出したので、その後のことは何も知らない。友達のそういう場面ガン見するのもね……。
「というか、そっか。告白されたってことは返事も含めてだよね。そこはどうしたの?」
「断ったんだけど、真唯の押しが強くて……」
「ああ付き合ったんだ、れなって女の子もいける口だったんだね。ていうか今の状況浮気にならない? これは不味いね、今日は帰ろうかなぁなんか用事も2、3個あったような気もするし」
「さっきから真面目に聞く気ないだろ!!!おい!!!」
なんすか、じゃあこのまま黙ってれなの惚気話を聞いてればいいってことですか。帰るわ!!!そんなん!!!むしろ帰らせてください!!!
「れ〜〜〜い〜〜〜ほんとに困ってるの〜〜〜」
「相談乗って? お願い……」
私が鞄を持ち立ち上がると、それを阻止するかのようにれなが寄りかかってくる。こいつ、自分のビジュを理解しているのだろうか。それを続けていたらいつか痛い目に遭うからな……とりあえず今日は許してやるけどな……今日だけだからな……。
仕方なく鞄を下ろし地べたに胡座をかく。ついでに未だ寄りかかってきているれなを剥がした。あっちいきなさい。
「はぁ……分かったよ聞く聞く。で、どうせれなのことだから返事は保留にしてるでしょ? 私は友達のまま仲良くしたいーとか言ったのかな。それで相手はあの王塚さんだもんね、あの背後の景色全てにエフェクトが掛かってるかのように思えるオーラ、それに絶対的な自我と自信。そんな人にれなが口で勝てるとは思わないから、上手いこと丸め込まれてそう。なんかしら折衷案でも出されてその場を収められたりしたんじゃない? それでその折衷案とやらが今後の学園生活に支障が出そうで大変困ってます〜ってところかな? どう?」
「お、お見事……」
私の見事な名推理をぶつけられたれなは鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしながら拍手をしていた。やればできる子なのよ、零ちゃんは。
「それで、どんな案を出されたの? やっぱり一ヶ月以内にれなを好きにさせてみせるーとか、そういう典型的なのかな?」
うーん、と頭を捻らせるような表情でれなは
「半分くらいは……合ってる……」
「半分くらい……? あー、折衷案って本当にそのまんまの意味なのかな。例えば友達と……ああいや、れなだもんね、親友とかほざいてそう。親友と恋人を交互に体験してみて、どっちが相応しいかとか?」
「ほざくは余計だけど大正解だよ! もうそっちの職業に就いた方がいいんじゃない!? 怖くなってきたんだけど!」
ふふん、伊達に名探偵コナンを漫画アニメ映画全部履修していないよ。いつか本物の探偵とだってやりあえちゃうかもしれないね。
私が胸を思い切り貼りながら腕を組み威張っていると、れなが付け入るように顔を覗かせてきた。
「そんな名探偵零さんにお願いがありまして……」
「ほほう。この零さんになんでも言ってみたまえよ、れな子クン」
れなの口角がピクついている気がするが、無視した。
「真唯がね? 髪を結んでいる時は親友、解いてる時は恋人の日だって言ってきたの」
「ふむ、分かりやすくていい条件じゃん」
「でも私としては真唯とは親友って関係になりたいの。だから……その……」
こちらの機嫌を伺うように目を色んなところに逸らしては、目を合わせてを繰り返しているれなに、なんとなく嫌な予感がした。これ以上何を喋るというのだろうか。
私がれな?と名前を呼ぶと、ほんの少しビクッと身体を震わせたあと、ようやくこちらに顔を合わせてくれた。そうして彼女はその勢いのまま口を開き、ぼそぼそと喋り出した。
「真唯が髪を解いて学校に来てた時ね? 零にはずっと私の傍に居て守って欲しいなぁ……って…………そんな感じです……はい……」
……なるほど。
私はその発言を聞き、一瞬で鞄を肩に抱え刹那的に扉を出た。
「じゃ今日はお疲れまた明日の学校で」
「こうなると思った!!こうなると思ったの!!ねええ零いいいい!!お願い捨てないでええええええ!!!」
「やめっ、やめろぉ!離せこのぉ!こっちは普通に学園生活謳歌してんだよ!!!巻き込んでくるんじゃねぇ!!!」
「ちょっとお姉ちゃんうるさいんだけど!!!!!いい加減零さんに甘えるのやめたらどうなの!!!!?」
地獄絵図である。
扉と廊下の狭間には私の足元を包み抱えるようにひっつくれな虫と、いち早くこの場から逃げ出したい私。そして密室じゃなくなったことにより騒ぎを聞きつけた遥奈が現場に到着しては虫けらのような目でれな虫を見ている。実際虫なので正当かもしれない。
しかしこの姉妹が言い争いを始めてしまったら、私はいつ帰れるのだろうか。れなはずっと泣きついてきてるし、遥奈はもう唾棄するかのような表情で罵倒を浴びせ続けている。姉にする表情か、それは……。
虫ケラに身体をガタガタ揺さぶられながら頭を捻らせていると、正面にある階段から一つの人影が見えた。
「それ以上騒いだら、今日のお夕飯抜きにするわよ」
「「ごめんなさい」」
そう、甘織姉妹のお母様である。
場の空気をみるみる冷やしていくようなお母様の笑顔は、あの二人には余程に効いたみたいだった。
そんな甘織母の一喝により、れなと遥奈は姿勢を正し平謝りし始めた。母は強しってことか……これが……。
私もそれくらい強く言えたらなぁ……なんて。