私の親友が百合ハーレムを作ってるわけないじゃん! 作:木下てれん
自宅の扉を開けるとそこには、芦ヶ谷高校のスパダリこと王塚真唯さんが佇んでいました。
「先程は驚かせてしまってすまなかったね」
「正気ですか……?」
目の前にいるやばい人はこちらに対して微笑んできていた。
何故この人はあくまでも自分が正常かのように話しているのだろうか。私はまだ今の状況を2割くらいしか飲み込めてないってのに。
あ、あれかな。分かった、これドッキリなんでしょ。一般人の家にいきなり王塚さんが訪問してきたらどんな反応するかってバラエティなんでしょ! どこだ!カメラどこだ!
「ふふ、そんなに辺りを見渡しても私以外誰もいないよ。今日は一人で来たんだ」
「あ、さいですか……」
くそお! じゃあなんなんだよぉ! やっぱりれな案件か! 先んじてれなの親友枠を潰してそこからじわじわと漬け込んでやろうって魂胆なんだろ! そんなの昔からの親友である私が許さないぞ!
私は両手を宙に高くあげ、レッサーパンダのように威嚇行動をした。
「その、なんだ。君は……れな子の親友って感じがして、うん。とてもいいな、うん」
「もしかして今気遣われてます?」
そんなことはないよ?とでもいうかのように王塚さんは首を横にこてんと倒し、こちらに笑いかけてきた。くっ、顔がいい……。今までもそうやって面の良さで解決してきたんだろ!今回は許すけど!今回だけだからな!
「……まぁ色々聞きたいことはありますけど、一旦置いときます。用があるって言ってましたよね、何が望みですか?」
「そ、そんな大層な事ではないんだが……その、先程までれな子とゲームを嗜んでいてね」
よく知っている。先程からずっと『初めて零じゃない人とゲームした! すっごい楽しかった! 』『自分から誘えるなんて私も一歩成長したってことかな……』みたいな内容のメッセージが永遠と飛んできているから。返さないとそれはそれでまた面倒が増えるだけなので、とりあえず50音を一つずつ返信して対応している。あと40回くらいはこれで耐えられるね。
「趣味を自称しているだけあって、中々上手かったんだ。初めてゲームに触れた私が評価するのもあれだけどね」
「ゲームに触れたのが初めて!? な、なんか王塚さんって感じだねぇ……」
「そうなんだ、れな子が私の初めてを奪ったんだよ」
「へーいつ家に帰るんですか?」
しまった、つい語気が強くなってしまった。言い方がそこはかとなくムカついてしまって。
すると王塚さんは少し考えるような素振りをしたあと、何かに気づいたかのように口を開いた。
「ああ。確かにずっと立ち話もなんだしな、じゃあお邪魔するよ」
そういって王塚さんは私を横切り不法侵入を試みようとしてきた。…………不法侵入を試みようと!?!?!?
「ちょいちょいちょーい!!!何勝手に入ろうとしてんですか!?」
私は通り過ぎようとする王塚さんの腕を引っ張り、元いた場所に戻した。ステイ、頼むからステイ。
「零が家に帰らないか聞いたのだろう?」
「帰る場所って言ってるんだから普通自宅でしょうが!!!!!」
こいつ、本当に人間か……? 種族:王塚真唯とかではなく……? いよいよ朕が歩く場所が道なのだとか言い出しそうで私は怖いよ。慄いてるよ。
私はチラリと目を合わせるように正面を向くと、何故駄目なのか未だに理解できていない王塚さんがそこには居た。
はぁ〜〜〜と大きめの溜息を吐き出したくなったが、ギリッギリ心の中までに留める。この蠢く自我の塊には色々と教えなければならないことがあるから。
「分かりましたよ……とりあえず玄関入っちゃってください。」
「恩に着るよ」
「ただし! 私がいいよって言うまで絶対にそこに居てくださいね! あとずっと扉の方も見ててください!」
「わ、分かった……?」
強めの剣幕で釘を指したせいで少し引かれてしまったかもしれない。でも仕方ないのだ、だってこの部屋人招くように作られてないんだもん。
改めて全体を見渡してみれば酷いものだ、まず足場がほぼない。雪山で追っ手から逃げる時みたいに足跡を伝わないといけない。その足場の無い原因もほぼエナドリの空き缶とカップ麺の容器とかだ。ゴミ箱に捨てるのも分別もめんどくさすぎて放置していたらいつの間にかこうなっていた。
……ここに王塚さんを招き入れる? こんなタイミーが時給1500円で清掃しそうな部屋を……?
正気じゃないのは私だったのかもしれない。いやしかしだ、既に彼女は玄関で扉と見つめ合っている。呼んでいないとはいえ客人は客人。……5分でカタをつける。
幸いこの家にはベランダがある、大きめのゴミ袋を数枚持ってありったけ詰め込むんだ。そして視界に入らない場所に一旦置いておく。今日さえ乗り切ればいつか捨てればいいのだから……!
