私の親友が百合ハーレムを作ってるわけないじゃん! 作:木下てれん
琴さんとの初バイトを経て次の日、私は今まで不足していた分の睡眠を取り返し、晴れて万全な体調で登校することに成功していた。それにしても、琴さん教えるの上手だったな……。なんだか昨日だけでかなり打ち解けた気がする。ま、まぁ学校で深く関わりたいかと聞かれたら、少し怖いものはあるんだけど……れなも王塚さんも居るし……。
「あら、おはよう零。今日は寝不足じゃないのね」
そんなことを考えながら、校門をくぐるとそこには琴さんの姿が…………まぁ、同じ高校なんだしそりゃこうなる時もあるよね。
琴さんのこと自体は好きだ、話しかけられて避ける理由もない。私は顔を合わせすぐに挨拶を返した。
「おはよ、琴さん。昨日は王塚さんが家に居なかったからね……」
「居たらいよいよ引くわ。関わり方を改めたくなるくらいには」
昨日のバイト終わりのこと。駅までの道が琴さんと一緒だったので、そこで従業員室で喋った内容の続きを話していた。王塚さんが私の家でゲームをしたことと、それで寝不足だったこと。もちろんれなとの関係のことは言ってない。これに巻き込まれるのは私だけで充分なのだ。琴さんが態々こんな話を知る必要はない。れなにも少しはそうであって欲しかった。
外靴を履き替えて、琴さんと雑談しながら一緒に教室へ向かう。なんだか周りから視線を感じるが、これもクインテットパワーなのだろうか。確かに横顔だけでも凄く綺麗で整っていて、思わず見惚れちゃいそうになるくらいには……まぁ、そうなることはないけど、れなじゃないし。
『あの二人、仲良かったんだ……』
『ね、でもすっごくお似合いじゃない? 美人姉妹って感じで……』
『分かる……顔立ちとか身長差とか色々相まって相性抜群だよ……これがマリアージュってやつかな……』
教室の近くにもなると、他の生徒のそんな話し声が耳に入ってくる。いやそんな、流石に琴さんレベルと一緒にされるのは恐れ多すぎるけど……というかカプ厨的な思想を聞こえる声で話すんじゃないよ、全く。
私は苦笑いしながら、琴さんに話を振る。
「ごめんね琴さん……私のせいで不相応な話されちゃってるや……」
「そう? 零の容姿を考えれば、妥当だと思うけれど」
「えぇ!? それは流石に言い過ぎだって……褒められたことだって、あんまりなかったし……」
やはり理解出来ないという顔でこちらを見てくる琴さん。
私がクインテットと肩を並べてるって、そんなこと言われても納得出来るわけないって。謙遜はあまりしないようにしてるけど、それはそれ。このレベルの話題は流石に話が違う!
「あそこの店長、割と顔で採用してるわよ。私なんて目が合って即採用よ」
「そうなの……? 履歴書頑張って書いたのに……」
ちょっと嫌なところから証拠を出されて苦い顔をする。いや、だからといって認めるかと言われれば違うけどね!?
二人並んで廊下を歩き、そろそろ琴さんの教室に着いちゃうかなー、別れないとなーと、そんなことを考えていたその時。正面に金髪のストレートヘアーを靡かせながらこちらへ向かってくる人影が見えた。
「おはよう、零に紗月。初めて見る組み合わせだが、いつ仲良くなったんだい?」
皆さんご存知、王塚さんだ。
今日も一段と輝いていて、別世界の人間って感じ。まぁそんな人が私とお家でゲームして、こうして友達のように話しかけてくれてるのだけどね! そのせいで人の目が激痛でもあるんだけどね!!!ね!!!
「あら、気になる? 」
何故か琴さんはニヤっと笑い、何か思いついたのか挑発するような顔で応えた。
……なんで?
「ああ、気になるな。二人とも私の大切な友人だから」
「……そう、それなら」
「……?琴さ……はぇ!?」
琴さんは言葉を紡ぎながら私の後ろに回り、両腕を肩の上に乗せ抱きついてくるかのような体勢で王塚さんを正面に据えだした。
ちょ、はい!?本当になんでぇ!?!?
「教えないわ、真唯にはね」
そう言って、妖艶な笑みを浮かべる琴さん。
「ほう……それはどういう意図なのかな……?」
それに対して笑っていない笑顔で対抗する王塚さん。
どうして毎回こうなるのかなぁ!!! 巻き込まないでくれないかなぁ!!!
「ちょぉ!?零!? なんでそうなってるの!?!?」
王塚さんと琴さんに挟まれ、為す術なく心の中で涙を流していたその時。朝方私に『寝坊したから先行ってて!』と一報を寄越してきた女、甘織れな子がこちらに駆け寄ってきた。
「あら、甘織。少し零を借りてるわ」
「紗月、零は君だけのものじゃないはずだよ。分かったなら早くその手を離すんだ」
王塚さんに宙に漂わせていた両手を掴まれ、引っ張られる。
いよいよ痴話喧嘩のようになってきて不味い。
「いいじゃない、真唯は休みの日に散々遊んだんだから」
「ど、どうしてそれを知っているんだ!?」
「早く教室入らせてくれませんかねぇ!!!」
そんな叫びも虚しく、私を挟んで言い合いをしている二人の耳に届くことはなかった。私を使って喧嘩しないでよぉ……こういうのはそこにいるピンク髪の方がよっぽど適任だってぇ……。
そう思い視線を向けてみると、そこには頬を膨らませながらこちらをじとーっと見てきているれなが居た。ど、どういう感情なのでしょうか……?
