私の親友が百合ハーレムを作ってるわけないじゃん! 作:木下てれん
なぜ私は王塚さんと対戦ゲームで遊んでいるのだろうか……。
結局あの流れで断りきれるはずもなく、元々遊んでいた格闘ゲームを教えることになってしまった。れなが遊んだことのあるゲームで、なおかつ苦手意識を持っている。奇しくも調子に乗って口にしてしまったあの作戦にぴったりだった。本当に申し訳ないと思っている。
「うーん……」
コントローラーをガチャガチャと押しながら、改めて今の現状を思い返し脳が疑問で一杯になる。あといっぱいいっぱいでもある。
そんな私のことも露知らず、隣に凛と正座をしながら似合わないコントローラーを握りしめている王塚さんは、手放しに格闘戦を楽しんでいた。
「あ、それ隙です。ふふ、こうなったらもう終わりですよ」
「まだ7割以上は体力があるんだ、ここからでも逆転は……」
「えいっ」
コマ投げ始動で端から端まで運び、ゲージ必殺技で締める。そうして王塚さんの焦るほどでもない体力は全て消え去った。
画面にはKOの文字と、唖然とした王塚さんの顔が反射していた。正直これが罷り通るこのゲームはどうかしてると思う。
「……とまぁ見てもらった通りこのゲーム、明らかに攻めのリターンが大きいんですよね」
王塚さんにこのゲーム説明するために最適なキャラクターだったとはいえ、改めて使用してみると本当に酷い。投げからこうなっていいわけないだろ!
「……ふむ、なるほど。つまり守りは捨ててどれだけ自分の流れを掴めるかってことかい?」
「そーゆーことです。守りは数日で身につくものじゃないので、二夜漬けするって話ならこれが最適かなーと」
しかしその甲斐もあってか、指針はしっかり伝わったみたいだ。にしたってゲーム理解度が早すぎる気もするが、まぁ王塚さんだしそういうものなのだろう。れなのゲーマーとしての自信とやらが砕かれないかだけ心配だ。
王塚さんに先程私が実践して見せたカスキャラを選択させる。れなには悪いが、身から出た錆だ。こうなったからには責任を取って最後まで尽かせてもらう。
別に久々に誰かとこのゲームが出来て楽しいとかそういうのでは一切無い。確かにこのキャラでずっとれなをハメ殺したのは悪かったとは思ってるけど、にしたって辞めるの早いなとかも思ってたけど、そういう感情は一切含まれていない。恨みとかもない。大体ない。
あ、王塚さんそのムーブいいよ。それ一時間くらい擦ってたられなコントローラー投げ出すから。いいねいいね、いいセンスしてんね!へへ!次これ試してみない?絶対れな嫌な顔するから!
私はいつの間にか満面の笑みになっていた。
◇
「そういえば、零はいつれな子と知り合ったんだ?」
私が興に乗りに乗って一時間くらい経った頃だろうか。王塚さんもだんだんと攻撃を当てれるようになってきて、雑談を振る余裕が出来たみたいだ。
「れなとですか? 中学の……あー、入学式で私から話しかけて、そこからですね」
本当はバスケ部で出会ったが、言わなくてもいいだろう。れなが態々自分から言うとも思えないし。そもそもあいつはドリブル5回くらいしてそのまま来なくなった。これが元運動部である世界に納得が行かない。
「それで高校まで三年間だらだらーと関わり続けて今に至るって感じです」
「中学からの付き合いだったのか、れな子があれ程気を許している理由も分かるな」
「まー許しすぎな気もしますけどねぇ……」
乾いた笑いが込み上げてくる。実際れなから王塚さんの件を相談されたせいで、今の状況が結構気まずいものになっている。特に相手は知られてることを知らないって点が。
「くっ……やり込んでるにしても反応が早過ぎないか!?」
「ふふん、経験からくる勘です。信じるべきは己の感覚……」
……王塚さんはどうしてれなのことを好きになったのだろうか。こうして友達のように二人でゲームをして、彼女のことをある程度知ってしまったからこそ気になってしまった。
私から見た王塚さんは、ただの等身大の少女だった。
色々とスケールが違うのは確かだが、ただ世間知らずなところがあるだけの普通の女の子としか思えないのだ。
……だから惹かれてしまったのだろうか。甘織れな子という少女に。
れなが色々と本音を漏らしてしまったのは知っている。意気投合したとも聞いた。あいつのことだ、知らぬ間に相手の欲しい言葉をピンポイントにぶち抜いたのだろう。特にそれが王塚真唯相手っていうなら、尚更だ。きっと対等に接してくれる人も、同じ目線で話してくれる人も余程巡り会えなかっただろうから。
れなは気を遣いすぎてしまうから、でもそれが王塚さんには酷く嬉しいものだったんだろうね。なんとなくそう感じる。
私は改めて王塚さんを見た。思わず魅入っちゃうくらい整った横顔に、靡く度キラキラとしたエフェクトが出てきそうなさらりとした金髪。全体を眺めても到底住む世界の違う人間なんだなって今でも思っちゃうくらい、親近感の湧かない見てくれをしている。それにきっと……自分がそうだって自覚もある。
「はぁ〜……れなってほんと悪い女だよ……」
思わず口から零れてしまう。
その言葉を聞いた王塚さんは、少し目を大きく開いたあとに続けて言葉を紡いだ。
「……零もれな子のことが好きなのか?」
「ブフッ!」
私は不意の言葉に思い切り吹き出した。
「そ、そんなわけないじゃないですか! 私がれなをとかナイです! 絶対ナイ! ムリムリ!」
「そうか……」
王塚さんは少し考えるような素振りを見せたあとに、ニコッとこちらに笑いかけてきた。
「私がれな子のことを恋愛的に好いているという点に疑いはないんだな」
「・・・はっ!」
……は、嵌められた!!!