◇
「お、お待たせしました……」
「ああ……その、大丈夫かい?」
「なんとか……大丈夫です……」
だいたい五分を過ぎた頃、私は大量の汗を流し息も切れている中王塚さんを呼びに戻った。短時間でこうなるとは、近頃の運動不足が余程祟ったみたいだ。特に片し終わったあとのファブリーズを二丁拳銃のように持ちながら全力疾走したのが効いた。しかしそのおかげか部屋全体が薔薇の匂いで充満している。デパートのトイレみたいだ。自室だけど。
私は王塚さんをテーブルまで案内し、一度座って待ってもらうようお願いした。客人だからね、もてなさないと。
「こちら、粗茶ですが……」
「ありがとう、頂戴するよ」
王塚さんはペットボトルのお〜いお茶というガチの粗茶でも何も言わずに受け取ってくれた。これが芦ヶ谷高校のスパダリか。どうしてこの気の遣い方ができてああなるのか未だに理解できないな。やっぱり人間の皮被ってるのかな。
そんな失礼なことを面と向かいながら考えていると、コホンと一度咳払いを挟んでから王塚さんが口を開いた。
「それで先程の話の続きになるのだが……」
「ああ、あのれなとゲームやってきたとかなんとか」
「そう、その話でね。二人で協力するゲームだったのだが、これがれな子におんぶにだっこばかりでね。このままじゃいられないと思って、れな子の親友である君に助力願うべく今日は来たんだ」
なるほど、別に話の筋は通っている気がする。王塚さんがキャリーされっぱなのを嫌がるのもなんとなく理解できるし。どっちかって言うと姫プさせてそうだもん。それにれなが私とそのゲームをプレイしたことがあるってもし王塚さんに言っていたなら、ここに来たことも納得はできる。できるけど……。
でも、本当にそれだけなのかな。
私はこの状況に少し思うところがあった。
王塚さんは文武両道ってよりかは全知全能って感じだから、わざわざほぼ交流のない私に労力かけてまで教わりに来るって所がなんだか引っかかる。数日間の独学でも一矢報いる以上の功績は残せると思うんだよね、この人は。たとえ協力ゲームだとしても、それは同じな気がするし。経験者と知っているからって私のとこに一直線に向かうのもなんだか安直だと思う。
となると考えなければならないのは、頼ったのが"私"という点だ。
単純に考えるなられなの親友だから。そこが本命なのかついでかは分からないけど、その立場の人と交流を作れるのは前聞いたあの勝負においても強いはず。戦国の時代では情報の有無が勝負を決したといっても過言では無いからね。だからもしそのパイプでないと知れない、もしくは聞きづらいことがあるとするなら……きっとそれは言いたくないことか、知られると不利になることのどっちか。ようするに過去や弱みだ。
ただ、王塚さんがれなの過去をこのようなやり方で詮索する人とはとても思えない。つまりここから導き出される答えは私かられなの弱点を聞き出して例の勝負を有利に進めたい!ということ……。
そして先程口にしていたゲームの件と結び合わせるのなら結論はきっと……!
「分かったよ王塚さん。つまりは私かられなの不得手なゲームの情報を引き出して、それで何かを賭けて勝負を仕掛けるつもりなんだね。その今日で根付いてしまった油断を突くことで試合を有利に進めようと!」
「……!!!」
私が王塚さんに指を刺しながら見事な名推理を高らかに宣言すると、目の前の彼女はとても驚いたような顔をしながら固まっていた。
ふふん、あまりにも図星すぎて動揺を隠せないかな? まぁそりゃあそうだよね、あの程度の情報からここまで読み取れちゃうんだから。怖いね、この才能が。私自身、自分を敵になんて絶対回したくないよ。ふっふっふ……。
履歴書の特技の欄に名推理を追記しようかなと考えていると、あまりの衝撃に声も出せていなかった王塚さんがゆっくりと口を開いた。
「凄い……! 確かにその方法なられな子の承諾を得ながら私の要望を叶えれそうだ……!」
「え」
「今日はれな子が零とこのゲームをよく遊んでいたと言うから、良ければ教えを乞おうと伺っただけなのだが良い意味で予想外だった!」
「あれ」
「ありがとう、零! この案は是非活用させてもらうよ! それで、どのゲームを教えてくれるんだい? 先程遊んでいた対戦ゲームか?」
「あ、その、えっと……」
目の前の少女は墓穴を掘り続けている愚者にキラキラと目を輝かせては尊敬の念を浴びせてくる。
……そのね、本当に申し訳ないとは思ってるんだよ。
私は引きつった笑顔を浮かべながら、王塚さんに向けて親指を立てた。
「私にかかればれなに王塚さんの言うことを聞かせるなんて朝飯前ですよ!!! いやもうほんとどんと任せちゃってください!!! はい!!!」
な、何したら許してくれるかな……あはは……。