「むー…………もう! 王塚さんも紗月さんも離して!」
小走りで琴さんに近付いては、私を引き剥がし抱きついてくるれな。そんな彼女に琴さんは驚いたのか、目を大きく見開いて固まっていた。
「零は私のだから!!!」
王塚さんと琴さんに見せつけるよう、注目を集めてしまうくらいに耳元で叫ばれる。れなの所有物になったつもりはないんだけどな。
「……零ならまぁ、仕方ないか」
何かを飲み込んだかのような表情で私たちに視線を向けてくる王塚さん。いやこれ私悪くないよね? というか王塚さんと例の勝負してるくせにこういうこと目の前でするれなが悪いよね?
「良かったじゃない、熱烈なアプローチよ」
「煽ってきてるよね?」
明らかに嘲笑してきている琴さんに、内心怒りマークを付けながらも笑顔で返す。本当良い性格してるな!この人!
「もう、いつの間に二人と仲良くなったのさ……」
れなは変わらず頬を膨らましては質問を投げかけてくる。
どうして他の友達と話してるだけで、そんなことを聞かれなければならないのか。
それに……
「あー……まぁ、たまたま話す機会があって、その時に仲良くなっただけだよ」
私はれなから目を逸らして、誤魔化すように応えた。
「それだけでさっきみたいにはならないから!絶対!」
そういいながら私の肩を掴み、前後に揺らされる。
でも、ごめんねれな。言いたくても、私絶対言えないんだ。琴さんからバイトに関してのことは口封じされてるし、王塚さんが練習の成果を見せるのは今日の放課後のはずだから……。
そんな気持ちを抱えながら、私はれなから目を逸らし続けた。
「ねええええ!なんで無視するのー!!!」
「ああもう!いい加減離せ!」
「やだああ!!!!」
「ガキ!!!」
れながまるで自室かのように、私に対して駄々を捏ねした。
こいつ、絶対自分が今学校にいること忘れてるだろ! そのせいで無駄に人も集まり出してるし!建前上スクールカースト最上位に属してる女なんだから、その自覚を持って話しかけてこいよぉこいつ!!!
私は内心ブチ切れていた。学校の外でならまだしも、こうして普通の高校生活を脅かしてくるのなら…………こちらもそれ相応に迎え撃たなければならないと。
「ごめんね、れな。こっちにも言えない事情があってさ……でも、必ず言えるタイミングが来たら真っ先に伝えるから。私たち、親友でしょ?」
れなをあやす様に、頭を撫でながら口を開く。
「あっ……ご、ごめん……私もムキになっちゃって……。そうだよね、零が誰と話そうが勝手だし、好きなようにするべきだよね。私たちが親友なのは絶対なんだから、気にする必要も無いはずだもんね!」
親友というワードが余程効いたのか、れなは先程の行いをすぐに振り返り冷静になれたみたいだった。
そう、冷静になってくれたのだ。
「分かってくれて安心したよ…………それでね、れな」
「ん? どうしたの?」
私は未だ抱きついてきているれなに、優しく囁くように声をかけた。
「いや、私は慣れてるから大丈夫なんだけどね?」
「?」
そう言葉を続けながら、れなの腕を振りほどき正面から外れる。
「さっきまでのれな、皆に見られちゃってるけど……大丈夫?」
「…………うぇ!?!?!?」
視界になるべく他の生徒が映るように場所を移動する。冷静になってくれたれなはすぐにこの状況を脳で理解し、みるみるうちに顔が赤くなっていた。あははは! 可愛いねぇれなちゃんは!
「……さ、さ、探さないでくださいー!!!!!!!」
そう叫んでは、頭から煙を出しながら屋上に走り出すれな。
「1時間目までには戻ってくるんだよー! れなー!」
そんな姿を見ながら、私は笑顔で手を振っていた。
これでちょっとは反省しなさい!
「ふふっ、いい趣味してるわね」
「いや、琴さんには言われたくないけど!?」
どの口が言っているのだろうか。同じ人種とは到底思いたくないが、まぁこういう所にシンパシーを感じているのだろうなぁと結局自覚してしまう。
「むぅ、羨ましいな……」
「小声でも聞こえてますからね?」
一部始終を眺めていた王塚さんが、ボソッとそんなことを呟いていた。ブレないなぁ!この人!
ああもう、どうして数日を経ただけでこんな仲のいい友達みたいに騒いでいるのだろうか……。変に目立って、無駄に巻き込まれて……こんなんじゃ普通に生活なんて出来ない……はず……なんだけど…………
何故だろう、こんな状況も楽しいだなんて思ってしまっているのは。
「はぁ〜……」
私は大きく息を吸い込んでから、たっぷりと吐き出した。
本当に、もう。何もかも全部、れなのせいなんだからね!
私は心の中で、そう高らかに叫ぶのだった。