私はあまりにも胸の内をど突くような発言に言葉が詰まってしまった。
い、いつだ!いつからだ!? 私のさっきの発言が良くなかったのか!? あれで勘付かれた……? い、いやでもれなの話をし始めた元々の要因は王塚さんだし…………そもそも探ってた…………?
いや……もしかして……
今、確信を得た……?
「最近誰かに見られてるような感覚がしてね。普段ならすぐ気づくんだが、その人だけは意識して注意しないと分からないんだ」
「ただ、その感覚が来る時にはいつも決まりがあるんだ。私とれな子が二人きりの時にしか毎回感じ取れないんだよ。それが酷く不思議でね」
……失敗した。王塚さんは最初から私に会うこと自体が目的だったんだ、家に招いた時点で負けていた。
これはきっと相手を舐めてかかった私への罰だろう。瀬名さんには冗談に聞こえただろうが、本当に隠れることが得意なのだ。友達に私を見つけれた子は居なかったくらいに。
それに、告白の時だって気づかれてなかったんだ。職業柄だろうか、視線に鋭いのは分かっていたけれど。……まさか気づいていないことを気づかせることが出来るなんて聞いていない。どれだけデキる女なんだ、れなを好きになったことくらいしか欠点ないんじゃないのか?
「その、ごめんなさい……付け回すようなことをしちゃって……」
れなに頼まれたといえど、請け負ったのは私だ。どんな処分でも受け入れる覚悟はある。
「いや、別に責めてるわけじゃないさ。きっとれな子から相談されての行動だろう?」
王塚さんは隣に寄り添うよう、言葉をかけてくる。
「れな子のことが心配だったのは分かっている。私だって、いきなり親友に告白して来た奴がいたら気になりはするさ。大小はあれどね。」
「だからこその質問だったが、杞憂だった。」
一拍を置いて、こちらに視線を合わせてくる。
「優しいんだな、零は。」
吸い込まれるような瞳だった。建前だけの言葉でないと、心の底から出た本音なのだと、本能的に感じ取れる説得力があった。
私のことを他人を気遣える優しい人間であると本気で思っているのか、そんな真剣な眼差しでこちらを見つめてきて。
それはなんだか……
嬉しくて
照れくさくて
少し……
気持ち悪い。
「……零? 大丈夫か?」
「えっ!? あっ、そ、その、すいません! 急に褒められて少し驚いちゃって……へへへ……」
不意に声をかけられ肩がビクッと跳ねる。どうやら心配をかけさせてしまったみたいだ。こんな体裁を保つような言葉では、到底王塚さんの不信を取り除くことは出来ないというのに。
「と、というかそうですよ!やっぱりゲームの件に関しては建前だったんじゃないですかぁ!」
矢継ぎ早に話題を変える。自分でもどうしてこんなに焦っているのかは分からないが、なんとなくここで留めておいた方が良い気がして。
「いや? ゲームの件も本当さ。零の発案に関しては予想外だったが……」
「うっ……分かってて言ってますよね……」
「それはどうだろうね」
ふふっ、と王塚さんは笑いながら言葉を発した。まるで気にしていないかのように、そこには一切の違和感もなかった。
そんな姿に自然と肩の力が抜けてくる。敵わないなぁと心から思う。だからこそ私はより強く気にしてしまうのだ。
「その、改めてごめんなさい。首を突っ込むようなことしちゃって……」
やはり負い目は拭えない。どれだけ言葉で許されようと、それで罪悪感が綺麗さっぱり無くなるほど竹を割ったような性格はしていない。なんなら何かしら罪滅ぼしでもしないと気にし続けてしまう分、より厄介かもしれない。
「王塚さんは気にしてないって言うのは分かってるんですけど、やっぱり何かしないと私が気にしちゃうっていうか……」
我ながら面倒くさいことを言っている自覚はある。押し付けがましいったらありゃしない。それでも口にしてしまうのは、期待してしまっているからなのだろうか。そこまでは分からないけれど……。
しかし王塚さんはやはり見透かしているかのように、自信満々に口を開いた。
「それなら、私にゲームを教えてくれないか?」
それでチャラにしようと、彼女はそう言った。
……ああ、ここまで想定していたのか。
本当に、叶わない。
「……ふふ、私の修行は厳しいですよ!」
「ああ、望むところだ」
小さなモニターの前で、年頃の女の子が真夜中に二人で格闘ゲームを遊んでいる。
到底JKの所業とは思えないが、こういうのも青春と呼んでいいのだろうか。
私たちは二人で笑いあっていた。
日間乗ってました!嬉しい!
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